2015年9月30日水曜日

2015年9月の教員不祥事報道

 今日で9月はおしまいですが,私にとって,武蔵野大学での第3学期の授業の初日でした。今年度から本学では4学期制が導入され,従来の後期が3学期と4学期に分かれています。3学期は,今日から11月半ばまでです。

 短期の間にこれまでと同じ時数をこなすので,1日あたりの授業時間は180分(90×2=180)です。私の担当は調査統計法ですので,学生さんにはたっぷり作業していただこうと考えています。

 さて今月,私がキャッチした教員不祥事報道は41件です。いつも通り,体罰やわいせつがメインですが,安保反対のビラを児童に配布する,試験の採点をサボるといった事案も見受けられます。前者は,学校の政治的中立性を定めた,教育基本法第14条の規定に抵触します。「法律に定める学校は,政治教育その他政治的活動をしてはならない」という条文です。

 明日から10月。秋もだんだんと深まり,朝夕は冷えます。しかし,さわやかな秋晴れの日が多くなることでしょう。ブログの背景も,それらしいものにします。

<2015年9月の教員不祥事報道>
教材費220万円着服の疑い、東京・町田の中学校教諭逮捕
 (9/1,TBS,東京,中,男,41)
飲酒運転の教諭ら3人懲戒処分
 (9/1,NHK,栃木,飲酒運転:中男40,同:小男26,個人情報紛失:小20代)
ボランティア通じて女児へわいせつ3件(9/2,産経,大阪,中,男,26)
女性栄養教諭、給食の食材170万円分持ち帰り
 (9/3,読売,東京学芸大学付属学校,女,30代)
都庁前で正座させた教諭に戒告 「不適切な指導」(9/3,朝日,東京,高,男,36)
電車内で女性の尻を服の上から触る(9/3,サンスポ,東京,中,男,53)
中3にわいせつ、中学教諭逮捕(9/7,京都新聞,大阪,校種不明,男,41)
小学校教諭、レジ置き忘れの現金封筒持ち去り停職
 (9/9,産経,大阪,大阪,小,男,33)
女子高生の裸撮影容疑 鎌倉市立小教諭を再逮捕(9/9,産経,神奈川,小,男,45)
携帯回収の際、生徒の態度に腹が立ち…寮生2人を殴った疑いで高校講師逮捕
 (9/9,産経,高,男,26)
55キロ速度超過で減給処分 島根の25歳小学校講師(9/10,産経,島根,小,男,25)
公立中50代教諭が女子中学生にわいせつ(9/10,佐賀新聞,佐賀,中,男,50代)
「性欲抑えきれず」女児に強制わいせつ容疑で私立中教諭逮捕
 (9/11,神戸新聞,兵庫,中,男,36)
彦根の中学教諭を懲戒免職 部費の私的流用で滋賀県教委
 (9/11,京都新聞,滋賀,中,男,53)
痴漢容疑で特別支援学校教諭を逮捕(9/12,神戸新聞,大阪,特,男,40)
私立高校教諭を酒気帯び運転で現行犯逮捕(9/13,テレビ長崎,長崎,高,男,47)
児童たたいたとして戒告処分に(914,NHK,岩手,小,男,43)
佐賀の中学校講師“飲酒運転で事故(9/14,RKB,佐賀,中,男,32)
女子高生にわいせつ容疑…開成中の28歳教諭逮捕(9/14,スポニチ,東京,中,男,28)
小学校臨時講師がテスト実施せず(9/15,NHK,大分,小,20代)
中学教諭が高校生を買春容疑、書類送検(9/16,朝日,大阪,中,男,23)
勤務先の生徒にキス 都立高教諭を懲戒免職(9/18,産経,東京,高,男,26)
戒告処分:高校教諭、商品販売で利益 県教委処分(9/18,毎日,新潟,高,女,40代)
28歳教諭、公然わいせつで停職 千葉県教委
 (9/19,千葉日報,千葉,公然わいせつ:中男28,自動車運転過失致死:小男58)
教室で盗撮容疑 小学校教諭逮捕(9/19,東京新聞,神奈川,小,男,28)
長年無免許の中学校教諭逮捕 (9/19,NHK,長崎,中,男,44)
新潟市立小教諭、児童に「安保法案反対」ビラ(9/20,産経,新潟,小)
スカート盗撮の中学教諭など6人を懲戒処分
 (9/20,NHK,東京,盗撮:中男33,わいせつ:高男26)
富士の教諭 盗撮の疑いで逮捕(9/23,静岡新聞,静岡,小,男,47)
酒気帯び運転の教諭に停職6か月(9/24,UTY,山梨,高,男,40)
定規で殴り生徒に「ブタ」…常習暴力の教諭停職(9/25,読売,香川,中,男,57)
池田町の国道で死亡事故で小学校校長を逮捕(9/26,NHK,北海道,小,男,54)
スカートにカメラ、女子生徒にキス…兵庫の高校教諭2人を懲戒処分
 (9/26,産経,兵庫,2名とも高男40代)
校長のメールを盗み見→「自分の評価が低い」と訴え出て不正発覚
 (9/26,産経,兵庫,中,男,57)
校外学習中に飲酒 6教諭を懲戒処分
 (9/29,神奈川新聞,神奈川,中男28,35,44,40代,56)
盗撮2教諭が停職6カ月(9/29,神奈川新聞,神奈川,中男38,特男22)
わいせつ行為で高校教諭を免職 県教委が懲戒処分(9/29,西日本新聞,熊本,高,男)
高校教諭、スカート内にペン型カメラ…盗撮容疑で逮捕(9/29,産経,兵庫,高,男,43)
盗撮で逮捕 容疑者は小学校教諭 (9/29,大分合同新聞,大分,小,男)
東郷町の小学教諭を万引容疑で逮捕(9/29,中日新聞,愛知,小,男,20代)
小学校教諭が14歳少女買春 容疑で逮捕(9/29,産経,大阪,小,男,20代)

2015年9月28日月曜日

首都圏私立大学の非常勤教員率の分布

 読売新聞教育ネットワーク『大学の実力2016』(中央公論新社)を入手しました。大学関係者にはすっかりおなじみ。同社が毎年実施している,全国大学調査の結果が収録されています。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2015/09/004767.html


 今年は,678大学から回答を得られたのだそうです。回収率は91%。残りの9%の大学は,退学率や卒業後進路などのデータを出したくない,ということで回答しなかったのでしょうが,「ウチはヤバい大学だ,来ないほうがいい」と公言しているようなものですね

 この本の「おわりに」で,次のように書かれています。「高校生には,都合の悪いデータも公開してくれる大学を選択してほしい。情報公開は,大学が誠実かどうかを測る大きな指標です」(176ページ)。まったく,その通りだと思います。

 本書には,大学(学部)別の退学率や卒業後進路などのデータが掲載されています。最近では,課題添削をしているか,独自の奨学金を設けているかといった,学生支援に関する事項も調査されています。同じ内容の調査を毎年踏襲するのではなく,時流の変化も見越して,内容が年々練り上げられています。

 さて今年春の調査では,各大学の教員について細かく聞いているようです。各大学の学部ごとに,専任と専任以外(非常勤)の教員数が計上されています。このデータを使えば,それぞれの大学の非常勤教員率を出すことができます。

 私が出入りしている某私立大学の場合,今年5月1日時点の専任教員数は233人,非常勤の教員数は1124人です(全学部の合算)。よって,この大学の非常勤教員率は,1124/(233+1124)=82.8%となります。

 高いですねえ。まあ,講師室のレターボックスの多さをみると「さもありなん」という感じです。さぞ非常勤依存率は高いだろうなと思ってましたが,数値でそれが示されてしまいました。

 しかし,高いかどうかを判定するには,他の大学と比べないといけません。そこらの2~3の私大と比較するだけでは不十分で,全体の分布構造の中に位置づけることが望ましい。

 私は同じやり方で,首都圏(1都3県)の175私立大学の非常勤教員率を計算し,その分布をとってみました。下図は,5%刻みのヒストグラムです。


 175私立大学の非常勤教員率は,0.0%から92.1%と幅広く分布しています。マックスは,某音楽大学です。総じて,美大や音大は非常勤依存率が高くなっています。

 これは両端ですが,平均値は60.5%で,数としては60%台後半の階級が最多(Mode)となっています。全教員の3人に2人が非常勤というのが,首都圏の私大の平均的な姿です。地方ではもっと低いのでしょうが,非常勤講師のなり手(無職博士など)がウジャウジャいる都市部では,こうなるのでしょうか。

 さて,私が教えている某大学の非常勤教員率は82.8%なのですが,上図のヒストグラムでは3番目に高い階級に属します。175大学の中では6位です。高い部類なんだなあ。

 学生さんから,「この大学の先生って,すぐに帰っちゃいますよね。週に一回しか来ないし・・・」とかよく言われますが,こういう構造があるんですよ。申し訳ないとは思いますけど。

 最近,大学の教育力アップを掲げた通知や答申をよく目にしますが,教員の非正規化の問題にまったく触れられていないのが,不思議でなりません。教員の非正規化は,大学教育の効果が上がるのを妨げる一番の条件になっていると思うのですが。この点については,雑誌『教育』(2014年12月号)にも書きました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020481256

 日ごろのモヤモヤ(イライラ)の原因が,目に見える形で明らかになりましたので,ちょっと気持ちよくなりました。「やっぱり」って感じです。

 読売新聞社の『大学の実力2016』には,大学(学部)ごとの退学率,TP比,正規就職率が載っていて,受験生は自分が希望する大学(学部)のデータを見るのでしょう。しかし,その値が全体の中のどこに位置するのか,という情報も得たいところでしょう。

 そのためには,各項目の分布図をつくっておく必要があります。原資料にはそれがないようなので,ここにて私が作成することにいたしましょう。今回は非常勤教員率でしたが,回を改めて,退学率のヒストグラムを作ってみようと思います。できれば,偏差値による塗り分けもしたい。

 毎年のことですが,10月は大学関連の話題(データ)が多くなりそうです。

2015年9月26日土曜日

年収に占める家賃割合

 衣食住に関わる支出は不可避のものですが,とりわけ「住」の費用は家計支出の中でも大きな比重を占めています。

 最近は,持ち家が負の遺産になる可能性がある,という認識が高まってか,借家住まいをする人が増えていると聞きます。となると家賃の額,ないしはそれが収入に占めるウェイトがどれほどかに興味が持たれます。

 ある不動産業者のサイトによると,家賃総額が年収の25%を超えると家計を圧迫するのだそうです。私は,このラインよりも下に収まっていますが,これをオーバーしている世帯も多いことでしょう。年収に占める家賃割合の平均水準がどれほどかも気になります。
http://www.homes.co.jp/cont/rent/rent_00002/

 私は,2013年の総務省『住宅土地統計』のデータを加工して,ラフな試算値を出してみました。今回は,その結果を紹介しようと思います。

 上記の資料には,世帯年収と家賃月額のクロス集計表が掲載されています。下記サイトの表56です。世帯年収のカテゴリー区分は,①300万未満,②300万~,③500万~,④700万~,⑤1000万以上,となっています。家賃月額のそれは,A:1万未満,B:1万~,C:2万~,D:4万~,E:6万~,F:8万~,G:10万~,H:15万~,J:20万以上,です(0円というカテゴリーは除外)。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001051892&cycode=0

 階級値の考え方に依拠して,各カテゴリーに属する世帯の年収ないしは家賃月額を,軒並み中間の値で代表させます。①の年収の世帯は年収150万円,②は年収400万円,・・・というように。上限のない⑤の世帯の年収は,ひとまず1500万円としましょう。家賃月額も,Aは0.5万円,Bは1.5万円,・・・というふうに仮定します。

 このような仮定を置くと,クロス表の各セルに属する世帯について,年収に占める家賃割合を出すことができます。たとえば,×のセルの世帯の場合,年収に占める家賃割合は,(5.0万×12か月)/400万=15.0%です。

 このようにして出した,各セルの数値の仮定値を整理すると,下表のようになります。


 この仮定表を使って,年収に占める家賃割合の世帯分布を明らかにしてみました。下の表は,世帯主の年齢層別の分布です。


 いかがでしょう。赤色は最頻値(Mode)ですが,25歳未満の世帯の場合,全体(141万世帯)の4割が40%台となっています。重いですねえ。収入が少ないので,こうなっちゃうのでしょう。学生の単身世帯も多いでしょうし。

 働き盛りの年代では,収入が多くなるため,家賃比重10%台の世帯が最多となります。しかし高齢になると値は再び上がり,モードは20%台に移ります。

 冒頭で紹介した不動産サイトによると,年収に占める家賃割合が25%を超えると家計が圧迫されるとのことですが,それが30%以上の世帯の比重をとってみると,25歳未満では58.3%,25~34歳では27.0%,35~44歳では23.4%,45~54歳では24.3%,55~64歳では33.0%,65歳以上の高齢世帯では40.4%となります。重い家賃負担にあえいでいる世帯って,結構多いのですね。高齢世帯では4割です。

 以上は分布ですが,それを均した平均値(average)を出してみましょう。各セルの家賃比重(最初の表)に世帯数を乗じ合算し,総世帯数で割れば出てきます。下の図は,年代ごとの平均値を線でつないだ折れ線グラフです。地域によっても違うと考え,東京と郷里の鹿児島のカーブも描いています。


 若年層と高齢層で高く,働き盛りの層で低い「U字」型です。全国の折れ線でいうと,若年層と高齢層で3割ちょい,生産年齢層で4分の1というところです。

 しかし,東京は高いですねえ。収入も多いのですが家賃もバカ高なので,こうなってしまいます。どっかのWeb誌で,「都心で老いると地獄だ」みたいな記事が載ってましたが,東京の高齢層の家賃ウェイトの平均は4割にも達しています。これは苦しい。

 それに比して,わが郷里の鹿児島は状況が幾分かマシです。25歳未満を除いて,キツイ目安のライン(25%)を下回っています。収入は東京よりは少ないですが,家賃もうんと安い。向こうなら,4万円出せば部屋2つのマンションを借りれますしね。働き盛りの層の家賃割合が2割を切るというのも,さもありなんです。

 地域別の統計は,東京と鹿児島しか出してませんが,47都道府県全部の値を出したら面白いですね。家賃割合地図なんてのもできそうです。

 あまり知られていない,年収に占める家賃割合の分布・標準値を試算してみました。ご自身の現況を相対視するのにお使いください。

2015年9月22日火曜日

高校生の家庭環境・学力・学校適応

 わが国の高校は,有名大学進学可能性に依拠して精緻に階層化されているのですが,階層構造上の位置に応じて,生徒の家庭環境,学力,はては問題行動の発生頻度が異なることはよく知られています。

 まさに制度的社会化とでも呼べる現象ですが,国際学力調査PISA2009のデータを使って,それを可視化してみましょう。この調査の対象は15歳生徒であり,日本では,高校1年生が回答しています。
https://pisa2009.acer.edu.au/

 本調査は,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーといった学力に加えて,対象生徒の家庭環境や学校生活の状況も調べています。まずは,後者の生徒質問紙のデータをもとに,高校1年生生徒の家庭環境をみてみましょう。

 ここでの関心は,在籍する高校のランクによる違いです。ランクを明らかにするのは容易ではないですが,高い学力をつけることに対して,保護者からどれほど期待があるかに注目して,対象者の在籍高校を3群に分けてみます。

 やり方は前回と同じです。以下の①を上位校,②を中位校,③を下位校と見立てます。各高校の校長の回答です。

 ①:非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を常に多くの保護者から受けている。
 ②:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,小数の保護者から受けている。
 ③:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。

 生徒数(総計6088人)の比でいうと,上:中:下の比重は「3:5:2」というところです。下がやや少ないですが,歪というのではなく,中央が厚いノーマル分布です。

 下図は,父親が大卒以上の者,父親が熟練ホワイトカラーの者,ひとり親世帯の生徒の割合のグラフです。無回答を除外して,%を出しています。


 下位校ほど,大卒や熟練ホワイトカラーの生徒が少なく,ひとり親世帯の生徒が相対的に多くなっています。後者の割合は,上位校では9.5%ですが,下位校はその倍を超える20.6%です。

 上位校に入るには塾通いなどをする子が有利ですが,貧困家庭ではそれが難しい。こういう条件の差が出ているとみられます。どの高校に入ったかで,卒業後の進路が制約される「トラッキング」という現象がありますが,「貧困家庭→下位校→低い教育達成→当人も貧困」という,再生産のループの一端を構成しているようです。

 次に,学校生活の内実をみてみましょう。上記のPISA2009では,対教師関係と授業の様子(反学校文化)について尋ねています。各項目の肯定率を,タイプごとに整理してみました。対教師関係の5項目は,「とても当てはまる」+「あてはまる」の比率です。反学校文化の5項目は,「全て or ほとんど or いくつかの授業でそうだ」の割合です。無回答を除いて%を出しました。

 前後しますが,その前の段には,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの平均点も入れています。


 赤字は3タイプの中での最高値ですが,学力と対教師関係の良好度は「上>中>下」,反学校文化は「上<中<下」となっています。例外がない,見事な傾向です。

 私のころに比べて弱まっているとはいいますが,高校進学時において,学力に依拠した精緻な「輪切り」選抜が未だに機能していることが知られます。

 対教師関係も学校タイプ差がありますが,「どうせ,ウチの高校だから・・・」と,教師たちが暗に低い期待(眼差し)を寄せていることはないでしょうか。生徒は,それを敏感に察知するもの。

 下段の反学校文化も,明瞭な学校差があります。授業中荒れていると感じる生徒の比率は,上位校では27.1%ですが,下位校では51.5%と半分を超えます。「朱に交わると赤くなる」といいますが,この傾向は,2年,3年と学年が進行するにつれ顕著になると思われます。教育社会学でいう,「組織的社会化」です。

 前回の記事でも書きましたが,わが国では,青少年の自我や資質を大きく水路づける巨大な社会的装置が存在します。高校階層構造です。認めたくはないですが,その効果は,現場の実践を凌ぐとすらいえます。

 それを解体するのはもはや困難ですが,われわれが心がけるべきは,「あの高校だから・・・」と偏した眼差しを向けないこと。どの高校の生徒も,無限の発達可能性を秘めた,若き青少年です。このことを認識することが,まずは必要なのではないかと思います。

2015年9月21日月曜日

15歳生徒の学力の学校差

 3年間隔で実施されているOECDの国際学力調査(PISA)ですが,対象は各国の15歳の生徒です。日本では,高校1年生の生徒が対象となっています。

 周知のように,わが国の高校は有名大学への進学可能性に依拠して精緻にランクづけられています。「上位校,中位校,下位校」,「進学校,普通校,底辺校」といった言い回しは,死語ではありません。

 当然,これらの学校タイプによって生徒の学力は異なるでしょうが,その程度はどれほどか。他国と比べてどうか。PISA2012の読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの平均点をもとに検討してみようと思います。
http://pisa2012.acer.edu.au/

 上記調査では,調査対象となった高校の校長に対し,自校に対する保護者の期待について尋ねています。以下のうちから一つを選んでもらう形式です。

 ①:非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を常に多くの保護者から受けている。
 ②:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,小数の保護者から受けている。
 ③:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。

 安直ですが,①の高校を上位校(A),②を中位校(B),③を下位校(C)と見立てることにしましょう。PISA2012のサンプルでみると,日本の生徒は①が23.7%,②が50.4%,③が25.9%と,測ったようにきれいに分布しています。

 私は,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの平均点を,これらの群ごとに出してみました。下の表は,日本とアメリカの結果です。


 両国とも「A>B>C」という傾向です。保護者からの教育期待が高い高校ほど,生徒の学力が高くなっています。

 これはまあ当然ですが,その差はアメリカよりも日本で格段に大きくなっています。日本でみると,A群とC群の平均点の差は読解力が94点,数学的リテラシーが103点,科学的リテラシーが92点にもなります。いずれも米国の倍以上です。

 (   )内の生徒数の%をみればわかりますが,3群の分布が歪というのではありません。C群の生徒がマイノリティーというわけではありません。日本の場合,「1:2:1」と,実にきれいな比になっています。高校進学時における,学力による選抜・配分が精緻になされていることの証左でしょう。

 以上は日米比較ですが,PISA2012の調査対象となった65か国について,同じデータを作りましたので,それをご覧にいれましょう。A群とC群の差が大きい順に並べたランキング表にすると,下表のようになります。前後しますが,点数の分散が大きいとみられる数学的リテラシーに焦点を当てています。


 学校差が最も大きいのはハンガリーで,その次が日本となっています。3位は,お隣の韓国。ハンガリーの事情は存じませんが,日本と韓国は,世界でも有数の学歴社会。有名大学進学可能性に依拠した,高校の階層化が顕著な社会です。

 一方,欧米主要国は学校タイプの差が小さくなっています。

 表の下をみると,A群よりC群の平均点が高い社会もあります。これは,もともと高い学力が入ってくる高校では保護者の圧力は小さく,そうでない生徒が多い高校は圧力が大きい,ということかもしれませんね。

 今回のデータから,日本の高校の階層化が未だに顕在であることが示唆されます。それぞれの高校は,階層構造内の位置に応じて,「上位校,中位校,底辺校」といった眼差しを日々こうむっています。そのことが生徒の自我形成に影響しないはずはなく,こうした学校タイプに応じて,学力だけでなく,生徒の自己イメージ,問題行動の発生頻度などが大きく異なることも,またよく知られています。

 80年代のころは,こういう高校格差の分析がよくなされていたのですが,最近はあまり見かけません。しかし,青年期の人格形成を強く規定する,この巨大な社会的装置の機能を侮るべきではないでしょう。教育社会学の重要テーマであり続けるべきです。

 PISA2012では,生徒の出身階層や対教師関係,学校適応の設問も設けられています。これらの回答が,上記の学校タイプに応じてどう変異するか。ローデータによるクロス集計が,次の作業課題です。

2015年9月18日金曜日

教育のICT化の国際比較

 9月8日のニューズウィーク日本版に「日本の学生のパソコンスキルは,先進国で最低レベル」という記事を寄稿しました。内容は,タイトルの通りです。

 あくまで自己評定の結果で,わが国の生徒の多くが謙虚な回答をしたためかもしれませんが,パソコンの所持率が低いことを考えると,そうでもなさそうです。当然ですが,パソコンに実際に触れないと,スキルは身に付きませんから。

 なぜ日本の生徒がパソコンを持たないかというと,必要ないからでしょう。今の社会ではネットは不可欠ですが,仲間と交信したり,ちょっとした情報収集をするだけならスマホで十分。机の上に鎮座しているパソコンと向き合う必要はないわけです。

 しかし,教育のICT化が進んだ国ではそうはいきません。授業でコンピュータを使う頻度が高く,提出物もネットでやり取りするような国では,否が応にも自分専用のパソコンが必要になるでしょう。米国では,小学生でもパワポでもプレゼンがザラ。この国からの帰国子女が驚くのは,日本では作文を手書きで書かされることなのだそうです。

 今回は,教育のICT化のレベルを国ごとに比べてみようと思います。教育のICT化とは,学校での教授活動において,コンピュータ等のICT機器が重要な役割を果たすようになることをいいます。高度情報社会では,当然の成り行きです。社会が情報化している以上,教育も情報化しないといけません。

 はて,それぞれの国では,学校での教授活動において,コンピュータがどれほど使われているのか。OECDの「PISA 2012」のICT調査では,15歳の生徒に対し,学校内外での学習に際して,コンピュータをどれくらいの頻度で使うかを尋ねています。


 学校外は7項目,学校内は9項目について,使用頻度を5段階で問うています。これらへの回答を合成して,学校外,学校内の学習におけるコンピュータ利用頻度を測る尺度(measure)を作ってみます。

 やり方は簡単で,選択された数値を合計するだけです。上段の学校外でいうと,全部「5」に丸をつけるスーパーICT少年は35点(5×7=35)となり,全部「1」を選ぶ生徒は7点となります。つまり,学校外の学習でのコンピュータ利用頻度は7~35点までのスコアで測られるわけです。学校内の利用頻度スコアは,9~45点の分布をとることになります。

 私は,上記調査のローデータを分析して,各国の15歳生徒のスコア分布を出してみました。手始めに,学校外の利用度スコア分布を例をお見せしましょう。下図は日本の生徒5974人と,北欧のノルウェーの生徒4301人の点数分布です。分析対象は,上表の全項目に有効回答を寄せた生徒です。


 日本は,最低の7点が最も多くなっています。7項目すべてに「滅多にしない」と答えた生徒が24.3%,4人に1人もいます。ノルウェーは16点がピークとなっています。おおむね,どの項目も「月に1~2回」はやるレベルです。

 この分布から平均点を出すと,日本は9.82点,ノルウェーは15.95点となります。この値は,学校外でのコンピュータ利用頻度の指標として使えます。これでみると,北欧と比した日本の低さが一目瞭然です。

 上記調査の対象となった43か国について,この値を軒並み計算してみました。下に掲げるのは,そのランキング表です。左側は学校外,右側は学校内の利用頻度スコア平均です。米英仏は本調査に回答しておらず,データがないので入れていません。


 日本は,学校外・学校内とも最下位です。教育のICT化の最後進国。想像はしていましたが,こうやって数値で可視化されると,ぐうの音も出ません。

 上位は東欧の社会が多いですね。デンマークは,教育のICT化の先進国です。2010年の「情報通信白書」では,この国のICT教育のスゴさについて触れられています。曰く,「デンマークの学校教育においては,ICTは決して特別なものではなく,子どもたちの日々の学校生活に溶け込んでいる」のだそうです。

 こうみると,先日のニューズウィーク記事でみた,日本の生徒のパソコンスキル最低というデータは,あながち謙虚な回答のためばかりとはいえないようです。なずべきことは,教育のICT化をより押し進め,生徒たちをして,パソコンに触れる必要にさらすことでしょう。上記のランキング表から,その余地は多分にあるとみられます。

 考えてみれば,日本は世界でも有数の高度情報社会ですが,学校だけがその時勢から取り残されています。こういうところにも,学校と社会の間にある敷居の高さがうかがわれます。デューイ流にいうと,学校が社会から断絶した「陸の孤島」状態にある,ということです。

 このような状況を変革し,生徒をして,情報化社会の現実に触れさせる必要があります。

 もちろん,学校にパソコンをばらまくというようなハード面の整備だけでは足りず,それを使いこなす教員のICTリテラシー向上を図る研修も不可欠であることは,言うまでもありません。確か,「TALIS 2013」で教員のICTスキルを聞いていたように思いますが,こちらの国際比較もしてみようと思っています。

2015年9月15日火曜日

10代のスマホ・パソコン所持の日米比較

 昨日,10代のパソコン所持率の面積グラフをツイッターで発信したところ,みてくださる方が多いようです。内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)のローデータを加工して,日米両国の10代の所持率(自分専用)を出し,視覚化したものです。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 ノートパソコン所持率       43.3%(日本)  72.5%(アメリカ)
 デスクトップパソコン所持率   18.5%(日本)  51.6%(アメリカ)
 両方とも所持率           7.1%(日本)  35.5%(アメリカ)
                   *%の母数は,日本が508人,アメリカが403人

 それぞれの比重を正方形の面積比重で表すと,下図のようになります。ノートとデスクトップの重複部分が両方所持です。ノートのみとデスクトップのみは,それぞれの所持率から両方所持率を差し引いた値です。日本のノートのみ所持率は,43.3-7.1=36.2%となります。


 一見して,アメリカのほうがパソコン所持率が高いことがわかります。アメリカでは,10代少年の35.5%(3人に1人)がノートとデスクトップの両方を持っています。自分専用です。

 上図の3色の合算が,ノートないしはデスクトップを持っている者,つまり広義のパソコン所持率ですが,日本は54.7%,アメリカは88.6%です。残りの白色は,自分のパソコンを持っていない者ですが,日本では45.3%と半分近くになります。

 まあこの中には,ケータイやスマホを持っている者が多いことでしょう。仲間との交信や受動的な情報収集なら,パソコンでなくとも掌サイズのスマホで事足ります。そこで,これらの小型機器の所持率も絡めてみましょう。

 私は,上記内閣府調査のローデータを分析して,日米両国の10代のケータイ・スマホ所持率,パソコン所持率を出しました。後者は,ノートないしはデスクトップを有している者の割合です。上述のように,日本は54.7%,アメリカは88.6%です。

 ケータイ・スマホ所持率は日本が74.6%,アメリカが87.1%となっています。へえ,こちらもアメリカのほうが高いのですね。ケータイ・スマホとパソコン(ノート or デスク)の両方を持っている者は,日本が48.0%,アメリカが79.4%なり。

 これらの情報をデータを面積図で表すと,以下のようになります。


 大きめの図にしましたが,わが国では,パソコンは持たずともスマホだけを持つ者が結構います。その比率は26.6%,4人に1人です。

 この「スマホだけ族」というのは日本だけに多い人種で,諸外国ではほとんどいません。アメリカでは7.7%,欧米先進国でも同じようなものです。先述のように仲間との交信やちょっとした情報収集(発信)ならスマホで十分ですが,それでは,情報の加工・創造のスキルが身に付かない懸念も持たれます。

 あと日本では,スマホもパソコンも持たない者が18.7%,およそ5人に1人います。これは「リア充族」と解していいのでしょうか。いや,そんなことはないですよね。家庭の経済的事情で,持とうにも持てないのかもしれません。最近のわが国の子どもの貧困率は6人に1人といいますが,この比率と似通っていることも象徴的です。

 日本の10代の特徴は,パソコン所持率が低いこと,スマホだけ族が多いことです。まあこれは,パソコンを使う必要に迫られないためでしょう。日本は教育の情報化(ICT化)が最も遅れている国で,授業でもコンピュータが使われることは滅多にないですし。アメリカからの帰国子女が驚くのは,日本では作文を手書きで書かされることだそうです。

 生徒がパソコンを持っていない,では補助金を交付して彼らに強制的に持たせればよい,という話ではありますまい。その前になすべきは,教育の情報化を推し進め,コンピュータを使う必要にさらすこと。提出物のやり取りをネットで行うことにするだけでも,事態は大きく変わるのではないでしょうか。

 この点については,9/8にニューズウィークWeb版で公開した拙稿「日本の学生のパソコンスキルは,先進国で最低レベル」でも書きました。結構読まれているようです。興味ある方は,ご覧ください。

 今日から,後期の授業が始まります。本日は,杏林大学の教育社会学(5限)。教職課程の授業ですが,今年はどんな学生さんに会えるか。楽しみです。

2015年9月12日土曜日

理系リテラシーのジェンダー差(改)

 3月25日の記事では,「PISA 2012」のデータを使って,15歳生徒の理系リテラシーの性差を国別に明らかにしました。同調査では,15歳生徒の読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーを調査していますが,後2者の平均点です。

 そこで示したのは,平均点の男女差ですが,差分にする前の男女の平均点はどうか,という関心もあるでしょう。またOECD加盟国のデータしか扱いませんでしたが,ここでは非加盟国も加えて,分析対象の社会を増やしたいと思います。

 私は下記サイトの集計ツールを使って,64か国の数学的リテラシーと科学的リテラシーの平均点を男女別に出しました。全部の国を選んで,2段目の変数の「gender」を選択し,「Create Tables」のボタンを押すだけです。
http://pisa2012.acer.edu.au/interactive.php

 これにより,国別・性別の平均点がたちどころに出てきます。エクセルファイルでのダウンロードできますので,それをコピペして引き算(男子-女子)をすれば,ジェンダー差もすぐ出せます。いやあ,便利ですねえ。願わくは,国内の『全国学力・学習状況調査』でも,こういうオンライン集計ツールを設けてほしい・・・。

 以下に,64か国の男女の平均点と性差の一覧表を掲げます。性差は,男子から女子を差し引いた値です。アメリカの下のアルバニア以下は,OECD非加盟国です。


 性差をみるとほとんどがプラスの値です。つまり「男子>女子」ということですが,目を凝らすとマイナス値もみられます。たとえば中東のヨルダンはそれが実に顕著で,数学・科学とも,女子が男子を大幅に上回っています。北欧のスウェーデンやフィンランドもそう。

 われわれの感覚からすれば,数学や理科といったら「女子より男子ができるっしょ」でしょうが,その逆の社会もあります。自分たちの固定観念を揺さぶってくれるのが,国際比較の面白いところです。

 はて,「女子>男子」の社会はどれほどあるのか。上記の数表を凝視するのはしんどいので,ビジュアル化しましょう。横軸に数学的リテラシー,縦軸に科学的リテラシーの性差ポイント(男子-女子)をとった座標上に,64の社会を散りばめてみました。


 右上にあるのは双方とも値がプラス,つまり数学・科学とも「男子>女子」の社会です。わが国はこれに当てはまります。

 対極の左下は,数学・科学とも女子が男子を凌駕している国です。先ほど挙げたヨルダンのほか,カタールやアラブ首長国連邦などが位置しています。いずれもイスラーム国家で女性はあまり外に出ない社会ですが,こういう女性の理系タレントが活かされていないのだとしたら,もったいないですね。

 南国の楽園タイも,理系リテラシーが「女子>男子」の社会です。昨年の5月11日の記事でみたように,この国は「主たる家計支持者」の女性が世界で最も多くなっています。女性管理職も多いとのこと。女性の能力開花に成功している社会といえるでしょう。もっとも男性が怠け者で,そうならざるを得ないのかもしれませんが。

 図をみてわかるように,日本は先進国の中では,理系リテラシーの(旧来型の)ジェンダー差が最も大きい社会です。これを生物学的要因に帰して放置するのではなく,図の左下にシフトするような取り組みが求められます。この点については,前に「日経デュアル」に書きました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3428

 改めていいますが,今回のデータをみて,女性の社会進出が制限されているイスラーム圏において,理系リテラシーが「女子>男子」の社会が多いことに驚きました。

2015年9月9日水曜日

自殺率の国際順位(2012年)

 WHOホームページに掲載されている,最新の2012年のデータを使って,172か国の自殺率を計算してみました。同年中の自殺者数とベース人口は,下記サイトの「BY COUNTRY 2012」の表から得ることができます。双方をエクセルにコピペして割り算をするだけですので,カンタン。
http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/estimates/en/index1.html

 下の表は,値が高い順に並べた順位表です。自殺率の定義は,ベース人口10万人あたりの自殺者数です。国名も原資料のものをコピペしましたので,英語表記になっていますがご容赦ください。


 トップは北朝鮮,2位は韓国,3位はガイアナ,4位はリトアニア,5位はスリランカです。日本は9位となっています。

 首位と2位は朝鮮半島の2か国なのですが,どの年齢層の自殺率が高いのか。下図は,これら2国と主要国の自殺率年齢曲線です。各層の自殺者数をベース人口で除して自殺率を出し,線でつないだグラフです。


 北朝鮮と韓国では,高齢層の自殺率が格段に高くなっています。儒教社会で子が親の面倒をみる伝統が強い国ですが,近年それが急激に崩れていると聞きます。その一方で,老後の社会保障は未整備。ゆえに,生活苦による自殺が多いとみられます。変動期の危機に直面しているといってよいでしょう。

 172か国の自殺率年齢曲線は,タイプが多様です。高齢層で高い右上がりだけでなく,15~29歳の青年層に山がある社会も結構あります。このタイプは,発展途上国に多い。自殺率年齢曲線の型によって,社会を読み解くなんてこともできそうです。

2015年9月7日月曜日

ケータイ・スマホ所有と友人関係意識

 いまや,ケータイやスマホが広く普及しています。中高や大学の授業でも,スマホを使った授業が試みられています。私は持っていませんが,いつ大学から「持て」と言われるか,ちょっとハラハラしています。

 2013年の内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』によると,中高生のケータイ・スマホ所持率は64.5%です。性別にみると,男子が59.2%,女子が71.1%で,女子のほうが高くなっています。

 ケータイ・スマホは,彼らにすれば,友達と交流する重要なツールです。これを持っているかどうかで,親しい友人の数も違っています。下図は,中高生のサンプルをケータイ・スマホ非所有群と所有群に分け,親しい友人の数の分布を比べたものです。


 ご覧のように,所有群のほうが友人数が多いようです。友人が11人以上の者の割合は,非所有群が21.4%であるのに対し,所有群は29.3%です。分布に有意差はありませんが,ケータイ・スマホを持っている生徒のほうが友人が多い,という傾向はいえるでしょう。

 しかし,友人の数が多ければいいというのではありません。量だけでなく,質の面にも目を向けてみましょう。上記の調査では,「友人や仲間のことが心配か」,「友人関係に満足か」と尋ねています。ケータイ・スマホの所有の有無によって,これらの問いへの回答がどう違うかをみてみます。

 クロス集計の結果は,下表のようです。下段の②のサンプルが少ないは,「該当者なし・分からない」という回答を除いているためです。


 ①をみると,友人のことが心配と感じている生徒は,非所有群よりも所有群で多くなっています。「心配」+「どちらかといえば心配」の比重は,前者が31.7%,後者が41.9%です。友人を気遣う者もいれば,友人とうまくやれるか,いじめられはしないかというビクビクしている生徒も含まれるでしょう。

 次に②ですが,友人関係に不満を抱いている生徒の割合は,非所有群よりも所有群で高くなっています。「どちらかとえいば不満」ないしは「不満」の比率は,前者が14.9%,後者が24.5%です。ケータイやスマホを持っている生徒のほうが,友人関係の満足度が低いと。χ二乗検定の結果,こちらは回答分布に有意差が認められます(p<0.05)。

 ケータイ・スマホを持っている生徒のほうが友人数は多いものの,友人関係への懸念や不満もまた多いようです。これらの機器を介した交友といえば,おそらくLINEなどでしょうが,すぐに返信しないといけない,話題についていかないといけない,といった「LINE疲れ」なる病が報告されています。ネットでの交友は,時間的に空間的にも無際限です。解放される暇がありません。なるほど,上記のデータも分かろうというものです。

 ちなみに,男子と女子では様相が違っています。サンプルを男女に分けて,上表と同じクロスをとてみました。下図は,友人のことが心配(心配+どちらかといえば心配)である者の率と,友人関係に不満(どちらかといえば不満+不満)を抱いている者の率をグラフにしたものです。


 ケータイ・スマホの有無による友人関係意識の差は,女子で格段に大きくなっています。男子ではほとんど差がありません。ということは,上表でみた傾向はもっぱら女子のそれを反映していることになります。

 女子に限ると,友人のことを憂える生徒の率は非所有群では32.6%ですが,所有群では50.4%と半分を超えます。友人関係への不満率は,順に15.9%,35.0%と,こちらも大きな差があります。言わずもがな,どちらも統計的な有意差とみなされます。

 女子のほうがケータイやスマホへののめり込みの度合いが高く,それを介した仲間とのつながりに気を遣っているであろうことは,想像に難くありません。「話題についていかないといけない,返信しないとハブられる・・・」。こういう思いから四六時中スマホとにらめっこしています。スマホが使えないので,飛行機に乗るのを嫌がる子までいるそうです。

 先ほど書いたように,ネットでの交友は恐ろしい面を持っています。パソコンでならまだしも,スマホのような常時携帯できる小型機器を介した交友となると,時間的にも空間的にも無際限です。画面の向こうの相手は,いつでもどこまでも追いかけてきます。現在,これに歯止めをかけようと,スマホの利用時間を制限する学校も出てきています。とくに女子生徒に対しては,入念な指導が必要であるといえましょう。

 上記の内閣府調査では,青少年の意識や行動をいろいろな側面から尋ねていますが,ケータイ・スマホの有無によって,どういう違いがみられるか。多様な観点を設定して,多角チャートを描いてみるのも面白いですね。情報化社会における社会化の歪みが明らかになるかもしれません。そろそろ後期の調査統計法の授業が始まりますが,学生さんにやらせてみたい課題です。

 今年度から4学期制になった関係上,1回あたりの授業時間は180分(3時間)。たっぷりと作業をしていただこうと思っています。

2015年9月4日金曜日

奨学金の有利子化

 大学等の高等教育機関で学ぶ学生で,奨学金を借りる者が増えているといいます。2012年の受給率は,大学学部で52.5%,大学院修士課程で60.5%,博士課程で66.2%だそうです。
http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/12.html#shougakukinn

 最近では大学生半分が奨学金(実質ローン)を借りているわけですが,種別の内訳も変わってきています。周知のように奨学金には有利子の一種と無利子の二種があるのですが,それぞれの貸与人員の推移をとると,下図のようになります。下記サイトのデータをもとに作図しました。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shougakukin/main.htm


 私が学生だった90年代末では,有利子より無利子が多数でした。私も無利子を借りていましたが,奨学金といえば無利子が普通で,有利子はそう多くなかったと記憶しています。

 しかしその後,無利子は横ばいであるのに対し,有利子は増加の一途をたどります。2003年には有利子のほうが多くなり,2014年度では有利子と無利子の比が「2:1」くらいになっています。奨学金の有利子化です。

 わが国は,高等教育がユニバーサル化の段階に達した社会ですが,それは国民に借金を強いることで成り立っているといえるでしょう。ご存じのとおり,わが国の大学の学費はバカ高,高等教育の費用負担が「私」依存型の社会です。

 現在では,大学生の半分が卒業時に奨学金という名の借金(多くが有利子)を抱えることになるのですが,それが未婚化と関連してはいないか。私は前から,こういう疑いを持っています。数百万の借金がもとで,結婚をためらう(相手にためらわれる)若者も少なくないのではないか。

 事実,「彼氏が奨学金を返済中で,とても結婚できない」という女性の声を報告した,本田教授のツイートが話題になっています。「あるある」ってことなのでしょう。
http://blogos.com/outline/131218/

 奨学金という聞こえの良い借金を若者に負わせるシステムは,いろんなことで悪用される恐れがあります。軍に入れば返済免除,こういう仕事を就けば返済免除・・・。同時に,未婚化・少子化という,社会の維持・存続に関わる問題でもあることを,われわれはもっと認識すべきかと思います。

2015年9月2日水曜日

就学前教育と学力・体力の相関

 幼稚園の無償化,保育所の義務化など,就学前教育(保育)の拡張の必要がいわれています。その根拠としていわれるのが,乳幼児期の過ごし方が人間形成に大きく影響する,ということです。

 乳幼児期の発達課題は,群れ遊などにより,社会生活の原初形態を経験し,社会的存在としての自我を刻み込むことですが,昔は家庭や地域社会において,このタスクを遂行することができました。しかし核家族化が進み,地域社会も崩壊した今日では,そうもいかなくなっています。最近問題になっている「小1プロブレム」などは,こういう状況の所産であるともいえるでしょう。

 そこで保育所を義務化すべきであると。古市さんの『保育園義務教育化』(小学館)には,こういうことが書いてあったかと思いますが,乳幼児期の幼稚園ないしは保育所の在所経験が,その後の能力形成とどう関連しているかも興味深いところです。

 志水教授の『福井県の学力・体力がトップクラスの秘密』(中公新書ラクレ)では,福井の子どもの体力が高い要因として,充実した就学前保育という点が指摘されています。ある視察レポートによると,県内の某保育所では子どもが盛んに体を動かしており,小1児童の体育と遜色ない運動量なのだそうです。

 運動量だけでなく,聞く,話す,読む,数えるなど認知能力の形成に関わる経験も,幼稚園あるいは保育所に在所している乳幼児のほうが多いでしょう。そうである以上,就学以後の学力との関連も示唆されます。

 私はこの問題をマクロ的に吟味するため,都道府県別の就学前の幼稚園・保育所在所率と,小学生の学力・体力の相関関係を出してみました。

 就学前の幼稚園・保育所在所率とは,0~5歳人口に占める在所者の割合です。2013年の幼稚園児数と保育所在所児数を,同年10月時点の0~5歳人口(推計)で除して算出しました。下表は,県別数値の一覧表です。


 小学校に上がる前の乳幼児のうち,幼稚園ないしは保育所に通っている子の割合は,県によってかなり違っています。最低の50.7%から最高の75.50%までのレインヂです。沖縄では半分ちょいですが,島根や秋田では4人に3人となっています。

 赤字は上位5位ですが,北陸の2県がランクインしています。文科省の全国調査において,子どもの学力ならびに体力が毎年上位にある県ですよね。

 はて,上表の幼稚園・保育所在所率は,各県の小学生の学力・体力とどういう相関関係にあるか。まずは学力から。2013年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果とリンクさせてみましょう。下図は,公立小学校6年生の国語Aの正答率との相関図です。


乳幼児期に幼稚園ないしは保育所に通っている子が多い県ほど,小学生の学力が高い傾向にあります。相関係数は+0.589であり,1%水準で有意です。

 他の科目の正答率との相関係数は,国語Bが+0.480,算数Aが+0.567,算数Bが+0.485です。乳幼児期の在所率は,いずれの科目の正答率とも有意な相関関係にあります。

 体力との相関は如何。2013年度の文科省『全国体力・運動能力,運動習慣等調査』から,公立小学校5年生男女のA・B評価率を県別に出し,同じく乳幼児期の幼稚園・保育所在所率との相関をとってみました。算出された相関係数は,男子のA・B評価率とは+0.447,女子のそれとは+0.517です。男子よりも女子の体力と相関していますが,女子の場合,非在所児は自発的に外遊び(運動)する機会が乏しいためでしょうか。

 都道府県単位の統計では,就学前の幼稚園・保育所在所率と小学生の学力・体力の間にプラスの相関関係が見受けられます。これが因果関係を意味するとは限りませんが,近年の教育経済学の研究成果や,先ほどの志水教授の著作でいわれていることを勘案すると,その可能性を全面否定することはできないように思います。

 しかるに,「乳幼児期の過ごし方次第で人生の全てが決まる」という極論を振りかざし,この時期の子どもの生活均衡を破壊することがあってはなりません。私は,子どもの健全な成長・発達の条件として,家庭・学校・地域というそれぞれの場がの生活が「均衡・充実」していることが重要と考えています。

 乳幼児の経験や運動を豊富にする術は,四角いハコに入れることだけではないでしょう。ただ,乳幼児期の過ごし方は,その後の社会化過程に影響する可能性がある。秋田や福井のヒミツは,そこにあるのではないか。マクロデータから,この点をうかがうことはできるでしょう。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』の児童・生徒質問紙において,就学前の生活経験の設問を組み込み,学力との相関を個票データで検討したらどうでしょうか。マクロの知見がミクロで傍証されたとき,説得力は大きく増すことになります。