2013年5月30日木曜日

19世紀後半期プロイセンにおける学生・生徒の自殺原因

 週に一度,国会図書館通いをして,昔の教員の危機や困難に関する資料を収集しています。昨日は,明治中期の『教育時論』をくくってきました。戦前期のメジャーな教育雑誌です。

 同誌の1890(明治23)年12月15日号に,「学校生徒自殺の原因」と題する短文が載っています。しかるに,わが国のものではありません。載っているのは,遠い西洋のプロイセンの自殺統計です。

 それによると,1883~1888年の6年間に同国で自殺した学生・生徒数は,小学校で209人,高等学校で80人であったとのこと。高等学校とは,当時の日本でいう「高等中学校,尋常中学校,高等女学校等」に類する学校だそうです。

 デュルケムが名著『自殺論』を刊行したのは1897年ですが,これより少し前の隣国プロイセンにおける,学生・生徒の自殺原因とは,どういうものだったのでしょう。


 小学校では「懲罰」への恐れ,高等学校では「試験の恐怖・落第」という原因が最も多くなっています。小学生の自殺の3分の1が,「懲罰」を恐れてのことだったとは・・・。

 ここでいう「懲罰」とは,おそらく体罰でしょう。中世のヨーロッパでは体罰は教育上の手段としてはっきりと容認され,近代化以降も,そうした流れが続いたといわれます。私が最近見入っている「トムソーヤの冒険」(19世紀前半,米国)でも,鞭打ちの体罰が頻繁に出てきます。他にも,過酷な体罰がなされていたのでしょう。子どもをして,死へと赴かせるまでに。

 ひるがえって,同じ頃の日本では,子どもの自殺原因はどういうものだったのでしょう。戦前の日本の学校ですさまじい体罰がなされていたことは,3月30日の記事でみた通りです。もしかすると,上記プロイセンと同じような原因構造だったりして。

 今年の初頭に,大阪の高校で体罰自殺事件が起きましたが,問題は通底しているのだな,という感じを持ちます。

2013年5月28日火曜日

国民のイライラ化・自己愛化?

 1990年代以降,日本社会に暗雲が立ち込めてきたといわれます。この期間中に自殺者が激増したことは広く知られていますが,外向的な逸脱である犯罪の量はどう変わったのでしょう。

 警察庁の『犯罪統計書』によると,1990年の刑法犯検挙人員(交通業過除く)は29.3万人ほどでしたが,20年を経た2011年では30.5万人となっています。微増というところです。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 罪種別にみても傾向はほぼ同じですが,今世紀以降,数が大幅に増えている罪種が一つあります。それは暴行です。人をぶん殴るとかですが,相手に怪我をさせるには至らなかったものです。怪我をさせた場合は傷害として計上されます。

 暴行を働いて御用となった者は,1990年では8,058人でした。この値を1.0とした指数値の推移をみてみましょう。比較対象として,刑法犯全体のカーブも添えています。


 刑法犯全体のカーブはほぼフラットです。暴行のそれは,1990年代は右下がりでしたが,今世紀になってから急に右上がりに転じています。2011年の指数値は2.7です。この20年間で,暴行の検挙人員は3倍近くにも増えました。

 みんなイライラしていて,些細なきっかけで他人をぶん殴る・・・。駅員が客に殴られる事件も多いそうな。ちなみに,加害者と被害者が面識なしの暴行事件も増えています。
https://twitter.com/tmaita77/status/337903588921704448

 次に,年齢層別の傾向をみてみましょう。私は,1990年以降の暴行検挙人員数を年齢層別に明らかにし,上図と同じ指数値カーブを描きました。各層の人口変化も考慮するため,人口の指数値カーブも添えています。人口統計の出所は,総務省『人口推計年報』です。


 予想に反してといいますか,少年の暴行検挙人員は減っています。イライラを募らせアグレッシブになっているのは大人たちです。

 カッコ内は最新の2011年の指数値ですが,暴行検挙人員は30代は4倍,50代は5倍,60歳以上の高齢者に至っては40倍近くにまで膨れ上がっていることが知られます。巷でいわれる「暴走老人」,さもありなん。今の60歳くらいって,学生運動の全盛世代ではないかな。

 とはいえ,暴行を働く確率という点では,エネルギーみなぎる若年層のほうが高いことでしょう。最後に,検挙人員数を人口で除した出現率を出してみましょう。私が属する30代でいうと,2011年の暴行検挙人員は4,897人,ベースの人口は1,781万人ほどですから,10万人あたりの出現率は27.5ということになります。

 この出現率を年齢層ごとに出し,各々をつないだ年齢曲線をつくりました。下図には,1990年,2000年,および2011年の曲線が描かれています。


 世紀の変わり目までは,低年齢層ほど率が高い「右下がり」の型でしたが,2011年では,30代をピークとした「山型」になっています。人を殴るような粗暴行為を働くのは,以前は自我が未熟な子どもでした。ところが今では,働き盛りの大人がそういうことをしでかすようになっています。
 
 働き盛りの層にイライラが蔓延しているというのは,分かる気がします。今の職域は問題だらけですしね。それに世代論的にいえば,今の30代,いみじくも私の世代は,学校卒業時に超就職氷河期を経験したロスジェネです。非正規雇用に留置かれている者も多いことでしょう。上の曲線は,そした生活条件の表れとも読めます。

 あと一点,申したいことがあります。自己愛の人間が増えていることとの関連可能性です。自己愛性人格障害という病がありますが,この手の人は,批判されたり注意されたりするとすぐに逆ギレします。

 大手マスコミの記者や大企業の重役が駅員に暴行を働いた,という事件が報じられることがあります。注意されて腹が立った,両替を断られて逆上した・・・。こういう報道に接するたびに,自己愛なんじゃ・・・という感想を持つのです。

 現代は「人格障害の時代」ともいわれます(岡田尊司氏)。今回の統計は,こうした時代の病理を反映したものといえるかもしれません。私の個人的な印象ですが。

2013年5月26日日曜日

幼子がいる若年女性の専業主婦率の要因

 閑話休題。前々回の記事では,幼子がいる25~34歳女性のすがたが県によってどう違うかを明らかにしました。そこで分かったのは,結婚して子どもができることで女性が「主婦化」する確率は,地域によってかなり異なることです。

 幼子がいる25~34歳女性の専業主婦率を県別にみると,最高の65.6%(神奈川)から最低の33.3%(山形)まで大きな開きがあります。この差は何によってもたらされるのでしょう。今回は,この点に関する実証データを出してみようと思います。

 まず考えられるのは,子を預かってくれる保育所がどれほどあるかです。それを測る指標として,保育所供給率という指標を出してみます。各県の認可保育所定員数(供給量)を,6歳未満の幼子がいる25~34歳女性数(需要量)で除した値です。分子は厚労省『福祉行政報告例』(2010年),分母は総務省『国勢調査』(2010年)から得ました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 あと一つ,各県の若年有配偶女性のうち,親と同居している者がどれほどいるかです。親と同居しているならば,子ができても仕事を継続することは容易になるでしょう。私は,25~34歳の有配偶女性のうち,親と同居している者の比率を県別に計算しました。ソースは,2010年の『国勢調査』です。

 下表は,この2指標の県別数値を掲げたものです。分子,分母の数値も提示します。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は,上位5位であることを示唆します。


 両指標とも,かなりの地域差がありますね。保育所供給率をみると,高知のように,供給量が需要量の倍以上ある県もあれば,供給が需要の6割ほどしかない県もあります(埼玉)。

 25~34歳の有配偶女性の親同居率に至っては,最高の山形と最低の東京では,10倍近くもの開きがあります。前者では5人に2人が親同居ですが,後者ではわずか22人に1人です。この指標は,総じて都市部で低く,地方で高いようです。

 それでは,これらの指標が,幼子を抱える25~34歳女性の専業主婦率とどう関連しているかをみてみましょう。下図は,縦軸に被説明変数(主婦率),横軸に説明変数(保育所供給率or親同居率)をとった座標上に47府県を位置づけた相関図です。


 保育所供給率や親同居率が高い県ほど,幼子がいる若年女性の専業主婦率が低い,という傾向がクリアーです。地域単位の統計ですが,やはり,子を預かってくれる保育所がどれほどあるか,子の面倒をみてくれる親と同居しているかどうかは,女性が就業を続ける上での重要な条件となっていることが知られます。

 相関係数をみると,保育所供給率よりも親同居率の影響が強いようです。しからば,巷でよくいわれる保育所効果というのは,実は親同居率を媒介にした疑似相関なのかというと,そういうことはありません。

 保育所供給率と親同居率は+0.365と確かに相関していますが,これら2指標を同時に取り込んだ重回帰分析をしてみると,双方とも被説明変数に有意な独自の影響を与えています。β値は,保育所供給率が-0.456,親同居率が-0.589です。どちらか一方が真因というのではなく,2指標とも,幼子がいる若年女性の就業可能性に独自の影響を与えている,ということです。

 ここでの分析結果は,わが国の子育てが未だに個々の家庭に委ねられていることの証左であると思います。仮に,子育てへの公的支援が充実しており,親との同居云々というような条件とは関係なく,子持ちの女性が就業を継続できる状況になっているならば,親同居率と専業主婦率は無相関になるはずです。しかるに,現実のところ大変強い相関が観察されます。諸外国のデータは知りませんが,これって,日本の特徴なのではないかしらん。

 結婚しても親と同居し続けましょう,という提言はいかにもナンセンスです。今回のデータは,保育所の充実に代表されるような,育児への公的支援がもっともっと必要である,ということを主張するがために用いられるべきであると考えます。

 血縁に由来する第一次集団としての家庭でしか為し得ないことを尊重しつつ,ある程度において育児を外部化すること。子は,家庭のみならず社会全体で育てること。成熟社会における,子育ての現実的かつ理想的なすがたというのは,こういうものであると思います。

2013年5月25日土曜日

30代後半男女の状態の学歴比較図

 ちょっと話題を変えましょう。前々回の記事では,結婚や出産を経るにつれて若年女性のすがたがどう変異するかを面積図で表現しました。今回は,同じやり方によって,私が属する30代後半人口のすがたが,学歴によってどう異なるかを視覚化してみようと思います。
 
 私は,30代後半男女の学歴別の労働力状態を明らかにしました。用いたのは,2010年の『国勢調査』(産業等基本集計)のデータです。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 まずは,グラフ化する前のデータをみていただきましょう。下表は,30代後半男性の労働力状態の分布を最終学歴別にみたものです。労働力状態が不詳の者は除外しています。


 4つの学歴グループの量をみると,中卒はわずかです。私の世代が15歳の頃は,もう高校進学率は95%を超えていましたしね。最も多いのは高卒の182万人であり,この群が全体の4割ほどを占めています。私の世代ではまだ,大卒者よりも高卒者のほうが多いようです。でも,より下の世代では,これが逆転していることでしょう。

 2010年10月時点の労働力状態をみると,学歴群によってかなり違っています。正規雇用就業の比率は学歴が上がるほど上昇しますが,非正規雇用や失業の比重はその逆の傾向を呈しています。

 一番下の非労働力とは,働く意欲がない者のことであり,学生や主夫からなりますが,この年齢層の男性の場合,多くがニート(Neet)であるとみてよいでしょう。このニート率も,学歴ときれいに相関しています。

 では,上表の学歴別労働力統計をグラフ化してみましょう。下図をご覧ください。普通の帯グラフとは異なり,ヨコの幅によって,4つの学歴群の量も分かるようにしてあります。


 量的に少ない中卒者の構成の特異性が目立っています。語弊があるかもしれませんが,昔に比べてマイノリティー化している分,この層に困難が濃縮されている,という見方もできるでしょう。

 上記は男性の図ですが,女性の図も掲げます。労働力状態が判明する,30代後半女性415万人の学歴別労働力状態分布図です。


 女性では,ピンクの非労働力の領分が大きくなっていますが,大半が家事専業の主婦であると思われます。主婦の比率の学歴差はほとんどありません。ですが,働き方(正規雇用or非正規雇用)の様相は,男性と同様,学歴による違いが大きいようです。

 学歴社会ニッポン。これって,現代日本の特徴なのか。時代比較や国際比較ができれば面白いのですが,それは叶いません。

 次回は,話を戻して,幼子を抱える若年女性の専業主婦率と,保育所供給率,有配偶女性の親同居率の相関分析をしようと思います。

2013年5月23日木曜日

幼子がいる25~34歳女性の状態の都道府県比較

 前回は,結婚・出産というイベントを経験することで,25~34歳女性のすがたがどう変異するかを明らかにしました。全国の統計図に加えて,大都市の神奈川と北陸の福井の図も提示しました。

 この記事をみてくださった方のツイッター・コメントを拝見すると,他の県ではどうなのか,という関心が結構多いようです。わが国では,結婚して子どもができることで職を辞す(ことを強いられる)女性が少なくありませんが,その程度には地域差があります。今回は,全県分のデータをお見せしようと思います。

 私は,6歳未満の幼子がいる25~34歳女性の労働力状態を,都道府県別に明らかにしました。資料は,2010年の総務省『国勢調査』です。どういうデータを使っているかについてイメージを持っていただくため,前回比較した神奈川と福井を事例にして,ローデータを提示しましょう。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 『国勢調査』の産業等基本集計結果のデータから,以下のような統計表をつくることができます。


 幼子を抱える25~34歳女性のうち,労働力状態が判明する者は,神奈川では14万4千人,福井では1万5千人ほどです。内訳をみると,両県とも,非労働力人口の家事というカテゴリーが最も多くなっています。いわゆる専業主婦です。

 その次が正規雇用就業,そして3番目に多いのはパート・バイトといった非正規就業です。しかるに,順位構造は同じですが,分布の様はこの2県ではかなり違っています。専業主婦率でいうと,神奈川では65.6%にもなりますが,福井は37.6%にとどまっています。

 私は,同じデータを全県分収集し,分布を帯グラフで表現してみました。上表の10カテゴリーを4カテゴリーに簡略化した図です。①正規雇用就業,②非正規雇用就業(ハケン+パート・バイト),③家事(主婦),および④その他の4カテゴリーの分布図です。


 全体的にみて,ピンクの専業主婦の領分が幅を利かせていますね。ですが,専業主婦の割合は地域によってかなり違っています。上位5位は,神奈川(65.6%),大阪(65.0%),奈良(64.5%),兵庫(64.4%),千葉(64.2%),です。

 いずれも首都圏や近畿圏の都市県です。一方,東北,北陸,そして山陰の県では,割合が比較的小さくなっています。最低は山形で33.3%です。神奈川の半分ほどです。

 あと一点,各県の専業主婦率の都道府県地図を掲げておきましょう。上図のピンク色の領分を地図化したものです。


 よくいわれるように,こうした地域差は,幼子を預かってくれる保育所がどれほどあるか,ということと関連していると思われます。上の地図と関連させていうと,都市部では保育所が不足していることはよく知られています。

 また,前回の記事へのツイッターコメントにありましたが,親と同居している三世代家族の量とも相関していることでしょう。上記地図をみると,日本海沿岸部の専業主婦率が低いようですが,子の面倒をみてくれる親との同居が多いのかもしれません。

 私は,『国勢調査』のデータを用いて,25~34歳の有配偶女性の親同居率を県別に計算しました。また,認可保育所定員を,幼子がいる同年齢女性で除すことで,各県の保育所供給率を明らかにしました。

 はて,上図の専業主婦率と強く相関しているのは,親同居率か。それとも,保育所供給率か。相関分析は,次回行うこととしましょう。

2013年5月21日火曜日

25~34歳女性の状態比較

 前回は,若年女性の育児離職率を県別に出したのですが,その値は低いものではないことを知りました(とくに都市部)。

 そうである以上,幼子がいるかどうかで,女性のすがたはさぞ異なることでしょう。今回は,その様相を可視化した図をご覧に入れようと思います。

 私は,25~34歳の女性について,以下の3群の労働力状態を明らかにしました。資料は,2010年の『国勢調査報告』です。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 ①:未婚女性
 ②:有配偶女性(幼子なし)
 ③:有配偶女性(幼子あり)

 ここでいう幼子とは,6歳に満たない子をいいます。②は,有配偶女性全体から③を差し引いて出しました。下図は,この3群の労働力状態を視覚化したものです。労働力状態が不詳の者は含まれていないことを申し添えます。


 この図では,各群の量がヨコの幅によって表現されています。結婚しているが幼子がいないという者は,量的には少ないようです。未婚者が最多であるのは,近年の未婚化の表れでしょう。

 さて図をみると,結婚→出産を経るにつれて,正規就業率がガクン,ガクンと落ちてきます。代わって,専業主婦の量が段階的に増えてくる傾向です。6歳未満の幼子がいる女性でいうと,全体の半分以上が専業主婦であることが知られます。

 子どもができたので育児に専念しようという自発的な意向もあるでしょうが,本当は仕事は続けたいが地域に保育所がないのでやむなく,という非自発的な事情も大きいと思われます。全国の至る所で保育所増設運動が起きていることを思うと,こちらの面のほうが強いのではないでしょうか。

 このことは,保育所がたくさんある地域とそうでない地域を比べてみるとよく分かります。3月27日の記事では,保育所の多寡を表す保育所供給率を県別に計算したのですが,最低は神奈川,最高は福井です。この2県では,保育所供給量に5倍近くもの差があります。

 私は,この両県について,上図と同じ図をつくってみました。①は未婚女性,②は幼子がいない有配偶女性,③は幼子がいる有配偶女性,です。


 結婚,出産というイベントを経るにつれて,正規就業が減り専業主婦が増える傾向は同じですが,その度合いがかなり違っています。幼子を抱える女性の専業主婦率は,神奈川では65.6%にもなりますが,福井では37.6%です。

 このような差がもっぱら保育所の多寡によるとは限りませんが,それが大きな要因となっていることは確かでしょう。近年,神奈川ではかなり待機児童が減少したそうですが,より近況でみれば,上図の模様も違っているかもしれません。
http://www.asahi.com/and_M/living/suumo/TKY201303260073.html

 ところで,結婚・出産した女性の多くが職を離れる社会って,世界的にみて他にあるのかなあ,という疑問を持ちます。『世界価値観調査』(WVS)の属性統計を活用することで,今回の図に近いものを,国別に作成することができるかもしれません。

 北欧のスウェーデンとかは,どんな模様かしらん。作図することができたら,この場に展示しようと思います。

2013年5月19日日曜日

都道府県別の育児離職率

 働くママさんたちによる保育所増設運動が起きていますが,子どもができたことで職を辞すことを強いられる女性就業者も少なくないと思います。

 「育児」という理由による女性就業者の離職率を出せないものか,と前から思っていたのですが,総務省『就業構造基本調査』の就業異動統計を使うことで,その近似値を出せることを知りました。今回は,都道府県別の試算結果をご報告しようと思います。

 2007年の『就業構造基本調査』によると,2005年10月~2006年9月までの間に,「育児」という理由で離職した25~34歳の女性は169,700人となっています。やや古い数値ですが,1年間に17万人ほどの女性が,育児を理由として職を離れるのですね。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2007/index.htm

 2005年の『国勢調査』をみると,同年10月1日時点における,6歳未満の幼子がいる同年齢の女性就業者は991,868人です。これを母数とみなすと,上記期間の育児離職率は17.1%と算出されます。幼子を抱える女性就業者の6人に1人が,育児をするために職を辞していることになります。

 私は,この値を都道府県別に計算しました。下表は,その一覧です。分子と分母の数値も漏れなく掲げます。また,全県中の順位も添えています。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は上位5位です。


 最高は神奈川の28.6%,最低は島根の5.8%です。この両端では,幼子がいる女性就業者の育児離職率が5倍近くも違っています。前者は3人に1人ですが,後者は17人に1人です。

 しかし,首都圏の1都3県が軒並み上位5位にランクインしているのは注目されます。ほか,大阪が6位,愛知が7位など,都市的な県において,働く女性の育児離職率が高いことが知られます。この点は,育児離職率を地図化すればもっとクリアーです(下図)。


 都市部では,子を預かってくれる保育所が足りない,という事情があるのでしょう。3月27日の記事では,各県の保育所供給率という指標を出したのですが,上表の育児離職率との相関係数を計算したところ,値は-0.6746となりました。保育所供給が少ない県ほど,働く女性の育児離職率が高い傾向が明瞭です。

 ほか,三世代家族の多寡や男性の育児参加度など,女性の育児離職率と関連すると思われる要因は数多し。こういう要因解析をした研究ってあるんかな。

 ちなみに,『就業構造基本調査』の離職統計で設けられている理由カテゴリーには,興味深いものが結構あります。「労働条件が悪かった」,「家族の介護」・・・etc。劣悪な労働条件を理由とした若者の離職率が高い県はどこか,介護離職率が高い県はどこか。こういう問題も追及できます。

 『就業構造基本調査』も宝の山です。間もなく最新の2012年調査の結果が公表されるでしょう。存分に活用しようではありませんか。

2013年5月16日木曜日

都道府県別の東大・京大合格者出現率

 先日,県別の東大・京大合格者出現率の一覧表をツイッターで発信したところ,みてくださる方が多いようなので,ブログにも載せておこうと思います。

 ただ転載するだけというのは芸がないので,過去との比較ができる統計表を掲げましょう。ご覧いただくのは,1980年春と2010年春の県別数値です。この30年間で,有力大学合格者輩出確率の地域構造に,どういう変化が起きたのでしょう。

 ここでいう東大・京大合格者出現率とは,各県の高校から出た合格者数を高卒者数で除した値です。分子の合格者数は,『サンデー毎日』(1980年4月20日号,2010年6月12日号)に掲載されている高校別の数を,県別にまとめることで明らかにしました。分母の高卒者数は,文科省『学校基本調査』より得ています。

 合格者数は過年度卒業生も含む数であり,これを現役の卒業生数で除すことは問題ありですが,合格者が出る相対確率を表す尺度としては使えるでしょう。

 下表は,算出された合格者出現率の県別一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしています。赤色は,上位5位を意味します。


 合格者出現率の全国値は,この30年間で3.5‰から5.5‰へと上がっています。少子化による分母が減少する一方で,分子が増えているためです。

 しかるに,合格者出現率の県間格差も開いています。極差はいわずもがなですが,標準偏差も1980年の2.19から2010年の4.52へとアップしているのです。最有力大学の合格チャンスの地域格差が拡大していることが知られます。

 これは,この30年間の変化が県によって多様であることによります。奈良のように合格者出現率が20ポイント近く伸びた県もあれば,私の郷里の鹿児島のように,それが減じた県もあります。

 1980年から2010年にかけての各県の変化を視覚化してみましょう。私は,横軸に1980年春,縦軸に2010年春の合格者出現率をとった座標上に,47の都道府県をプロットした図をつくりました。


 ピンクのゾーンにあるのは,この期間中に合格者出現率が2倍以上になった県です。黄色のゾーンは増加倍率が1倍以上2倍未満,青色のゾーンはそれが1倍未満,すなわち合格者出現率が減少したことを示唆します。

 有力大学の合格者出現率を伸ばしたのは,多くが都市的な県であることが知られます。社会の指導者予備軍の出身地域の偏り・・・。わが国の地域間の不均衡発展の遠因は,こういうところにあるのかもしれません。郷土愛を持った国会議員が少なくなるというように。

 それはさておき,47都道府県で躍進が最も著しいのは奈良であり,この30年間にかけて,東大・京大合格者数の実数も110人から332人へと増えています。

 しかるに蓋を開けてみると,この増分の多くは国・私立校によって担われています。下図にて,当県から出た合格者の出身高校の構成変化をみると,国・私立の領分拡大,公立の領分縮小が明らかです。おそらく,私立のT大寺学園高校の影響でしょう。


 こういう傾向がみられる県は少なくありません。各県の合格者の国公私構成は,5月7日の記事で明らかにしています。ご参照ください。

 このことがどういう問題を含むかは,これまで繰り返し書いてきたので,ここで言及するのは避けます。よろしければ,前回の記事もみていただけると幸いです。

 冒頭の県別合格者出現率の地図は,ツイッターのほうに載せています。2010年春のものです。興味ある方はご覧ください。
https://twitter.com/tmaita77/status/333856705538584577

2013年5月14日火曜日

私立校の家庭の年収ジニ係数

 5月7日の記事では,東大・京大合格者が国・私立高校出身者に寡占される傾向が強まっていることをみました。幼少期からの受験準備も含め,入学の多額の費用を要する学校の出身者による寡占現象。これは,社会的不平等の問題に通じます。

 子を私立校に通わせている家庭,とりわけ早い段階からそうしている家庭の年収は,一般家庭と比べてさぞ高いことでしょう。今回は,私立校の児童・生徒の家庭の年収分布を,子がいる世帯全体のそれと比較し,ジニ係数を出してみようと思います。

 2010年度の文科省『子どもの学習費調査』から,私立小・中・高の児童・生徒の家庭の年収分布を知ることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/1268091.htm

 私立小学校の児童の家庭についてみると,400万円未満が3.4%,400~500万円台が6.8%,600~700万円台が14.8%,800~900万円台が16.7%,1000~1100万円台が16.2%,1200万円以上が42.1%,となっています。

 むむむ。富裕層に偏っていますねえ。この分布は,同年代の子がいる世帯全体のそれとは,著しく隔たっていることでしょう。

 私は,2010年の厚労省『国民生活基礎調査』にあたって,児童がいる世帯の年収分布を調べました。明らかにしたのは,世帯主が30~40代の世帯の年収分布です。小・中・高校生の親の年齢は,だいたいこの辺りとみてよいでしょう。集計されている世帯数は,1,726世帯です。以下では,「全世帯」ということにします。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 下表は,私立小・中・高の児童・生徒の家庭,および全世帯の年収分布を整理したものです。全数を1.00とした相対度数で表しています。


 年収1200万円以上の富裕層は,私立小学校では42.1%を占めますが,子がいる全世帯では7.4%しかいません。推定母集団と比較すると,子を私立にやる家庭というのがいかに特定の層に偏っているのかが分かります。下の段階の学校ほど,それが顕著であることにも注意しましょう。

 ジニ係数を計算して,こうした偏りの程度を測ってみましょう。3段階の私立学校について,家庭の年収ローレンツ曲線を描くと下図のようになります。横軸に全世帯,縦軸に私立校の家庭の年収の累積相対度数をとった座標上に,6つの収入階層をプロットし線でつないだものです。


 下の段階の学校ほど,曲線の底が深くなっています。私立小学校の家庭の年収分布は,子がいる世帯全体とかなりズレていることが,上図において可視化されています。

 われわれが求めようとしているジニ係数は,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。算出された値は,私立小学校が0.6079,中学校が0.5268,そして高校が0.2608なり。

 高校のジニ係数が低いのは,2010年度より施行されている高校無償化政策の影響もあるでしょう。本制度により,私立高校の授業料には補助が得られることとなっています。

 しかるに,有力大学への合格者を多く出しているのは,中学校,さらには小学校というように,早い段階からのエスカレーターをしいている学校です。私立小学校や中学校の家庭の年収ジニ係数は,上記のとおり,高い水準にあります。

 こういう学校の出身者による,有力大学合格者の寡占傾向が強まっているわけです。教育という,世間から咎められない経路(戦略)を介した,親から子への地位の再生産。この現象に目を向けることの必要性は,今日とみに高まっているといえましょう。

2013年5月12日日曜日

大学生の自殺

 ここ数年,年間500人ほどの大学生が自ら命を断っていますが,彼らが自殺へと赴きやすい「魔の季節」というのはあるのでしょうか。

 内閣府は,警察庁保管の自殺原票を独自に分析して,詳細な自殺統計を作成しています。その中に,各年の月ごとに職業別の自殺者数を集計した表があります。私はこのデータを使って,2009年1月から2013年3月までにかけて,大学生の月ごとの自殺者数がどう推移してきたかを明らかにしてみました。

 ここでいう自殺者数とは,原資料でいう「自殺日ベース」の数値であることを申し添えます。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/


 月ごとの細かい自殺者数なので凹凸が激しくなっています。ピンクの丸は各年のピークですが,2011年を除いて,大学生の自殺が最も多いのは3月です。今年でも,2月から3月にかけて数が急増しています。

 年度末になって就職失敗が確定し,絶望の果てに自らを殺める,というような悲劇も多いことでしょう。最近では,3月を自殺防止対策強化月間としている自治体が多いと聞きます。各大学も,進路届けが未提出の学生に連絡をとるなど,細かなケアを実施している模様です。

 大学生の場合,就職失敗をはじめとした将来展望不良に関わることが,自殺原因の中で幅を利かせています。2012年中の大学生の自殺者は485人ですが,遺書等の分析によって析出された自殺原因の延べ数は480です。

 下図は,主な成分を面積図で表現したものです。各カテゴリーの量が正方形の面積で表されています。警察庁の『平成24年中における自殺の状況』に載っている原因小分類統計をもとに作成しました。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm


 トップは学業不振であり,原因総数(480)の17.9%を占めています。2位は進路の悩み,3位は就職失敗と鬱病です。

 進路の悩みと就職失敗を「将来展望不良」と括ると,大学生の自殺原因の4分の1(25.2%)に相当します。こうした原因構造は,大学生に固有のものです。

 青年期の一大事業である「学校から社会への移行」が,現在では一筋縄ではいかなくなっています。新卒偏重の採用慣行については,文科省が経団連に是正を要求したと聞きますが,どうなっているのかしらん。

 なお,上記の内閣府の詳細統計では,大学生の自殺者数が同居者の有無別に集計されています。一人暮らしの学生のほうが自殺確率は高いと思うのですが,どうなのかなあ。母集団の中での自宅生と下宿生の構成を明らかにし,それと突き合わせてみれば分かるでしょう。

 大学生の自殺の社会的条件を究明する余地はまだまだあります。今後の課題です。

2013年5月9日木曜日

職業別の月収ジニ係数

 今日の毎日新聞朝刊に,「弁護士:急増を背景に格差拡大 所得100万円以下2割,1000万円超3割以上」と題する記事が載っています。
http://mainichi.jp/select/news/20130509ddm041040108000c.html

 弁護士というと高収入の職業というイメージがありますが,そう一括りにはできないようです。背景として,司法制度改革により弁護士が量産される一方,裁判沙汰になる訴訟件数は減っていることがあるそうな。これでは,食い扶持をなくす弁護士が出てきてもおかしくありません。

 歯医者さんなども,稼いでいる者とそうでない者とで収入格差が大きいと聞きます。視界を広げれば,それがもっと顕著な職業もあることでしょう。今回は,それぞれの職業ごとに,収入格差の程度を表すジニ係数を計算してみようと思います。

 資料は,2012年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。本資料から,従業員10人以上の事業所に勤める一般労働者の所定内月収分布を,職種ごとに知ることができます。一般労働者とは,常用労働者から短時間労働者を除いた者です。所定内月収とは,同年6月に支給された月収から,超過労働手当を差し引いた額をいいます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html

 では手始めに,男性弁護士の2012年6月の所定内月収分布をみてみましょう。下表の赤色の数値をみてください。


 さすがといいますか,月収分布は高い方に偏っていますね。全体の66.0%が月収50万以上です。しかるに,人数的に最も多いのは,14~15万円台です(250人)。比率にすると,16.7%。男性弁護士の6人に1人は,こうした低収入層なのですね。
 
 世間ではあまり知られていませんが,上もいれば下もいるようです。それでは,各収入階層の人数分布を富量のそれと照合して,ジニ係数を計算してみましょう。

 各階層の月収は,中間の階級値で代表させます。14~15万円台の層でいうと,一律に中間の15万円とみなすわけです。この場合,この階層が受け取った富量は,250人×15万円=3750万円となります。

 中央の相対度数の欄をみると,14~15万円台の階層の弁護士は,人数の上では全体の16.7%を占めますが,受け取った富量は全体の4.1%にすぎません。人数分布と富量分布のズレは,右欄の累積相対度数をみればもっとクリアーでしょう。

 26の収入階層の累積相対度数を使って,男性弁護士の月収ローレンツ曲線を描くと,下図のようになります。横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に26階層をプロットし,線でつないだものです。


 完全平等を表す対角線から結構隔たっていますね。図中の色つきの面積を2倍した値がジニ係数ですが,これを出すと0.299となります。この値は,2009年6月の所定内月収の統計では0.103でした。弁護士の間で,収入格差が広がっていることが知られます。

 私は同じやり方で,118職業の所定内月収のジニ係数を計算しました。それを縦軸にとり,月収分布から計算した平均月収額を横軸にとったマトリクス上に,各職業を位置づけた図をつくってみました。

 この図から,各職業の収入の水準,ならびに内部格差の程度を視覚的にみてとることができます。点線は,118職業の平均値です。弁護士については,最近3年間の位置変化も分かるようにしました。矢印のしっぽは2009年,先端は2012年の位置です。


 先ほど計算した弁護士のジニ係数(0.299)は,188職業の中では3位です。トップは保険外交員の0.309,2位は歯科医師の0.300でした。なるほど。出来高制のウェイトの大きい保険外交員は,収入の開きが大きいというのも頷けます。歯医者さんの収入格差は,予想通りです。

 右上には医師とパイロットが位置していますが,これらの職業は高収入であると同時に,内部格差も比較的大きいことが知られますね。

 問題の弁護士はというと,この3年間でジニ係数が跳ね上がっています。冒頭の記事でいわれているように,弁護士の量産が進んだことにもよるでしょう。

 あと一点。赤枠で囲んでいる大学教員は,収入の水準が高く,かつ内部格差が小さい職業であることが分かります。給与は職階ごとに定められており,教授になれば双六の上がり。後は,論文を書こうがどうであろうが給与は一緒。巷でいわれることが,上図において可視化されています。

 そういえば,酒の場でこんなことをおっしゃっていた先生がいたなあ。「業績を挙げていない者がいるが,ああいう奴と給料が一緒というのが耐えられない。会うたびに,ちゃんとペーパー書け,学位取れ,と言いたくて仕方がない」。

 語弊があるかもしれませんが,「ぬるま湯型」というところでしょうか。しかるに,今後はどうなるでしょう。上図でいうと,弁護士と同様,上方向にシフトすることも考えられます。研究の活性化という点で,そのほうがよかったりして・・・。適度においてです。

 弁護士と同じようにして,すべての職業について,最近の変化をたどってみるのも面白いでしょう。では,この辺りで。

2013年5月7日火曜日

東大・京大合格者の組成の変化

 『サンデー毎日』には,毎年春の有力大学合格者数が高校別に掲載されています。昨日,都立多摩図書館に行って,当該雑誌の古い号をコピーしてきました。1980年(昭和55年)4月20日号に載っている,同年春の有力大学合格者数の記事です。


 集計対象となった1,300高校の東大・京大合格者数は4,822人です(過年度卒業生も含む)。この4,822人の出身高校の内訳をみると,国立が8.2%,私立が31.4%,公立が60.4%,となっています。当時は,公立校出身者が過半数を占めていたのですね。

 この組成は,30年を経た2010年春の合格者ではどうなっているのでしょう。サンデー毎日特別増刊号『完全版・高校の実力』(2010年6月12日)から同じ統計をつくって,比較してみました。


 合格者の実数は,4,882人から5,928人へと増えています。しかし,増分はもっぱら私立高校出身者によるものです。私立校からの東大・京大合格者数は1,534人から2,896人へと増え,全体の中での比率も31.4%から48.9%へと大きく伸びました。

 一方,多くの生徒が通う公立校はというと,合格者の実数は2,949人から2,683人へと減り,全体の中での比重も60.4%から45.3%へと減じているのです。

 現在では,東大・京大合格者の半分以上が国・私立校出身者です。国・私立高校による有力大学合格者の寡占傾向が強まっていることが知られます。これがどういう問題を含んでいるかは,申すまでもありますまい。

 まあ,この点については前から指摘されていますが,30年間の変化を都道府県別に観察してみるとどうでしょうか。国・私立校による寡占傾向が強まっている県もあれば,その逆の県もあるでしょう。こういうデータは,これまで提示されていないようです。

 私は,東大・京大合格者を県別に分けて,各々の出身高校の構成を明らかにしました。1980年と2010年春の合格者を比べてみましょう。


 大都市の東京をみると,国・私立校出身者の占有率が72.8%から89.3%へと高まっています。東京に限ると,東大・京大合格者の9割近くが国・私立校から出ています。

 お隣の神奈川では,こうした変化がもっと顕著です。国・私立率は37.3%から81.3%へと激増しています。国・私立からの合格者は91人から247人へと増え,公立からの合格者は153人から57人へと大きく減っているのです。

 黄色のマークをしているのは,合格者の国・私立出身者率が10ポイント以上高まり,かつ公立校からの合格者の実数が減少している県です。最有力大学合格チャンスの(階層的)閉鎖性が強まっている県と評されます。首都圏の1都3県では,軒並みこういう傾向が強まっています。

 幼少期からの受験勉強も含めて,入学に多額の経費を要する国・私立高校出身者による,最有力大学合格者の寡占傾向の強まり。地域ごとに観察すると,それがひときわ顕著なケースも見受けられますね。

 合格者の構成を卒業生のそれと照合することで,合格チャンスの国公私間の偏りを測るジニ係数を計算することができます。この値を47都道府県について出した場合,一番高いのはどこになるでしょう。また,以前と比した伸び幅という点では如何。神奈川かしらん。

 この点を明らかにし,各県の関係者の参考に供するのは,後の課題といたしましょう。

2013年5月6日月曜日

東大・九大・鹿大合格者のジニ係数

 4月29日の記事では,東京のデータを使って,有力大学の合格者が一部の高校に著しく偏っていることを明らかにしました。今回は,私の郷里の鹿児島県を事例として,3つの国立大学合格者のジニ係数を出してみようと思います。

 3つの国立大学とは,東京大学,九州大学,そして鹿児島大学です。東大のジニ係数はおそらくすさまじいものでしょうが,地方の旧帝大の九大,地元の鹿大ではどれほどになるでしょう。個人的な興味を持ったので,数値を出してみた次第です。

 サンデー毎日特別増刊号『完全版・高校の実力』(2010年6月12日)から,2010年春の有力大学合格者数を高校別に知ることができます。鹿児島県の場合,同年の県内の全高校(95校)のうち,50校のデータが掲載されています(304~305頁)。

 私はこれを参照して,上記の3大学の合格者数を高校別に整理しました。載っていない45校は,合格者が0人であるとみなします。これらの高校の卒業生数(3,602人)は,2010年春の県全体の高卒者から,50校の卒業生を差し引いて出しました。

 前後しますが,原資料に載っている合格者数は延べ数であり,過年度卒業生も含むことを申し添えます。


 東大の合格者は県全体で54人。トップは私立のラ・サール高校の36人,その次は公立の鶴丸高校で15人です。No.18の甲南高校は私の母校ですが,この年は,東大合格者はいなかったんだなあ。私の時(1995年春)は,確か3人いたと聞いていますが。

 九大合格者になるとぱらぱらと数字が出てきて,地元の鹿大合格者では2ケタ,3ケタの数値も多くみられるようになります。地元の国立大学の場合,合格チャンスが比較的多くの高校に分散しているようです。

 では,その鹿児島大学について,合格者が県内の高校間でどれほど偏っているかを測ってみましょう。下表は,合格者の順に95高校(非掲載の45校は一括)を並べ,卒業生と合格者の累積相対度数を出したものです。


 黄色のマークに注意すると,卒業生の上では1割を占めるに過ぎない7高校だけで,合格者の51%が占有されています。原データを加工して累積を出してみると,地元の国立大学とはいえ,合格者の高校間の偏りは相当なものであることが知られます。

 続いて,ジニ係数を出すために,ローレンツ曲線を描いてみましょう。上表の累積相対度数からなる2次元のマトリクス上に各高校を位置づけ,線でつないだものです。緑色は鹿大,赤色は九大,青色は東大の曲線です。


 曲線の底が深いほど,高校間の合格者の偏りが大きいことになります。言わずもがなですが,鹿大→九大→東大というように選抜度が上がるにつれ,高校間の格差が顕著になってきます。それもそのはず。東大の場合,合格者を出しているのは95校中4校だけなのですから。

 さて,われわれが出そうとしているジニ係数とは,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。算出された係数値は,東大合格者で0.9751,九大合格者で0.8684,鹿大合格者で0.7223でした。

 東大合格者のジニ係数がハンパないことは予想通りですが,九大や鹿大のそれもスゴイですね。地元の鹿大の場合,0.5~0.6くらいかなと踏んでいましたが,思ったよりも高い値が出ました。まだまだ高校間の偏りは大きいようです。

 高校入学時において,学力に基づくセレクトがなされているのだから,卒業時にこうした差が出るのは当然ではないか,といわれるかもしれません。しかるに,15歳時の振り分けの結果が,後々までこうも影響するというのはいかがなものか,という気もします。

 わが国は,高校間の「トラッキング」の縛りが強い社会であると思われます。「あの高校は・・・」というような世間の眼差し,「この高校に入ったらこういう進路」というような役割期待も濃厚です。こうした「社会的拘束」に由来する進路制約が存在することは疑い得ないところです。

 今回みたのは鹿児島のケースですが,地元の国立大学合格者のジニ係数がもっと小さい県があるかもしれません。そういう県では,どういうことがなされているかは興味深い問題です。たとえば,専門高校の生徒向けの指定入学枠制度など。

 地元の国立大学合格者のジニ係数地図をつくってみるのも一興ですね。鹿児島は0.7223でした。他の九州の県は如何。さしあたり,この部分から攻めてみようかしらん。

2013年5月4日土曜日

「トム・ソーヤの冒険」のDVD

 連休も後半ですが,いかがお過ごしでしょうか。私は,昨日届いた「トム・ソーヤの冒険」のDVDに見入っています。 全49話,12枚のDVDのセットを購入しました。税込で19,100円。観はじめたらもう止まりません。


 私と同世代の方は,小学生の頃,この作品をテレビで観られたことと思います。朝の7:30~8:00の放映でしたので,最後まで観てから学校にダッシュしたものでした。
 
 通しで観ると,これがまた面白い。子どもの頃観たアニメを観直すのって,私の趣味の一つです。

 ハックの家づくりの話や,クラスの皆でドビンズ先生に仕返しする話などは,すっかり感情移入してしまい,子どもさながらの悪戯心を喚起させられました。EDの「ぼくのミシシッピ」もいい。

 私と同じ世代というと,10歳くらいのお子さんがいる方も多いでしょう。観せたら喜ぶかもしれませんよ。舞台は19世紀のアメリカなので,黒人奴隷のような,考えさせる問題も含んでいます。

 現在,半分の24話まで観ました。他のことはすっぽかしです。連休中に,最後の49話まで観終わるかしらん・・・。

 とまあ,今年の私の連休はこんな感じです。どうぞ,よい連休をお過ごしください。

2013年5月2日木曜日

大学院入学者の年齢ジニ係数

 ジニ係数は,さまざまな現象の偏りの程度を測るのに使えます。前回は,有力大学合格者が高校間で著しく偏っていることを明らかにしました。今回は,大学院入学者の年齢の偏りを可視化してみましょう。ジニ係数の応用例その2です。

 大学院は,大学学部の上に位置する教育・研究機関ですが,余暇社会・生涯学習社会といわれる今日,重要な役割を果たしています。入ってくるのは,学部からストレートに上がってくる若者に限られません。再教育の必要に迫られた社会人や,余生の目標を学位取得に定めた高齢者等,幅広い層を受け入れることを期待されています。

 しかるに,私のみるところ,わが国の大学院は未だに若者の占有物であるかのような感じがします。実情はどうなのでしょうか。

 2012年度の文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,同年春の大学院修士課程入学者は74,985人です。私は,この年齢別内訳を明らかにし,それぞれの年齢層の人口量と照合してみました。後者の出所は,総務省『人口推計年報』(2012年版)です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm


 入学者の82.2%が25歳未満の若者です。学部からのストレート進学組でしょう。ほか,20代後半が2.8%,30代が4.6%,40代が2.4%,50代が1.2%,61歳以上が0.4%,という構成なり。30歳以上の非伝統的な年齢層は8.7%しかいません。

 当然ながら,こうした構成は,母集団のそれとは大きく隔たっています。成人人口の中では6%を占めるにすぎない20代前半が,入学者の上では8割をも占有していることになります。逆にいうと,人口中では多くを占める中高年層が,入学者の内ではわずかしかいないのです。

 最近,大学院への社会人入学が増えたとかよくいわれますが,比重の上では,まだまだ伝統的な若者が多数を占めるのですね。

 こうした偏りを可視化するため,ジニ係数を計算してみましょう。こうすることで,他のケースとの比較も可能になります。

 下図は,大学院入学者の年齢ローレンツ曲線です。横軸に人口の累積相対度数,縦軸に入学者のそれをとった座標上に9つの年齢階層をプロットし,線でつないだものです。修士課程と博士課程の曲線を描いてみました。


 曲線の底が深いほど,平等線(対角線)から隔たっているわけですから,偏りの程度が大きいことになります。入学者の年齢の偏りは,博士課程になるとちょっと緩和されるようです。博士課程では,入学者の37.7%が30歳以上です。

 われわれが求めようとしているジニ係数は,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。修士課程の年齢ジニ係数は0.878,博士課程のそれは0.723と算出されました。大きな偏りですねえ。リカレント教育が進んでいる北欧国では,この値はさぞ小さくなることでしょう。国際比較の統計があればなあ。

 ちなみに,2003年の大学院入学者の年齢ジニ係数を同じやり方で出すと,修士課程が0.843,博士課程が0.709となります。値が上がっていることが知られます。若者による大学院のイスの占有化傾向が強まっている,ということでしょう。

 これって,わが国に固有の現象なのでしょうか。確か,OECDの“Education at a Glance”に,教育に参画している成人の国別統計があったな。大学院入学者とは違うけど,考察は,それの国際比較をした後のほうがよさそうです。

 ひとまず,ジニ係数の応用例その2でした。