新年度が始まりました。入社式で,希望にあふれた若者の姿がテレビに映ってますが,3月末で雇い止めに遭い,「今後どうしたものか」と途方に暮れている人もいるかと思います。コロナ禍で生活不安が広がっている今,決して少なくはないはずです。
コロナによる生活不安の広がりを可視化する指標として,私はこれまで自殺者の数を使ってきました。極限状況まで追い込まれた人の数ですが,メディアでは,これの数段手前の困窮状態の人の数に注目されることが多いようです。代表格は失業率です。
失業率とは砕いて言うと,働く意欲のある人のうち,職に就けないでいる人が何%かです。まさに生活困窮度の指標と言えるでしょう。分子には,調査に先立つ一週間以内に,ハロワにいくなど具体的な求職活動を行った人が充てられます。官庁統計でいう失業者とは,こういう意味です。
しかし,働く意欲があるのに職に就けないでいる人を,このように限定してよいでしょうか。働きたいと思いつつも,様々な事情から求職活動ができない人もいます。上記の当局の定義だと,こういう人たちは失業者とはカウントされません。ある論者は,こうして漏れている人を潜在失業者と呼んだりしています。
生活困窮の広がりをみる指標としての失業率を出す場合,このような潜在部分も掬わないとなりますまい。以下の図は,2017年の『就業構造基本調査』から作図した,15歳以上人口(1億1千万人ほど)の組成図です。
働いている有業者と,働いてない無業者の比は大よそ「3:2」です。有業者は,従業地位でみると正規雇用,非正規雇用,それ以外の自営等に分かれますが,近年では非正規雇用の比重が増しています。よく言われるように,今では働く人の3割が非正規です。
右側の無業者は,働く意欲がある人と,それがない人(⑥)からなります。前者は,調査に先立つ一週間以内に求職活動をした求職者(④)と,それをしなかった非求職者(⑤)に分かれます。官庁統計で採用されている,一般的な失業率の算出式は以下です。狭義の失業率と呼んでおきます。
狭義の失業率=④/(全体-⑥)
分子は求職活動をした人で,分母は,全数から働く意欲がない就業非希望者(⑥)を除いた数を充てます。
しかし先ほど述べたように,「働く意欲のある人のうち,職に就けないでいる人が何%か」という意味合いの失業率にするには,上図の⑤も分子に加えるべきでしょう。調査前の一定期間に求職活動をしなかった(できなかった),というだけで,働く意欲はある人たちですので。私が提唱する,広義の失業率は以下の式で出します。
広義の失業率=(④+⑤)/(全体-⑥)
上図の①~⑥の数値を使って2つの失業率をはじき出すと,15歳以上人口の狭義の失業率は4.5%,広義の失業率は11.4%となります(2017年10月時点)。違いますねえ。言わずもがな,生活困窮度を測る失業率としては,潜在量も含めた後者のほうがベターです。
働く意欲のある人のうち,職に就けないでいる人は11.4%。これは15歳以上人口の数値ですが,年齢によってかなり違っています。上記の2つの失業率を年齢層別に計算し,折れ線グラフにすると以下のようです。
青線は,ハロワ通い等をしている求職者を分子にした狭義失業率,オレンジ色は求職者と非求職者を分子とした広義失業率です。
2つの失業率の差は,10代と高齢層で大きくなっています。10代では,狭義では15.1%ですが,広義では32.1%です。失業率が3割超えというのは,ものすごいですね。働きたくても求職活動すらできない人が多いということですが,10代では,求職活動をしない理由の最多は「通学」です。学業と仕事の両立は,簡単ではない現実があるようです。
グラフの右側をみると,60歳を超えると,年齢が上がるにつれ狭義と広義の失業率の乖離が大きくなってきます。70歳以上を切り取ると,求職者は20万人ほどですが,求職活動できないでいる非求職者は100万人を超えます。前者だけを見ていては,事態を読み違えるというものです。
年金だけでは生活できない,働いて生活費を得たい。こういう意向は高齢者の間で広がっていると思いますが,就労意欲のある70歳以上(120万人)のうち,求職活動できているのは20万人ほどだけと。残りの100万人ですが,求職活動をしない(できない)理由として多いのは,「高齢のため」「病気・けがのため」といったものです。高齢なので採用されないだろうという,諦めの気持ちもあるでしょう。履歴書から性別欄をなくす動きが出ていますが,年齢欄も廃止してほしいものです。
あと一つ注目したいのは,30代のあたりで広義の失業率がペコっと上がっていることです。求職したくてもできない,幼子を抱えた女性の存在ゆえでしょう。25~44歳の有配偶女性を取り出すと,求職者は56万人,非求職者は118万人にもなります。前者を分子にした狭義の失業率は6.4%ですが,両者の合算を分子にした広義失業率は19.7%です。働きたいと思っているママの5人に1人が職に就けないでいると。
この年代の既婚女性が求職活動すらできない理由の大半は,「出産・育児のため」です。これがいかに重いかは,求職者と非求職者の差に表れています。子がいる女性が職を得るのは難しいといいますが,その度合いを可視化するには,2つの合算を分子にした失業率でみないといけません。
参考までに地域差もご覧に入れましょう。25~44歳の有配偶女性の広義失業率を都道府県別に計算し,高い順に並べると以下のようになります。
働きたいと思っているママ年代のうち,職に就けないでいる人が何%かです。ハロワ通い等をしている求職者だけでなく,それすらできないでいる非求職者も分子に入れています。
13の都府県で20%を超えていますね。ほとんどが都市県ですが,幼子を預ける保育所の不足,いざという時に子を頼める親(祖父母)が近くにいないことなどによるでしょう。共稼ぎが求められる時代の中,上記の表の数値は,子育てファミリーの苦境の指標とも読めると思います。言い換えると,子育ての苦難のレベルです。
事実,上記の失業率は,各県の出生率と有意な相関関係にあります。横軸に25~44歳の既婚女性の広義失業率,縦軸に合計特殊出生率をとった座標上に47都道府県を配置すると以下のようになります。横軸,縦軸とも2017年のデータです。
子育て年代の女性の広義失業率が高い,家計維持に必要な収入が得にくい県ほど,出生率が低いという,右下がりの傾向が見受けられます。求職者のみを分子にした狭義の失業率では,浮かびあがらない傾向です。
子を持つと職に就けない,家計が逼迫する。よって出産を控えよう。こうなるのは道理というものです。今の日本は,出産・子育てに伴う損失が大きくなっています。保育所整備等の必要性について,改めて認識させられます。
コロナで切られたのは誰か? 答えは女性,非正規女性です。コロナが渦巻いて以降,非正規女性の数はガクンと減っています。しかし女性の失業者は増えていません。これをもって,女性は働く必要がないからだろうと思うべからず。ハロワにやってきた求職者(統計上の失業者)の背後には,求職すらできないでいる潜在失業者が数倍いるのです。昨年の今頃,学校が一斉休校し,小さい子がいる母親は家に縛り付けられる事態になりました。求職どころではありません。
広義の失業率を提唱します。