コロナ禍が少し和らいだかと思いきや,今度はオミクロン株の台頭で,人々の暮らしが再び脅かされています。政府はまん延防止措置を適用する方針で,経済活動はまたも制限され,失職し生活に困る人が出てくるのではと懸念されています。公的扶助も不十分で,助けてももらえず,悲観して自らを殺めてしまうこことも…。
自己責任の風潮が強い日本では,こういう事態がしばしばあることは,よく知られています。データでも「見える化」できます。失業と自殺の時系列相関でです。とくに男性では強く相関するのが常です。働いて稼ぎを得るという役割期待が,ものすごく大きいためでしょう。
しかし,コロナ禍になって以降のデータを観察すると「?」という傾向が出てきます。こここ10年余りのデータ照らしても特異であることが判明しましたので,ここにてデータを提示し,議論の喚起に与せたらと思います。コロナ禍が始まったのは2020年春ですので,観察するのは月単位のデータです。以下は,2019年1月から2021年11月までの失業者数と自殺者数の推移です。前者は総務省『労働力調査』,後者は警察庁『自殺の概要』から得ました。
一方,自殺者数の幅は,男性は1012~1341人,女性は433~889人と,女性のほうが大きくなっています。
さて,ここでの関心事は上表の失業と自殺がどう相関しているかです。横軸に失業者数,縦軸に自殺者数をとった座標上に,男女の35か月のドットを位置付けてみます。下図は,結果を1枚の図に表現したものです。
上述のように,失業と自殺は男性で強く相関するのが常なんですが,コロナ禍の月単位のデータでは逆になっています。コロナで失職したのは,販売やサービス産業の非正規女性なんですが,生活に切羽詰まったシングルマザーなどが多かったのでしょうか。
他の時期ではどうなのか,という疑問もあるでしょう。2010年以降の3年間隔で,男女の失業と自殺の相関係数を算出すると以下のようになります。それぞれ,3年間(36か月)のデータから出した数値です。
2010年1月~2012年12月
男性=+0.5361 女性=+0.2079
2013年1月~2015年12月
男性=+0.6419 女性=+0.4772
2016年1月~2018年12月
男性=+0.3072 女性=+0.1983
2019年1月~2021年11月
男性=+0.1588 女性=+0.6841
どの時期でも男性のほうが高かったのが,コロナ禍を含む最近3年間では逆転しています。「失業→生活苦→自殺」という推定因果経路は,男性より女性で強くなっていると。コロナ禍では,失業した人の層が違います。先に述べたように,販売やサービスの非正規女性です。この中には,失職したら即生活破綻というギリギリの生活をしている人も含まれるでしょう。たとえばシングルマザーです。
こういう人たちに公的扶助の手が差し伸べられたらいいのですが,日本の生活保護はあまり機能していません。ツイッターで何度か発信しましたが,コロナ禍になっても生活保護受給者数の棒グラフは真っ平です。母子世帯にあっては,減少の傾向すらあります(詳細はコチラの記事)。母子世帯をターゲットにして,生活保護削減が図られているのではないか,という疑いもあるくらいです。
こういうことから,コロナ禍になって,女性の失業と自殺が強く相関するようになっていることも考えられますね。コロナ禍でダメージを受けているのは社会の弱い層で,公的支援の手も差し伸べられない…。こうした病理の表れではないか。
コロナ禍で生活に困っている人(とくに女性)が増えているにもかかわらず,生活保護受給者は横ばいで,母子世帯に限ると減少傾向すらある。どう考えてもおかしい。生活保護の運用実態について,外部機関による厳格な検証が入るべきです。