コロナが渦巻いて久しいですが,それが社会にどういう影響を与えたか,可視化できるデータが溜まってきています。
私はこれまで,社会病理学を専攻する立場から自殺者数に注目してきました。コロナ前の2019年と2020年を比較すると自殺者は増えています。性別にみると,男性では微減ですが,女性では増加です。さらに年齢も加えると,若い女性で増加率が高くなってます。女子高生では1.8倍です。データと背景の考察はコチラの記事で。
なお,総務省の『家計調査』も使えます。お金をどれほど使っているか,どういう品目に使っているかです。コロナになってから外出自粛が要請されるようになり,経済停止により家計も厳しくなっているとみられます。こういう条件が出てくると,家計はどう変わるか。
まずは使うお金の額です。上記の資料によると,2人以上世帯の消費支出額(年間平均)は,2019年は352万547円,2020年は333万5114円となっています。コロナ禍になってから減ってますね。しかし観察のスパンをもっと広げると,今世紀初頭の2000年では380万7937円です。平成不況で収入が減っているためか,消費に使うお金も長いスパンでみて減ってきています。世帯の高齢化の要因もあるでしょうが。
中学の社会科で習うレベルですが,生活が苦しくなると必須度の高い品目への支出は維持ないしは増える一方で,そうではない品目(奢侈品)への支出は減ります。前者の代表格は食費で,後者としては,たとえば洋服なんかはどうでしょう。
トータルの消費支出額,食費,および洋服の支出額の変化をグラフにしてみます。2人以上世帯の年額平均で,始点の2000年を100とした指数にしています。コチラの統計表からデータを作成しました。
今世紀になって,新自由主義政策の影響もあってか国民の生活は苦しくなり,それゆえ消費支出額は減っています。2019年から2020年の減り幅が大きく,コロナの影響も出ています。具体的な額は上述の通りです。
食費はというと,こちらは増えていますね。消費支出全体に占める割合(エンゲル係数)もアップしており,消費が必須品に偏るようになっている,すなわち生活が苦しくなっていることが,この点からも汲み取れます。
さてあと一つの洋服への支出額ですが,こちらは消費支出全体よりも速いスピードで減少しており,コロナの影響もよりハッキリ出ています。2000年では8万243円でしたが,2019年は5万9473円,2020年は4万3886円です。
洋服は,外界の温度変化(暑さ,寒さ)への適応という機能もありますが,おしゃれや見栄のツールとしての機能もあり,時代につれてこちらが強くなってきています。収入が減り,かつコロナで人と会えなくなっているとなったら,この財への支出が減るというのは道理です。
生活が苦しくなったらどうなるか? この20年間の変化ですが,教科書セオリーがはっきり可視化されるものですね。中学の社会科の資料集にでも載せていただきたいグラフです。
洋服への支出額ですが,47都道府県別の変化も見ておきましょう。県別のデータは2007年からとれます。2007年と2020年の県別データを高い順に並べ,左右に並べてみます。県別のデータも,上記リンク先の統計表で得られます。
若者が多い都市部で高い傾向かなと思いますが,最低値は両年とも沖縄ですね。年中暖かく,軽装だからでしょうか。
ご自分の県の値をみていただければと思いますが,注目いただきたいのは表の色つき範囲です(薄い色は5万円台,濃い色は6万円以上)。2007年ではほとんどの県が5万円以上で,36の県で6万円を超えていました。それが2020年では,5万以上が11県,6万以上は3県しかありません。
上記のデータは地図化して
ツイッターにあげています。コメントにもありますが,こういうマップも,国全体が貧しくなっていることの可視化です。洋服を買う量が減っているのか,それとも安いやつで済ませているのか,そこまでは判別できません。
あと一つのデータを示しましょう。洋服といってもいろいろありますが,中でも減り幅が大きいのは,スーツ関連です。背広,ワイシャツ,ネクタイへの年間支出額はどう変わったか。最初のグラフと同じく,2000年の値を100とした指数のグラフにします。
すごい減りっぷりですね。ネクタイに至っては,この20年間で8割の減少です(1595円→307円)。クールビズとやらで,夏場,ネクタイをする頻度が減っているのもあるでしょう。
収入の減少で,以前は老舗で高級品を買っていたのが,最近は安いやつで済ませるようになっているのもあるでしょうが,働き方の変化も大きいでしょう。今はオフィスでもカジュアル化が進んでますし,雇用労働自体が減ってきています。
お金の使い方の変化にも,時代の変化がハッキリ表れるものです。