前回は,小・中学生のうち,発達障害児がどれほどいるかを推計しました。結果は,小学生は16万4千人,中学生は5万4千人ほどでした。全児童・生徒あたりの出現率にすると,2.1%ほどです。今回は,都道府県別の推計値を出してみようと思います。
推計に用いる基礎資料は,2010年の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果です。この調査では,調査対象校に対し,発達障害の兆候のある児童・生徒の数を尋ねています。下記のサイトから,公立学校の回答分布を47都道府県について知ることができます。
http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/06todoufuken_chousakekka_shiryou.htm
東京都を例に,発達障害児の数の推計手続きを説明しましょう。下の表をご覧ください。
東京都の場合,調査対象となった公立小学校の38.4%が,発達障害の兆候のある児童の数を「1~5人」と回答しています。2010年5月1日時点の公立小学校の数は1,311校ですから,この階級に含まれる学校の実数は,1,311×0.384=503校と推計されます。このようにして,各階級に含まれる学校の数を推し量ったのが,表の左欄です。
階級値の考え方を使って,「1~5人」という回答は3人,「6~10人」という回答は8人,「11~20人」という回答は15人,「21~40人」という回答は30人,「41~60人」という回答は50人,とみなすことにします。このような仮定をおくと,発達障害児の数を推し量ることが可能です。小学校の場合,次のようになります。
(3人×503校)+(8人×312校)+(15人×230校)+(30人×126校)+(50人×22校)=12,335人
中学校は,3,744人と推計されます。このやり方で,47都道府県の発達障害児の数を推計してみました。結果は,下表の左欄です。右欄は,全体の児童・生徒数で除した出現率(%)です。
まず,小・中学生をひっくるめた出現率(右端)をみると,最も高いのは滋賀で4.7%です。最も低いのは埼玉で1.1%です。前者は後者の4倍を超えています。前回みたように,全国値は2.1%ですが,この値は県によってかなり異なることが知られます。
なお,小学生の出現率と中学生の出現率はかなり相関しています。相関係数は0.869です。出現率の地域差に偶然の要素が多く入り込んでいるならば,両者の相関は強くならないはずですが,そうではないようです。小学生の出現率が高い(低い)地域では,中学生のそれも高い(低い)傾向にあります。地域的な要因の関与がうかがわれます。
高率地域の分布を明らかにしてみましょう。下図は,右端の小・中学生の出現率に依拠して,47都道府県を塗り分けたものです。
4%を超えるのは,滋賀,京都,鳥取です。3%台の準高率地域の分布も勘案すると,近畿から中国の諸県で,発達障害児の出現率が高いことが知られます。これらの県の教員は,発達障害児の存在に敏感で,自校に在籍する発達障害児の数を多く回答した,ということでしょうか。
発達障害の要因については,医学的な議論が主で,社会的な面での要因はまったく考究されていないようです。発達障害児は,どのような環境でも等しい確率で生まれ得る。よって,発達障害の社会学という学問の存在意義はない,といわれてしまうでしょうか。
しからば,上記のような出現率の地域差は何故に生じるのでしょう。やっぱり,構築主義的な見方でしか解釈できないかしらん・・・
ひとまず,県別に発達障害児の出現率を出すと,上記の結果になったことを報告いたします。かなり乱暴な仮定を置いていますので,絶対量を正確に知るのには不適切でしょうが,各県の相対的な位置を知る手掛かりにはなるかと存じます。
機会をみつけて,地域類型別(都市-農村)に発達障害児の出現率がどう違うかも明らかにしようと思っております。