2013年4月30日火曜日

2013年4月の教員不祥事報道

 ツイッター上にて,教員がらみの不祥事報道を収集しています。今月,私がキャッチし得た報道は42件でした。年度初頭のためか,先月(87件)よりもかなり少ないです。漏れがあるかも分かりませんが。

 これまでと同様,記事名,日付,媒体名,都道府県,学校種,性別,および年齢を記録します。件の詳細を知りたい方は,記事名でググれば引っかかるでしょう。

 今年の1月から続けていますが,現在の件数累積は254件です。今後も継続し,データベースをつくろうと思っております。

<2013年4月の教員不祥事報道>
・中学野球部顧問が体罰 複数部員の頭をバットでたたく
 (4/3,東京新聞,長崎,中,男性,27)
・「忘れ物」、児童にげんこつ…教諭の処分検討(4/3,読売,山形,小,男性,50代)
・長時間ブリッジ、平手打ち…名門レスリング部顧問を懲戒処分
 (4/4,産経,京都,高,男性,41)
・ヘッドロックで眼球内出血 高知の特別支援学校、教諭処分
 (4/5,共同通信,高知,特,男性)
・小学教諭、改札近くで女性の太もも触り逮捕 (4/6,読売,埼玉,小,男性,26)
・男子部員13人に体罰 松山市立中顧問教諭(4/6,愛媛新聞,愛媛,中,男性,40代)
・サッカー部辞めるか丸刈りか…中1に迫った教諭(4/6,読売,神奈川,中,男性,20代)
・学年全員の成績を生徒に漏洩 横浜の教諭、ネットで拡散
 (4/9,朝日,神奈川,中,男性,26)
・少女にみだらな行為、ビデオ撮影も…教諭再逮捕(4/11,読売,奈良,中,男性,42)
・仙台市教委:元教頭ら処分(4/12,毎日,宮城,中,男性,53)
・女子生徒を繰り返し触る=市立高教諭を免職(4/12,時事通信,兵庫,高,男性,30代)
・強制わいせつ致傷疑いで高校非常勤講師逮捕(4/13,産経,滋賀,高,男性,58)
・北城陽中で教諭が体罰(4/16,産経,京都,中,男性,30代)
・剣道部員竹刀でたたいた疑い=中学教諭を書類送検―
 (4/16,時事通信,佐賀,中,男性,49)
・文書訓告:児童を床に座らせ授業 鳴沢村教委、教諭に処分
 (4/17,毎日,山梨,小,男性,30代)
・小2担任、いじめ誘うような発言で勤務外される (4/18,朝日,東京,小,女性,50代)
・車道に横たわる? 男性死亡 はねた容疑の中学教諭逮捕
 (4/18,朝日,愛知,中,男性,30)
・セクハラ:県立高男性教諭が免職(4/18,毎日,宮城,高,男性,52)
・男児の裸動画販売容疑 小学教諭逮捕(4/19,毎日,大阪,小,男性,31)
・特別支援学級生徒に暴行、元臨時教諭を書類送検(4/20,読売,埼玉,中,男性,30)
・懲戒免職:生徒にわいせつ行為 県教委、県立高の男性教諭を処分
 (4/20,毎日,石川,高,男性,20代)
・スカート内盗撮図る 容疑の中学教諭逮捕(4/21,産経,静岡,中,男性,42)
・酒気帯び運転:容疑で中学教諭を逮捕(4/21,毎日,岡山,中,男性,38)
・中学教諭、女性を脅迫容疑…会いたかったから (4/21,読売,群馬,中,男性,45)
・元高校教諭、強制わいせつ容疑で逮捕 当時の女子生徒に
 (4/24,朝日,愛知,,中,男性,46)
・あだ名言われ、頭突きなど 生徒、1週間の打撲(4/24,毎日,栃木,中,男性,46)
・自転車保険料54人分紛失 太田の中学教諭、過去に体罰も
 (4/24,産経,群馬,中,男性,33)
・女子大学院生盗撮容疑で臨時講師逮捕(4/24,日刊スポーツ,熊本,中,男性,47)
・府立高教諭ら7人懲戒処分 部活動の指導中に体罰
 (4/25,産経,京都,高30,高56,高55,高33,高34,高30,中31,いずれも男性)
・書店でDVD万引の教諭ら2人に停職処分 (4/25,産経,兵庫,高,男性,52)
・女子生徒にキス、メール150通…高校実習助手(4/26,読売,埼玉,高,男性,43)
・乗用車を駐車場から出そうと後進した際、近くに立っていた女性をはね、左足にけが
 (4/26,読売,埼玉,高,男性,61)
・大蔵小2教諭、児童に体罰 授業中に平手打ちなど(4/26,山形新聞,小,男40代,女50代)
・体罰:中学男性教諭を戒告処分(4/26,毎日,高知,中,男性,40代)
・長井南中体罰:部活生徒にけが 教諭を傷害容疑で書類送検
 (4/27,毎日,山形,中,男性,32)
・「24か25って、雑」「笑ってしまった」小学教諭がFBで児童からかう
 (4/27,産経,滋賀,小,女性,20代)
・不起立の女性教諭を戒告(4/27,産経,広島,小,女性,42)
・骨折・鼓膜破る体罰、懲戒にせず 県立高教諭(4/27,毎日,宮城,高,男性,30代)
・教諭2度流用、校長ら穴埋め…市教委に報告せず (4/27,読売,群馬,小,男性,30代)
・3次会まで飲酒、帰りに自販機当て逃げの教諭(4/29,読売,佐賀,小,男性,41)
・手を抜くな…女子部員に平手うち、口内をけが (4/29,読売,福岡,高,男性,38)
・児童買春容疑で中学教諭逮捕=出会い系通じ14歳少女と
 (4/30,時事通信,兵庫,中,男性,41)

2013年4月29日月曜日

有力大学合格者のジニ係数

 ジニ係数とは,富の格差の度合いを測る代表指標ですが,用途はそれに限られません。さまざまな現象の偏りの程度を可視化するのに使うことができます。

 今回は,有力大学への合格者数が高校間でどれほど偏っているかを,この指標を用いて明らかにしてみようと思います。ジニ係数の応用例の提示です。

 サンデー毎日特別増刊号『完全版・高校の実力』(2010年6月12日)から,全国の4,999高校について,2010年春の主要大学の合格者数を知ることができます。以下のような形で数値が示されています。


 私は,東京都内の437高校の有力大学合格者数を調査しました。ここでいう有力大学とは,東大,京大,東工大,一橋大,お茶の水女子大,東京外大,早稲田大,慶応大,国際基督教大,上智大,そしてMARCHの5大学を合わせた15大学です。

 437高校のうち113校(25.9%)は,これらの大学への合格者を1人も出していません。合格者を最も多く出しているのは私立の開成高校であり,延べ数にして887人の合格者が出ています。2位は海城高校の826人,3位は学芸大附属高校の689人です。

 合格者が少ない順に437高校を並べ,各校の卒業生と照合すると下表のようになります。全部の学校を提示することはできませんので,上位10位と下位10位の両端のみを示します。


 合格者上位の高校では,合格者が卒業者を上回っていますが,これは前者が延べ数(過年度卒業生も含む)であることによります。

 中央の相対度数をみるとどうでしょう。合格者上位10の高校は,卒業生では全体の3.7%しか占めませんが,合格者の上では19.4%をも占有しています。こうした偏りは,右欄の累積相対度数をみるともっとクリアーでしょう。

 偏りの程度を可視化するジニ係数を出すために,ローレンツ曲線を描いてみましょう。横軸に卒業生数,縦軸に合格者数の累積相対度数をとった座標上に,437高校をプロットし,線でつないだものです。参考までに,東大・京大の曲線も描いてみました。


 ほう。双方とも曲線の底がかなり深くなっていますね。完全平等を意味する対角線から隔たっているわけですから,それだけ学校間の散らばり(格差)が大きい,ということです。

 東大・京大の合格者に限ると,偏りの程度は一層大きくなります。これらの最有力大学の場合,全学校の2割ほどしか合格者を出していないことも図から分かります。

 では,ジニ係数を計算してみましょう。上図でいうと,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値に相当します。計算方法の仔細は,2011年の7月11日の記事をご覧ください。

 算出された係数値は,有力大学合格者で0.698,東大・京大合格者では0.940です。すさまじい偏りですね。後者は,極限の不平等状態(1.00)に近接しています。前者の係数値もかなり高いと判断されます。

 有力大学合格者数を多く出しているのは国・私立高校であり,幼少期からの受験準備も含めて,入学するのに多額の費用を要する学校がほとんどです。これらの学校出身者による寡占傾向が強まるなら,社会的公正の観点からしていかがなものか,という問題が提起されます。1990年代の初頭の頃,こうした偏りを人為的に是正すべきという意見が出た経緯もあります。

 『サンデー毎日』のバックナンバーにあたることで,今回出したジニ係数の時系列推移を明らかにすることもできます。この作業は,社会移動の閉鎖性が強まっていないか,逆にいえば,教育という咎められない手段を使って,高い地位が親から子へと密輸される傾向が強まっていないかを吟味することにも通じます。教育社会学の重要課題ともいえましょう。

 ジニ係数は,他にもいろいろ使えます。各県の大学進学者数と18歳人口の分布を照合して,この係数を出したらどうなるでしょう。少年院入所者の学歴分布を同年齢の少年全体と比較して,同じ計算をしたらどうでしょう。

 やってみたい作業はわんさとあります。私一人の手に負えません。授業の受講生さんの助力を願おうと思います。みんなで自家製の「ジニ係数用途事例集」でもつくろうかしらん。松本良夫先生は,授業の成果を製作物の形にまとめることが大切だと,よくおっしゃっておられたよな。

2013年4月28日日曜日

30代後半の雇用就業者の年収図

 総務省の『就業構造基本調査』には,わが国で働く就業者の年収分布が掲載されています。私の年齢層である30代後半について,雇用就業者の年収分布を示すと下表のようです。男女別,正規・非正規別にみています。ちょっと古いですが,2007年の統計です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 男性でいうと,年収が判明する正規雇用者は348万人,非正規雇用者(パート,バイト,派遣社員,契約社員)は30万人です。年収のピークは,前者が400万円台,後者が100万円台後半となっています。女性の場合,正規よりも非正規が多く,年収の分布はより下方に偏しています。
 
 これが私の年齢層の年収プロフィールですが,まあこんなものでしょう。この中で私がどこに位置づくかは,ご想像にお任せします。

 さて,男性と女性,正規と非正規では年収がこんなに違う,ということを強調するためのグラフをつくるとしたら,どういう図にしますか。普通は百分比の折れ線グラフですが,これだと各カテゴリーの絶対量を把握できない,という欠点があります。表から分かるように,男性の非正規は少数派です。

 私は,以下のような統計図をつくってみました。最近のめり込んでいる面積図です。年収階層を簡略化し,各々の量を四角形の面積で表現したものです。


 4グループの絶対量と年収構成を視覚的にみてとることができます。男性でいうと,非正規雇用者の4割が年収200万円未満のワープアです。正規雇用者ではワープアはほとんどおらず,半分近くが年収500万以上であり,800万以上(太点線)や1000万以上(細点線)もいます。

 女性の場合,正規と非正規の差はもっと際立っていますね。これはヨコの比較ですが,タテの比較からジェンダー差が大きいことも知られます。

 他の年齢層の図をつくってみるとどうでしょう。また,過去の図とどう変わったかも見ものです。前期の統計法の授業では,こういうことを学生さんにやっていただく予定です。方眼紙,定規,電卓,および色鉛筆という4道具を使ってです。

 各カテゴリーの人数の平方根を電卓で出し,方眼紙に正方形を描き,手塗りで色をつける・・・。こういう作業を通して,統計を使うとはどういうことかを認識していただければと思います。

 小・中・高校のカリキュラムに則していうと,社会科,数学科,ならびに美術科の知や技を動員した「総合学習」です。各教科の内容を動員して特定の課題を追求する,「総合的な学習の時間」の作業課題としていかがでしょう。

2013年4月27日土曜日

家庭環境が非行に及ぼす影響の年齢比較

 3月23日の記事では,少年鑑別所や少年院への入所者の統計を使って,両親の状態如何によって非行少年の出現確率がどれほど異なるかを明らかにしました。

 ところで,一口に少年といっても多様です。10歳やそこらの年少少年もいれば,あとちょっとで成人になるというようなガタイの大きな者もいます。

 家庭環境が非行に影響するといっても,その強さがどれほどかは,子どもの発達段階によって異なるでしょう。今回は,その様相を数値で可視化してみようと思います。

 2010年の警察庁『犯罪統計書』によると,同年中に警察に検挙・補導された10代少年は,延べ数で10万3,573人となっています。刑法犯で御用となった少年であり,いわゆる非行少年に相当します。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 この少年らの家庭環境をみると,①父母がいる家庭の者が64,828人,②母子家庭の者が29,393人,③父子家庭の者が6,804人と記録されています(残りは両親なしの者,不明の者)。この数値を,同年の『国勢調査』から分かる母数で除して,各群からの非行少年出現率を計算してみましょう。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 ①の母数は,「夫婦と子供から成る世帯」,「夫婦,子供と両親から成る世帯」,「夫婦,子供とひとり親から成る世帯」,「夫婦,子供と他の親族(親を含まない)から成る世帯」,ないしは「夫婦,子供,親と他の親族から成る世帯」に属する10代少年です。②の母数は「女親と子供から成る世帯」の少年,③の母数は「男親と子供から成る世帯」の少年であることを申し添えます。


 非行少年が出る確率は家庭環境によって違っており,父母がいる家庭<母子家庭<父子家庭,というようになっています。母子家庭からの出現率は父母がいる家庭の3.0倍,父子家庭に至っては5.6倍にもなります。

 さて今回の主眼は,上記の出現率を年齢別に出すことです。最近は,当局の公表統計がとても充実してきており,上表の分子・分母の数値を1歳刻みの年齢ごとに知ることができます。3つの群について,年齢別の非行者出現率を算出してみました。


 どの群でも,非行少年出現率は14~15歳で高くなっています。思春期の只中にある,難しいお年頃ですしね。

 しかるに注意していただきたいのは,家庭環境差が年齢でどう違うかです。ピークの15歳に着目すると,母子家庭からの出現率(37.8)は,父母がいる家庭(12.9)の2.9倍に相当します。父子家庭は5.7倍です。

 この倍率を年齢ごとに計算し,折れ線グラフを描いてみました。家庭環境が非行に及ぼす影響の年齢差がみてとれると思います。


 母子家庭,父子家庭の折れ線とも,きれいな右下がりの傾向を呈しています。つまり,非行の家庭環境差は低年齢の児童ほど大きい,ということです。最年少の10歳でいうと,母子家庭少年の非行率は通常の4.9倍,父子家庭少年は実に10.6倍にもなります。

 年少の子どもほど,家庭環境が非行に及ぼす影響が相対的に強いことが知られます。年少少年が非行化する確率は絶対水準としては低いのですが,自我が未熟である故か,環境による影響を被りやすい,という事実を認識すべきかと思います。

 こういう情報を提供するのは,親がいない家庭の子どもはキケンだなどというレッテル貼りをするためではありません。統計的な傾向をもとに支援や配慮の重点層を検出し,実践に役立てていただきたい,という願いからです。

2013年4月25日木曜日

ザ・フリーランス

 人の働き方にはいろいろあると思いますが,その中の一つに「フリーランス」というものがあります。広辞苑によると,「特定の組織に属さず仕事をする人。自由契約の記者・作家や無専属の俳優・歌手など」とのこと。

 なるほど。フリーライターとか,フリージャーナリストとかよく聞きますよね。要するに,組織の属さないで自分の腕一本で食べている人のことです。

 早起きして満員電車で会社に行く必要なし,自分のペースで仕事ができる・・・。まさに自由気まま。それにちょっとカッコイイ。こういう働き方にあこがれている学生さんもいることでしょう。しかし,自由の代償としての責任は重し。もっぱら自分の力で生活の糧を得なければならないわけですから。

 それはさておき,今の日本社会にこの手のフリーランス就業者はどれほどいるのでしょうか。私は,以下の7つの職業従事者のうち,従業上の地位が「雇人のない業主」という者の数を拾ってみました。ソースは,総務省『国勢調査』の職業小分類集計です。
 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 ①:文芸家,著述家
 ②:記者,編集者
 ③:彫刻家,画家,美術工芸家
 ④:デザイナー
 ⑤:写真家,映像撮影者
 ⑥:音楽家
 ⑦:舞踊家,俳優,演出家,演芸家

 1990年,2000年,および2010年現在というように,10年刻みの推移をとってみましょう。2010年の数値は抽出速報集計のものですので,数が粗いことに留意ください。


 合計をみると,1990年では10万2千人ほどだったのが,2010年では13万8千人となっています。フリーランス就業者は増えているのですね。13万8千人といったら就業人口全体の0.2%,500人に1人です。

 伸び幅が大きいのは,記者・編集者,デザイナー,そして音楽家です。フリーの記者・編集者は,この20年間で3倍以上に増えています。出版社の編集者希望の学生さんが多いのですが,それが叶わず,やむなく自営でやるという人もいるでしょう。逆に,出版社勤務の編集者が自由にやりたいということで独立するケースも少なくないと思います。

 しかし,数的にはフリーのデザイナーが最も多いようです。私は近く本を出す予定ですが(現在校正中),私の図表だらけの(厄介な)原稿を組版してくださっているのは,出版社と契約を結んでいるフリーのデザイナーさんかもしれません。

 自分の技術を売って生計を立てる,自分の得意分野でメシを食う・・・。いかにもカッコイイですが,それができる人間は多くはありますまい。上記の13万8千人のほとんどは,何らかの副業(バイト)をしているのではないでしょうか。

 組織の後ろ盾がないフリーは弱い立場に置かれがちです。フリーランスのフリーとは「タダ」の意味,フリーライターとは「不利ーライター」。こんな皮肉表現もあります。

 フリー(自営)でやっていきたいという学生さんに会ったら,こういう話をして冷や水を浴びせるのですが,それにもめげない気骨ある者も中にはいます。自分はこういうことができるという情報を,自前のHPやブログで積極的に発信している者もあり。こういう人には,私は賛意を表します。

 ネット社会の到来により,自分の得意分野を容易に発信できるようになったことも,フリーランス就業者を増加せしめたのかもしれません。

 こういう条件は,フリーランス志望の者だけでなく,すべての学生が積極的に活用すべきです。自分はこういうことができる,「我ここにあり」という旗揚げを早いうちから行うこと。私に言わせれば,こういうことが「シューカツ」だと思うのですが。

 話が逸れましたが,自分の商売敵(ライバル)はどれくらいいるのだろう,という関心をお持ちのフリーの方もおられると思います。国の基幹統計から分かる数値は,上記のようなものであることをご報告します。

2013年4月23日火曜日

図書館職員の非正規化(ジェンダー差)

 前々回は,公共図書館の職員に占める非常勤職員の比重が殊に高まっていることを明らかにしました。1990年では12.9%でしたが,2011年では54.8%です。

 ところで,「臨時」の名札をつけている職員さんはほとんどが女性,という印象を持ちます。もしかすると,先の記事でみた図書館職員の非正規化は,もっぱら女性によって担われているのかもしれません。今回は,ジェンダーという視点を分析に組み入れてみようと思います。

 まずは,性別・従業上の地位別の職員数が,ここ10年ほどでどう変わったのかをみてみましょう。下表は,1999年と2011年の数値を比較したものです。指定管理業者の職員は除きます。資料は,文科省の『社会教育調査』です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm


 今世紀の初頭にかけて,公共図書館の職員は24,844人から32,402人へと増えました。図書館業務の拡張によるものでしょう。

 しかるに,その増分の大半は非常勤職員,それも女性の非常勤職員によるものであることが分かります。女性の非常勤職員は,1999年では5,997人でしたが2011年では15,891人にまで膨れ上がっています。増加倍率は2.7倍であり,他の属性カテゴリーを圧倒しています。

 上表のデータを視覚化してみましょう。私は,6つの属性カテゴリー(2×3)の量を面積図で表現してみました。下図がそれです。


 赤枠の非常勤職員の領分が拡大していますが,その多くは女性であることが知られます。数字は職員全体に占める比率ですが,女性の非常勤職員のシェアは24.1%から49.0%まで高まっています。現在では,図書館職員のほぼ半分が女性の非常勤職員です。

 次のようにもいえます。イ)職員の非正規化は男性よりも女性で著しい,ロ)非常勤職員が女性に集中する度合いが高まっている,ということです。

 男性がメインの業務を担い,女性には補助的な業務があてがわれる。こうしたジェンダー差は,わが国の職域でよくみられることですが,時代に逆行するといいますか,その傾向が増してきています。それも,公供図書館という,パブリックな領域においてです。

 「性×従業上の地位」という枠組みを使って,さまざまな職業従事者の生態を解剖してみるのも一興です。上図のような,反時代的とでも形容できる現象が至る所で観察されるかもしれません。

2013年4月22日月曜日

新緑の都立桜ヶ丘公園

 今年度の前期は,水曜と金曜の出講です。それ以外はオフですが,月曜は図書館に行き,昔の新聞記事を採集する日としています。

 永山図書館に行く場合,都立桜ヶ丘公園の中を突っ切っていきます。晴れた昼下がりの帰路で,デジカメのシャッターを押すこと数回・・・。


 本ブログを長くご覧頂いている方は,見覚えのある風景かと思います。昨年の12月5日今年の1月30日の記事でお見せした写真と同じスポットです。

 紅葉(秋)→枯葉(冬)→新緑(春)という季節の変化がみてとれるかと思います。定点観測です。何の注意を払うこともない自然現象も,ちょっとしたルールを決めて観測してみると結構面白いものです。

 言わずもがな,社会の移り変わりというのは,それにもまして面白い。私の仕事の一つは,こうした変化を定量的に記述する「社会観測」です。


 もう一枚,今度は園内の通り道。もうちょっと行って,記念館口を出てすぐの所が自宅です。

 4月も下旬にさしかかりましたが,土日は寒かったですね。寒暖の変化の激しい今日この頃,体調を崩されぬよう,ご自愛のほど。

2013年4月21日日曜日

図書館職員の非正規化

 私は公共図書館をよく使いますが,職員さんの名札に「臨時」という文字を見かけることが多くなったように思います。また,ちょっと専門的な調べ事の相談を持ちかけた際,「専任の人が今日は休みなので・・・」と困惑されたことがあります。

 「非正規化」とは,今の日本の企業社会を風刺するキーワードですが,公の世界も例外ではありますまい。「官製ワーキングプア」という言葉だってあります。今回は,自分が日頃お世話になっている図書館職員さんの生態をちょっと解剖してみようと思います。

 社会教育施設である図書館の基本統計は,文科省の『社会教育調査』に載っています。公共図書館の職員数は,1990年では16,331人であったのが,2011年では32,402人にまで増えています(指定管理者職員は除く)。ほぼ倍増です。図書館業務の拡張によるものでしょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm

 上記資料では,①専任,②兼任,および③非常勤の別に職員数が掲載されています。②は,館長の兼任などでしょう。③は,いわゆる非正規雇用の人たちです。専任と同様フルタイム勤務の人もいれば,細切れの時間雇用の人もいます。

 私は,この20年間における図書館職員数の変化を,3つの成分の組成も併せて把握できる統計図をつくりました。最近ハマっている面積図です。職員の絶対数が,四角形の面積によって表現されています。


 職員の全数はこの期間にかけて倍増していますが,増分のほとんどは非常勤職員によって担われていることが分かります。その結果,全職員中の非常勤比率は12.9%から54.8%へと激増しました。今日では,図書館職員の半分が非常勤です。

 なるほど。「臨時」という名札が多く目につくようになるはずです。しかし,半分以上とは驚きでした。非正規化の程度は,教員以上ですね。

 ところで,今みたのは全国統計ですが,地域ごとにみるとどうでしょう。私は,図書館職員の非常勤率を都道府県別に計算し,地図をつくってみました。2011年と1999年の地図の模様を比べてみます。


 ほう。この10年ちょっとの間にかけて,地域を問わず,図書館職員の非正規化が進行していることが知られます。2011年の非常勤率の最高値は,広島の68.6%。この県では,公共図書館の職員の7割近くが非常勤です。

 なお,この期間中の伸び幅が最も大きいのは徳島です。当県の図書館職員の非常勤率は,1999年では10.5%であったのが,2011年では50.6%にまで高まっています。10人に1人が,2人に1人になったわけです。よほど抜本的な非正規化方針がとられたのだと思われます。

 図書館職員の非正規化があまりに進行することは,問題をはらんでいます。よくいわれるのは,図書館サービスの質の低下です。冒頭で紹介したような私の体験は,その一つをなしています。また,働く職員さんの側にすれば,低賃金労働の増加・常態化というような事態を意味します。

 今回みたのは図書館職員ですが,公民館や博物館といった他の社会教育施設でも,職員の非正規化は進んでいるものとみられます。興味ある方は,文科省の『社会教育調査』にあたって,同じ統計をつくってみられるとよいでしょう。

 余暇社会,生涯学習社会といわれる現在,これらの社会教育施設が果たす役割は格段に大きくなっています。図書館職員の全数の増加はその表れですが,最初の面積図でみたように,増分のほとんどは非常勤職員です。

 人件費の抑制という事情からでしょうが,こうした戦略にあまりに依存し過ぎることは,当該施設に期待される本来の機能の遂行を妨げる条件にもなり得ます。

 図書館の機能遂行の度合いを計測する指標を開発して,非常勤職員率との相関を明らかにする,というような実証研究が求められるように思います。開館時間や地域サービスの頻度というようなものではなく,住民の内的な満足度との相関を明らかにすることです。こういう研究ってあるんかな。

2013年4月18日木曜日

面積図でみる大学教員の構成変化

 自分が言いたいことを端的に分かりやすく伝える際,グラフはとても有用です。私は視覚人間ですので,統計的な傾向を指摘する時は,ベタな表をドカンと載せるのではなく,できるだけグラフ化するようにしています。

 さて,昨年の9月25日の記事では,大学教員の構成変化を明らかにしたのですが,そこで分かったのは,大学教員の非正規化がすさまじい勢いで進んでいることです。

 こうした傾向が最も顕著なのは人文科学系の教員です。人文科学系の教員は,1989年では36,773人でしたが,2010年では67,566人にまで増えています。しかし,その構成はガラッと変わっているのです。

 1989年では①本務教員が51.9%,②定職あり非常勤教員が26.5%,③専業非常勤教員が21.6%であったのが,2010年では順に,34.3%,10.6%,55.1%となっています(文科省『学校教員統計調査』)。*①と②の重複分は除かれています。詳細は,上記リンク先の記事をご覧ください。

 不安定な生活に喘ぐ専業非常勤教員がこんなに増えている!。こういうことを訴えるべく,上記の数字をグラフ化するとしたら,どういう図にしますか。普通の人は,百分比率の帯グラフを使うでしょう。

 しかるに私は,それとは異なる表現方法をとってみました。ブツをみていただきましょう。


 各カテゴリーの教員量を,四角形の面積で表した図です。最初に,各年の全教員数の四角形をつくります。1989年の場合,全教員数(36,773)の平方根をとって一辺が192の正方形を描きました。2010年は,一辺が260の正方形にしています。67,566の√です。

 同じようにして定職あり非常勤教員と専業非常勤教員の正方形を描き,全体の図形の中に収めました。2010年の定職あり非常勤教員は,ヨコ長の長方形にしています。正方形だと,専業非常勤教員の図形とかぶるからです。

 この図法によると,各カテゴリーの教員の絶対量も表現することができます。専業非常勤教員は,全体の中での比重増加(21.6%→55.1%)もさることながら,絶対量もこんなに増えている,ということを図形の面積を通して視覚的に伝えることができます。

 上図によると,2010年の専業非常勤教員の数は,1989年の全教員数と同じくらいであることが知られます。普通の帯グラフからは,こういう情報は読み取れません。*100%相当の母数を示すことはできますが。

 この表現技法は,私の恩師の松本良夫先生もよく使われています。下の写真は,10代少年の中での非行少年の量が,図形面積で表現された図です(ご著書『図説・非行問題の社会学』光生館,1984年,6頁)。


 刑法犯はともかく,道交法違反や不良行為などは,結構な幅を利かせていることが分かりますね。おそらく,松本先生が方眼紙を使って精魂込めて作成された図なのだと思います。

 この面積図は,いろいろな用途があるかと思います。就業者,学生,失業者,主婦,ニート等,20代青年の多様な成分をこのやり方で表現してみたらどうでしょう。過去のものとの照合も面白い。青年の変化をみてとるには,こちらのほうがいいんじゃないかなあ。

 前期の統計の授業では,こういうことを学生さんにやらせてみようかな。エクセルではなく,方眼紙を使ってです。そのほうが,何をやっているかもよく分かるでしょう。でも今時,方眼紙なんて大学の売店に売ってるかな。

2013年4月16日火曜日

大学教員の職務時間の変化

 前期の授業が始まりました。非常勤先の大学で,知っている専任の先生に会うと,みなさん疲れた顔をしておられます。「(忙しくて)もうシャレになんねえよ・・・」。エレベータに同乗したある先生は,こんなことをつぶやいておられました。

 私は非常勤講師ですが,専任の先生方は確かに大変そうだな,という印象を持ちます。そうした印象を検証できるデータをみつけましたので,今回はそれをご報告します。

 用いるのは,文科省『大学等におけるフルタイム換算データに関する調査』の結果です。大学,短大,および大学附置研究所等の教員の年間職務時間が明らかにされています。調査対象の多くは4年制大学教員ですので,以下では単に大学教員ということにします。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa06/fulltime/1284874.htm

 最新の2008年度調査によると,集計対象となった大学教員2,709人の当該年度間の総職務時間は2,920時間だそうです。厚労省の『毎月勤労統計調査』から推し量られる,2011年の常用労働者の年間実労働時間は1,789時間。ほう。大学教員はこれよりもはかるかに長く働いているのですね。

 これは,研究時間が幅広く解釈されているためと思われます。上記文科省調査の用語説明によると,研究活動時間とは「事物・機能・現象等について新しい知識を得るために,又は既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求」と定義されていますが,自宅で本を読んだり,図書館で文献収集をするというような活動も,これに含まれているのではないでしょうか。勤務時間ではなく,職務時間という言葉が使われていることにも注意しましょう。

 さて,大学教員のこうした「広義」の総職務時間は,2002年度間では2,793時間でした。ということは,この6年間にかけて,127時間増加したことになります。大学のセンセイの労働時間は伸びた,ということです。

 次に,その内訳をみてみましょう。大学教員の主な職務は,教育者としての「教育活動」と,研究者としての「研究活動」です。そして第3の職務として,最近では「社会サービス活動」の重要性もいわれています。加えて,大学運営に関わる各種の雑務も担うこととされています。

 私は,この4種の活動の内訳を調べました。下表は,2002年度と2008年度の結果を整理したものです。4カテゴリーの時間の総和は,最下段の総職務時間に等しくなります。


 年度間の総勤務時間が増えているのは先ほどみましたが,種別ごとにみても傾向は同じです。ただ,一つだけ時間数が減じているものがあります。研究時間です。2002年度から2008年度にかけて,1,300時間から1,142時間へと減少をみています。全体に占める比重も,46.5%から39.1%へと低下しているのです。

 研究が職務の最も多くを占めることは今も変わりませんが,以前に比してその時間が削られているのだろうな,という印象が数値で確認されました。

 もう少し分析を深めてみましょう。大学教員といっても一枚岩の存在ではありません。教授もいれば講師もいますし,文系の先生もいれば理系の先生もいます。私は,2002~2008年度にかけての研究時間の変化を,細かい属性ごとに明らかにしてみました。職種別,国公私別,および専攻別のデータです。


 どの属性でみても,全体の傾向に漏れず,研究時間は減少しています。職種別では,教授や准教授といった上位の職での減少率の大きさが目立っています。設置主体別では差異はありません。専攻別では,人文・社会系での研究時間の減少が際立っています。1,202時間から893時間へと,4分の3にまで減りました。

 このような変化は,各種委員等の仕事をはじめとした雑務の増加によるものでしょう。2008年度調査では,研究時間減少の要因を尋ねていますが,有効回答を寄せた1,901人の教員のうち,1,523人(80.1%)が「学内事務等の時間」というものを挙げています。ダントツでトップです。人文・社会系の教員に限りると,この数値は86.8%にも達します。

 「忙しくて研究できない・・・」。データをみるとさもありなんです。これからの大学教員の採用条件は,研究者としてではなく一職員として勤められるかどうかだと,ある先生がおっしゃっていましたが,大学教員の役割革新の時なのかもしれません。

 むろん,大学教員は研究のアウトプットを出すことを厳しく求められています。しかるに,厳しい条件の中で短期間のうちに成果を出すように強いられ,出てくるのは薄っぺらなものばかり・・・。こういう事態にもなっているのではないでしょうか。

 大学教員の研究者としての側面を軽んじることは,わが国の知的体力の低下を招くことにつながるでしょう。今度,上記の文科省調査が実施される2014年度ではどういうことになっているか。ちょっと怖い思いがします。

2013年4月14日日曜日

高校の兼務教員率の国際比較

 教員の「バイト化」がいわれますが,日本の現状値は,国際的にみてどうなのでしょう。ネット上でざっと調べたところ,教員の非正規率の国際統計というのは存在しないようです。文科省の『教育指標の国際比較』のような,公的な資料にも載っていません。

 しかるに,PISA2009の学校質問紙調査のデータを加工することで,それに近い数値を国ごとに出せることを知りました。今回は,その結果をご報告しようと思います。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

 PISA2009の学校質問紙調査では,調査対象の高校の教員数を,本務教員と兼務教員に分けて尋ねています。前者は,「1学年度の勤務時間の90%以上を教師として勤務している」者です(日本語の調査票参照)。後者の兼務教員は,それ以外の教員とされています。

 この基準にはいろいろツッコミ所はあるでしょうが,各国の高校教員を同一の基準で振り分けていることは確かですので,ここでは何も言わないことにしましょう。

 私はこのデータを使って,各国の高校の兼務教員率を計算しました。算出式は,兼務/(本務+兼務)です。

 兼務教員とは,民間人が校長を兼ねるというようなケースも含まれますが,大半は,数時間の授業をするだけの時間講師ではないかと思われます。最近の日本でいうと,高校の兼務教員の8割以上が時間講師です(2012年,文科省『学校基本調査』)。

 わが国を例に,計算方法を説明します。日本の場合,本務教員,兼務教員とも有効回答を寄せているのは186校です。これらの学校の教員数を合算すると,本務教員は10,293人,兼務教員は1,937人となります。よって,兼務教員の比率は,1,937/(10,293+1,937)≒15.8%となります。

 国公私をひっくるめた値ですので,まあ違和感はありません。では,他国はどうなのでしょうか。手始めに,お隣の韓国と欧米4か国の兼務教員率を,国公立と私立に分けて出してみました。*フランスはデータがありません。


 まず国公立をみると,最も高いのはドイツの38.4%です。およそ4割。ドイツでは,後期中等教育段階になると専門系の学校の比重が高くなるといいますが,産業界から特別講師などを多く招いているのでしょうか。その次がフィンランドで,日本の10.8%は3位となっています。

 次に,下段の私立高校のほうに目をやると,すべての国で兼務教員率が上がります。ドイツはさして変わりませんが,日本は,10.8%から25.0%へと大きく伸びます。私立校でみた場合,日本の兼務教員率はドイツに次ぐ高さです。

 以上は6か国比較ですが,比較の対象を広げてみましょう。PISA2009の学校質問紙調査の結果から,72か国の高校教員の兼務率を明らかにできます。横軸に国公立校,縦軸に私立校の兼務教員率をとった座標上に,72の社会を位置づけてみました。点線は,72か国の平均値です。


 世界全体を見渡すと,ドイツよりもスゴイ社会があります。最も右上にあるのはウルグアイですが,南米のこの国では,高校教員の85%ほどが兼務教員です。ほか,右上のゾーンには,アルゼンチン,メキシコ,ブラジル,ヴェネズエラ,いった近辺の社会が位置しています。高校教員の兼務率は,中南米の諸国で高いようです。

 チュニジアやブルガリアでは,国公立校と私立校の差が大きくなっています。北アフリカのチュニジアでは,国公立の兼務教員率はわずか3.9%ですが,私立校では66.5%にもなります。まあ,この国では私立高校のシェアは大きくありませんが。

 先ほど表で比較した主要国はというと,世界的にみれば,兼務教員率は小さい部類に入るようです(左下)。日本の兼務教員率は,私立が国際平均ほどであり,国公立はそれを下回っています。

 日本の教員のバイト化って,大したことないじゃんと思われるかもしれませんが,そう単純な考えは禁物です。そもそも,なぜ兼務教員が雇われるのかを考えてみましょう。

 高校段階になると,教育課程の幅がうんと広がり,選択教科のようなものも多く導入されます。学習指導要領の上では,学校設定教科(科目)のような,特色ある教科・科目を各学校の判断で設置することも推奨されています。

 こうした特殊な教科・科目の担当を外部の教員に委ねるというのは,やむを得ないことです。上図の右上に位置する南米諸国では,後期中等教育段階にもなれば職業教育のウェイトがかなり大きいと思いますが,実地指導等を産業界の専門家に委ねている,というケースも多いのではないでしょうか。

 それならまだいいのですが,困るのは,もっぱら人件費の抑制だけを志向した,教員のバイト化傾向です。推測ですが,わが国の場合,こちらの側面が強いのではないかと思われます。このようなことに由来する,兼務教員率の高まりは,教育実践の効果を阻害する条件として作用することでしょう。

 兼務教員率の国際統計を読むに際しては,こういうことに留意していただきたいと思います。

2013年4月13日土曜日

過度の通塾は児童虐待?

 読売新聞の記事検索データベースの『ヨミダス歴史館』にて「児童虐待」という語を入れたところ,次の記事がヒットしました。「学習塾加熱は児童虐待」(1975年8月17日)と題するものです。今から38年前,私が生まれる前の年の報道です。


 児童虐待というと,子どもを殴る・蹴る,暴言を吐く,無視する,というような行為を想定しがちですが,適度を越えて塾通いさせることもそれに該当するのではないか,という問題が提起されています。そのことによって,児童の心身の健康が損なわれるからです。

 記事では,大阪府公衆衛生研究所の研究成果が紹介され,「過度の塾通いをしている子供の多くが睡眠障害,食欲不振,めまい,夜尿などに悩まされている」といわれています。通塾の頻度に応じた,具体的な症状は以下のごとし。


 週に3~4回では,頻尿や疲労で朝礼で倒れる子がぼちぼち見られ,週5回以上になると,睡眠障害や反抗的な態度を呈する子どもも出てきます。さらに,掛け持ち等で週に延べ8回以上通塾している群では,全ての子どもが例外なく,「喘息,下痢,食欲不振,無気力」といった病を患っているとのことです。

 40年ほど前の調査結果ですが,現在にもそのまま通じているような感があります。近年,子どもの朝食欠食傾向が進んでおり,それはとりわけ都市部で顕著なのですが,面倒だからという理由と他に,過度の通塾による「食欲不振」という原因もあるかもしれません。

 喘息罹患率も大都市で高いのですが,大気汚染のような環境要因と同時に,通塾率が高いことに由来する,生活の「室内化」という要因も関与している可能性があります。

 参考までに,東京と秋田の比較データを提示しておきましょう。①通塾率,②朝食欠食傾向児率,および③喘息罹患率です。①と②は,文科省『全国学力・学習状調査』の数値より計算しました。③は,文科省『学校保健統計調査』に掲載されている,11歳児の罹患率です。


 通塾率は,「塾通いしているか(家庭教師含む)」という設問に対し,「していない」と答えた者の比率を裏返した値です。東京のほうが格段に高くなっていますね。

 朝食欠食傾向児率は,「朝食を食べているか」という問いに対する,「あまりしていない」+「全くしていない」の反応率です。こちらも,秋田より東京で高くなっています。喘息罹患率も同じです。この差が通塾に由来するとは限りませんが,それがゼロであると断言することはできますまい。私は,因果関係的な面もあるかと思います。

 さて,上記の新聞記事に戻ると,通塾に由来する一連の症状は「塾病」であり,こうした病を子どもに負わせる塾過熱の有様に,あえて「児童の虐待」という表現を与えるのをはばからない,としています。そして,教育界や家庭は,「この異常な『教育公害』を根元から断ち切ることを真剣に考えたい」と結んでいます。

 ありきたりの教育評論と大差ないと思われるかもしれませんが,本記事の注目点は,過度の通塾を児童虐待の概念の内に括っていることです。

 児童虐待を英語でいうと,child abuseです。直訳すると,児童乱用ということになります。abuseを分解すると,ab(異常に)+use(使う)ですから。親の見栄や虚栄心を満たすがために,過度の塾通いをさせることは,原義の上からして,確かに児童虐待に相当すると考えられます。

 3月24日の記事でみたように,戦前期では,子どもに過重な勉強や習い事をさせる,工場等で長時間働かせる,というような意味合いにおいて,児童虐待という語が使われていました。

 現在では,このような原義がすっかり忘れ去られているようですが,今一度,それに思いを致す時ではないでしょうか。子どもにもっと勉強させよう,生活保護世帯の子弟の通塾費用を公的に援助しよう,学校週6日制に戻そう・・・。こういう動きがみられるご時世ですので。

 おおよそ,子どもに高い学力をつけさせようという狙いなのでしょうが,意図せざる結果が生じかねないことは,上表の統計からもうかがわれます。秋田の子どもの学力が高いのは,工夫された授業というような要因と同時に,彼らの基本的な生活リズムが安定している,というようなことにもよると思います。この点については,2011年の6月12日の記事をご覧いただければと存じます。

2013年4月11日木曜日

日本の生徒の対教師関係

 海外の研究者が日本の学校を訪れて驚くのは,教室の秩序がきちんと保たれていることだそうです。授業中は,皆が教科書とノートを出して,静粛にして教師の方を向いている。われわれにとってはごく当たり前のことですが,外国の人からすれば必ずしもそうではないようです。

 このことは,データからも確認されます。OECDのPISA2009の生徒質問紙調査では,対象の15歳生徒(高校1年生)に対し,学校の国語の授業で「生徒は,先生の言うことを聞いていない」という事項への反応を尋ねています(Q36)。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

 「たいていそうだ」と「いつもそうだ」の反応率をとってみると,アメリカでは24.9%,フランスでは35.2%にもなるのに対し,日本はわずか8.2%です(無効回答除いた百分比)。日本のこの値は,PISA2009の全対象国(74か国)の中で最も低くなっています。

 ほほう。何とも結構なことです。しからば,わが国の生徒は教師とさぞうまくいっているのだろうと思われますが,こちらはどうなのでしょう。同調査のQ34では,「私はたいていの先生とうまくやっている」という事項について自己評定するよう求めています。「とてもよくあてはまる」+「どちらかといえば,あてはまる」の反応率を出してみましょう。

 私は,これらの2つの指標をもとに2次元のマトリクスを構成し,その上に74の社会を散りばめてみました。横軸は「生徒は,先生の言うことを聞いていない」と評する者の比率,縦軸は「私はたいていの先生とうまくやっている」に対する肯定率です。点線は,74か国の平均値を意味します。


 2つの指標は傾向としては負の相関関係にあり,第2象限(左上)と第4象限(右下)に位置する国が多くなっています。第1象限(右上)と第3象限(左下)にあるのは,イレギュラーなケースです。

 しかるに,日本のイレギュラー性は際立っており,左下の極地にあります。教師の言うことを聞く生徒は多いが,その一方で,教師と良好な関係にある生徒は少ない。変わった社会です。

 マートン流にいうと,わが国の生徒は教師に対して「儀礼的」な戦略をとっている,ということでしょうか。勉強に興味持てないし,本当はウザイ先生の言うことなんて聞きたくないけど,成績に響いたり退学になったりしたら困るので仕方なく・・・。こんな感じです。

 マートンは,文化的目標にコミットメントしておらずとも,そのための制度的手段は(やむなく)承認するような適応様式を「儀礼型」と名づけました。日本の生徒に則していうと,勉強して偉くなろうとは思わないけど,学校をきちんと出ないと落伍者の烙印を押されてしまう,という強迫に突き動かされている人間類型です。上図の結果は,こういう生徒が教室に多くいることを示唆しています。

 こうした儀礼型人間について,マートンは原著で次のように述べています。「外部から観察すると,本人は,謙虚で思慮分別があり,見栄をはらない。自発的な自己抑制によって,彼は,自分の目的や大望を制限し,冒険や危険に伴う快楽をすべて拒絶する」(森東吾訳『社会理論と社会構造』みすず書房,1961年,171頁)。なるほど。日本の生徒と重なり合う面が強いですね。

 このような形だけの儀礼的戦略を幼い頃から行使し続けることで,どういう人格形成がなされるでしょうか。おそらくは,自分の頭で考えることをせず,機械的に周囲に合わせるだけの付和雷同人間ができ上がることでしょう。過剰適応型人間といってもよいかもしれません。わが国の企業社会は,こういう人間類型によって支えられている側面があります。

 今の生徒たちは,学校において儀礼的な戦略を行使することをますます強いられています。昔に比べて,学校という四角い空間の中で勉強することの意義を見出しにくくなっているのですから。さらに悪いことに,その期間も長期化しています(高校進学率95%超,大学進学率50%超!)。

 長期にわたる学校教育の中で,機械的思考しかできない儀礼型人間が産出される傾向は強まっていると思われます。この上に,法を守ることをしない,やりたい放題のブラック企業がはびこっているともいえるでしょう。

 こうみると,上図の4つ象限の中で最も問題と判断されるのは,左下の第3象限であるかもしれません。わが国と同様,受験競争が激しい韓国もこのゾーンに位置しています。何のためかわからずとも,ただ形の上で四角い空間にしがみつき続ける。そういう儀礼的戦略をとる生徒が多い社会です。第4象限のフランスのように,教師の言うことに反発する生徒が多い社会のほうがむしろ健全である,という見方もできます。

 海外の人々を驚かせる日本の生徒の適応様式は,内面の同調を伴わない儀礼的なものであり,いたずらに誇れるものではないことを認識すべきかと思います。

 子ども期が学校化された状況に風穴を開けること,また学校という四角い空間における社会化様式を変革することの必要性は,こういう面からも指摘することができます。

2013年4月9日火曜日

教員の生活時間の変化

 総務省の『社会生活基本調査』は,さまざまな属性の人間の生活を知ることができるスグレモノです。『国勢調査』や『労働力調査』といったメインの統計に隠れてあまり目立たないのですが,もっと活用されて然るべきかと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 今回は,本調査のデータを使って,教員の1日をのぞいていみようと思います。ここでいう教員とは,学校教育法第1条で定める学校の教員のほか,専修学校や各種学校等の教員も含みますが,母集団の組成からして,大半が小・中・高の教員とみてよいでしょう。

 調査報告書には,10月中旬の調査日における,20の行動カテゴリーの平均時間が掲載されています。私はこれをもとに,教員の1日を再構成してみました。2001年と2011年の調査結果を比較することで,この10年間の変化も押さえましょう。

 下表は,平日と日曜に分けて,1日あたりの各行動の平均時間を示したものです。全行動カテゴリーの平均時間の総和は1,440分(24時間)となります。


 2011年の平日をみると,睡眠時間は403分(6時間43分),仕事時間は546分(9時間6分)ですか。後者は,10年前に比して37分増えています。一方,睡眠時間は減っています。日曜でも,同じような傾向がみられます。

 上表から読み取れる最も目立つ変化は仕事時間の増加ですが,近年,教員への管理や締め付けが強まっていることを思うと,さもありなんです。

 ところで,あと一つ,気になる変化がみられます。学習・研究時間の減少です。これは,自由時間の中で自発的な意志に基づいて行うものであり,職務の一貫としてなされる研修は含まれません。こうした自発的な学習・研究時間の平均時間が減じています。

 上表の数値は,調査日に当該の行動をしていない者も含めた「総平均時間」ですが,行動を行った行動者に限定した平均時間でみるとどうでしょう。調査用語でいう「行動者平均時間」です。


 平日は微増ですが,日曜では181分から150分へと30分も減っています。調査日に自発的な学習・研究を行った者の比率が低下しているのは,平日も日曜も同じです。

 総じて,この10年間で教員の自発的な学習の頻度は下がっているようです。教員は知識・技術の伝達者である以上,絶えず学習や修養に励まねばなりません。このことは,法律でも規定されています(教育基本法第9条1項)。

 しかるに,法がいう「研究や修養」は,強制されて行う研修だけからなるのではなく,自らの意志で自発的に行う学習・研究も大きな位置を占めています。

 昨年の8月下旬に公表された中教審答申では,教員を「高度専門職」と位置づける方針が明示されていますが,専門職を性格づける重要な要素は自律性です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325092.htm

 大学教員のごとく,教える内容の自由を初等・中等教育機関の教員に保証するわけにはいきませんが,できること(なすべきこと)はあります。彼らにヒマを与えることです。ここでの文脈に則していうと,教員が自発的に学習や研究に取り組めるような時間を担保することです。

 しかしながら,目下,逆の方向に動いています。2009年度から教員免許更新制が施行され,教員は多忙な時間を割いて大学等で免許状更新講習を受けることを強いられていますし,最近の報道によると,学校週6日制への回帰が志向されていたり,夏休みに合宿形式の高度研修を行う方針を打ち出した自治体があったりと,不安材料は数多し。

 私にいわせれば,夏休みは全面オフにすべきであると思います。長期休業の間くらい,教員らを「黒板とチョークの世界」から解放し,違った世界に触れさせてみてはどうでしょう。そのことが,彼らの人間の幅を広げ,上記の答申が教員の重要な資質として指摘している「総合的な人間力」を涵養することにもなるかと存じます。

 野放しにしたら遊び呆けるだけだろう,といわれるかもしれませんが,そうとは限りますまい。この点については,昨年の8月14日の記事もご覧いただければと思いますが,やってみなければ分かりません。

 自発的な学習・研究の頻度は,専門職のメルクマールと読むこともできます。2016年の『社会生活基本調査』から分かる,教員の自発的な学習・研究時間(実施率)はどうなっていることか。それによって,教員を「高度専門職」とみなす当局の方針がどれほど具現されたかが教えられることになるでしょう。

2013年4月8日月曜日

都道府県別の有業男女の朝食欠食率

 新年度が始まり一週間が過ぎましたが,いかがお過ごしでしょうか。寒暖差が激しかったり,爆弾低気圧がきたりと,天候は穏やかでありませんが,頑張ろうではありませんか。私は,明後日の水曜が初出勤です。

 唐突ですが,朝食をきちんと食べていますか。朝食は1日の活力の源ですが,近年,国民の間で朝食欠食傾向が強まっているといわれます。3月17日の記事でみたところによると,20代前半の有業男性の朝食欠食率は4割近くにもなります(平日)。5人に2人です。

 社会に出て間もない年齢層ですが,深夜まで働いて朝は出勤ギリギリまで寝ているため,時間がないのでしょうか。女性にあっては,太りたくないという痩身願望から,意図的に朝食を抜く人もいるかと思います。

 しかるに,朝食を抜くと昼食時に摂取したカロリーが過剰に蓄積されるため,肥満につながりやすいといわれます。また,今朝の朝日新聞Web版の記事によると,朝食を食べたり食べなかったりする人はメタボになる確率が高いのだそうです。
http://www.asahi.com/tech_science/update/0408/TKY201304070226.html

 朝食を抜くと,いいことはなさそうです。当局も,国民の朝食欠食傾向には懸念を持っているようであり,「早寝早起き朝ごはん運動」なるものを展開すると同時に,毎年,朝食欠食率のような統計指標を公表して注意を呼び掛けています(厚労省『国民健康・栄養調査』)。

 私は,県別の数値を知りたいと思い,当該の資料にあたってみたのですが,目的の情報は載っていませんでした。全国値だけでなく,自分の地域の状況を知りたい,という関心を持っているのは私だけではありますまい。いろいろ探査したところ,総務省『社会生活基本調査』のデータを加工することで,県別の有業男女の朝食欠食率を出せることを知りました。その結果をご報告します。

 2011年の『社会生活基本調査』の結果によると,10月中旬の調査日(平日)において,朝食摂取行動をとった者の比率は,有業男性で76.1%,有業女性で82.6%となっています(A調査,平均時刻編,統計表2-1)。よって,朝食欠食率はこれを裏返して,順に23.9%,17.4%となります。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/h23kekka.htm

 本調査の対象は10歳以上の国民ですが,仕事を持っている有業者の場合,ほとんどが成人と考えてよいでしょう。有業成人の朝食欠食率は,まあこんなものかと思います。

 私はこのやり方にて,47都道府県の有業男女の朝食欠食率を明らかにしました。資料的意味合いを込めて,一覧表を提示します。


 男性でみると,最高は東京の29.8%,最低は和歌山の14.5%です。両者では倍の開きがあります。大都市・東京では遠距離通勤が多いためでしょうか。隣接する千葉や神奈川の値も高くなっていますね。

 女性の場合,順位構造はちと違っていて,沖縄が最も高くなっています。沖縄は女性アイドル産出県といいますが,若い女性の痩身願望が強いのでしょうか。でも,先ほど述べたように,朝食欠食は肥満につながりやすいことを認識すべきかと思います。

 予想通りといいますか,朝食欠食率は県によって異なっています。各県の都市性の程度と直線的に相関しているというような,単純な構造でもありません。各県の啓発活動の有様など,多様な要因が関与していることでしょう。

 過去の『社会生活基本調査』のデータと接合させることで,時代変化も明らかにできます。自県の数値が10年前(2001年)と比してどう変わったかを調べ,それをもとに,この間に実施した政策の効果を検討する。こういう課題も考えられます。

 上表の有業男性の朝食欠食率を地図化したものをツイッターに掲げていますので,リンクを張っておきます。興味ある方はご覧あれ。
https://twitter.com/tmaita77/status/317555960556175360

 最後に,あと一つの作業をしましょう。2011年5月17日の記事では,文科省の『全国学力・学習状況調査』(2010年度)の結果をもとに,公立小学校6年生と中学校3年生の朝食欠食傾向児率を県別に出しました。

 そこで出した子どもの朝食欠食率は,上表の大人のそれとどう関連しているのでしょう。有業男性と公立中学校3年生の朝食欠食率の相関をとってみました。下図は相関図です。


 ほう。大人の昼食欠食率が高いほど,子どものそれも高い傾向にありますね。相関係数は+0.524であり,1%水準で有意です。公立小学校6年生の朝食欠食率とは+0.363という相関でした。こちらも統計的には有意です。

 子どもは大人の鏡といいますが,やはり連動するものですね。健全な食習慣は早いうちからと,今の学校現場では食育の実践が盛んですが,朝食も食べないで慌ただしく出ていく親の姿を子どもが日々目にするようでは,その効果は半減してしまいます。大人がしっかりとした範を示す必要がありそうです。

 2011年6月12日の記事でみたところによると,子どもの朝食摂取率は学力と正の相関関係にあります。通塾率などよりもずっと強い相関です。変ないい方ですが,子どもの高い教育達成を望むなら,あくせく勉強させようと構えるよりも,自分の生活を律することから始めたほうがよいのではないでしょうか。

 新年度の始まりを機に,「生」の基本を見つめ直すというのも,またよいかと思います。

2013年4月7日日曜日

20代前半時における人口減少

 下の統計表は,総務省『国勢調査』から採集した,2005年と2010年の年齢層別の日本人人口です。ナナメにたどることで,この5年間における世代人口の増減を知ることができます。2005年の15~19歳人口は,5年後の2010年には20~24歳となります。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm


 この世代の人口量は,10代後半から20代前半にかけて,650万人から616万人へと減じています。33万4千人の減少。これって何なのでしょうか。

 ツイッター上でいただいたコメントによると,就職等で離家する際,住民票を移さない者が多く,居所不明として処理される者が多いのではないか,ということです。また学生の中には,面倒くさいとか個人情報の流出が怖いとかいう理由で,調査への回答をしない者がいる可能性があるとのこと。

 なるほど。国の基幹統計である『国勢調査』をもってしても,人間の頭数を正確に把握するのって,結構難しいのですねえ。

 ちなみに,10代後半から20代前半にかけての世代人口の減少幅は,近年になるほど大きくなっています。下図は,様相を視覚化したものです。この図式を考案された,東洋大学の根本祐二教授のネーミングにならって,コーホート図と呼ぶことにします。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066916/


 20代前半の谷が徐々に深くなっています。10代後半から20代前半というライフステージにおいて,人口が減る度合いが年々大きくなってきている,ということです。2005~2010年にかけての減少量は33万4千人なり。結構な量です。

 上の図は,どういうことを表しているのでしょう。先ほど述べたような,『国勢調査』の精度の低下でしょうか。国際化・グローバル化の進展により,初任地が海外という若者が増えたのでしょうか。読売新聞の「人事の眼」をみると,新入社員は海外に行ってもらう,という人事担当者の発言がよく載っています。

 また,展望が持てない日本に愛想を尽かして海外に移住する「外こもり」の増加,ということも考えられます。この点については,下川裕治さんの『日本を降りる若者たち』講談社現代新書(2007年)でいわれていたような気が・・・。幻冬舎から出ている指南本も結構売れているそうな(保田誠『外こもりのススメ』幻冬舎コミックス,2008年)。

 なお,コーホート図を凝視すると,10代という少年期における人口減少傾向も高まってきています。「小中高校生のうちに留学する子どもたちが増えつつある」という報告もあります。
http://astand.asahi.com/webshinsho/asahi/asahishimbun/product/2013021400008.html

 上記リンク先の朝日新聞Web新書では,「捨てられる日本教育」というフレーズが掲げられていますが,子どもや若者にとっての日本社会の魅力度が落ちているのでしょうか。今後,上記のコーホート図の谷はますます深くなっていくのか・・・。

 『国勢調査』の技術的な問題ゆえかもしれませんが,少し気になったので,統計表と統計図をここに載せておきます。

2013年4月6日土曜日

なぜ就職失敗で自殺するのか(1976年社説)

 前々回の記事では,就職に失敗した大学生の自殺率を試算したのですが,通常に比してかなり高い値が観察されました。

 ところで,就職失敗を苦にした大学生の自殺は昔もあったようであり,新聞記事検索データベースに「就職失敗*自殺」という語を入れてみると,事件を報じる記事がわんさとヒットします。明治期・大正期のものも結構あります。

 しかるに,社会問題化するには至っていなかったようであり,識者のコメント記事が出てくるのは,だいぶ時代を下ってからです。1976(昭和51)年1月26日の読売新聞に,「なぜ就職失敗で自殺するのか」という社説が載っています。私が生まれた年ではないですか。この記事を読んでみましょう。


 「卒業を目前にしながら,就職を苦にした,大学生の相次ぐ悲劇(自殺)」(カッコ内は引用者)が目立つとされ,その背景要因について述べられています。

 いわれているのは,「受動的な生き方しかできない弱々しい若者」だとか「彼らを取り巻く冷酷で強大な管理社会の現実」だとか,いい学校→いい会社という画一コースしか頭にない,というようなことです。

 これだけでは「ふーん」ですが,最後のほうに面白いことが書かれています。「これから社会に巣立つヒナドリが,その羽ばたきの前にたたき落とされた孤立と絶望感は,周囲の想像を超えたものかも知れない。その悩みに耳を傾けるはずの人間関係は,どこでも途絶えがちである」とされ,友がいない高校生が20%という調査データが紹介されています。

 就職の希望が叶えられなかった学生にしても,不安な心境を聞いてくれる者がいるのといないのとでは,自殺に傾斜する確率は大きく異なると思われます。親元を離れて一人暮らしをしている者が多い大学生にあっては,悩みに耳を傾けてくれる人間として重要な位置を占めるのは友人でしょう。

 友がいない大学生が何%というようなデータは知りませんが,今の大学生にあって,友人関係をはじめとした各種の「縁」が薄れていることを示唆する統計があります。それをみていただきましょう。

 ご覧いただくのは,大学生の1日です。総務省の『社会生活基本調査』では,10月中旬の調査日における対象者の生活時間を調べています。私は,大学生の平日の過ごし方が,この10年間でどう変わったのかを明らかにしました。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 下表は,2001年と2011年の結果を比較したものです。各行動の平均時間の総和は1,440分(24時間)となります。2001年調査では大学院生も含まれていますが,サンプルの上ではごく少数なので,大学生の結果と読んでよいでしょう。


 この10年間で学業時間(授業時間含む)が大幅に増え,交際・付き合いの時間が減っています。学業時間が増えているのは,学生にもっと勉強させようという,当局の締め付けが強まっているためでしょう。2008年の中教審答申では,「学士力」という概念が提示され,大卒者に授与される学士号学位の質をきちんと担保しようという方針が打ち出されています。

 また,同じ2008年に起きたリーマンショックにより就職戦線が一段と厳しさを増すなか,学生の間に自己防衛の気風が高まっていることの表れとも読めます。
 
 上表の数値は,対象者全体の平均行動時間ですが,調査日に「交際・付き合い」をしたという者に限定して平均時間を出すとどうでしょう。調査用語でいう「行動者平均時間」です。付随情報として,当該行動をとった者の比率(行動者率)の変化もみてみましょう。


 行動者に限定すると平均時間は長くなりますが,平日でみると,この10年間で平均時間が14分減っています。調査日に交際・付き合いをしたという者の比率も減じています。日曜では,行動者の平均時間は伸びていますが,行動者率は減少。このことは,休日における交際・付き合い行動の分極化(差の拡大)を意味しているともとれます。

 大局的にみて,大学生の交際・付き合いの頻度は減少しているようです。学業時間の増加も併せて考えると,この10年間の大学生の変化は,「ウチ化,マジメ化,ガリ勉化」とでも形容できそうですね。

 大学生の就職失敗自殺の増加は,悩みを聞いてくれる友を持たない,大学生の孤立化傾向と関連しているかもしれません。自殺とは,孤立の病なり。上記の記事から37年経った現在においては,「悩みに耳を傾けるはずの人間関係」を持たない大学生は,ますます増えていることでしょう。

 さて上の社説は,「孤独な悩める者に支えの手をかすのは,社会の義務である」とし,「主婦らの無料奉仕が中心で発足した『いのちの電話』には,日夜,こうした訴えが殺到しているというが,国,自治体,大学,あらゆる機関でのカウンセリング活動の拡充は急務である」と指摘しています。

 問題の構図は今も変わりませんね。大学生の就職失敗自殺は,就職難と関連していることは論を待ちませんが,そうした社会的大状況と学生個々人の間にある,人間関係という要素に注目している点で,この記事の視点はユニークだと思いました。私が生まれた頃にして,こういうことがいわれているのも興味深い。

 昔の新聞や資料から,今問題になっている事象の底に流れているものを汲み取ることができます。私はこういうことを念頭において,暇をみては図書館通いしています。

2013年4月5日金曜日

東京都の教職教養の必出・頻出事項(2014年度試験対策用)

 新年度がスタートしましたが,晴れたり曇ったり,気温の差が激しかったりと,天候が安定しない日が続いています。体調管理に気をつけたいものです。

 さて,この夏に教員採用試験を受験する方は,そろそろ勉強に本腰を入れ始めておられるのではないでしょうか。手順としては,受験する自治体の出題傾向を観察し,頻出事項を検出し,それを押さえた後,学習の範囲を徐々に広めていく,というやり方が効率的です。

 今回は,東京都の試験を受けようという方のお手伝いをさせていただこうと思います。過去5年間の教職教養試験において,出題頻度が高い事項をピックアップしてみました。参照した資料は,時事通信社『教員養成セミナー』の2013年2月・3月号に掲載されている,「全国出題頻度表2009→2013~教職教養編~」です。

 私は,2009~2013年度の5回の試験において,出題回数が5回と4回という事項を拾ってみました。前者は,毎回欠かさず出題されている「必出事項」です。後者は,それに準じる「頻出事項」です。検出された必出事項は2,頻出事項は15でした。下表をご覧ください。


 全体的にみて,教育課程の国家基準である学習指導要領がよく出題されています。学習指導要領の変遷史は必出です。学習指導要領はおおよそ10年間隔で改訂されてきていますが,改訂の内容を時代順に並べ替えさせる問題が多いようです。

 生活科の創設,総合的な学習の時間の創設,教育課程の基準性明示,教育内容の現代化・・・。それぞれの時代状況に則した,さまざまな改訂がなされた経緯がありますが。時代順に並べ替えられますか?

 分厚い教育史のテキストを引っ張り出して,細かい事項まで覚える必要はありません。各年の主な改訂内容をキーワード形式で覚えておくだけで,十分に対処できます。拙著『教職教養らくらくマスター』では,以下のような整理をしています。ご参考までに。


 毎年出題されている,あと一つの必出事項は「児童の出席停止」です。大都市の東京では,学校で荒れ狂う子どもが多いのでしょうか。こういう性行不良の児童・生徒がいる場合,保護者に当該児童・生徒の出席停止を命じることができるとされています(学校教育法第35条)。命令を出す主体は,市町村の教育委員会です。

 この制度の趣旨は他の子どもの学習権を確保することであり,いわゆる懲戒・懲罰とは違います。また,出席停止を命じる際は,「あらかじめ保護者の意見を聴取する」こと,「出席停止の命令に係る児童の出席停止の期間における学習に対する支援その他の教育上必要な措置を講ずる」ことにも要注意。

 あと一点,特記しておくべき事項は,頻出事項の中の「学生・生徒等の懲戒」に関する法規でしょう。具体的にいうと,学校教育法第11条です。重要な条文ですので引用します。

 「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない」。

 大阪の高校での体罰自殺事件を受けて,体罰が大問題になっています。上記の法規定は,東京に限らず,どの自治体でもおそらく出題されることと思います。上の条文は諳んじることができるまでに繰り返し読み込んでおきましょう。

 この点に関連して,文科省は3月13日に「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」という通知を出しています。そこでは「懲戒と体罰の区別について」という項が設けられ,法で認められている懲戒と体罰の線引きポイントが示されています。しっかりみておきましょう。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331907.htm

 ざっとこんなところでしょうか。東京都の試験を受けられる方は,まず上表の必出・頻出事項をしっかりと押さえた上で,学習の範囲を徐々に広げていくやり方が効率的かと存じます。他の自治体を受験される方は,時事通信社の原資料にあたって,同じデータをつくってみるとよいでしょう。さして時間はかかりません。

 しかし,教員採用試験の教職教養では,私が専攻する教育社会学や教育史って,蚊帳の外なんだなあ。社会階層だとか,階層と学力だとか,そんなこと面接で口にしたら一発でアウトだろうな。まあ,学問としての教育学と試験での教職教養は違うっていうことで・・・。

 教員採用試験受験予定のみなさん,がんばってください。

2013年4月3日水曜日

就職に失敗した大学生の自殺率

 就職失敗を苦にした大学生の自殺が社会問題化していますが,就職に失敗した大学生がどれほどの確率で自殺に至るかは,あまりに明らかにされていないようです。警察庁が公表している自殺者の実数はベースを考慮していないので,自殺確率の測度としては使えません。

 私は,文科省と厚労省が毎年実施している『大学等卒業予定者の就職内定状況調査』の結果をもとに,就職に失敗した大学生の数を割り出せることを知りました。警察庁公表の自殺者数をこの数で除して,就職に失敗した大学生の自殺率を試算してみようと思います。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/131-1b.html

 2011年度の上記資料によると,2012年4月1日時点の大学卒業者の状況は,次のように報告されています。就職希望率が68.9%,うち就職率が93.6%です。

 この2つの数字を使って,同年春の大卒者の成分を明らかにできます。まず就職非希望者は,100.0-68.9=31.0%です。就職者は,68.9×0.01×93.6=64.5%です。そして残りの4.4%が,就職を希望しつつも最後まで内定が得られなかった,就職失敗者ということになります。

 この年の大卒者のうち,就職失敗者の比率は4.4%ということが分かりました。文科省『学校基本調査』に掲載されている,同年春の大卒者は55万8,692人。したがって,実数にして2万4,636人の就職失敗者が出た計算になります。*小数点も考慮したExcelでの計算結果です。

 警察庁の『平成24年中における自殺の状況』によると,2012年中における,就職失敗を苦にした大学生の自殺者数は45人。よって,就職に失敗した大学生の自殺率は,45/24,636≒182.7となります。ベース10万人あたりの自殺者数です。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 私は同じやり方で,他の年についても,就職に失敗した大学生の自殺率を出してみました。下表は,2007年以降の推移をまとめたものです。比較対象として,人口全体の自殺率も掲げました。こちらは,上記の警察庁資料に載っているものです。


 就職に失敗した大学生の自殺率は波動を描いて推移していますが,2012年の値は過去最高となっています。

 「お祈りメール」なるものを何十通,何百通も受け取り,自我を大きく傷つけられ,かつ今後の展望に不安を抱いている集団です。彼らが自殺に傾斜する確率は,通常に比して格段に高いというのも,うなずけるところです。2012年の人口全体の自殺率は21.8ですから,就職に失敗した大学生の自殺確率は通常の8.4倍ということになります。

 本ブログの至る所で書いてますが,こういうのって,わが国に固有の社会病理現象なのではないでしょうか。個々の学生の資質云々の問題ではありますまい。それを象徴しているのが,新卒重視の採用慣行です。

 文科省が,この(奇妙な)慣行の是正を経団連に求めたと聞きますが,状況変化の兆しは一向にありません。新卒時の一本勝負ではなく,再チャンレンジ可能な社会への移行が強く求められます。

 新年度が始まって3日目ですが,先行き不透明なまま大学を卒業し,「今後どうしたものか」と途方に暮れている方もおられるかと思います。所属もなく,自分は社会の一員(社会人)ではないのではないか,と。

 しかるに,工藤啓氏も述べておられるように,「社会的所属の有無とは別に,誰もがこの社会の一員なので『社会人』です。働いていること,就職していることが社会人の要件でも定義でもありません」。
http://ameblo.jp/sodateage-kudo/entry-11503201314.html

 逆にいえば,就職していても,自分が属する組織の生産性や利潤を上げることばかりに邁進して,その外の社会に目配りできない人間は「社会人」ではないと思います。

 年度早々,どんよりとした天候ですが,こんなことを考えています。

2013年4月1日月曜日

公立小学校6年生の勉強時間地図

 文科省が毎年実施している『全国学力・学習状況調査』は,教科の学力を測るテストと,対象の児童・生徒に対する質問紙調査からなっています。後者は,日頃の生活習慣等について問うものです。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

 そこに盛られている設問の一つに,「学校の授業時間以外に,普段(月~金曜日),1日あたりどれくらいの時間,勉強をしますか」というものがあります。私は,この設問への回答を分析することで,公立小学校6年生の平均勉強時間を都道府県別に出してみました。県別のデータというのはあまり見かけないので,参考になろうかと存じます。

 用いるのは,少し古いですが2010年度調査のデータです。大都市・東京の公立小学校6年生の回答分布は,以下のように報告されています。

 3時間以上(210分) ・・・ 21.2%
 2時間以上3時間未満(150分) ・・・ 14.0%
 1時間以上2時間未満(90分) ・・・ 26.1%
 30分以上1時間未満(45分) ・・・ 23.3%
 30分未満(15分) ・・・ 11.7%
 全くしない(0分) ・・・ 3.7%

 この分布を使って,平日1日あたりの平均勉強時間を計算してみましょう。階級値の考え方に依拠して,各階級に含まれる児童の勉強時間を,一律に中間の値とみなします。たとえば,30分以上1時間未満の者は,一律に中間の「45分」と仮定するわけです。こう考えると,平均勉強時間は次のようにして算出されます。

 [(210分×21.2人)+(150分×14.0人)+・・・(0分×3.7人)]/100.0人 ≒ 101.3分

 101分=1時間41分ですか。大都市・東京の小6児童の結果ですが,こんなものでしょうか。では,他県の数値も同じようにして出してみましょう。下図は,結果を地図で表現したものです。47都道府県を5分刻みで塗り分けてみました。


 濃い青色は,平日1日あたりの平均勉強時間が90分(1時間半)を超える県ですが,この色の分布に注意すると,首都圏や近畿圏といった都市部において,小6児童の勉強時間が長いことが知られます。塾通いが多いことの影響もあるかと思います。

 さて,同じ小6児童でも,平日にどれほど勉強しているかは地域によって異なるようですが,この多寡が学力とどう関連しているかに興味を持たれることでしょう。私は,公立小学校6年生の4科目(国語A,国語B,算数A,算数B)の平均正答率との相関係数を出してみましたが,無相関でした。

 なるほど。学力上位常連の秋田や福井が,上の地図では薄い色になっていますものね。それに,勉強時間が長い都市部に学力が高い県が多いかというと,そういうことはありません。

 期待に反した?結果が出たのですが,各県の子どもの学力水準と関連する要因って何なのでしょう。すぐに答えが出せる問題ではありませんが,子どもの生活という,トータルな視点から一考してみましょう。

 先ほど,秋田と福井という2つの県の名前を出しましたが,学力上位常連のこの2県において,小学生がどういう暮らしをしているかを覗いてみます。用いるのは,2011年の総務省『社会生活基本調査』のデータです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 下表は,同年10月中旬の調査実施日(平日)における,両県の小学生の平均行動時間を示したものです。全カテゴリーの総和は1,440分(24時間)となります。比較対象として,東京の小学生の数値も掲げました。


 学業時間(学校での授業時間含む)は,東京のほうが長くなっています。代わって秋田と福井では,くつろぎ,趣味,スポーツといった行動の平均時間が相対的に長いのです。ガツガツやらせるよりも,生活にハリを持たせることが重要ということでしょうか。

 ちなみに,県レベルの統計でみた場合,子どもの通塾率と学力はの相関関係にあります。学力と正の相関関係にあるのは,朝食摂取率のような,生活リズムの安定に関わる指標です。この点については,2011年6月12日の記事をご覧ください。

 受験一辺倒の学力ではなく,近年,文科省が重視している「確かな学力」(知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの)を育成するには,基本的な「生」をバランスよく営むことが大切なのではないでしょうか。

 今日から新年度です。お子さんを学校に上げた親御さんの中には,がっつり勉強させようと構えている方もおられると思いますが,そう気負うことはありますまい。配慮する必要があるのは,「寝る,食べる,遊ぶ,学ぶ,交流する・・・」といった,生活の基本要素の均衡が崩れないようにすることだと思います。何のことはありません。ただ「フツー」に暮らさせる。それだけのことです。