2014年11月30日日曜日

2014年11月の教員不祥事報道

 11月ももう月末です。早いですね。今月,私がネット上でキャッチした教員不祥事報道は28件です。有害物質遺棄や不正乗車など,珍しい事案もみられました。

 いつも通り,記事名と当該教員の基本属性を記録します。事の詳細を知りたい方は,記事名でググってみてください。

 明日から師走ですね。今年もあとわずか。がんばりましょう。

<2014年11月の教員不祥事報道>
教諭が公務PCでアイドル画像閲覧 高知(11/2,毎日,高知,中,男,40代)
LINE返信遅いと不倫相手の女性を蹴った教諭(11/6,読売,大阪,小,男,44)
少女にみだらな行為 疑いで公立中教諭逮捕(11/6,宮崎日日,宮崎,中,男,29)
不起訴の教諭懲戒免職 飲酒運転「信用を失墜」(11/6,産経,秋田,高,男,51)
盗撮で教諭2人懲戒免職 大阪府教委、セクハラで停職も
 (11/7,朝日,大阪,盗撮:中男23,小男34,セクハラ:高男59)
修学旅行中、宿泊先のホテルで女子生徒にわいせつ行為
 (11/7,産経,神奈川,高,男,41)
盗撮で逮捕の教頭ら3人を停職6カ月の処分
 (11/7,毎日,愛知,盗撮:高男51,盗撮:高男31,自転車無断使用:高男25)
FBに生徒を正座させた画像 中学講師「指導総括です」(11/10,朝日,兵庫,中,男,56)
女子更衣室に隠しカメラ…仕掛けた教諭が映像に(11/11,読売,茨城,小,男)
和歌山、投げたほうきで生徒けが(11/11,神戸新聞,和歌山,中,男,20代)
自宅で生徒にわいせつ 20代高校臨時講師が懲戒免職
 (11/11,神戸新聞,兵庫,高,男,20代)
教諭 テスト結果を持ち出し子どもに見せる(11/13,NHK,山梨,中,女,50代)
わいせつ行為の臨時講師らを懲戒免職
 (11/13,神戸新聞,兵庫,わいせつ:小男25,営利事業:中男38)
校舎内で女児にわいせつ未遂…元小学校講師逮捕(11/13,読売,茨城,小,男,20代)
魚大量死、教諭2人を書類送検 有害物遺棄容疑(11/13,朝日,新潟,小男30代,小男40代)
女性の脚撮影など 県教委が3教諭を処分
 (11/14,神奈川新聞,神奈川,女性の脚撮影:高男54,宿泊学習での飲酒:特男57,人身事故:高男56)
小学生女児の裸を撮影 幼稚園教諭の男逮捕(11/20,日テレ,幼,男,30)
<危険ドラッグ>所持容疑で逮捕の教諭処分(11/20,毎日,岐阜,小,男,41)
「1度に5教諭処分の危機」 わいせつ、脅迫、不正会計、体罰
 (11/21,千葉日報,千葉,わいせつ:特男35,高男30,脅迫:小男49,不正会計:高男26,体罰:中男56)
女子高校生の胸触り押し倒し殴る、中学教諭逮捕 (11/22,読売,神奈川,中,男,27)
中学講師が不正乗車 滋賀・栗東(11/22,京都新聞,滋賀,中,女,34)
中学教諭、体育大会打ち上げ後にバイク酒気帯び運転で停職6カ月
 (11/22,産経,大阪,中,男,30)
特別支援学校教員を逮捕 追突して逃げた疑い(11/22,朝日,佐賀,特,男,56)
保管の問題 前日解かせる…発覚で生徒不合格(11/26,毎日,滋賀,高,男,34)
勤務中に繰り返し飲酒 特別支援学校教諭を戒告処分
 (11/27,神戸新聞,兵庫,飲酒:特男54,体罰:高男52)
「やばい扉開けちゃうかな」児童買春容疑で中学教諭逮捕(11/28,TBS,東京,中,男,26)
わいせつ2教諭懲戒免 宮崎県教委処分、本年度計3人
 (11/29,宮崎日日,宮崎,中男26,中男29)
<児童ポルノ禁止法容疑>岐阜の町立中講師を逮捕(11/29,毎日,岐阜,中,男,23)

2014年11月29日土曜日

年齢別の他殺被害者数

 虐待防止について議論している厚労省の専門家会議が,次のことを提言しています。「虐待による死亡事案のうち1歳未満の赤ちゃんが犠牲となるケースが多い状況を踏まえ,妊娠期から出産,育児期まで切れ目なく母親を支援する態勢の整備」です。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014112801001513.html

 私はこの記事に触発されて,年齢別の他殺被害者数のグラフをつくってみました。厚労省『人口動態統計』の死因統計には,他殺による死亡者数が載っていますが,その年齢別数値を棒グラフにしたものです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

 昨日の夜,試作版をツイッターで発信したところ,見てくださる方が多いようなので,ブログにも載せておこうと思います。

 昨日の図は,2013年中の死亡者のグラフでしたが,より安定した傾向を見出すため,2009~2013年の5年間の数をグラフにしてみました。この5年間における,他殺による死亡者は2046人(年齢不詳は除く)ですが,その年齢分布を図示すると,下図のようになります。


 昨日の単年の図では,ピークは73歳でその次が0歳の乳児でしたが,最近5年間のデータでみると,他殺による死亡者は乳児がダントツで多くなっています。普遍的な傾向としては,殺人被害に遭う確率が最も高いのは,生後間もない乳児であるようです。このうちの多くは,上記の記事でいわれているような虐待死であるとみられます。

 児童虐待は,相談件数の上では「イヤイヤ期」に相当する3歳児に関わるものが最多なのですが,死に至るまでの深刻な事案は生後間もない乳児で最も起きやすいことが知られます。しかし,ここまでの集中度だとは・・・。上記の提言を,強く支持するエビデンスです。

2014年11月28日金曜日

秋の日帰り遠足

 昨日は天気がよかったので,箱根に日帰り遠足に行ってきました。箱根は,2004年の夏に松本良夫先生と行って以来,およそ10年ぶりでした。

 たどったのは,お決まりの定番コースです。ロマンスカーで湯本まで行き,登山電車で強羅,さらにケーブルカーで早雲山まで登ると。そこからはロープウェーです。標高がマックスの大涌谷で撮った富士山を一枚。


 快晴だったこともあり,よく見えました。硫黄の匂いが漂う当地名物の「黒たまご」もナイス。5個入りの1袋500円なり。

 ここからは芦ノ湖まで下り,港のビューレストランで昼食,それから遊覧船です。湖畔の紅葉が見事でした。


 元箱根町の船着き場の近くに,箱根駅伝の往路ゴール(復路スタート)地点があります。年の初め,全国で最も活況を呈するスポットです。すぐ隣には,箱根駅伝ミュージアムもあります。歴代の名選手のユニフォームや写真集など,貴重な資料が数多く展示されています。ここにも入ってきました。

 その後は,バスで湯本まで行き,近場の温泉で一休み。箱根の夕空を見ながらの露天風呂は実によかった。

 まあ,お決まりのルートを機械的にたどっただけですが,心身ともにリフレッシュできました。かかった費用は,箱根フリーパスが5010円,その他諸々を含めて,トータルで一万とちょっとくらい。これくらいの金額で十分楽しめます。今度は桜の季節に出向いて,逆ルートで回ってみようかな。

 秋のささやかな行楽の記録です。このブログには,日記の意味合いも持たせています。後々,「ああ,こういうことをしたな」と振りかえることができるので便利です。

2014年11月26日水曜日

都道府県別の大学進学率のジェンダー差

 今日の朝日新聞に「生まれながらの境遇,乗り越えろ,性別で地域で学びに差」と題する記事が出ています。生まれながらの境遇で教育機会に格差が出ているという趣旨ですが,私が計算した,性別・都道府県別の大学進学率のデータが掲載されています。
http://www.asahi.com/articles/ASGCT55SJGCTUTIL02L.html

 記事には,大学進学率のジェンダー差が大きい5県と小さい5県の表が掲げられています。前者は,北海道,山梨,和歌山,埼玉,鹿児島です。後者は,熊本,岡山,東京,高知,徳島です。しかるに,他の県はどうかという関心もあるでしょう。記事には,全県の分を載せるスペースがなかったようですので,ここにてそれをご覧に入れようと思います。上記の記事の補足です。

 まず大学進学率の概念ですが,私が計算したのは,18歳人口ベースの4年制大学進学率です。2014年春の大学入学者数を,推定18歳人口で除した値です。分母は,3年前(2011年春)の中卒者・中等教育学校前期課程卒業者で代替しています。

 分子には,過年度卒業生(浪人)も含まれますが,今年春の18歳人口からも浪人を経由して大学に入る者が同程度出るものと仮定し,両者が相殺するものとみなします。よって,ここでいう大学進学率とは浪人込みの数値ということになります。もっと平たくいうと,同世代のうち大学に行くのは何人かです。

 今年春の大学入学者数は60万8232人,分母の推定18歳人口は118万838人ですから,大学進学率は51.5%ということになります。よくいわれる,同世代の半分が大学に行くとは,こういうことです。

 私は,この値を都道府県別に計算しました。男女の値も出しました。分子には,各県の高校出身の大学入学者数を充てています。言い忘れましたが,分子・分母とも,ソースは文科省『学校基本調査』です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 下表は結果の一覧表です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。上位5位の数値は赤色にしました。右欄には,男子の率が女子の何倍かを表すジェンダー倍率と,その順位を掲げています。


 大学進学率のマックスは東京ですが,最も低いのは,今年は郷里の鹿児島となっています(昨年は岩手)。うへえ,東京と鹿児島では,大学進学率に倍以上の開きがあります。女子では,40ポイント以上の格差です。

 進学率のジェンダー差が最大なのは北海道で,およそ1.4倍です。男子が48.0%なのに対し,女子が34.6%と,大きな差が出ています。対して,四国の徳島では性差がほとんどありません。この県は,自県内の大学に入る女子が多いようですが,県内に女子をひきつける大学があるのでしょうか。自宅から通えるのは,大きい。

 最後に,上表のジェンダー倍率を地図にしておきましょう。私は視覚人間ですので,こういうオマケをつけたくなります。


 濃い色は,ジェンダー差が1.3倍を超える県です。北海道,埼玉,山梨,和歌山,そして郷里の鹿児島が該当します。上記の記事タイトルに引きつけていうと,「性別で学びに差」がある度合いが大きい県です。

 以上,朝日新聞記事のデータの補足をしました。いやー,ブログって便利ですよね。何か補足で言いたいことがあれば,手軽に何でも発信できる。私見ですが,学者や評論家はこのツールを持つべきだと思います。潮木先生の言葉を借りるなら,自分の研究成果を思うままに発信できる「私設出版社」です。紙媒体と違って,文字量や図表の量にも制限はなし。間違いがあれば,すぐに修正もできます。*それゆえに信頼度が低いという問題もありますけど。

 学生さんにも,この偉大な文明の恩恵を活用すべしと勧めているところです。自分を世に発信する。これも広義の「シューカツ」ですよ。

 今日は雨でしたが,明日は快晴だそうです。私は,日帰り遠足に行く予定です。行き先は箱根。紅葉も見ごろだと思います。さて,今日はもう寝るとしましょう。

2014年11月25日火曜日

『スーパー過去問ゼミ 教育学・心理学』

 実務教育出版社より,『国家公務員試験スーパー過去問ゼミ 教育学・心理学』が発刊されました。教育学のパートは,私が執筆しております。
http://jitsumu.hondana.jp/book/b183446.html


 教育学は,国家公務員試験の選択科目の一つです。受験者が多い国家一般職(旧国家Ⅱ種)の試験でも,2006年度より取りいれられています。

 これまでの出題傾向を分析し,実際の問題を解いてみての感想ですが,教育学は出題領域がほぼ決まっています。国家一般職試験は5問の出題ですが,毎年,①西洋教育史,②教育社会学,③学校経営,④生涯学習,⑤教育方法学からの出題です。教育社会学は教員採用試験では「アウト・オブ・眼中」なのですが,国家試験の教育学では必出。ちょっと嬉しい。

 問題の難易度もそれほど高くないように思います。また「教育」は誰もが実際に経験してきていることなので,現実感を持って楽しく学習できるでしょう。総合的にみて,他科目に比して,学習に要する労力も少なくて済むのではないでしょうか。

 教育学は,イチオシの科目です。ぜひこの科目を選択していただき,勝利の栄冠を勝ち取っていただきたいと思います。本書は,そのための過去問集です。試験で出題された問題の中から,出題頻度が高く,かつ広範な知識を吸収できる良問を厳選し,盛り込んでいます。教育学は,その数88問です(心理学は114問)。これらを繰り返し解くことで,国家試験の教育学に対応できる実戦力が確実に身につきます。

 マイナーな科目ですので,類書はまだ出ていないと聞いています。教育学の選択を考えておられる皆さん,ぜひ本書をお手にとってください。今日か明日あたりから書店に並ぶことと思います。

 以上,アナウンスをさせていただきます。

2014年11月23日日曜日

都道府県別の保育士の年収

 保育士不足が深刻化していますが,その原因の一つとして,待遇の悪さがあることがよくいわれます。なるほど,3月20日の記事でみたように,保育士の年収は他の職業に比して低くなっています。介護職も然り。

 しかるに,様相は地域によって違うでしょう。昨日,厚労省『賃金構造基本調査』の公表統計表を眺めていたら,都道府県別・職種別に一般労働者の賃金をまとめた表を見つけました。私はこれを使って,保育士の年収を都道府県別に計算してみました。今回は,その一覧をお見せしようと思います。

 集計の対象となるのは,短時間労働者を除く一般労働者の枠に含まれる保育士男女です。各県について,①決まって支給される給与月額と②年間賞与額を知ることができます。最新の資料には,2013年6月の①と,前年(2012年)中の②が掲載されています。ここでは,①を12倍した額に②を足して,年収を推し量ることにします。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html

 東京でいうと,保育士男女の月収(①)は23万円,年間賞与額(②)は53万円です。よって,大都市・東京の保育士の年収は,(23×12)+53=328万円と見積もられます。言い忘れましたが,①には時間外勤務等の手当も含まれます。

 同じやり方で,全県の保育士の年収を出してみました。下表は,その一覧です。参考までに,全職業の従事者の年収も掲げています。右端の数値は,これと照合して算出した,保育士の年収の相対水準です。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色の数値は,上位5位を意味します。


 保育士の年収は全国値は310万円ですが,県別にみると385万円から218万円まで幅広く分布しています。マックスは京都で,その次は群馬となっています。聞けば,群馬は保育士の待遇改善により,保育士不足を大幅に緩和したそうな。

 最低は福島なのですが,当県の保育士の年収は2009年の318万円に比して,100万円もダウンしています。これは,2011年の東日本大震災の影響でしょうか。

 なお,保育士の年収は,各県の労働者全体の年収水準に規定されると思われるかもしれませんが,必ずしもそうではないようです。表のaとbを比べると,順位はあまり一致していません。相関係数を出しても,+0.362という程度です。

 やはり,各県の保育政策の影響もあるのでしょうね。それがどういうものかは,右端の相対水準値からうかがうことができます。保育士の年収が全従業者の何倍かです。どの県でも,保育士は全体に比して見劣りしていますが,九州の宮崎ではほぼ等しくなっています。全体と比した相対水準でいえば,保育士の待遇が最もよい県です。一方,福島や東京では,保育士の年収は全体の約半分なり。

 ちなみに右端の相対水準値は,保育士の平均勤続年数と有意に相関しています。保育士は離職率が高く,平均勤続年数も他の職業に比して短いのですが,県別にみると結構バラけています。これが,上表の右端の数値と相関しているのです。


 保育士の年収の相対水準が高い県ほど,平均勤続年数が長い傾向にあります。相関係数は+0.5675であり,1%水準で有意です。東京は右下にありますが,大都市の生活に見合う給与を保育士が受け取れていないことに,勤続年数の短さ(離職率の高さ)の一因があるのではないでしょうか。いわゆる「相対的剥奪感」が,東京の保育士にあっては大きいのかもしれません。

 保育士の待遇改善の必要性が繰り返し指摘されていますが,公的なマクロデータも,それを支持しているように思います。

 最後に,上表の左端に掲げた,保育士の年収の実値を地図にしておきます。昨日,ツイッターで発信した図にちょっと誤りがありましたので,これでもって訂正いたします。


 今回のデータが,各県の保育施策の参考になれば幸いに思います。今日は,気持ちの良い秋空。よい連休をお過ごしください。

2014年11月20日木曜日

首都圏のIT産業マップ

 20世紀は「ものをつくる」時代でしたが,21世紀は「イノベーション」の時代であるといわれます。それを牽引するのは,いわゆるIT産業でしょう。

 エンリコ・モレッティ著『年収は住むところで決まる』でいわれている基本命題の一つは,「旧来の製造業都市の大卒者より,イノベーション都市の高卒者のほうが稼いでいる」というものです。衰退の途をたどる製造業都市と,これから伸びる可能性のあるイノベーション都市とに分化しつつある事態を物語りますが,IT産業のようなイノベーション産業は特定地域に集積する傾向があるのだそうです。

 本書では,アメリカ国内のデータを使ってそのことが実証されていますが,日本ではどうなのでしょう。『年収は住むところで決まる』の追試作業第3弾として,わが国におけるIT産業の地域分布の様相を観察してみようと思います。

 総務省の『経済センサス』から,各産業の従事者数を市区町村別に知ることができます。住所ではなく,事業所の所在地に依拠した統計です。私は,全産業の従事者に占める,情報通信産業(以下,IT産業)従事者の比率を計算してみました。

 下の地図は,1都3県の242市区町村のIT産業従事者率を地図にしたものです。首都圏のIT産業マップをご覧ください。


 トップは東京の品川区の18.4%,2位は港区の17.9%,3位は江東区の15.6%となっています。これらの区では,5~7人に1人がIT産業従事者ということになりますが,こういう地域は数の上では少数派です。IT産業従事者率が10%を超える地域は,242市区町村のうち10しかありません。

 地図の上では,マックスの階級を「3%以上」としていますが,ここまで下げても,該当する市区町村は多くないことが知られます(濃い青色)。また,高率地域が都内の都心部に集中していることにも注目。なるほど,IT産業の地域的集積の傾向がみられます。

 これを,IT産業従事者の地域的偏りという点からもみてみましょう。上図に掲載した上位5位の区のIT産業従事者は541899人であり,242市区町村全体の53.2%を占めます。首都圏全体のIT産業従事者の半分以上が,これらの都心の5区に集中していることになります。

 こうした特定地域への集中度がどれほどすさまじいかをグラフで表してみましょう。IT産業従事者の数が多い順に242市区町村を配列し,全体に占める割合を累積グラフにしてみました。青色はIT産業,赤色は全産業の累積曲線です。


 どうでしょう。色つきゾーンは,上位20位までの市区町村の占有率ですが,IT産業にあっては,上位20位の地域が全体の8割をも占めています。そこへの集中度は,全産業の倍以上です。

 首都圏の市区町村データによる検討ですが,『年収は住むところで決まる』でいわれているがごとく,わが国においても,IT産業が特定地域に集積している傾向が分かりました。IT産業の場合,事業所はどこに構えてもよさそうなものですが,なぜ中枢部に集中するのでしょう。

 エンリコ・モレッティの本がいうには,高度な知識や発想に触れる機会が多くあるからだそうです。なるほど,イノベーション産業としてのIT産業従事者には,絶えず一流の知や人と接する必要性がありますものね。それはデジタルを介してでも可能ですが,やはり,直に会う・接することによる効果のほうが大きいでしょう。潮木先生も言われていますが,人間はやはり「アナログ動物」です。

 モレッティは,こうした効果のことを「相乗効果」と呼んでいますが,それは,いろいろなことに当てはまります。たとえば,低い階層の子弟であっても,高い階層の人間が多い地域に住んでいるならば,大学に行きたいというアスピレーションが高くなるでしょう。習熟度別学級編成にしても,低い者ばかりを集め,それを長い間継続させると,全体の士気がダウンし,よからぬ結果になってしまうこともあります。ある学生さんの言葉を借りると,「諦めムード」の蔓延です。個々人は,そういう集団のクライメイトの影響も被るものです。

 わが国においても,衰退していく製造業都市と,勃興の可能性を秘めたイノベーション都市とに分化(segregate)していく事態が起こりえるのではないか。それは,子どもの教育格差をはじめとした,様々な病理現象が起こりえることの基盤的な条件にもなり得るでしょう。

2014年11月17日月曜日

貯蓄格差

 未成年を対象とした,小額投資非課税制度(ジュニアNISA)が創設されるそうです。高所得の祖父母や両親が,子ども名義の口座を開設し,進学や結婚などの資金に備えようというもの。

 がっつり貯め込んでいる高齢者に,お金を使ってもらおうという狙いですが,その一方で,貯蓄などない高齢者も数多くいます。最近の貯蓄額の分布図をみると,このことがよく分かります。下の図は,世帯主の年齢層別にみた,世帯単位の分布図です。


 高齢層は分極型になっており,ゼロの層と3000万超の層がほぼ同じくらいいます。祖父母世代のこうした格差が子世代に投影されるのではないかと,少しばかりの危惧を感じます。最近,小学校に入ってくる児童の間で「ランドセル格差」なる現象があるそうですが,これなどは,その表れといえるでしょう。

 この分布図では,各年齢層の貯蓄格差の程度が分かりませんが,今回は,それを数値化してみようと思います。貯蓄格差の可視化です。上記の分布のデータから,貯蓄ジニ係数を計算してみましょう。世帯主が60代の世帯を例に,計算の方法を説明します。


 上表は,計算に用いる素材です。左端の世帯数は原資料に掲載されているものであり,貯蓄量は字のごとく,各層が有している貯蓄量の総量です。中間の階級値に世帯数を乗じた値です。

 中央の相対度数の欄をみると,どうでしょう。一番上の3000万以上の層は,世帯数の上では全体の15.7%しか占めませんが,社会全体の貯蓄量の45.5%をもせしめています。スゴイ偏りです。右端の累積相対度数をみれば,貯蓄の偏在はもっとクリアーでしょう。

 さて,このデータを使ってジニ係数を出すのですが,ここで出す貯蓄ジニ係数は,各階層の世帯量と貯蓄量の分布がどれほどズレているかを表すものです。右欄の累積相対度数をグラフにすることで,それは可視化されます。

 下の図は,横軸に世帯量,縦軸に貯蓄量の累積相対度数をとった座標上に,13の貯蓄階層をプロットし,線でつないだものです。統計学に馴染みのある方はお分かりでしょうが,これがいわゆるローレンツ曲線です。


 きれいな弓型の曲線ですが,この曲線の底が深いほど,世帯数と貯蓄量の分布のズレが大きいこと,すなわち貯蓄格差が大きいことが示唆されます。

 われわれが求めようとしているジニ係数は,この曲線と対角線で囲まれた部分の面積いるを2倍した値です。色つき部分の面積は0.2207ですから,ジニ係数は,(0.5000-0.2207)×2=0.5586 と算出されます。計算方法の詳細は,以下の記事をご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/07/blog-post_11.html

 ジニ係数は0.0から1.0までの値をとる測度ですが,一般に0.4を超えると値が高い,すなわち格差が大きいと判断されます。今しがた出した,世帯主が60代の世帯の貯蓄ジニ係数は,この値を超えています。孫がいる祖父母世代の貯蓄格差は,統計的にみても大きいことが知られます。

 私はこのやり方で,他の年齢層の貯蓄ジニ係数も出してみました。下図は,それをグラフにしたものです。最近数年間の変化もみるため,2007年の折れ線も添えています。


 貯蓄ジニ係数は,どの層でも0.5を超えています。あまり知られていませんが,「溜め」の格差って大きいのですねえ。世帯主の年齢別にみると,先ほど例にした高齢世帯よりも,若年・中年世帯の貯蓄格差が大きいようです。

 30~50代の世帯では,係数の値がアップしています。いみじくも子育て世帯ですが,冒頭のような非課税制度を媒介にして,子ども世代の教育格差が拡大しないか。こういう懸念も持たれます。

 格差というと,収入(income)の格差がよく問題にされますが,今回みたような貯蓄(pool)の格差にも目を向けないといけない,と感じます。データは示しませんが,どの年齢層でも,収入ジニ係数よりも貯蓄ジニ係数の値のほうが高くなっています。

 少子高齢化が進み,かつ教育資金の贈与が非課税になるなど,祖父母世代の貯蓄格差が,子ども世代の教育格差に投影される恐れは多分にあるとみられます。これから先,子どもの教育達成の規定要因として,両親のみならず,祖父母の状態変数も取り上げることが求められるかもしれません。前者よりも,後者が強く効いていたりして・・・。

 貯蓄格差。今後,データを注視していきたい現象の一つです。

2014年11月15日土曜日

雑誌『教育』に掲載

 教育科学研究会編『教育』の12月号に拙稿が掲載されました。タイトルは「データでみる大学院のいま」です。
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ka/201412_827.html


 「揺れ惑う科学研究」という特集の一角を構成しています。研究者養成機関の大学院が抱える問題を,統計データによって可視化してみました。私のは「量」からのアプローチですが,次の論稿「手記・若手研究者のいま」は,院生や非常勤講師の苦境をリアルに綴った「質」からの接近となっています。

 雑誌『教育』は以前は国土社から出ていましたが,今の出版元は,かもがわ出版という所だそうです。院生の頃,学大の図書館でよく見たなあ。

 大きい書店にはあると思います。お手にとっていただければと思います。

2014年11月13日木曜日

年収は「住むところ」で決まる(続)

 昨日のプレジデント・オンラインにて,拙稿が公開されました。「東京の清掃員は沖縄の営業マンより年収が高い?」という記事です。編集者さんが考えてくださったタイトルですが,さすがに上手いですねえ。
http://president.jp/articles/-/13843

 エンリコ・モレッテイ著『年収は住むところで決まる』に触発され,男性正規職員の平均年収を都道府県別に計算したのですが,東京のブルーカラーは,沖縄のグレーカラーよりも高いことが分かりました。年収の規定要因としては,性別,学歴,職業といった個人の属性が問題にされることが多いのですが,居住地による差も大きいことが知られます。

 さて,上記の記事で出したのは,ホワイトカラー,グレーカラー,ブルーカラーという大雑把な職業分類ごとの平均年収であり,「東京の清掃員は沖縄の営業マンより年収が高い」という命題を厳密に検証するには至っていません。ここでは,より細かい職業カテゴリーの平均年収を都道府県別に明らかにしてみようと思います。

 資料は,2012年の総務省『就業構造基本調査』です。この資料には,有業者の職業別の年収分布が都道府県ごとに掲載されています。私はこれを使って,10の職業カテゴリーの平均年収を出してみました。性別と雇用形態の影響を除くため,男性正規職員(正社員)のデータを用いています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 原資料に載っている度数分布表から平均を出すやり方については,お手数ですが,上記のプレジデント記事をご参照ください。下表は,算出された平均年収の一覧表です。黄色は47都道府県中の最高値,青色は最低値を意味します。


 東京の運搬・清掃職と,沖縄の販売職を比較すると,前者が429万円,後者が349万円です(赤字)。編集者さん考案の命題「東京の清掃員は沖縄の営業マンより年収が高い」は,細かい職業分類の年収統計から正しいことが実証されました。

 ちなみに,10の職業の年収を東京と沖縄で比べると,下図のようになります。


 点線は,東京の運搬・清掃職の平均年収ですが,沖縄でこのラインを上回るのはホワイトカラーの3職だけです。

 これは両端の比較であり,この2都県では物価の水準が大きく異なることも考慮しないといけませんが,居住地の影響,侮りがたしですね。上記の表をみるならば,年収の職業差が居住地域によって回収されているケースはいくらでもみられます。

 昨年の9月12日の記事では,大学進学率の都道府県格差を明らかにしたのですが,今回のようなデータをみると,さもありなんです。親世代の年収に大きな地域差がある一方で,大学の学費はどの県でもさして変わらないですし。個人レベルの階層格差と同時に,地域格差という視点も重視すべきでしょう。

 「年収は住むところで決まる」。わが国においても,妥当性を持ちそうな命題です。

2014年11月11日火曜日

東京都内44区市の保育力偏差値

 保育園を考える親の会編『100都市・保育力充実度チェック』(2014年度版)を入手しました。全国の主要自治体について,保育園の充実度を測る指標の値が掲載されています。
http://www.eqg.org/oyanokai/book_check.html

 私は,この資料のデータを使って,東京都内の44区市の保育力偏差値を出してみました。今回は,その結果をご報告します。

 本資料のデータをもとに,以下の4つの指標を計算し,それらを合成して,各区市の保育力を測る総合偏差値を試算してみました。

 ①:保育所供給率
 ②:保育料の安さ
 ③:延長保育実施率
 ④:0歳保育実施率

 ①は,2014年4月1日の認可保育所定員が,当該区市の0~4歳人口(同年1月時点)の何%に当たるかです。需要に比して供給がどれほどあるかという意味合いにて,保育所供給率と命名します。私が住んでいる多摩市でいうと,分子は2435人,分母は5846人ですから,保育所供給率は41.7%となります。

 ②は,所得が中間的と考えられる保護者の保育料負担額が,平均水準に比してどれほど安いかです。3歳未満,3歳,4歳以上の月額の平均値を用います。多摩市の額は23233円ですが,この額は44区市の平均値(23183円)に比して,-50円安いことになります。最も安い渋谷区(9867円)は,何と13317円も安いことになります。

 ③と④は,認可保育所のうち,延長保育ないしは0歳保育を実施している園の割合です。この2つは,原資料に掲載されている数値をそのまま使います。

 これら4つの他にも,入園決定率(入園数/申請数)など,興味深い指標がありますが,ここでは44区市全ての値が分かるものに限定することとします。

 では,都内44区市について,4つの保育力指標の一覧表をみていただきましょう。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。③と④は,マックスの値(100%)が多いので,黄色マークはしていません。


 同じ都内ですが,どの指標も結構な地域差がありますね。①の保育所定員の供給量は,青梅市では乳幼児3人に2人ですが,武蔵野市では4人に1人です。②の保育料も,一番高い町田市と一番安い渋谷区では,2万円近くも違っています(月額)。③と④は,双方とも最低は江戸川区です。

 さて,これらを合成して,各区市の保育力偏差値を出してみましょう。各指標の値を偏差値に換算し,それらを平均します。偏差値とは,分布の中の相対位置を表す尺度であり,以下の式で求められます。Xは当該区市のデータ,μは平均値,σは標準偏差です。

 偏差値=10(X-μ)/σ+50

 上表の多摩市の指標を偏差値にすると,①が55.0,②が49.9,③が56.5,④が59.5となります。よって本市の保育力偏差値は,これらを均して55.2となる次第です。

 同じやり方にて,都内44区市の保育力偏差値を計算しました。下表は,値が高い順に並べたランキング表です。


 トップは青梅市となっています。この市は保育料は割高なのですが,他の3指標がトップ水準にあることが,それを補っています。上位の顔ぶれをみると,西の市部が多いようですね。私が住んでいる多摩市は7位。ほう,なかなか健闘しているではないですか。

 この保育力偏差値のマップも掲げておきます。48未満,48以上50未満,50以上52未満,52以上の4階級を設けて,44区市を塗り分けてみました。


 保育力偏差値が高い区市は固まっており,都心や多摩地域が濃い色で染まっています。「隣が頑張っているからウチも・・・」というような相乗効果のようなものがあるのでしょうか。現在,どの自治体も若年人口獲得のための競争に晒されていますし。

 2月2日の記事では,子育て記事における人口増加率を首都圏の市区町村別に出したのですが,ここでみた保育力偏差値と相関しているかしらん。今度の日経デュアル記事では,この問題にもちょっと触れようと思います。

 秋も深まり,寒くなってきました。体調を崩されませぬよう,ご自愛のほど。

2014年11月8日土曜日

子ども・若者の自殺原因図

 昨日の日経デュアルにて,子どもの自殺について書いた拙稿が公開されましたが,見てくださる方が多いようです。怖いもの見たさにクリックしてくださる方もおられるでしょう。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3658

 本記事では,子どもの自殺原因の図も掲げました。主な10の原因が全体に占める割合ですが,警察庁の原資料には,他の原因カテゴリーも多く載っています。今回は,それらをも加味した全体の構造図をご覧にいれようと思います。それでもって,昨日の記事の補足といたします。

 2011~13年の『自殺の概要資料』(警察庁)に記録されている,自殺原因の延べ数は,小・中学生が209,高校生が681,専修学校生等が424,大学生が1,432です。一人の自殺原因が複数にわたることもありますので,この数は自殺者数とは一致しません。

 下図は,各原因の内訳が視覚的に分かる面グラフです。


 昨日の記事でも指摘しましたが,小・中学生の上位3位は,学業不振,家族の叱責,親子関係の不和です。いじめよりも,これらの原因の比重が大きいことに注目。今年の9月に,東京の小6女子2人が飛び降り自殺する事件がありましたが,動機は受験勉強に疲れたとのことでした。自我が未熟で,思い込みの激しいお年頃。家庭において,あまり追い詰めないよう気をつけたいものです。
http://matome.naver.jp/odai/2140993302528233301

 いじめや学友との不和の比重が思ったより低いのは,これらは表沙汰になりにくいためとも考えられます。自殺の原因が校内でのいじめにあったなんて,学校側はなかなか認めたがらないもの。

 高校生になると,進路に悩みが最多になります。最も重要な分岐点である18歳を控えていますしね。しかし,大学進学率が50%を超える今日では,22歳も重要な選抜ポイントとなっています。山内太地さんの『22歳・負け組の恐怖』(中経出版)という本が話題になっていますが,残念ながら「負け組」になり,絶望して自らを殺める大学生・・・。上図の赤色(就職失敗)が何とも痛々しく感じます。

 まあ,大卒者の就職率カーブをみれば分かりますが,就職の厳しさという点では,私の頃のほうが大変でした。しかし,現在はネット時代。ネットで大量エントリーが可能になった分,不採用通知もガンガン喰らうわけです。「お祈りメール」を何十通,多い人では何百通も受け取っていると,「自分は社会に必要とされない人間だ」という思い込みに駆られることにもなります。その意味で,大学生の就職失敗自殺は,情報化社会の病理を反映しているともいえるでしょう。

 昨日の拙稿の補足として,子ども・若者の自殺原因の全体構造図をお見せしました。子を持つ親御さん,教育関係者の方には,この客観的事実を直視していただけたらと思います。

2014年11月6日木曜日

弁護士さんへのハガキ

 昨日の昼,投函したハガキの全文です(一部略)。某弁護士さん宛てです。

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 前略 いただいたメールにお返事します。私のブログ・ツイッターのどこに名誉毀損・侮辱に当たる記述があるのか,具体的に教えてください。それをこちらで吟味し,削除するかどうか検討します。判断しかねるものについては,専門家に相談いたします。

 Z氏は「反省し,謝意を表す」とのことですが,当人から誠意ある謝罪があれば,今回の件は水に流してもよいと考えています。関連するブログ記事も,実名箇所をペンディングにする,ないしは削除することも考えます。話し合いの必要はないと存じます。以上

                                            2014年11月5日
                                               舞田 敏彦
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 「ゴメンで済んだら警察はいらん」といいますが,ちゃんと謝れば大抵のことが丸く収まるのも事実です。

2014年11月4日火曜日

大学進学率の都道府県差の変動

 昨年9月12日の記事では,都道府県別の大学進学率を計算したのですが,大学進学率の地域格差は以前に比して開いてきているのでしょうか。90年代以降の状況変化をざっくりと出してみましたので,今回はそれをご報告します。

 大学進学率とは,同世代のうちどれほどが4年制大学に進学したかという指標です。具体的にいうと,18歳人口のうちの何%が4大に進学したかです。

 文科省統計からこの指標を算出する場合,当該年春の大学入学者数を,同時点の推定18歳人口で除すことになります。分母は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数で代替します。お馴染みの『学校基本調査』によると,2014年春の大学入学者は60万8,232人,3年前の2010年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は118万838人です。よって今年の大学進学率は51.5%となります。同世代の2人に1人が大学に進学するとは,こういうことです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 分子には過年度卒業者(浪人)も含まれますが,当該年の18歳人口からも浪人を経由して大学に進学する者が同程度いるものと仮定し,両者が相殺するものとみなします。したがって,ここでいう大学進学率とは,浪人込みの数値です。

 私はこのやり方にて,1990年,1995年,2000年,2005年,2010年,2014年の都道府県別の大学進学率を明らかにしました。1990年,2000年,2014年について,上位10と下位10の顔ぶれをご覧いただきましょう。


 上位県には東京をはじめとした都市県が多く,下位県には地方県が名を連ねています。言わずもがな,大学進学率は都市性と強く相関しています。都市部のほうが所得水準が高い,大学が数多くある,大学進学の価値を認める高学歴の親も多い・・・。いろいろな要因がありますが,今回の関心は要因分析ではないので,それは置いておきます。

 ここでみたいのは,大学進学率の都道府県差が拡大しているか否かです。まず両端の差(レインヂ)をとると,1990年は33.5-15.4=18.1,1990年は30.5,2014年は38.1となり,差が開いていることが知られます。これは両端ですが,全県の分散の度合いを表す標準偏差(S.D)も,1990年が4.23,2000年が6.80,2014年が7.90というように,こちらも上昇してきています。

 あと一点,上表にある上位10県と下位10県の平均推移も出してみると,以下のようになります。

 ・上位10県  28.8%(1990年) → 45.6%(2000年) → 57.3%(2014年)
 ・下位10県  17.3%(1990年) → 27.7%(2000年) → 36.9%(2014年)

 上位群のほうが,この四半世紀の伸び幅が大きくなっています。いくつかの観点を据えましたが,90年代以降,大学進学機会の地域格差が拡大していることが明らかです。

 状況の変化を表すグラフも掲げておきましょう。大学進学率の全国値,47都道府県の最高値・最低値,上位10県・下位10県の平均値の位置変化です。


 ①高低線の幅が広くなってきていること,②下位群よりも上位群の伸び幅が大きいこと,の2点に注目してください。

 エレンコ・モレッティ著『年収は住むところで決まる』には,富のみならず教育の地域的集積も進むというようなことが書いてありましたが,わが国でも,そうした事態が進行していることをうかがわせるデータです。

 個人間の教育達成の格差と同時に,地域間のそれにも目を向ける必要があります。モレッティのいう「乗数効果」により,居住地の差は個人レベルの階層差を回収する力をも持っています。大学進学に即していうと,低い階層の子弟であっても,高い階層の出身者が多い地域に住んでいるならば,そうでない場合よりも,大学進学アスピレーションは高くなるでしょう。また,居住地に大学があるかないかという要因も大です。

 ところで,もう一つ気になるのは,地方から都市の大学に進学した者のどれほどがUターンするかです。わが国の大学は都市部に偏在していますので,地方県にあっては,大学進学者の多くは県外進学を余儀なくされるわけですが,そうした流出組がどれほど地元に還流するのか。それがあまりに少ない場合,地方から都市へと知的資源が吸い上げられていることになり,住民の学歴構成に象徴されるような,教育の地域格差がますます拡大することになります。

 『学校基本調査』の大卒者の進路統計にて,就職先の地域別(県別)の集計があれば,この点を吟味できるのですが,残念ながらそれは叶わないようです。高卒者の場合,就職先の県別の集計ああるのに,大卒者ではそれがないのはなぜでしょう。当局には,ぜひとも出していただきたいデータです。

2014年11月2日日曜日

東京の中学受験地図の変化

 エンリコ・モレッテイ著『年収は住むところで決まる』(プレジデント社)を読み終えました。地域格差の問題に関心を持っている者として,とても勉強になりました。


 この本に載っているグラフはどれも衝撃的なものばかりで,日本版を作りたくてウズウズします。本書の主張の一つは,特定地域に富が集積する傾向が強まっている,ということですが,それを可視化する図法として,地域別の上位10位と下位10位の平均推移をとっているものがあります。

 たとえば141ページには,大卒者の年収が1980年に比してどれほど伸びたかを,上位10位と下位10位の都市の平均推移で表されています。1980年から2010年にかけて,上位10位の群では2万ドル以上伸びましたが,下位10の群の伸び幅は1万ドルに満たないことが見て取れます。

 私は同じやり方で,都内の中学受験率の地域変化を可視化してみました。早期受験の進行により,中学受験をする子どもが増えているといいますが,それは地域的な偏りがあるのではないか。こういう仮説においてです。

 私は,都教委の『公立学校統計調査(進路状況偏)』にあたって,公立小学校卒業生の国・私立中学進学率を,都内の市区町村別に明らかにしました。1980年,1985年,1990年,1995年,2000年,2005年,2010年,2013年のデータです。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/25sotsugo/toppage.htm

 各年の地域別データをランキング表にし,上位10位と下位10位の平均を計算しました。2013年の上位10位は,千代田区(40.0%),文京区(39.7%),中央区(37.3%),渋谷区(36.9%),港区(35.5%),世田谷区(32.9%),目黒区(30.3%),新宿区(29.2%),豊島区(27.6%),武蔵野市(27.5%)ですから,これらの平均をとって33.7%となる次第です。


 上表は30年余りの変化の過程ですが,上位10位の群は20ポイント近く伸びていますが,下位10位のほうは一ケタのままです。右欄の数値は,1980年に比してどれほど伸びたかを示しています。この指標をグラフ化してみましょう。


 上位10位と下位10位の群の違いが明らかです。むーん,早期受験の進行は都内でも特定地区に集積しているようですね。ちなみに,『年収は住むところで決まる』の中にも,似たような曲線のグラフがしばしば出てきます。

 最後に,1980年と2013年の国・私立中学進学率地図を掲げておきます。この30年における,東京の中学受験率地図の変化です。


 この期間中,都全体の国・私立中学進学率は7.5%から16.7%へと上昇しましたが,伸び幅は地域によって一様ではありません。色が濃くなっているのは東部の特別区がほとんどで,西の市群は相変わらず白いままです。

 中学受験の進行に地域的な偏りがあることが分かりました。国・私立中学進学率の伸びが大きい地域は,富裕層が多く住んでいる地域であることは言うまでもありません。東大などの有力大学合格者の中に,国・私立校出身者が多いことはよく知られていますが,教育を媒介にした,親から子への富の密輸が強まっていることを示唆するデータでもあります。

 エンリコ・モレッテイ著『年収は住むところで決まる』には,日本のデータで追試(再現)してみたいグラフがわんさとあります。当面の仕事は,これになるかもしれません。