コロナウィルスが世間を賑わせていますが,2月も今日でおしまいです。今月,私が把握した教員不祥事報道は49件です。
神戸の教員いじめの加害者2名が免職処分になりましたが,市教委が調査した所,別の小学校でも「サナギを食べさせる」いじめが発覚したそうです。
自宅謹慎中に遊びに出かけ様子をFBに投稿,わいせつ画像をツイッターに投稿といった,SNS絡みの不祥事も目につきます。こんな事案が続発すると,SNS禁止令が敷かれそうで怖い。教員もSNSをやって,自身の思いや実践を積極的に発信してほしいと願います。しかし,使い方を誤ってはなりません。
アルバムの不正発注で処分を受けた小学校校長。最も安い値段を提示してきた業者を差し置き,懇意にしていた業者に発注するため,安い見積書を不正に出させていたとのこと。学校と業者のなれ合い体制は根強く,今回のようなアルバム代のほか,修学旅行費,制服代なども「高止まり」のままです。高すぎる教育費は,「値切る」ことを知らぬ学校の責任でもあります。
コロナ感染防止のため,横須賀市では,3月3日から春休みまで市内の学校の臨時休校が決まった模様です。想定される,よからぬ副作用が生じないことを願います。
<2020年2月の教員不祥事報道>
・教諭が生徒219人分の氏名記載のファイルを紛失 横須賀
(2/1,神奈川新聞,神奈川,中)
・女子児童に「付き合おう」 20代男性教諭の処分検討
(2/1,産経,栃木,小,男,20代)
・ラグビー部員に高校教諭が体罰 府教委減給処分
(2/1,毎日,大阪,高,男,56)
・大阪市立中学で教師が再び体罰で懲戒処分
(2/1,ABCテレビ,大阪,中,男,54)
・悪ふざけした児童へノコギリ手に「足切るぞ」担任の女性教諭に懲戒検討
(2/3,共同通信,宮城,小,女)
・小学校の女性教員、同僚から現金盗んで懲戒免職
(2/5,TBS,栃木,小,女,24)
・筑波大付属高教諭、卒業生の成績など入ったUSBメモリー紛失
(2/6,毎日,東京,高,男,50代)
・研修旅行費盗んだ疑いで教諭逮捕(2/6,NHK,北海道,特,男,40)
・小学校教頭がトイレ盗撮疑い逮捕(2/6,NHK,福島,小,男,57)
・「感情だけで行動してしまった」 高校教諭がいじめアンケート改ざん
(2/7,毎日,鳥取,高,男,40)
・アルバム発注不正で小学校長処分(2/7,NHK,大阪,小,男,61)
・担任教諭が児童半数に体罰 停職6カ月の懲戒処分
(2/7,毎日,和歌山,小,男,46)
・ツイッターにわいせつ画像、男性教諭を減給(2/7,産経,大阪,小,男,34)
・関商工教諭が体罰と暴言で処分(2/7,NHK,岐阜,男37,50)
・校長が児童を平手打ち・山形(2/8,山形新聞,山形,小,男,60代)
・部活帰りに「弁当と飲んだ」中学校講師が酒気帯び
(2/10,テレ朝,香川,中男57)
・男性教諭がインド修学旅行の集合に遅れた生徒3人の腹たたく
(2/11,毎日,奈良,高,男,30代)
・わいせつ行為で男性教諭懲戒免職(2/12,NHK,千葉,中,男,20代)
・生徒への体罰で高校教諭を処分(2/12,NHK,山形,高,男,50代)
・保護者と性的関係の教諭など4人処分 道教委
(2/12,NHK,北海道,小,男,27)
・教育実習生にセクハラか 福教大付属中の教師
(2/13,FNN,福岡,中,男)
・「出頭する」と校長に手紙 生徒にわいせつ
(2/13,毎日,千葉,中,男,20代)
・酒気帯び運転で事故、小学校教諭を懲戒免職処分
(2/13,中京テレビ,三重,小,男,62)
・酒気帯び運転の小学校臨時講師に懲戒処分
(2/14,京都新聞,滋賀,小,男,27)
・特別支援学校の教諭 戒告(2/14,NHK,長崎,特,男,42)
・高校教諭2人を暴行と飲酒運転で懲戒処分
(2/14,琉球新報,沖縄,暴行:高男49,飲酒運転:高男32)
・セクハラに万引き、2教諭を停職処分
(2/15,毎日,広島,セクハラ:高男35,窃盗:高男57)
・女子中学生にわいせつ、54歳の公立中学教諭を逮捕
(2/17,神奈川新聞,埼玉,中男54)
・中学教諭を懲戒免職 乗用車窃盗容疑(2/17,産経,群馬,中,男,27)
・兵庫・飾磨工業高、体罰で柔道部顧問を自宅待機
(2/20,サンスポ,兵庫,高,男,55,20代)
・熊本市の中学教諭が体罰 過去にも体罰問題(2/20,NNN,熊本,中,男,57)
・特別支援学校生徒に暴力か、横浜 教諭逮捕
(2/21,東京新聞,神奈川,特,男,30代)
・児童買春疑い小学校臨時教諭逮捕(2/21,NHK,埼玉,小,男,28)
・中学校教諭が体罰で減給処分(2/21,NHK,和歌山,中,男,38)
・架空請求で府立高教諭を懲戒免職(2/21,NHK,大阪,高,男,64)
・入試の解答用紙毀損 茨城県教委、教諭ら4人懲戒処分
(2/21,産経,茨城,中等教育)
・教職員2人懲戒処分、人身事故や速度超過
(2/21,静岡新聞,静岡,事故:高男61 速度超過:小女35)
・英検の非公表資料を教諭が持ち出し、コピー(2/22,山陽新聞,広島,中高)
・横断歩道上で放尿…酔った高校教諭ら3人が未明に駅前で大騒ぎ
(2/22,読売,兵庫,高男38,26,24)
・愛媛・松山市 中学教諭が車で男性はねる
(2/24あいテレビ,愛媛,中,男,53)
・“顔伏せろ”体罰で教諭を処分(2/25,NHK,兵庫,中,男,33)
・女性更衣室侵入疑い講師を再逮捕(2/25,NHK,香川,中男57)
・受託収賄の教諭が失職(2/26,NHK,福岡,高,男,40)
・福岡県教委が“淫行”の教諭らを懲戒免職
(2/26,九州朝日放送,中男27,高男33)
・児童体罰で懲戒の小学校教諭 自宅待機処分中にFB投稿
(2/26,毎日,和歌山,小,男,46)
・生徒にわいせつ行為か 教諭逮捕(2/27,NHK,千葉,小,男,27)
・神戸市教育委員会 いじめ問題で加害側の教諭2人を懲戒免職処分
(2/28,産経,兵庫,中男30代)
・芦屋学園中・高の校長逮捕 自転車男性はね死亡事故
(2/29,日刊スポーツ,兵庫,中高,男,72)
・『サナギ』を食べさせる…パワハラで男性教師2人を懲戒処分
(2/29,FNN,兵庫,小,男,30代,40代)
2020年2月29日土曜日
2020年2月28日金曜日
一斉休校で困る子ども
コロナウィルス感染を防ぐため,全国の小・中・高校を一斉休校するよう,政府からお達しが出されるようです。
感染者が確認された自治体では,既に一斉休校に踏み切った所もあるようですが,全国一律に休校を促すとなると,そのインパクトは大きい。共働きやシングルの親御さんは青ざめています。子どもをどこに預ければいいのかと。
留守番は不可能,ないしは心もとない10歳未満の子どものうち,両親とも働いている世帯,親が働いている一人親世帯の子は結構います。やや古いですが,2015年の『国勢調査』から,その数を拾ってみると以下のようになります。
共働きの核家族世帯の子は415.1万人,親就労の母子世帯の子は36.5万人,父子世帯の子は2.7万人ほどです。これらを合算すると454万人,一斉休校で影響を被る子どもは結構な数に上ります。10歳未満の子どもの44.3%,半数近くに該当します。
保育園や幼稚園は休園になりませんが,小・中・高校生の子がいるスタッフが出勤困難になり,園の運営に支障が出ることも考えられます。就学前の乳幼児にも影響が及ぶとみてよいでしょう。
北海道の帯広の病院では,道内の臨時休校により子がいるスタッフが出勤できず,診療を縮小せざるを得ない状況になっています。社会はつながっているのです。思考停止の一斉休校は社会のシステム,とりわけ医療や福祉を崩壊させてしまう可能性が大です。
さすがに「行き過ぎ」に気づいたのか,今日の昼の報道によると,一斉休校はあくまで要請で,するかしないかの判断は,各自治体の教育委員会の判断に委ねられるとのこと。
思慮のある判断をしてほしいと思いますが,そのためのデータを紹介しようと思います。一斉休校で困る子どものパーセンテージです。上記のデータによると,共働きの核家族世帯,ないしは親就労の一人親世帯で暮らす10歳未満の子は454万人で,同年齢人口に占める割合は44.3%と出ました。このパーセンテージを都道府県別に出すと,以下のようになります。
一斉休校で影響を受けると思われる子どもの率です。全国値は44.3%ですが,県別にみると58.7%から39.2%までの開きがあります。
宮城県と福島県で低いですが,これは2015年のデータなので,2011年の大震災の影響があるのかもしれません(共働きができないでいる世帯が多い…)。山形県は,三世代世帯が多いからでしょう。東京都や神奈川県といった都市部は,主婦世帯が相対的に多いためとみられます(保育所不足のゆえ)。
対極の左上をみると,首位は宮崎県の58.7%,2位は高知県の56.7%,3位はわが郷里の鹿児島県で56.1%です。これらの県では,一斉休校による影響が甚大になりそうです。高齢化が進んだ県ですので,小・中・高校生の親御さんの中には,医療・福祉施設で働いている人も多いでしょう。舵を切る方向を誤ると,最悪,死人が出る事態も想定されます。
政令市のデータも計算しましたので,参考までに載せておきましょう。赤字は,都内23区の自治体です。
トップは,鹿児島市ですね。私は肌感覚で知っていますが,共働きの世帯が非常に多し。医療・福祉,また保育の現場で働いている,子持ちのママ・パパは数多くいます。浅はかな一斉休校で,これらの労働力が自宅に釘付けとなったら,恐ろしいことになるでしょう。
感染症は怖いですが,全国津々浦々で感染が確認されているわけではなく,コロナによる子どもの死者は皆無という統計もあります。冷静にデータをみて,とるべき政策を決定してほしいと願います。ここで示した,共働きの核家族世帯・シングル世帯の子どもの率も,参考にはなるでしょう。
無分別な一斉休校は感染防止というメリットをもたらしつつも,子持ちの労働力を自宅に縛り付け,結果として社会の崩壊をもたらすデメリットも持っています。私が目にしたデータで言えるのは,前者より後者がずっと大きいのではないか,ということです。
何もかも取りやめればいい,ということではありますまい。まずもって取りやめる(規制す)べきは,つばを交換しているようなものと言われる満員電車通勤です。そして整備すべきは,迅速・手軽な検査体制です。
感染者が確認された自治体では,既に一斉休校に踏み切った所もあるようですが,全国一律に休校を促すとなると,そのインパクトは大きい。共働きやシングルの親御さんは青ざめています。子どもをどこに預ければいいのかと。
留守番は不可能,ないしは心もとない10歳未満の子どものうち,両親とも働いている世帯,親が働いている一人親世帯の子は結構います。やや古いですが,2015年の『国勢調査』から,その数を拾ってみると以下のようになります。
共働きの核家族世帯の子は415.1万人,親就労の母子世帯の子は36.5万人,父子世帯の子は2.7万人ほどです。これらを合算すると454万人,一斉休校で影響を被る子どもは結構な数に上ります。10歳未満の子どもの44.3%,半数近くに該当します。
保育園や幼稚園は休園になりませんが,小・中・高校生の子がいるスタッフが出勤困難になり,園の運営に支障が出ることも考えられます。就学前の乳幼児にも影響が及ぶとみてよいでしょう。
北海道の帯広の病院では,道内の臨時休校により子がいるスタッフが出勤できず,診療を縮小せざるを得ない状況になっています。社会はつながっているのです。思考停止の一斉休校は社会のシステム,とりわけ医療や福祉を崩壊させてしまう可能性が大です。
さすがに「行き過ぎ」に気づいたのか,今日の昼の報道によると,一斉休校はあくまで要請で,するかしないかの判断は,各自治体の教育委員会の判断に委ねられるとのこと。
思慮のある判断をしてほしいと思いますが,そのためのデータを紹介しようと思います。一斉休校で困る子どものパーセンテージです。上記のデータによると,共働きの核家族世帯,ないしは親就労の一人親世帯で暮らす10歳未満の子は454万人で,同年齢人口に占める割合は44.3%と出ました。このパーセンテージを都道府県別に出すと,以下のようになります。
一斉休校で影響を受けると思われる子どもの率です。全国値は44.3%ですが,県別にみると58.7%から39.2%までの開きがあります。
宮城県と福島県で低いですが,これは2015年のデータなので,2011年の大震災の影響があるのかもしれません(共働きができないでいる世帯が多い…)。山形県は,三世代世帯が多いからでしょう。東京都や神奈川県といった都市部は,主婦世帯が相対的に多いためとみられます(保育所不足のゆえ)。
対極の左上をみると,首位は宮崎県の58.7%,2位は高知県の56.7%,3位はわが郷里の鹿児島県で56.1%です。これらの県では,一斉休校による影響が甚大になりそうです。高齢化が進んだ県ですので,小・中・高校生の親御さんの中には,医療・福祉施設で働いている人も多いでしょう。舵を切る方向を誤ると,最悪,死人が出る事態も想定されます。
政令市のデータも計算しましたので,参考までに載せておきましょう。赤字は,都内23区の自治体です。
トップは,鹿児島市ですね。私は肌感覚で知っていますが,共働きの世帯が非常に多し。医療・福祉,また保育の現場で働いている,子持ちのママ・パパは数多くいます。浅はかな一斉休校で,これらの労働力が自宅に釘付けとなったら,恐ろしいことになるでしょう。
感染症は怖いですが,全国津々浦々で感染が確認されているわけではなく,コロナによる子どもの死者は皆無という統計もあります。冷静にデータをみて,とるべき政策を決定してほしいと願います。ここで示した,共働きの核家族世帯・シングル世帯の子どもの率も,参考にはなるでしょう。
無分別な一斉休校は感染防止というメリットをもたらしつつも,子持ちの労働力を自宅に縛り付け,結果として社会の崩壊をもたらすデメリットも持っています。私が目にしたデータで言えるのは,前者より後者がずっと大きいのではないか,ということです。
何もかも取りやめればいい,ということではありますまい。まずもって取りやめる(規制す)べきは,つばを交換しているようなものと言われる満員電車通勤です。そして整備すべきは,迅速・手軽な検査体制です。
2020年2月21日金曜日
未婚者と有配偶者の死亡年齢
去年の出生数は,予測を大幅に下回り86万人。対して,寿命の延びにより高齢者は増える一方。日本の少子高齢化は止まらず,社会の維持存続が危ぶまれるレベルまで達しています。
日常生活にも,それが目に見える形で表れてきました。私は毎日の夕刻,1.5時間ほどウォーキングをし,道中のドラッグストアに立ち寄るのですが,先日目にした光景は凄かった。レジに並んでいた16人の客は,75歳は超えているであろう白髪の老人ばかり。レジ係は高校生バイト2名。逆ピラミッドの社会の現実を見事に表していて,写真に撮りたくて仕方ありませんでした。
私は今アラフォーですが,やがては(数少ない)下の世代の支えられる側になります。私は未婚者で,子どもはいません。人様が苦労して育て上げた子どもたちの世話になるのは,申し訳ない気もします。
そんな思いでいたところ,昨日,荒川和久氏の面白いグラフを目にしました。死亡者の年齢分布を配偶関係別にみたものです。
https://twitter.com/wildriverpeace/status/1230453410471612416
今は平均寿命が男女とも80歳を超え,もうすぐ人生100年の時代が到来すると言われています。しかし未婚男性の年齢層別の死亡者数をみると,ピークは60代後半にあります。私は興味を惹かれ,元資料の『人口動態統計』(2018年)にあたって,未婚男性の年齢層別の死亡者数を拾いました。日本人のデータで,離別者や死別者は含みません。
2018年の未婚男性の死亡者は7万3435人で,年齢層別にみると65~69歳が最も多くなっています。荒川氏のグラフの通りです。右端の累積%から,中央値(median)もこの階級に含まれることが分かります。按分比例で割り出しましょう。
按分比 =(50.0-45.2)/(63.2-45.2)= 0.2674
中央値 = 65歳 +(5歳 × 0.2674)= 66.3歳
未婚男性の死亡者の年齢中央値は66.3歳と出ました。国民全体の寿命よりもだいぶ短いですね。私も,これくらいで逝くのでしょうか。
荒川氏は「未婚男性は社会の世話にならず,ある意味,社会貢献している」と言われていますが,ちょっと気が楽になってきました。同時に,年金を払いたくないなあ,という気持ちも強まってきました。どうせ,恩恵を得ることはないのですから。
有配偶男性は長生きをします。同じ2018年の年齢層別死亡者数から中央値を出すと81.3歳で,未婚男性より15年も長くなっています。スゴイ違いですが,言わずもがな,ノーマルからかけ離れているのは未婚男性のほうです。なぜ短命か。食生活をはじめ,生活習慣がどうしても乱れがちなのが大きいでしょう。私自身,当事者なのでよく分かります。むろん,きちんとしている人もいるでしょうけど。
これは男性のデータですが,女性の数値を計算すると,様相が異なっています。男女の死亡者の年齢中央値を,未婚者と有配偶者で分けて出すと以下のごとし。2018年の『人口動態統計』から算出しました。
男性:
未婚者66.3歳 < 有配偶者81.3歳
女性:
未婚者81.9歳 > 有配偶者78.3歳
男性は未婚者より有配偶者がずっと長生きですが,女性は未婚者のほうが長生きするようです。傾向が男女で逆になっています。
デュルケムの名著『自殺論』では,家族の意味合いが男女で反対であると言い,女性にとって離婚は自殺の抑止因になると主張しています。「離婚を禁じることは,女性を逃げ場のない牢獄に閉じ込めるようなものだ」と。
結婚生活は,女性にとって抑圧的である。19世紀のヨーロッパの自殺統計に基づく知見なんですが,21世紀の東洋の日本にも当てはまりそうですよね。具体的には,どういうことが言えるか。昨日,上記のデータをツイッターで発信したところ,既婚女性の寿命が相対的に短い要因として,脳神経内科の先生が以下の4点を挙げてくださいました。
https://twitter.com/neurology_reha/status/1230464816629739520
・出産
・ストレス
・健診の機会が少なくなる
・受動喫煙
出産は身体への負荷になるでしょう。私の母は70歳で逝きましたが,晩年は重度のリウマチで寝たきりでした。高齢で私を出産後,ほとんど休まずに就労し,家事も一手に担ったことが仇になったようです(父親がだらしない人間でしたので)。
私はこれまで,夫婦の家事分担率のデータを何度も出してきましたが,日本の既婚女性のストレスが尋常でないことは,容易に察せられます。離職を強いられたり,夫の転勤のたびにキャリアや人間関係をリセットされるのも苦痛でしょう。
健診の機会は,結婚・出産で正社員を辞した主婦やパート勤務の場合,勤め先で受けることはできませんので,確かに少なくなるでしょう。自治体の健診に自発的に行こうにも,幼子を抱えている場合,時間が取れないというのもあります。家庭での受動喫煙の害については,言うまでもありません。
未婚者と既婚者の差は,女性より男性で大きくなっています。男性は結婚生活から恩恵を受けている,言い換えれば妻の献身への依存度が高いことが知られます。社会学の巨匠・デュルケムもびっくり,21世紀日本における,結婚生活のインパクトのジェンダー差です。
ヤフーニュースに「出生率0.98 韓国女性に広がる新たな価値観」という記事が出ています。結婚のデメリットが大きすぎ,結婚を忌避する傾向です。それは日本も同じで,未婚化が進むのは自然の理ともいえるでしょう。もう我慢ならんと。
結婚のメリデメのジェンダー差を変えられるか。男性の意識改革で何とかなる部分もありますが,窮屈な法律婚は御免という見方も広がっています。結婚はオワコン。であるなら,少子化に歯止めをかけるには,未婚,事実婚,同性婚,どういうライフスタイルを選ぼうが,子を産み育てられる社会を作るほかありません。
日常生活にも,それが目に見える形で表れてきました。私は毎日の夕刻,1.5時間ほどウォーキングをし,道中のドラッグストアに立ち寄るのですが,先日目にした光景は凄かった。レジに並んでいた16人の客は,75歳は超えているであろう白髪の老人ばかり。レジ係は高校生バイト2名。逆ピラミッドの社会の現実を見事に表していて,写真に撮りたくて仕方ありませんでした。
私は今アラフォーですが,やがては(数少ない)下の世代の支えられる側になります。私は未婚者で,子どもはいません。人様が苦労して育て上げた子どもたちの世話になるのは,申し訳ない気もします。
そんな思いでいたところ,昨日,荒川和久氏の面白いグラフを目にしました。死亡者の年齢分布を配偶関係別にみたものです。
https://twitter.com/wildriverpeace/status/1230453410471612416
今は平均寿命が男女とも80歳を超え,もうすぐ人生100年の時代が到来すると言われています。しかし未婚男性の年齢層別の死亡者数をみると,ピークは60代後半にあります。私は興味を惹かれ,元資料の『人口動態統計』(2018年)にあたって,未婚男性の年齢層別の死亡者数を拾いました。日本人のデータで,離別者や死別者は含みません。
2018年の未婚男性の死亡者は7万3435人で,年齢層別にみると65~69歳が最も多くなっています。荒川氏のグラフの通りです。右端の累積%から,中央値(median)もこの階級に含まれることが分かります。按分比例で割り出しましょう。
按分比 =(50.0-45.2)/(63.2-45.2)= 0.2674
中央値 = 65歳 +(5歳 × 0.2674)= 66.3歳
未婚男性の死亡者の年齢中央値は66.3歳と出ました。国民全体の寿命よりもだいぶ短いですね。私も,これくらいで逝くのでしょうか。
荒川氏は「未婚男性は社会の世話にならず,ある意味,社会貢献している」と言われていますが,ちょっと気が楽になってきました。同時に,年金を払いたくないなあ,という気持ちも強まってきました。どうせ,恩恵を得ることはないのですから。
有配偶男性は長生きをします。同じ2018年の年齢層別死亡者数から中央値を出すと81.3歳で,未婚男性より15年も長くなっています。スゴイ違いですが,言わずもがな,ノーマルからかけ離れているのは未婚男性のほうです。なぜ短命か。食生活をはじめ,生活習慣がどうしても乱れがちなのが大きいでしょう。私自身,当事者なのでよく分かります。むろん,きちんとしている人もいるでしょうけど。
これは男性のデータですが,女性の数値を計算すると,様相が異なっています。男女の死亡者の年齢中央値を,未婚者と有配偶者で分けて出すと以下のごとし。2018年の『人口動態統計』から算出しました。
男性:
未婚者66.3歳 < 有配偶者81.3歳
女性:
未婚者81.9歳 > 有配偶者78.3歳
男性は未婚者より有配偶者がずっと長生きですが,女性は未婚者のほうが長生きするようです。傾向が男女で逆になっています。
デュルケムの名著『自殺論』では,家族の意味合いが男女で反対であると言い,女性にとって離婚は自殺の抑止因になると主張しています。「離婚を禁じることは,女性を逃げ場のない牢獄に閉じ込めるようなものだ」と。
結婚生活は,女性にとって抑圧的である。19世紀のヨーロッパの自殺統計に基づく知見なんですが,21世紀の東洋の日本にも当てはまりそうですよね。具体的には,どういうことが言えるか。昨日,上記のデータをツイッターで発信したところ,既婚女性の寿命が相対的に短い要因として,脳神経内科の先生が以下の4点を挙げてくださいました。
https://twitter.com/neurology_reha/status/1230464816629739520
・出産
・ストレス
・健診の機会が少なくなる
・受動喫煙
出産は身体への負荷になるでしょう。私の母は70歳で逝きましたが,晩年は重度のリウマチで寝たきりでした。高齢で私を出産後,ほとんど休まずに就労し,家事も一手に担ったことが仇になったようです(父親がだらしない人間でしたので)。
私はこれまで,夫婦の家事分担率のデータを何度も出してきましたが,日本の既婚女性のストレスが尋常でないことは,容易に察せられます。離職を強いられたり,夫の転勤のたびにキャリアや人間関係をリセットされるのも苦痛でしょう。
健診の機会は,結婚・出産で正社員を辞した主婦やパート勤務の場合,勤め先で受けることはできませんので,確かに少なくなるでしょう。自治体の健診に自発的に行こうにも,幼子を抱えている場合,時間が取れないというのもあります。家庭での受動喫煙の害については,言うまでもありません。
未婚者と既婚者の差は,女性より男性で大きくなっています。男性は結婚生活から恩恵を受けている,言い換えれば妻の献身への依存度が高いことが知られます。社会学の巨匠・デュルケムもびっくり,21世紀日本における,結婚生活のインパクトのジェンダー差です。
ヤフーニュースに「出生率0.98 韓国女性に広がる新たな価値観」という記事が出ています。結婚のデメリットが大きすぎ,結婚を忌避する傾向です。それは日本も同じで,未婚化が進むのは自然の理ともいえるでしょう。もう我慢ならんと。
結婚のメリデメのジェンダー差を変えられるか。男性の意識改革で何とかなる部分もありますが,窮屈な法律婚は御免という見方も広がっています。結婚はオワコン。であるなら,少子化に歯止めをかけるには,未婚,事実婚,同性婚,どういうライフスタイルを選ぼうが,子を産み育てられる社会を作るほかありません。
2020年2月16日日曜日
アラフィフ女性が寝れないワケ
「働くママ 3時間睡眠の厳しすぎる現実」という記事が出ています。メモ用にと,コメントなしでツイッターでシェアしたところ,RTやファボが多くつき,関心が非常に高いことがうかがわれました。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70218
まあ「3時間睡眠」というのは,一部の悲惨なケースを切り取ったものでしょうが,日本人,とりわけ女性の睡眠時間が短いのはよく知られています。OECDの国際統計によると,2016年の日本人女性の平均睡眠時間は435分で,加盟国の中で最も短くなっています(OECD「Gender data portal 2019 Time use across the world」)。
435分といえば7時間15分,結構寝てるじゃんと思われるでしょうが,これは全年齢層をひっくるめた数値です。ライフステージごとにみると,様相はかなり違います。全体を眺めた後は,層別にみる。これは,データ観察のイロハです。
厚労省の『国民生活基礎調査』(2016年)に,性別・年齢層別の睡眠時間の分布表が出ています。1時間刻みの6カテゴリーと,区分がやや粗いのですが,これをもとに中央値を計算し,グラフにすると以下のようになります。
男女とも,アラフィフに底があるV字型になっています。いろいろ役割がのしかかるゆえか,この年代は相対的に寝れないようです。
私も今このステージなんですが,11時頃に寝て,7時前に起きるので8時間(480分)バッチリ寝ていることになります。上記グラフの軸外のようで,ちょっと申し訳ない気分になってきました…。フツーからかなり外れてるんだなと。
女性にあっては360分(6時間)を割っています。フツーのアラフィフ女性は,6時間寝れてないわけです。晩婚・晩産化の影響で,この年代でも育児中の人が多く,早い人だと老親の介護も始まります。「ダブルケア年代」と言われる所以ですが,そうしたダブルの負担が女性(妻)に偏していることも考えられます。
睡眠時間5時間未満の割合は,40代後半女性で13.2%,50代前半女性で13.4%です。冒頭の記事でいわれている「3時間睡眠」の人も,ネグリジブルスモールではありますまい。
日本のアラフィフ女性が寝れないワケ…。タイトルの問いなんですが,子育て経験のある女性なら,思い当たるところが大有りでしょう。そう,早朝の弁当作りです。
中学校までは給食がありますが,高校ではさにあらず。お昼の弁当を持たせないといけません。部活の朝練,はては遠距離の電車通学で子どもが家を早く出るとなったら,もう大変。朝5時起きで弁当をせっせと作るママさんもいることでしょう。
その様はデータで可視化できます。早朝の時間帯に家事をしている人の割合です。子持ちの男女を,末子の学校段階で4つのグループに分け,5~6時台の各時間帯(15分刻み)の家事実施者率をグラフにすると,以下のようになります。ソースは,2016年の『社会生活基本調査』です。
女性をみると,子どもの発達段階を上がるにつれ,早く起きて家事をしている人の率が高くなります。末子が高校生のグループ(黄色の線)をみると,5時半で3割,6時で半分近くが起きて家事をしています。弁当つくり,ないしは朝ごはんの支度でしょう。
男性はというと,4本の折れ線は寝そべったままです。子どもが中学,高校に上がろうが変化なし。うーん,早朝の時間帯,夫はグースカ寝ている傍ら,妻だけが早起きを強いられている光景がグラフの形に表れているようで,理不尽な思いがします。
「自分の分は自分で賄え,弁当くらいテメーで作りな」「日ごとにローテンションをする」…。こういう方針をとっている家庭の話を聞いたことがあります。高校生にもなれば,子どもにやらせるのも一つの策です。しかし,こういう家庭はほとんどないようです。
上表は,高校生男女と,高校生の子がいる男女(夫妻)の早朝の家事実施率です。家事(≒弁当作り)をしているのは,母親だけのようです。母親だけに負荷がかかっている,ワンオペの実態が見事に表れています。
言葉が適切か分かりませんが,わが国には夫婦の早朝格差とでも言い得る現象があるようです。
ちなみに,海外8か国の45~54歳女性の起床時間の中央値は,以下の時間帯に含まれます。2007年のISSP調査「LeisureTime and Sports」によります。睡眠時間の設問に回答している,8か国のデータです。
フィンランド ・・・ 6:45 ~ 6:50
アイルランド ・・・ 8:00 ~ 8:10
韓国 ・・・ 6:30 ~ 6:40
メキシコ ・・・ 6:45 ~ 6:50
ニュージーランド ・・・ 7:00 ~ 7:05
フィリピン ・・・ 5:00 ~ 5:10
ロシア ・・・ 7:00 ~ 7:05
スイス ・・・ 7:00 ~ 7:05
あいにく日本のデータはありませんが,上記の2番目のグラフから,5:45~6:00くらいではないかなと思われます。6時には,高校生の子がいる母親の半分近くが家事をしてますので。
これを適用すると,日本のアラフィフ女性の起床時間は諸外国より早いことが分かります。大家族の世話をするためか,フィリピンだけは異様に早いですが。
高校生の子がいる母親の苦難がデータではっきり分かるのですが,「子どもが高校に上がったら,こんな生活になるのか」と,暗澹たる気分になるママさんがおられるかもしれません。今のうちから,早朝のタスクについて話し合っておく,分担の取り決めをしておく,ということをしておいたほうがいいでしょう。
高校には給食はありませんが,購買部や学食はあります。私は母親が病気がちだったため,高校の頃,弁当を持って行った記憶がありません,購買部で総菜パンを買い,自分の席でパクついていました。周囲をみても,文庫本を読みながらサンドイッチを頬張っている子が多かったように思います。弁当の生徒のほうが少数派だったような。
毎日,購買部や学食だったら費用がもたないと言われるでしょうが,毎日,手の込んだ弁当を作らされるとあっては,お母さんの体力がもちません。両者を組みわせる,夫や子供に分担させる…。これをするだけでも母親の負荷はだいぶ減るはずですが,それが全くされてないことは,今回のデータから明らかです。
厄介なことに,今はSNSで「今日の弁当はコレ!」みたいな感じで,優美さを競うようなことが流行っていて,簡素な弁当を持っていきにくいようにすらなっています。子どもの数は減ってますが,弁当プレッシャーは以前よりも増しています。
諸外国の弁当は,非常に簡素です。「世界の弁当」といったワードでググってみられよ。「こんなんでいいの」と言いたくなる画像がわんさと出てきます。しかし異国の人にすれば,日本の弁当のほうが異常に映ります。「これを毎日作るのか」と。
共稼ぎの夫婦が増え,時代は変わっています。お母さんにのしかかっている負荷を減らし,しょーもない競り合いみたいなことを止める時です。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70218
まあ「3時間睡眠」というのは,一部の悲惨なケースを切り取ったものでしょうが,日本人,とりわけ女性の睡眠時間が短いのはよく知られています。OECDの国際統計によると,2016年の日本人女性の平均睡眠時間は435分で,加盟国の中で最も短くなっています(OECD「Gender data portal 2019 Time use across the world」)。
435分といえば7時間15分,結構寝てるじゃんと思われるでしょうが,これは全年齢層をひっくるめた数値です。ライフステージごとにみると,様相はかなり違います。全体を眺めた後は,層別にみる。これは,データ観察のイロハです。
厚労省の『国民生活基礎調査』(2016年)に,性別・年齢層別の睡眠時間の分布表が出ています。1時間刻みの6カテゴリーと,区分がやや粗いのですが,これをもとに中央値を計算し,グラフにすると以下のようになります。
男女とも,アラフィフに底があるV字型になっています。いろいろ役割がのしかかるゆえか,この年代は相対的に寝れないようです。
私も今このステージなんですが,11時頃に寝て,7時前に起きるので8時間(480分)バッチリ寝ていることになります。上記グラフの軸外のようで,ちょっと申し訳ない気分になってきました…。フツーからかなり外れてるんだなと。
女性にあっては360分(6時間)を割っています。フツーのアラフィフ女性は,6時間寝れてないわけです。晩婚・晩産化の影響で,この年代でも育児中の人が多く,早い人だと老親の介護も始まります。「ダブルケア年代」と言われる所以ですが,そうしたダブルの負担が女性(妻)に偏していることも考えられます。
睡眠時間5時間未満の割合は,40代後半女性で13.2%,50代前半女性で13.4%です。冒頭の記事でいわれている「3時間睡眠」の人も,ネグリジブルスモールではありますまい。
日本のアラフィフ女性が寝れないワケ…。タイトルの問いなんですが,子育て経験のある女性なら,思い当たるところが大有りでしょう。そう,早朝の弁当作りです。
中学校までは給食がありますが,高校ではさにあらず。お昼の弁当を持たせないといけません。部活の朝練,はては遠距離の電車通学で子どもが家を早く出るとなったら,もう大変。朝5時起きで弁当をせっせと作るママさんもいることでしょう。
その様はデータで可視化できます。早朝の時間帯に家事をしている人の割合です。子持ちの男女を,末子の学校段階で4つのグループに分け,5~6時台の各時間帯(15分刻み)の家事実施者率をグラフにすると,以下のようになります。ソースは,2016年の『社会生活基本調査』です。
女性をみると,子どもの発達段階を上がるにつれ,早く起きて家事をしている人の率が高くなります。末子が高校生のグループ(黄色の線)をみると,5時半で3割,6時で半分近くが起きて家事をしています。弁当つくり,ないしは朝ごはんの支度でしょう。
男性はというと,4本の折れ線は寝そべったままです。子どもが中学,高校に上がろうが変化なし。うーん,早朝の時間帯,夫はグースカ寝ている傍ら,妻だけが早起きを強いられている光景がグラフの形に表れているようで,理不尽な思いがします。
「自分の分は自分で賄え,弁当くらいテメーで作りな」「日ごとにローテンションをする」…。こういう方針をとっている家庭の話を聞いたことがあります。高校生にもなれば,子どもにやらせるのも一つの策です。しかし,こういう家庭はほとんどないようです。
上表は,高校生男女と,高校生の子がいる男女(夫妻)の早朝の家事実施率です。家事(≒弁当作り)をしているのは,母親だけのようです。母親だけに負荷がかかっている,ワンオペの実態が見事に表れています。
言葉が適切か分かりませんが,わが国には夫婦の早朝格差とでも言い得る現象があるようです。
ちなみに,海外8か国の45~54歳女性の起床時間の中央値は,以下の時間帯に含まれます。2007年のISSP調査「LeisureTime and Sports」によります。睡眠時間の設問に回答している,8か国のデータです。
フィンランド ・・・ 6:45 ~ 6:50
アイルランド ・・・ 8:00 ~ 8:10
韓国 ・・・ 6:30 ~ 6:40
メキシコ ・・・ 6:45 ~ 6:50
ニュージーランド ・・・ 7:00 ~ 7:05
フィリピン ・・・ 5:00 ~ 5:10
ロシア ・・・ 7:00 ~ 7:05
スイス ・・・ 7:00 ~ 7:05
あいにく日本のデータはありませんが,上記の2番目のグラフから,5:45~6:00くらいではないかなと思われます。6時には,高校生の子がいる母親の半分近くが家事をしてますので。
これを適用すると,日本のアラフィフ女性の起床時間は諸外国より早いことが分かります。大家族の世話をするためか,フィリピンだけは異様に早いですが。
高校生の子がいる母親の苦難がデータではっきり分かるのですが,「子どもが高校に上がったら,こんな生活になるのか」と,暗澹たる気分になるママさんがおられるかもしれません。今のうちから,早朝のタスクについて話し合っておく,分担の取り決めをしておく,ということをしておいたほうがいいでしょう。
高校には給食はありませんが,購買部や学食はあります。私は母親が病気がちだったため,高校の頃,弁当を持って行った記憶がありません,購買部で総菜パンを買い,自分の席でパクついていました。周囲をみても,文庫本を読みながらサンドイッチを頬張っている子が多かったように思います。弁当の生徒のほうが少数派だったような。
毎日,購買部や学食だったら費用がもたないと言われるでしょうが,毎日,手の込んだ弁当を作らされるとあっては,お母さんの体力がもちません。両者を組みわせる,夫や子供に分担させる…。これをするだけでも母親の負荷はだいぶ減るはずですが,それが全くされてないことは,今回のデータから明らかです。
厄介なことに,今はSNSで「今日の弁当はコレ!」みたいな感じで,優美さを競うようなことが流行っていて,簡素な弁当を持っていきにくいようにすらなっています。子どもの数は減ってますが,弁当プレッシャーは以前よりも増しています。
諸外国の弁当は,非常に簡素です。「世界の弁当」といったワードでググってみられよ。「こんなんでいいの」と言いたくなる画像がわんさと出てきます。しかし異国の人にすれば,日本の弁当のほうが異常に映ります。「これを毎日作るのか」と。
共稼ぎの夫婦が増え,時代は変わっています。お母さんにのしかかっている負荷を減らし,しょーもない競り合いみたいなことを止める時です。
2020年2月12日水曜日
理科の授業スタイルと理科嗜好・学力の関連
教員志望者が減っているといいます。民間の好景気もありますが,教育のブラック労働が世に知れ渡り,学生の間で「教員離れ」が起きている可能性もあるでしょう。
和訳すると,「児童・生徒の学習を促すため,教師は色々な工夫をする」って感じでしょうか。包括的ですが,授業への教師の熱意を測る指標としていいでしょう。この項目に対し「とても当てはまる(Agree a lot)」と答えた児童・生徒の率を出してみました。下記の集計ルーツによってです。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
「TIMSS 2015」の対象は小学校4年生と中学校2年生ですが,横軸に前者,縦軸に後者の肯定率をとった座標上に,22の国を配置すると以下のようになります。小4と中2の両方のデータがある国に絞っていることを申し添えます。
理科の授業で,教師がどれほど工夫をしているか。児童・生徒による評価ですが,日本は芳しくないようです。
最も強い肯定の率は小4で46%,中2では21%でしかありません。他国と比して低くなっています。日本よりももっと左下にあるのは,お隣の韓国です。受験社会なので,理科の授業で実験や討議等のアクティブラーニングの頻度が低いのは想像できますし,データでも出したことがあります。
https://synodos.jp/education/2055/2
右上には,イスラーム諸国が位置しています。国策として科学技術教育に力が入れられ,オイルマネーも注がれていると聞きますが,そういうお国柄なんで,理科の授業にも熱が入るのでしょうか。大国のアメリカも,授業の工夫度が高くなっています。
あくまで子どもの評定で,これが真かどうかは分かりません。仮に的を射ているとしても,日本の教師を責めるのは筋違いでしょう。過密カリキュラムで,ALをしたり,生徒に細かな配慮をするゆとりはありませんし,教師は多忙で入念な授業準備もできない状態ですので。
ちなみに児童・生徒の回答の選択肢は4つですが,日本の回答分布のパーセンテージは以下のようです。カッコ内の左は小4,右は中2の数値です。
teacher does a variety of things to help learn
・Agree a lot (46,21)
・Agree a little (39,52)
・Disagree a little (11,21)
・Disagree a little (11,6)
本題はここからで,これら4つの回答群ごとに,理科が好きという生徒の率,および理科の平均点を比べてみます。
上の表は,「教師は理科の授業で,理解を促すための色々な工夫をする」という項目への回答に依拠して,児童・生徒を4つのグループに分け,理科嗜好と理科学力を出したものです。
これによると,教師が理科の授業で工夫する度合いが高いグループほど,理科が好きという子の率が高く,理科の平均点も高いことが知られます。小4と中2とも,攪乱のないリニアな傾向です。
小・中学校の段階では,学力や偏差値による振るい分けがまだされてませんので,教師が熱心な授業をするクラスに富裕層の子が多い,というようなことはないでしょう。上表の傾向に,出身階層の影響は混じっていないと考えられます。すなわち,教師がどういう授業をするかが,子どもの理科嗜好や学力に影響する,ということです。
子どもの学力は出身階層に規定されますが,だからといって学校での実践が無力というのではありません。後者の影響が前者を上回るという希望すら持てます。生まれが貧しくとも,教え方次第で意欲や能力を引き出せる。
そういえば,阪大の研究グループが「効果のある学校(effective school)」という研究をやってましたね。学区の住民の階層構成が低いが,学力テストで高い結果を出している学校を綿密に調べたものです。私自身,マクロ統計を使って同種の分析をしたことがあります。この論文は,教育社会学会の学会誌に載りました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/130006906303
教育社会学者が子どもの学力の社会的規定性を繰り返し実証するのは,現場の教師を失望させるためではありません。むしろ,教師を救うことを意図しています。子どもの学力の社会的規定性という事実を知らしめることで,「学テの結果を教員給与に反映させよう」なんていう愚策を防げます。貧困家庭の子どもを支援する政策のエビデンスにもなります。
かといって,子どもの育ちはもっぱら環境に規定されるという宿命論に陥ってもなりません。実践によって,それを克服する余地は十分にあるのです。今回は,教師の授業スタイルの効果を見いだしたのですが,行政がなすべきは,不利な条件の学校の人員配置を手厚くする,学級規模を小さくするといった,制度・財政面の支援でしょう。
現場の先生方は,専門職としての自分の力量が,目の前の子どものすがたを大きく変えることになる,という自覚(誇り)を持ち,日々研鑽に励んでいただきたいと思います。行政の側は,学校の働き方改革を断行し,教員が授業に注力できる環境を整える責務があるのです。日本の現状がそれとは隔たっていることが,最初の散布図から分かるかと思います。
それに寄与したのは,教育社会学者が教員の過重労働を,データでぐうの音も出ぬほど明らかにしたことです。罪なことと思われるかもしれませんが,これを機に教員の働き方改革が進んでいるのですから,現実をしっかりと明らかにするって,大事なことだと感じます。
その教育社会学者が手掛けている冷徹な仕事として,子どもの家庭環境と学力の相関分析というのがあります。「学力格差」という言葉がすっかり浸透していますので,どういう知見が出ているかはご存知ですよね。家庭環境に恵まれた子ほど学力が高い,子どもの学力は出身階層に規定される,というものです。それが教育達成,将来の地位達成の差に連なり,結果として世代間の地位の再生産,貧困の世代連鎖のようなことも起きるわけです。
現場の教員としては,こういう事実をデータで突き付けられた時,驚きと同時に不快感(倦怠感)も生じることでしょう。子どもの学力は家庭環境に規定される,じゃあ自分たちの授業実践は無力なのかと。
いやいや,そんなことはありません。教育というのは,子どもの内に潜んでいる資質の芽や可能性を引き出すことなんですが,それがどの程度できるかは,教えることのプロである教員の技量に左右されます。それを示すデータをご覧に入れましょう。
IEAの国際学力調査「TIMSS 2015」では,中学校2年生に対し,理科の授業で教師はどういうことをするかと訊いています。「教師は生徒の発言をよく聞く」「実生活と関連付けて説明する」など,いろいろな項目を提示して反応をみる形式ですが,私は以下の項目への肯定率に注目しました。
teacher does a variety of things to help learn
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
「TIMSS 2015」の対象は小学校4年生と中学校2年生ですが,横軸に前者,縦軸に後者の肯定率をとった座標上に,22の国を配置すると以下のようになります。小4と中2の両方のデータがある国に絞っていることを申し添えます。
理科の授業で,教師がどれほど工夫をしているか。児童・生徒による評価ですが,日本は芳しくないようです。
最も強い肯定の率は小4で46%,中2では21%でしかありません。他国と比して低くなっています。日本よりももっと左下にあるのは,お隣の韓国です。受験社会なので,理科の授業で実験や討議等のアクティブラーニングの頻度が低いのは想像できますし,データでも出したことがあります。
https://synodos.jp/education/2055/2
右上には,イスラーム諸国が位置しています。国策として科学技術教育に力が入れられ,オイルマネーも注がれていると聞きますが,そういうお国柄なんで,理科の授業にも熱が入るのでしょうか。大国のアメリカも,授業の工夫度が高くなっています。
あくまで子どもの評定で,これが真かどうかは分かりません。仮に的を射ているとしても,日本の教師を責めるのは筋違いでしょう。過密カリキュラムで,ALをしたり,生徒に細かな配慮をするゆとりはありませんし,教師は多忙で入念な授業準備もできない状態ですので。
ちなみに児童・生徒の回答の選択肢は4つですが,日本の回答分布のパーセンテージは以下のようです。カッコ内の左は小4,右は中2の数値です。
teacher does a variety of things to help learn
・Agree a lot (46,21)
・Agree a little (39,52)
・Disagree a little (11,21)
・Disagree a little (11,6)
本題はここからで,これら4つの回答群ごとに,理科が好きという生徒の率,および理科の平均点を比べてみます。
上の表は,「教師は理科の授業で,理解を促すための色々な工夫をする」という項目への回答に依拠して,児童・生徒を4つのグループに分け,理科嗜好と理科学力を出したものです。
これによると,教師が理科の授業で工夫する度合いが高いグループほど,理科が好きという子の率が高く,理科の平均点も高いことが知られます。小4と中2とも,攪乱のないリニアな傾向です。
小・中学校の段階では,学力や偏差値による振るい分けがまだされてませんので,教師が熱心な授業をするクラスに富裕層の子が多い,というようなことはないでしょう。上表の傾向に,出身階層の影響は混じっていないと考えられます。すなわち,教師がどういう授業をするかが,子どもの理科嗜好や学力に影響する,ということです。
子どもの学力は出身階層に規定されますが,だからといって学校での実践が無力というのではありません。後者の影響が前者を上回るという希望すら持てます。生まれが貧しくとも,教え方次第で意欲や能力を引き出せる。
そういえば,阪大の研究グループが「効果のある学校(effective school)」という研究をやってましたね。学区の住民の階層構成が低いが,学力テストで高い結果を出している学校を綿密に調べたものです。私自身,マクロ統計を使って同種の分析をしたことがあります。この論文は,教育社会学会の学会誌に載りました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/130006906303
教育社会学者が子どもの学力の社会的規定性を繰り返し実証するのは,現場の教師を失望させるためではありません。むしろ,教師を救うことを意図しています。子どもの学力の社会的規定性という事実を知らしめることで,「学テの結果を教員給与に反映させよう」なんていう愚策を防げます。貧困家庭の子どもを支援する政策のエビデンスにもなります。
かといって,子どもの育ちはもっぱら環境に規定されるという宿命論に陥ってもなりません。実践によって,それを克服する余地は十分にあるのです。今回は,教師の授業スタイルの効果を見いだしたのですが,行政がなすべきは,不利な条件の学校の人員配置を手厚くする,学級規模を小さくするといった,制度・財政面の支援でしょう。
現場の先生方は,専門職としての自分の力量が,目の前の子どものすがたを大きく変えることになる,という自覚(誇り)を持ち,日々研鑽に励んでいただきたいと思います。行政の側は,学校の働き方改革を断行し,教員が授業に注力できる環境を整える責務があるのです。日本の現状がそれとは隔たっていることが,最初の散布図から分かるかと思います。
2020年2月6日木曜日
半ルームの若者
ツイッターのスレッドにしていることを,ブログで文章化しましょう。2月2日の日経新聞ウェブに「わずか3畳・極狭物件 無駄ない生活 若者に人気」という記事が出ています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55095980R30C20A1SHB000/
新たな若者の価値観だ,これから先,こういうコンパクト住居の需要が増すかもしれない…。肯定的なトーンで書かれている記事ですが,私はそうは思いませんでした。こういう部屋しか借りられないだけではないか,最初に抱いた感想はこうです。
私は前から,借家の家賃のデータをいじりまくっていますからね。上記記事では,東京都世田谷区の3畳物件が取り上げられていますが,統計に出ている,同区の最も狭い借家(5.9畳以下)の平均家賃は5.4万円となっています。2018年の『住宅土地統計』のデータです。
1ルームの最低家賃がこれなんですが,月収15万の若者がこの家賃の部屋を借りるのは容易ではありません。最近は,連帯保証人は立てなくていいから,家賃保証会社を使ってくれと言われることが多し。私が言われたところによると,家賃保証会社の審査パスの目安は,「家賃/年収」比が25%までだそうです。
許容家賃が月収の4分の1までとすると,月収15万の場合,家賃3.75万円までの部屋しか借りれません。拝み倒しても4万円くらいまでで,5万円超の部屋は借りれないでしょう。悲しいかな,月収15万円では,都内23区のどこにおいても,1ルームを借りるのも難しいようです(下図)。
遠距離の通勤地獄は御免と,23区内で1ルームを借りようにも,収入の少ない若者の場合,それはなかなか難しい。しからば「半ルーム」でいい,どうせ寝るだけだし…。こう考える人が出てきてもおかしくありません。
「月収14万」がツイッターのトレンド入りして話題になりました。若者の貧困化が進んでいます。ブログで月180万円稼いだ女子高生の記事が出ていますが,彼女が言うには,通っている高校で斡旋された求人は,月収12~13万円のものばかりとのこと。驚愕ものです。こういう惨状を目にしたことが,彼女をして,ネットビジネスに入れ込ませたようです。
https://news.livedoor.com/article/detail/17775438/
統計をみると,この子の高校がイレギュラーでないことがうかがえます。以下の表は,15~19歳の正社員の年間所得分布です。2017年の『就業構造基本調査』のデータによります。
男子の最頻階級は200万円台前半,女子あっては200万円を割っています。これは税引き前の所得なんで,手取りにすると分布はもっと下方にシフトします。女子にあっては,まさに「月収12~13万円」の世界でしょう。
ここまで虐げられる(舐められる)とあっては,リアルの職場から逃走し,ネットの世界で稼ごう,という思いを強くしても不思議ではありません。「ネットビジネスなんて胡散臭い,リアルの世界で額に汗して働くべきだ」なんて,誰が責めることができましょうか。
現実には,多くの若者がこんな超薄給での暮らしを強いられています。ゆえに,1ルームならぬ「半ルーム」への需要が増すと。藤田孝典氏の言い回しを借りると,ウサギ小屋を通り越して鳥かごです。これから半ルーム物件が続々と作られ,お金のない若者に供されるのでしょうか。「鳥かごに住む日本の若者」なんていう見出しが,海外のメディアに踊る日がくるかもしれません。
日本では高齢化が進んでおり,モノが売れない。おまけに,消費意欲旺盛な(稀少な)若者を鳥かごに押し込めているのだから,ますます始末に負えない…。こんな揶揄も添えられるでしょう。
3畳なんていう,物理的にも精神的にもゆとりのない部屋で暮らしていたら,心身を害する可能性が大です。そもそも,国が定める住居の基準を下回っていることは明白。貧困ビジネスにもなりかねない,極狭物件の供給なんていう事業は,国として取り締まるべきでしょう。並行して為すべきは,家賃補助等の住居支援です。
真っ当な「住」を保障することが,若者の離家・婚姻を促し,少子化の歯止めにも寄与します。新たな世帯を構えるのに必要な家電等の消費も増え,景気も刺激されます。山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』(1999年)に書かれていることですが,20年を経た今においても事態は変わらず,むしろ悪化の兆しすら見えます。
日本に行くと,鳥かごに押し込められることになる…。こんな評価が定着してしまうと,海外から若い労働力も来なくなってしまうでしょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55095980R30C20A1SHB000/
新たな若者の価値観だ,これから先,こういうコンパクト住居の需要が増すかもしれない…。肯定的なトーンで書かれている記事ですが,私はそうは思いませんでした。こういう部屋しか借りられないだけではないか,最初に抱いた感想はこうです。
私は前から,借家の家賃のデータをいじりまくっていますからね。上記記事では,東京都世田谷区の3畳物件が取り上げられていますが,統計に出ている,同区の最も狭い借家(5.9畳以下)の平均家賃は5.4万円となっています。2018年の『住宅土地統計』のデータです。
1ルームの最低家賃がこれなんですが,月収15万の若者がこの家賃の部屋を借りるのは容易ではありません。最近は,連帯保証人は立てなくていいから,家賃保証会社を使ってくれと言われることが多し。私が言われたところによると,家賃保証会社の審査パスの目安は,「家賃/年収」比が25%までだそうです。
許容家賃が月収の4分の1までとすると,月収15万の場合,家賃3.75万円までの部屋しか借りれません。拝み倒しても4万円くらいまでで,5万円超の部屋は借りれないでしょう。悲しいかな,月収15万円では,都内23区のどこにおいても,1ルームを借りるのも難しいようです(下図)。
遠距離の通勤地獄は御免と,23区内で1ルームを借りようにも,収入の少ない若者の場合,それはなかなか難しい。しからば「半ルーム」でいい,どうせ寝るだけだし…。こう考える人が出てきてもおかしくありません。
「月収14万」がツイッターのトレンド入りして話題になりました。若者の貧困化が進んでいます。ブログで月180万円稼いだ女子高生の記事が出ていますが,彼女が言うには,通っている高校で斡旋された求人は,月収12~13万円のものばかりとのこと。驚愕ものです。こういう惨状を目にしたことが,彼女をして,ネットビジネスに入れ込ませたようです。
https://news.livedoor.com/article/detail/17775438/
統計をみると,この子の高校がイレギュラーでないことがうかがえます。以下の表は,15~19歳の正社員の年間所得分布です。2017年の『就業構造基本調査』のデータによります。
男子の最頻階級は200万円台前半,女子あっては200万円を割っています。これは税引き前の所得なんで,手取りにすると分布はもっと下方にシフトします。女子にあっては,まさに「月収12~13万円」の世界でしょう。
ここまで虐げられる(舐められる)とあっては,リアルの職場から逃走し,ネットの世界で稼ごう,という思いを強くしても不思議ではありません。「ネットビジネスなんて胡散臭い,リアルの世界で額に汗して働くべきだ」なんて,誰が責めることができましょうか。
現実には,多くの若者がこんな超薄給での暮らしを強いられています。ゆえに,1ルームならぬ「半ルーム」への需要が増すと。藤田孝典氏の言い回しを借りると,ウサギ小屋を通り越して鳥かごです。これから半ルーム物件が続々と作られ,お金のない若者に供されるのでしょうか。「鳥かごに住む日本の若者」なんていう見出しが,海外のメディアに踊る日がくるかもしれません。
日本では高齢化が進んでおり,モノが売れない。おまけに,消費意欲旺盛な(稀少な)若者を鳥かごに押し込めているのだから,ますます始末に負えない…。こんな揶揄も添えられるでしょう。
3畳なんていう,物理的にも精神的にもゆとりのない部屋で暮らしていたら,心身を害する可能性が大です。そもそも,国が定める住居の基準を下回っていることは明白。貧困ビジネスにもなりかねない,極狭物件の供給なんていう事業は,国として取り締まるべきでしょう。並行して為すべきは,家賃補助等の住居支援です。
真っ当な「住」を保障することが,若者の離家・婚姻を促し,少子化の歯止めにも寄与します。新たな世帯を構えるのに必要な家電等の消費も増え,景気も刺激されます。山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』(1999年)に書かれていることですが,20年を経た今においても事態は変わらず,むしろ悪化の兆しすら見えます。
日本に行くと,鳥かごに押し込められることになる…。こんな評価が定着してしまうと,海外から若い労働力も来なくなってしまうでしょう。
2020年2月1日土曜日
転入超過率の年齢グラフの作り方
兵庫県の明石市が注目を集めています。ロスジェネ採用,養育費取り立て,給食費無償,弁護士職員起用,LGBT専門職員公募…。すごい自治体だなと思います。
2番目と3番目は,子育てファミリーにとってはうれしい,いや頼もしい限りです。こういう政策を実施することからして,子育て支援にもさぞ力を入れているのでしょう。市のホームページをみても,それはうかがえます。
しからば子育て年代をさぞ呼び込んでいるのだろうと思いますが,実態はどうなのでしょう。私は意地が悪いので,子育て支援で注目されている自治体のニュースをみると,こういうデータを見てみたくなります。現実を「見える化」すべく,以下のようなグラフを作ることにしています。
1年間の間に当該地域に越してきた人口(転入者),出て行った人口(転出者),前者から後者を引いた転入超過数,の3つの年齢カーブです。入ってくる人もいれば出ていく人もいますので,人口の吸引力の指標としては,最後の転入超過数に注目するのが一般的です。
上図は2019年の明石市のグラフですが,なるほど,20代後半から30代の子育て年代を呼び寄せているようですね。転入者が転出者よりも多く,転入超過数はプラスです。悲しいかな,三浦半島南端の三浦市だと転出者のほうが多いんで,緑色のバーがマイナスを向きます。
明石市は子育て支援に熱心で,それが効果を上げていることが統計からも知られます。今後もこの路線を突き進み,人にやさしい自治体の模範となってほしいと思います。
「このグラフは政策の検証にいい,自分の自治体のも見てみたい,作ってくれませんか」というリクエストがよく来ますが,私は「ご自分で作ってみてください」と返すことにしています。ソースは,誰でも利用できる『住民基本台帳人口移動報告』のデータですので。
上記の明石市のグラフをどうやって作ったかを,開陳いたしましょう。まず,政府統計の総合窓口(e-stat)の『住民基本台帳人口移動報告』のページを開きます。以下のような画面が出てきます。
1年間の人口移動のデータである年報は,基本集計と詳細集計に分かれますが,区市町村レベルの細かいデータは後者になります。詳細集計の「年次」をクリックします。どの年次のデータですかと訊いてきますので,最新の2019年をクリックします。
こんなふうに統計表の一覧が出てきますが,表番号16-3「年齢(5歳階級),男女別転入超過数-全国,都道府県,市区町村」のDBをクリックします。エクセルファイルを開いてもいいのですが,必要なデータだけを抽出できるDB機能のほうが,目的のデータを得るのは容易です。
それぞれの変数において,どの項目のデータを表示するかをしています。「項目を選択」をクリックし,以下のボックスにチェックを入れます。
性別 ⇒ 総数
年齢 ⇒ 0~4歳,5~9歳,…90歳以上の全ての年齢階層
都市間移動者数・その他
⇒ 転入者数,転出者数,転入超過数の3つ
国籍 ⇒ 移動者(外国人含む)
全国・都道府県・市区町村 ⇒ 明石市
選択し終わったら,レイアウト設定をクリックし,クロス表の体裁を指定します。
表側に年齢,表頭に都市間移動者数(転入者数,転出者数,転入超過数)を置くといいでしょう。「確定して表示を更新」をクリックすると,お目当てのデータが出てきます。明石市の年齢層別の転入者数,転出者数,転入超過数です。
子育て年代の転入超過数が多くなっていますね。この統計表を自分のエクセルにコピペし,グラフ化すれば,冒頭でお見せしたようなグラフになります。折れ線グラフにし,転入超過数だけは棒グラフにするといい思います。
これでおしまい。いたって簡単でしょう。慣れたら,ものの3分くらいで1つの自治体のグラフを作れるようになります。今説明したやり方にそって,ご自分の自治体のグラフを作ってみてください。年次も変えられますので,5年前,10年前の図と比較すれば,近年の子育て政策の効果も検出できるでしょう。
先ほど,人口吸引力の指標として転入超過数は使えるといいましたが,自治体間の比較をする際は,ベース人口で割った転入超過率にする必要があります。この転入超過率を自治体別に出して一覧表にすれば,「子育てに選ばれる街はどこか?」という問いに答える材料になります。
東京都内の49区市のデータを作ったので,ご覧にいれましょう。ここでは,0~9歳人口の転入超過率にしています。親年代(20代後半~30代)にすると,子どもがいない単身者等も混じっちゃいますので,子育てファミリーの移動を取り出せません。そこで,子ども人口の転入超過率に注目するわけです。
私が前に住んでいた多摩市だと,2019年間の0~9歳の転入超過数は122人で,同年1月1日の同年齢人口は1万1274人です。よって転入超過率は,前者を後者で割って1.08%となります。2019年の1年間の社会増によって,0~9歳の子どもが1.08%増えたことを意味します。
以下の表は,このやり方で出した子ども人口の転入超過率のランキングです。
東京都内の「子育てに選ばれる街」の指標ですが,いかがでしょう。上位には,西の市部が多いですね。首位は東村山市,2位は稲城市ですか。私が学生時代住んでいた小金井市は13位,30代を過ごした多摩市は14位となっています。自然が豊かで,子育てするにはいい所です。
都内でみると,出生率は東の区部のほうが高いので,子どもが大きくなったら,広い住宅を求めて郊外に移動するのでしょうか。都心に家を買うなんて容易ではないですしね。
東村山市の関係者さん,0~9歳の転入超過率という指標では,貴自治体は都内で1位と出ましたよ。子育て支援政策の紹介と絡めて,この点をアピールなさってはどうでしょうか。
2番目と3番目は,子育てファミリーにとってはうれしい,いや頼もしい限りです。こういう政策を実施することからして,子育て支援にもさぞ力を入れているのでしょう。市のホームページをみても,それはうかがえます。
しからば子育て年代をさぞ呼び込んでいるのだろうと思いますが,実態はどうなのでしょう。私は意地が悪いので,子育て支援で注目されている自治体のニュースをみると,こういうデータを見てみたくなります。現実を「見える化」すべく,以下のようなグラフを作ることにしています。
1年間の間に当該地域に越してきた人口(転入者),出て行った人口(転出者),前者から後者を引いた転入超過数,の3つの年齢カーブです。入ってくる人もいれば出ていく人もいますので,人口の吸引力の指標としては,最後の転入超過数に注目するのが一般的です。
上図は2019年の明石市のグラフですが,なるほど,20代後半から30代の子育て年代を呼び寄せているようですね。転入者が転出者よりも多く,転入超過数はプラスです。悲しいかな,三浦半島南端の三浦市だと転出者のほうが多いんで,緑色のバーがマイナスを向きます。
明石市は子育て支援に熱心で,それが効果を上げていることが統計からも知られます。今後もこの路線を突き進み,人にやさしい自治体の模範となってほしいと思います。
「このグラフは政策の検証にいい,自分の自治体のも見てみたい,作ってくれませんか」というリクエストがよく来ますが,私は「ご自分で作ってみてください」と返すことにしています。ソースは,誰でも利用できる『住民基本台帳人口移動報告』のデータですので。
上記の明石市のグラフをどうやって作ったかを,開陳いたしましょう。まず,政府統計の総合窓口(e-stat)の『住民基本台帳人口移動報告』のページを開きます。以下のような画面が出てきます。
1年間の人口移動のデータである年報は,基本集計と詳細集計に分かれますが,区市町村レベルの細かいデータは後者になります。詳細集計の「年次」をクリックします。どの年次のデータですかと訊いてきますので,最新の2019年をクリックします。
こんなふうに統計表の一覧が出てきますが,表番号16-3「年齢(5歳階級),男女別転入超過数-全国,都道府県,市区町村」のDBをクリックします。エクセルファイルを開いてもいいのですが,必要なデータだけを抽出できるDB機能のほうが,目的のデータを得るのは容易です。
それぞれの変数において,どの項目のデータを表示するかをしています。「項目を選択」をクリックし,以下のボックスにチェックを入れます。
性別 ⇒ 総数
年齢 ⇒ 0~4歳,5~9歳,…90歳以上の全ての年齢階層
都市間移動者数・その他
⇒ 転入者数,転出者数,転入超過数の3つ
国籍 ⇒ 移動者(外国人含む)
全国・都道府県・市区町村 ⇒ 明石市
選択し終わったら,レイアウト設定をクリックし,クロス表の体裁を指定します。
表側に年齢,表頭に都市間移動者数(転入者数,転出者数,転入超過数)を置くといいでしょう。「確定して表示を更新」をクリックすると,お目当てのデータが出てきます。明石市の年齢層別の転入者数,転出者数,転入超過数です。
子育て年代の転入超過数が多くなっていますね。この統計表を自分のエクセルにコピペし,グラフ化すれば,冒頭でお見せしたようなグラフになります。折れ線グラフにし,転入超過数だけは棒グラフにするといい思います。
これでおしまい。いたって簡単でしょう。慣れたら,ものの3分くらいで1つの自治体のグラフを作れるようになります。今説明したやり方にそって,ご自分の自治体のグラフを作ってみてください。年次も変えられますので,5年前,10年前の図と比較すれば,近年の子育て政策の効果も検出できるでしょう。
先ほど,人口吸引力の指標として転入超過数は使えるといいましたが,自治体間の比較をする際は,ベース人口で割った転入超過率にする必要があります。この転入超過率を自治体別に出して一覧表にすれば,「子育てに選ばれる街はどこか?」という問いに答える材料になります。
東京都内の49区市のデータを作ったので,ご覧にいれましょう。ここでは,0~9歳人口の転入超過率にしています。親年代(20代後半~30代)にすると,子どもがいない単身者等も混じっちゃいますので,子育てファミリーの移動を取り出せません。そこで,子ども人口の転入超過率に注目するわけです。
私が前に住んでいた多摩市だと,2019年間の0~9歳の転入超過数は122人で,同年1月1日の同年齢人口は1万1274人です。よって転入超過率は,前者を後者で割って1.08%となります。2019年の1年間の社会増によって,0~9歳の子どもが1.08%増えたことを意味します。
以下の表は,このやり方で出した子ども人口の転入超過率のランキングです。
東京都内の「子育てに選ばれる街」の指標ですが,いかがでしょう。上位には,西の市部が多いですね。首位は東村山市,2位は稲城市ですか。私が学生時代住んでいた小金井市は13位,30代を過ごした多摩市は14位となっています。自然が豊かで,子育てするにはいい所です。
都内でみると,出生率は東の区部のほうが高いので,子どもが大きくなったら,広い住宅を求めて郊外に移動するのでしょうか。都心に家を買うなんて容易ではないですしね。
東村山市の関係者さん,0~9歳の転入超過率という指標では,貴自治体は都内で1位と出ましたよ。子育て支援政策の紹介と絡めて,この点をアピールなさってはどうでしょうか。
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