2022年12月21日水曜日

都道府県別の大学進学率(2022年春)

  久々のブログ更新になります。今年の『学校基本調査』の確報結果が出ましたので,今年春の都道府県別の大学進学率を計算してみようと思います。

 文科省『学校基本調査』の年次統計をみると,今年春の大学進学率は56.6%と報告されています(コチラの表9)。おそらく,この数字の意味を正しく理解している人はごくわずかでしょう。大学進学率とは,同世代の中で大学に進学した人が何%かです。単純なようですが,計算の仕方はちょっと混み入っています。分子,分母を順に説明します。

 まず分子には,今年春の4年制大学入学者数を充てます(以下,4年制大学を大学と言います)。今年春の大学入学者は63万5156人(A)。

 分母は,今年春の推定18歳人口を使います。高校卒業者としたいところですが,同世代の中には高校に行かない人もいますので,これはNG。そこで3年前の①中学校卒業者,②中等教育前期課程卒業者,③義務教育学校卒業者の合算を使います。3年経った今年春の推定18歳人口と見立てるわけです。

 3年前(2019年)の『学校基本調査』によると,①は111万2083人,②は5346人,③は3856人。これらを合算し,今年春の18歳人口は112万1285人(B)と見積もられます。

 これで分子のA,分母のBが得られましたので,2022年春の18歳人口ベースの大学進学率は割り算をして,56.6%となる次第です。文科省の報告書に出ている56.6%と合致しますね。分子には過年度卒業生(浪人経由の大学入学者)も含みますが,今年春の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る人が同じくらい出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。

 以上が,公的に採用されている同世代ベースの大学進学率の計算方法です。今の日本では同世代の56.6%,2人に1人が大学に行く。メディアでよく言われていることですよね。

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 さて,本題はここからです。上記の56.6%は全国の数値ですが,地域別にみると大きな開きがあるであろうことは容易に推測されます。『学校基本調査』の結果概要には大学進学率の全国値しか出てませんが,都道府県別に同じ数値を算出する方法があります。今年春の都道府県別の大学進学率を独自に計算してみましょう。

 私の郷里の鹿児島県を例にします。本日公開された『学校基本調査』(高等教育機関編)に,大学入学者の数を,出身高校の所在地別に知れる統計表が出ています(コチラの表16)。これによると,今年春の大学入学者のうち,鹿児島県の高校出身者は6521人(過年度卒業生含む)。これが分子です。

 分母には,今年春の同県の推定18歳人口を充てるわけですが,3年前(2019年)の鹿児島県の中学校卒業者,中等教育前期課程卒業者,義務教育学校卒業者の合計は1万5445人。これが分母です。

 よって,今年春の鹿児島県の18歳人口ベースの大学進学率は,6521/1万5445=42.2%となります。先ほどみた全国値(56.6%)よりだいぶ低いですね。

 このやり方で,今年春の47都道府県の大学進学率を計算してみました。ジェンダー差もみたいので,男子と女子に分けた進学率も出しました。以下に掲げるのは,結果の一覧です。このデータは文科省の資料に出ているものではなく,私が独自に計算したものであることを申し添えます。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。最高は東京の76.8%,最低は秋田の39.6%となっています。40ポイント近い開きです。

 全国値は56.6%,「今では,同世代の2人に1人が大学に行く」なんて言われますが,50%を超えるのは24県,全都道府県の半分です。大学進学率が8割近い東京にいると,中学の同級生のほとんどが大学に行くなんて思いがちですが,地域別にみると,そうではない県のほうが多し。これが意味するところは,大学進学チャンスには大きな地域格差がある,ということです。

 「大学進学率の都道府県差は,各県の生徒の自発的な進路選択の結果だ」などと考える,おめでたい人はいないでしょう。一番低い秋田は,子どもの学力上位常連県ですよね。同じく学テ上位常連の北陸3県の大学進学率も高い方ではありません。大学進学率が低い県が,表の上と下,東北や九州に多いのも気になる。

 家庭の所得水準が低い,自宅から通える大学が少ない…。能力や意向とは違う,各県の社会経済要因に由来するであろうことは容易に推測できます。たとえば県民所得と絡めてみると,右上がりの傾向がみられます。所得が高い県ほど,大学進学率が高い傾向です。大学の学費は高額ですので,こうした費用負担の要因が関与するというのは道理です。

 親年代の大卒率とは,もっと強く相関しています。2020年の『国勢調査』から,45~54歳の大学・大学院卒率を都道府県別に出すと,東京は42.1%,秋田は15.5%(コチラより算出)。18歳生徒の親御さん年代の大卒率ですが,違いますね。

 全県のデータによる相関図は以下のようになります。


 明瞭なプラスの相関関係です。相関係数は+0.8を越えます。大卒の親は子どもの進学を肯定的にとらえやすい,というのもあるでしょう。ホワイトカラー職に就いている人が多く,大卒学歴の価値を認識している度合いが高いともいえます。

 非大卒の親は,子が「大学に行きたい」と言っても,「高い金出して行かなくても…」と止めてしまいがち。近くに大学がなく,下宿費まで出さないといけないとなったら,なおさらです。

 所得のような費用負担能力だけでなく,こうした文化的要因もあり得る。だいぶ前,東工大が,非大卒の親をもった学生向けの給付奨学金制度を創設すると発表し,注目を集めました。これなどは,保護者のモチベーション格差を埋める手立てと考えられます。

 あと大きいのは,地方では自宅から通える大学が少なく,都市部に出る下宿費もプラスで負担しなければならないことです。バカ高の学費に加え,仕送りの負担も加わる。所得水準が低い地方の家庭にとって,これは重い。東大は女子学生の家賃補助をしていますが,こういう支援も求められるところです。

 他にもいろいろ要因はありますが,ここで出した大学進学率の都道府県差は,社会経済要因の影響を強く被った「格差」としての性格を持つ。この点を押さえていただきたいと思います。本ブログでは,県別の大学進学率を毎年出していて,私が考えるところは述べています。読んでみたいという人は,左上の検索窓で「都道府県 大学進学率」という言葉を入れ,記事を探してみてください。

 最後に1点。最初の表を見てほしいのですが,沖縄県の大学進学率が50%となっています。昨年の43%と比して,かなり伸びています(2021年春の県別大学進学率はコチラ)。消費税の増税分を財源とした,高等教育無償化や給付奨学金制度の効果でしょうか。沖縄県の大学生の給付奨学金利用率は,47都道府県の中で最も高し。

 本日のニューズウィーク記事で書きましたが,奨学金は教育の機会均等に寄与しているのは事実です。問題は貸与型の比重が未だに高いことで,真の機会均等実現の助けとなる,給付型の比重を高めてほしいと願います。

2022年9月12日月曜日

未婚者と有配偶者の死亡率比較(死因別)

  新居に引っ越して,今日で2か月です。1ルームですが,家具の配置を工夫してどうにかしています。狭いだけにエアコンの効きはよく,ガスは都市ガス,そして無料wi-fiの部屋ですので,基礎経費は前居と比して安くなり,助かっています。

 駅チカで,横須賀中央まで15~20分ほどで出れるようになったのもいい。横須賀の名景として知られる馬堀海岸も近くで,毎日,海風に吹かれながら,ここをウォーキングしています。

 このように生活環境はかなり変わりましたが,独り身の自宅仕事は相変わらずで,生活に「他律」というものがなく,気の向くままに暮らしています。食事も「孤食」はもちろん,「固食」にもなりがちで,茶色いメニューが並んだ食卓に向かっては,「いかんなあ」と漏らすこともしばしばです。家族持ちなら,こういうことはないでしょうけどね。

 厚労省の『人口動態統計』をみてみると,私くらいの中年男性の死亡率は,既婚者より未婚者で高くなっています。未婚男子は不健康な食生活になりやすいからでしょうが,細かい死因別の死亡統計を比較してみると,この推測が確からしく思えてきます。

 『人口動態統計』から,主要死因の年間死亡者数を配偶関係別に知ることができます。2020年だと,コチラのサイトの下巻表7です。45~64歳の男女について,未婚者と有配偶者に分けて,主要死因の死亡者数を取り出すと以下のようになります。未婚者とは,一度も結婚したことがない人です。


 男性をみると,死亡者総数は未婚者が2万4624人,有配偶者が2万8258人となっています。後者の方がベース人口の上で多数なのですから,当然といえばそうです。

 しかし死因別にみると,「未婚者 > 有配偶者」のものが多くなっています。肺炎の死亡者は未婚者が750人,有配偶者が288人です。糖尿病や高血圧疾患による死亡者数も,未婚者は有配偶者の場合以上です。ベース人口の差を考慮すると,これらの病で命を落とす確率は,未婚者が有配偶者よりもだいぶ高いことになります。

 女性はこのような差はなく,全ての死因で「未婚者 < 有配偶者」となっています。ベース人口の差を反映しています。どうやら,懸念される「未婚者 > 有配偶者」の差は,とりわけ男性で顕著であるようです。ベース人口で割った死亡率にして,差を浮き彫りにしてみましょう。

 2020年の『国勢調査』によると,同年10月時点の45~64歳男性(日本人)の未婚者は347万3234人,有配偶者は1103万8376人となっています(コチラの統計表)。したがって,トータルの死亡率は以下のようになります。ベース10万人あたりの死亡者数です。

 未婚者=2万4624人/347万3234人=709.0人
 有配偶者=2万8258人/1103万8376人=256.0人

 同じ中高年男性でも,未婚者の死亡率は有配偶者の2.8倍ということになりますね。まあ分かり切ったことですが,死因別にみると,倍率が大きいのが出てきます。上表の各死因の死亡者数を,ベース人口で割った死亡率に換算し,「未婚者/有配偶者」の倍率が高い順に配列すると以下のごとし。


 肺炎による死亡率は未婚者が21.6,有配偶者が2.6。前者は後者の8.3倍です。糖尿病は7.5倍,高血圧は6.8倍,腎不全は6.4倍の開きが出ています。

 肺炎はタバコ,糖尿病は甘いもの,高血圧や腎不全は塩分の摂り過ぎが原因とみられますが,こういう習癖になりやすいのは,食を「他律」されることの少ない未婚者でしょう。とりわけ独り身の男性ではそうです。

 46歳の単身未婚男性の私は,まさに「懸念層」なんですが,思い当たる節は大有りですね。

 ちなみに死亡者(50歳以上)の年齢の中央値を計算してみると,男性の未婚者は69.95歳,有配偶者は81.79歳です。未婚者は既婚者より,12年ほど早死にです。女性では傾向が反対です。上記の死因別のデータをみると,さもありなんですね。

 うーん,年金の恩恵にあまりあずかれそうにないので,保険料を払いたくないなあ。

 命というのは,生活習慣と関連している。逆に言えば,きちんと自分を律することができれば好ましい方向に向くということでもあります。これから「食欲の秋」ですが,頭の片隅に置いておきたいことです。

2022年8月27日土曜日

奨学金利用率の地域差

  米国では,奨学金返済に苦しんでいる人を救うべく,1人あたり1万ドル,借入額をチャラにするそうです。日本円にして120万円くらいでしょうか。私も現在返済中ですが,これをやってくれたらどんなに有難いことかと思います。

 昔に比して大学進学率が上昇し,高等教育の機会が幅広い階層に開かれたといいますが,奨学金という名の借金を負わせることで,それが進められてきたのも事実です。よくないことに,有利子の比重も増しています。

 私の頃は,大学生の奨学金利用率は1割ほどで,ほとんどが無利子だったのですが,今では利用者数が膨れ上がり,無利子より有利子の枠が多くなっています。返済義務のない給付型も創設されましたが,利用者数では貸与型が大半を占めています。

 今の大学生は,どれほど奨学金を利用しているのでしょう。日本学生支援機構のHPに当たってみると,この点の情報は公開されています(コチラです)。2020年度の大学学部学生の給付人員は,給付型が20万2030人,第一種貸与型(無利子)が34万6508人,第二種貸与型(有利子)が53万8880人です。同年5月時点の大学学部学生数は262万3572人(文科省『学校基本調査』)。

 これらの情報を表に整理すると以下のごとし。


 奨学金を利用している大学生は,給付,無利子貸与,有利子貸与の合算でみて108万7418人。複数のタイプを重複利用する学生もいますので,延べ数であることに留意してください。まあ,そういう学生は少数でしょうから,奨学金を使っている学生の頭数の近似数とみてもよいでしょう。

 全学生に占める割合は,41.4%となります。最近では,大学生の4割(5人に2人)が奨学金を使っているのですね。そのうちの半分は,有利子の貸与です。奨学金と呼べた代物ではなく,まぎれもなく「ローン」です。

 学生支援機構のHPでは,47都道府県別の給付人員も公表されています(集計方法は,学校の所在地による)。分母となる全学生数は,『学校基本調査』をみれば分かります。

 私はこれらの情報をもとに,大学学部学生の奨学金利用者率を都道府県別に計算してみました。奨学金を利用している学生(給付,無利子貸与,有利子貸与の合算)が,全学生の何%かです。以下の表は,47都道府県の数値を高い順に並べたものです。


 大学学部学生のうち,奨学金を使っている人が何%かですが,地域差がありますね。最高は沖縄の66.1%,最低は滋賀の17.9%です。滋賀では,自宅から京都の大学に通う学生が多いのでしょうか。

 首都圏でも,奨学金を使っている学生は比較的少なくなっています。自宅から通うことが容易であることもあるでしょう。

 その一方で,奨学金の利用者率が50%を超える県が20あります。私の郷里の鹿児島は53.2%で,沖縄,青森,宮崎は6割超えです。所得水準が低いので,奨学金を借りないと進学が叶いにくいのでしょう。都市部の大学に出た場合は,下宿費用も加算されますしね。

 上表のランキングを眺めていると,各県の所得水準と相関しているように思えますが,どうなのでしょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』から,45~54歳(大学生の親年代)の男性有業者の所得分布を県別に出せます(コチラの統計表)。これをもとに中央値を計算すると,東京は633万円ですが,沖縄は332万円。倍近くの差です。

 こういう経済条件の差が,学生の奨学金利用に投影されていないか。横軸に親年代の所得中央値,縦軸に大学生の奨学金利用者率(上表)をとった座標上に,47都道府県のドットを配置すると以下のようになります。


 右下がりの負の相関関係が観察されます。父親年代の所得が低い県ほど,奨学金の利用率が高い傾向です。相関係数は,マイナス0.71861にもなります。

 地方(出身)の学生の奨学金利用率が高い事情は,上に述べたようなことだと思いますが,借金を負わせて(無理をして)進学させてるんだな,という思いを禁じ得ません。

 大学進学率50%超,高等教育のユニバーサル段階に達している日本ですが,(田舎の)学生に借金を負わせることで成り立っていると。地方は所得水準も低いので,卒業後に返していくのも大変です。数百万の借金を背負っていることは,結婚の足かせにもなるでしょう。前から申していますが,奨学金の利用増加は,未婚化・少子化にもつながっていると思うのです。

 高等教育の機会を若者に開くのはいいですが,家計(私費)依存の形でそれを推し進めると,国にとっても個人にとってもよからぬことになる。私費依存の教育拡張の病理です。高等教育への公的支出の対GDP比は,日本は諸外国と比して低いのはよく知られています。真のスカラシップ(給付型)を拡張する余地は大有りです。

 並行して,貸与型の奨学金は「学生ローン」と名称変更すべきです。これだけでも,安易な借り入れを防止することができます。奨学金という美名で釣って借金を負わせるなど,国のすることではありません。実際に勘違いする人もいて,(下の)私大で教えていた時,「奨学金って返すんですか?」と,真顔で驚く学生に会ったことがあります。

 今回は,地域別の大学生の奨学金利用者率を試算してみました。県によっては,大学生の5割,6割が数百万の借金を背負って社会に出ていく事態になっていると。若者が借金漬けになっているような地域では,希望も未来もあったものではありません。

 米国のような奨学金の一部チャラ政策をしてみるのもいい。それで足かせが外れ,婚姻率の上昇にもなればしめたものです。

2022年6月21日火曜日

小学校卒の人数

  2020年の『国勢調査』の学歴集計が公表されました。5年間隔で実施される基幹統計調査ですが,西暦の下一桁がゼロの年は学歴も調査されます。

 2020年調査では,小学校卒と大学院卒というカテゴリーが新設されています。時代と共に精緻化されているのは,好ましいことです。メディアでは前者の数が注目され,「小学校卒80万人」という見出しが,大手媒体の記事に踊っています。

 これについて「甘いな」と思うところがありますので,ここにて書かせていただこうと思います。

 まずは原資料から,15歳以上の学校卒業者の学歴回答分布を拾ってみましょう。コチラの統計表で呼び出せます。それによると,小学校卒が80万4293人,中学校卒が1126万41239人,高校・旧中卒が3784万5056人,短大・高専卒が1389万514人,大学卒が1983万9068人,大学院卒が206万874人,不詳が1505万9305人です(合計1億76万3239人)。

 なるほど,小学校卒は確かに80万人ほどです。しかし学歴不詳者も約1506万と,かなりいます。全体の15%ほどです。この中にも,小学校卒の人がいるでしょう。学歴は不詳(回答拒否等)が多いので,この部分をオミットするわけにはいきますまい。

 では,学歴不詳者の中に小学校卒は何人いるか。この点を推し量り,上記の80万4293人に加算する必要があります。いわゆる,不詳補完推計というものです。以下の表をもとに,手順を説明します。


 まずは,学歴回答者(小学校卒~大学院卒の合算)の中で,各学歴カテゴリーの人が何%かを出します。表のb欄がそれで,小学校卒は0.938%です。この割合を学歴不詳者にかけると14万1325人。この数が,学歴不詳者の中での小学校卒と推測されます。

 要するに,学歴回答者の中での割合でもって,学歴不詳者を各学歴カテゴリーに割り振る(按分する)わけです。その数は,表のc欄に示されています。

 よって,統計表で分かっている小学校卒80万4293人に,この割振り分(14万1325人)を足して,最終学歴が小学校卒の人の数は94万5618人と見積もられます。不詳補完推計による,より精緻化した数です。

 統計で分かる小学校卒は約80万人ですが,不詳者の割振り分を足すと95万人ほど。メディアでは「小学校卒80万人」という見出しが出ていますが,「小学校卒およそ100万人」としてもよいかと思います。結構な数ですね。多くは義務教育を終えられなかった高齢者や外国人等ですが,彼らが学ぶ夜間中学の整備が求められる所以です。

 そうした教育機会の整備は,地域レベルでなされるものですので,参考までに都道府県別の数値もお見せしましょう。学歴不詳者の割振り分も足した,不詳補完推計値です。


 多い順に並べていますが,最も多いのは北海道で6万3278人となっています。おおよそ人口規模と比例していますが,新潟,静岡,青森,岩手,沖縄といった県も上位であり,地域性のようなものも見受けられます。

 教育機会を欲している人の数です。各自治体は,こうした情報を把握し,学校の設置の参考にしてほしいと思います。コチラの統計表では,もっと細かく区市町村レベルの数も出せます。

 なお中学校卒も加えると,数はうんと膨れ上がります。最初の表によると,中学校卒(不詳補完推計値)は1324万3384人。東京都の人口より多いですね。今でこそ高校進学率は100%近いですが,昔はさにあらず。1960年代前半,団塊世代が15歳だった頃も6割ほどでした(地方では半分未満)。働きながら定時制高校に通う勤労青年もいましたが,卒業にこぎつけるのは容易ではありませんでした。

 「今からでも高校に…」。こういう思いの人もいるはずです。事実,孫世代の生徒と机を並べる高齢者のニュースはよく見ます。高校に,入学年齢の制限なんてありません。各地で高校統廃合が進んでいますが,教育機会を求めているのは10代の生徒だけにあらず。

 逆ピラミッドの年齢構成の社会では,上の世代も含めた教育計画の立案が求められるところです。それは,ここで出した小・中卒人口のマグニチュード(量)を一瞥するだけで分かります。

2022年4月26日火曜日

内面を生きる時期こそ読書を

  教員採用試験の勉強中の方はご存知かと思いますが,4月23日は,子ども読書の日でした。この日から5月12日までは,子ども読書週間で,子どもの読書を促す取組が各地で実施されます。

 ちょうど連休で時間もとれますので,書店や図書館に足を運び,本を手にとってほしいと思います。

 今の子どもは,どれくらい本を読んでいるか。調査データは無数にありますが,最近の信頼できる公的機関の調査データを見てみましょう。国立青少年教育振興機構が2019年に実施した,『青少年の体験活動等に関する意識調査』です。こちらのページで報告書と単純集計表を閲覧でき,必要とあらば,個票データも申請できます。

 調査対象は小4~6年の児童と,中2と高2の生徒です。1か月に読む本の冊数を尋ねた結果を,学年別にグラフにすると以下のようになります。選択された回答の分布です。漫画や雑誌は含みません。


 小学校4年生では回答が割れていますが,学年を上がるにつれ,「ほとんど読まない」の比重が増してきます。パーセンテージをみると,小4では18.5%でしたが,中2では29.5%となり,高2では58.8%まで跳ね上がります。中学生の3割,高校生の6割近くが本を読まないと。

 言わずもがな,これは受験のためでしょう。

 しかし残念な気もします。自我が芽生え,人生とは何か,自分はどう生きるかに思いをはせる,すなわち「内面」を生きる時期こそ,書物に多く触れることが望ましい。大よそ中高生の頃ですが,日本の現実をみると,本を読まない時期になってしまっています。ウチにこもりたいが,現実はそれを許さず,こうした葛藤が非行等の問題行動につながることもあるでしょう。

 ここで,1995年のジブリ「耳をすませば」が思い出されます。私が大学に入った年に公開された,中3生徒の恋物語です。池袋の映画館まで,1人で観に行った覚えがあります。館内はカップルが多く,居づらい思いをしましたがね…。

 主人公の月島雫は,天沢聖司に魅かれます。天沢少年は,高校には行かず,バイオリン職人になるための修行をすると決め,夢に向かって着々と進んでいく。それに触発され,雫は物語を書こうと決めます。受験勉強はそっちのけ,成績は急降下し家族に心配されますが,粗削りながら一つの作品を仕上げるに至ります。

 その結果,自分の不勉強を自覚し,「これではだめだ,高校に行ってもっと勉強せねば」と,勉学への内発的な動機付けが得られることになりました。無謀な試しですが,15歳の少女にとって非常に意義あるものだったのです。

 多感な思春期にいろいろな本に触れ,志あるならば「試し」をやってみる時間があればいいのにな,と思うのは私だけではありますまい。しかし日本では受験がありますので,なかなかそうはいかない。中高生が手にとる書物は,教科書か受験参考書だけ。

 ちなみに学力による高校受験というのは,どの国にもある普遍的なものではありません。OECDの国際学力調査「PISA 2018」では,15歳生徒が在籍する高校の校長に,入学者の決定に際して,学力を考慮するかと尋ねています。日本を含む主要国の回答分布は以下のごとし。


 日本の回答は予想通りです。「常に考慮する」,つまり入試で学力考査を実施する高校が大半ということです。

 しかし他国はそうではなく,アメリカは55%,イギリスは77%の高校が「全く考慮しない」と答えています。入試で学力テストを実施しない高校の率と読み替えていいでしょう。居住地域や,自校の教育方針に当該の生徒や親が賛同するかどうかなどで,入学者を選ぶわけです。

 高校受験の圧力は,国によって違います。日本の状況を普遍的なこと,致し方ないことと割り切る必然性はどこにもありません。思春期の生徒が奔放な「試し」ができるよう,できることはあるのではないか。入試の廃止は現実的でないですが,学力一辺倒のやり方は変えることができるように思います。

 そうですねえ。月島少女が背伸びして書き上げた物語を評価する,というのはどうでしょう。すなわち,「試し」の成果を評価要素に入れるのです。そうすることで,思春期の感性を存分に生かした「試し」が促され,結果として,勉学への内発的な動機づけが得られるきっかけを供することになるかもしれません。

 月島少女の頃(90年代半ば)と違って,今は「試し」の成果を発信するツールもたくさんあるわけでしてね。ブログ,SNS,ユーチューブとか。フィードバックを得るのも容易です。

 昭和型の受験勉強を強いることを,(惰性で)いつまでも続けていていいものか。型にはまった労働力を大量生産するにはいいやり方ですが,個性や創造力を育むことには不向きです。昭和と時代背景が異なる令和では,入試のやり方を考え直す余地はあるでしょう。

 読書の話から逸れてきましたが,中高生が書物を手に取れる「ゆとり」が得られるようにすべきです。朝の10分間読書でよし,としてはならないのです。

2022年3月28日月曜日

医学部入学チャンスの性差の変化

 毎年公表されるジェンダーギャップ指数で無様な位置にある日本ですが,とくに酷いのは政治分野です。2021年のデータだと,156か国中147位。国会議員の女性比率が低いことを思うとさもありなんです。今年は参院選ですが,こうした歪みが正されることを切に願います。

 女性比率が低いのは政治家だけではありません。高度専門職も然り。たとえば医師の女性比率をみると,2019年の日本の数値は21.8%です(OECD「Health at a Glance 2021」)。

 われわれ日本人の感覚からすれば「そんなもんだろう」かもしれません。しかし国際的にみると全然普遍的ではなく,先進国の数値を拾うとアメリカは37.0%,イギリスは48.6%,スウェーデンは49.6%と,男女ほぼ半々です。OECD加盟の37か国について,医師の性別構成を比較すると以下のようになります。女性比率が高い順に並べています。


 37か国中14か国において,医師の女性比率が50%を超えています。女性医師のほうが多い,ということです。「医師といえば,まあ男性」。われわれ日本人が抱いている,こんなイメージが覆されますね。

 日本はといえば,見事に最下位です。自分たちが日ごろ目にしている光景は普遍的でも何でもない,むしろ特異である。このことを胸に刻みましょう。

 この惨状がなぜかについては,女子が医師などを志すを表明すると周囲から「止めろ」と言われる,理系の進路に進もうとすると変わり者扱いされる,そもそも女性医師のモデルに接する機会が乏しい…。こんなことがよく言われますが,こうした社会の風潮とは別の可能性も見えてきています。医学部入試での不正です。

 2018年,某私立大学医学部入試で女子の点数を操作していた不正が発覚しました。女性医師は職場の定着率が低い,できるだけ男子をとりたい・・・。こんな思惑でしょうが,医師を志す女子をあざ笑うもので断じて許し難し。

 今朝の朝日新聞ウェブに,近年の医学部合格率の性差が出ていました。不正が発覚した2018年以降,女子の医学部合格率が男子を上回るようになったとのこと。フェア?な競争にしたら,やっぱりこうなると。

 こういう傾向は官庁統計にも出ています。文科省の『学校基本調査』に,大学の医学専攻の入学志願者(延べ数)と,実際の入学者の数が出ています。後者を前者で割れば,合格率の相似値になるでしょう。データがとれる2015年から2021年までの推移を跡付けると以下のごとし。


 注目は,一番下の入学者率です。ご覧あれ,不正が発覚する2018年までは「男子>女子」でしたが,翌年から現在まで見事に反転しています。統計は正直です。

 データの提示は省きますが,国公立大学の医学専攻はこうした傾向はありません。2015年からずっと,男子と女子の入試突破率は近似しています。2018年以降,ガラッと変わったのは私立独特の傾向です。

 某マンモス私大の理事長の脱税が明るみになり,裁判になっています。私大のガバナンスの在り方について問われていますが,一族経営の私学もあるあけで,こういう所では独裁体制もしかれやすい。日本では,公教育に占める私学の比重が高いわけで(とくに高等教育),そこでの経営の歪みは次代を担う青年教育の破壊に直結します。国として,きちんと監督はすべきです。

2022年2月11日金曜日

ロスジェネを教員に

  教員不足が言われています。佐賀県は,小学校教員採用試験を春・秋と,年2回実施するのだそうです(昨日の読売新聞)。夏に受験できなかった人,ないしは他の自治体で不合格になった人を,秋試験で受け入れられますね。

 2021年度の公立小学校教員採用試験(2020年夏実施)の受験者は4万3448人,採用者は1万6440人。競争率は前者を後者で割って2.64倍です。後で述べますが,私の頃と比してだいぶ下がっています。当然,自治体による差もあります。地域差はあまり報じられませんので,私が計算したデータをご覧に入れましょう。

 下の表は,2021年度の小学校試験の競争率を都道府県別に算出し,高い順に並べたものです。政令市は,所在する県の分に含めています。たとえば横浜市の受験者,採用者は神奈川県に含めています。資料は,文科省『公立学校教員採用選考試験の実施状況』です。


 全国値は2.64倍ですが,県による違いがあります。今でも5倍越えの県は3県,マックスは高知の6.85倍です(受験者918人,採用者134人)。

 その一方で13の県で2倍を割っており,最低の佐賀では1.42倍です(受験者280人,採用者197人)。逆の角度で言うと合格率は70%,受験者の7割が通ると。受験者にすれば有難いですが,採用側の心中は穏やかではないでしょう。新規採用者の質の担保も難しいと,頭を抱えているかと思います。それで夏・秋の年2回,採用試験を行うことにしたと。

 リクルートの裾野を広げる上で妙案だと思いますが,上の世代にも目を向けてほしいと思います。われわれロスジェネです。大学卒業時が不況のどん底で,教員採用試験の競争率がものすごく高く,優秀であっても夢破れて教員になれなかった人が多くいます。2000年度の公立小学校採用試験(1999年夏実施)の競争率は12.53倍でした。県別にみると,もっと凄まじい値が出てきます。


 私の頃のデータですが,多くの県で10倍を超えています。20倍を超えるのは11県。マックスの和歌山は54.17倍にもなっていて,何かの間違いではないかと,原資料を何度も確認しましたが,受験者325人,採用者6人という数字がバッチリ記録されています。

 現在,競争率が1.42倍と最も低い佐賀県も,当時は20倍超えでした。現在40代半ばになっていますが,優秀でありながらも,夢破れて教壇に立てなかった人が多くいるかと思われます。

 私の世代では,教員免許状を持ちつつもそれを活用していない,つまり教員になってない人は数で見てどれほどいるのでしょう。私は1999年春に大学を出ましたが,同年春の小学校教員普通免許状授与数は2万205件(文科省『教員免許状授与件数等調査』)。この世代は2019年に43歳ですが,同年の43歳の小学校本務教員は7437人(文科省『学校教員統計』)。単純に考えると,この世代の小学校教員免許活用率は36.8%です。残りの63.2%,実数で見て1万2768人は,いわゆるペーパーティーチャーであると。私もそのうちの一人です。

 小学校教員免許状を持ちつつも,それを使っていない。ロスジェネには,こういうペーパーティーチャーが,上記の数を5倍して6万人はいるのではないでしょうか。採用試験がものすごく厳しかった世代ですので,優秀な人も多く含まれているはずです。最近,地方公務員や国家公務員採用試験で,ロスジェネ限定試験が実施されるケースが増えていますが,教員採用試験でもやってみたらどうでしょう。「夢よもう一度」と,優秀な人材が押し寄せるかもしれません。

 そのためには制度改正も必要で,この世代が有している,失効した教員免許状を回復させる措置が必要です。教員免許更新制の廃止は決まりましたが,失効した教員免許状の回復措置がないならば,幅広い世代からの応募は叶いません。現在,なり手が不足している産休代替教員を募る上でも欠かせません。

 2019年春に,朝日新聞から「ロスジェネ救済策」について取材を受けましたが,今だったら,教員をはじめとした「公」の仕事への吸収促進を,と答えていたでしょう。

2022年1月8日土曜日

失業と自殺の相関の性差

  コロナ禍が少し和らいだかと思いきや,今度はオミクロン株の台頭で,人々の暮らしが再び脅かされています。政府はまん延防止措置を適用する方針で,経済活動はまたも制限され,失職し生活に困る人が出てくるのではと懸念されています。公的扶助も不十分で,助けてももらえず,悲観して自らを殺めてしまうこことも…。

 自己責任の風潮が強い日本では,こういう事態がしばしばあることは,よく知られています。データでも「見える化」できます。失業と自殺の時系列相関でです。とくに男性では強く相関するのが常です。働いて稼ぎを得るという役割期待が,ものすごく大きいためでしょう。

 しかし,コロナ禍になって以降のデータを観察すると「?」という傾向が出てきます。こここ10年余りのデータ照らしても特異であることが判明しましたので,ここにてデータを提示し,議論の喚起に与せたらと思います。コロナ禍が始まったのは2020年春ですので,観察するのは月単位のデータです。以下は,2019年1月から2021年11月までの失業者数と自殺者数の推移です。前者は総務省『労働力調査』,後者は警察庁『自殺の概要』から得ました。


 どうでしょう。男女とも,コロナ禍になってから失業者数が増えています。男性は100万人,女性は70万人を超える水準が続いています。この35か月間の失業者数の分布幅は,男性は91~131万人,女性は62~88万人です。

 一方,自殺者数の幅は,男性は1012~1341人,女性は433~889人と,女性のほうが大きくなっています。

 さて,ここでの関心事は上表の失業と自殺がどう相関しているかです。横軸に失業者数,縦軸に自殺者数をとった座標上に,男女の35か月のドットを位置付けてみます。下図は,結果を1枚の図に表現したものです。


 失業者数,自殺者数ともに多い男性のドットは,図の右上のほうに位置します。しかし,失業と自殺の間に有意な相関関係は見受けられません。一方,女性の失業と自殺は+0.6841と,強いプラスの相関関係にあります。

 上述のように,失業と自殺は男性で強く相関するのが常なんですが,コロナ禍の月単位のデータでは逆になっています。コロナで失職したのは,販売やサービス産業の非正規女性なんですが,生活に切羽詰まったシングルマザーなどが多かったのでしょうか。

 他の時期ではどうなのか,という疑問もあるでしょう。2010年以降の3年間隔で,男女の失業と自殺の相関係数を算出すると以下のようになります。それぞれ,3年間(36か月)のデータから出した数値です。

2010年1月~2012年12月
 男性=+0.5361 女性=+0.2079

2013年1月~2015年12月
 男性=+0.6419 女性=+0.4772

2016年1月~2018年12月
 男性=+0.3072 女性=+0.1983

2019年1月~2021年11月
 男性=+0.1588 女性=+0.6841

 どの時期でも男性のほうが高かったのが,コロナ禍を含む最近3年間では逆転しています。「失業→生活苦→自殺」という推定因果経路は,男性より女性で強くなっていると。コロナ禍では,失業した人の層が違います。先に述べたように,販売やサービスの非正規女性です。この中には,失職したら即生活破綻というギリギリの生活をしている人も含まれるでしょう。たとえばシングルマザーです。

 こういう人たちに公的扶助の手が差し伸べられたらいいのですが,日本の生活保護はあまり機能していません。ツイッターで何度か発信しましたが,コロナ禍になっても生活保護受給者数の棒グラフは真っ平です。母子世帯にあっては,減少の傾向すらあります(詳細はコチラの記事)。母子世帯をターゲットにして,生活保護削減が図られているのではないか,という疑いもあるくらいです。

 こういうことから,コロナ禍になって,女性の失業と自殺が強く相関するようになっていることも考えられますね。コロナ禍でダメージを受けているのは社会の弱い層で,公的支援の手も差し伸べられない…。こうした病理の表れではないか。

 コロナ禍で生活に困っている人(とくに女性)が増えているにもかかわらず,生活保護受給者は横ばいで,母子世帯に限ると減少傾向すらある。どう考えてもおかしい。生活保護の運用実態について,外部機関による厳格な検証が入るべきです。