久々のブログ更新になります。今年の『学校基本調査』の確報結果が出ましたので,今年春の都道府県別の大学進学率を計算してみようと思います。
文科省『学校基本調査』の年次統計をみると,今年春の大学進学率は56.6%と報告されています(コチラの表9)。おそらく,この数字の意味を正しく理解している人はごくわずかでしょう。大学進学率とは,同世代の中で大学に進学した人が何%かです。単純なようですが,計算の仕方はちょっと混み入っています。分子,分母を順に説明します。
まず分子には,今年春の4年制大学入学者数を充てます(以下,4年制大学を大学と言います)。今年春の大学入学者は63万5156人(A)。
分母は,今年春の推定18歳人口を使います。高校卒業者としたいところですが,同世代の中には高校に行かない人もいますので,これはNG。そこで3年前の①中学校卒業者,②中等教育前期課程卒業者,③義務教育学校卒業者の合算を使います。3年経った今年春の推定18歳人口と見立てるわけです。
3年前(2019年)の『学校基本調査』によると,①は111万2083人,②は5346人,③は3856人。これらを合算し,今年春の18歳人口は112万1285人(B)と見積もられます。
これで分子のA,分母のBが得られましたので,2022年春の18歳人口ベースの大学進学率は割り算をして,56.6%となる次第です。文科省の報告書に出ている56.6%と合致しますね。分子には過年度卒業生(浪人経由の大学入学者)も含みますが,今年春の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る人が同じくらい出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。
以上が,公的に採用されている同世代ベースの大学進学率の計算方法です。今の日本では同世代の56.6%,2人に1人が大学に行く。メディアでよく言われていることですよね。
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さて,本題はここからです。上記の56.6%は全国の数値ですが,地域別にみると大きな開きがあるであろうことは容易に推測されます。『学校基本調査』の結果概要には大学進学率の全国値しか出てませんが,都道府県別に同じ数値を算出する方法があります。今年春の都道府県別の大学進学率を独自に計算してみましょう。
私の郷里の鹿児島県を例にします。本日公開された『学校基本調査』(高等教育機関編)に,大学入学者の数を,出身高校の所在地別に知れる統計表が出ています(コチラの表16)。これによると,今年春の大学入学者のうち,鹿児島県の高校出身者は6521人(過年度卒業生含む)。これが分子です。
分母には,今年春の同県の推定18歳人口を充てるわけですが,3年前(2019年)の鹿児島県の中学校卒業者,中等教育前期課程卒業者,義務教育学校卒業者の合計は1万5445人。これが分母です。
よって,今年春の鹿児島県の18歳人口ベースの大学進学率は,6521/1万5445=42.2%となります。先ほどみた全国値(56.6%)よりだいぶ低いですね。
このやり方で,今年春の47都道府県の大学進学率を計算してみました。ジェンダー差もみたいので,男子と女子に分けた進学率も出しました。以下に掲げるのは,結果の一覧です。このデータは文科省の資料に出ているものではなく,私が独自に計算したものであることを申し添えます。
全国値は56.6%,「今では,同世代の2人に1人が大学に行く」なんて言われますが,50%を超えるのは24県,全都道府県の半分です。大学進学率が8割近い東京にいると,中学の同級生のほとんどが大学に行くなんて思いがちですが,地域別にみると,そうではない県のほうが多し。これが意味するところは,大学進学チャンスには大きな地域格差がある,ということです。
「大学進学率の都道府県差は,各県の生徒の自発的な進路選択の結果だ」などと考える,おめでたい人はいないでしょう。一番低い秋田は,子どもの学力上位常連県ですよね。同じく学テ上位常連の北陸3県の大学進学率も高い方ではありません。大学進学率が低い県が,表の上と下,東北や九州に多いのも気になる。
家庭の所得水準が低い,自宅から通える大学が少ない…。能力や意向とは違う,各県の社会経済要因に由来するであろうことは容易に推測できます。たとえば県民所得と絡めてみると,右上がりの傾向がみられます。所得が高い県ほど,大学進学率が高い傾向です。大学の学費は高額ですので,こうした費用負担の要因が関与するというのは道理です。
親年代の大卒率とは,もっと強く相関しています。2020年の『国勢調査』から,45~54歳の大学・大学院卒率を都道府県別に出すと,東京は42.1%,秋田は15.5%(コチラより算出)。18歳生徒の親御さん年代の大卒率ですが,違いますね。
全県のデータによる相関図は以下のようになります。