暦の上では,夏も今日でおしまいです。いやー,8月の上旬は暑かった。外出できない日が続いて,ちと太ってしまいました。しかし,下旬は曇天が続いていること。こうもお日様が出ない日が続くと,気が滅入ります。
さて,今月私がネット上で把握した教員不祥事報道は30件です。いつも通り,わいせつや盗撮が多数ですが,酔っぱらって線路に寝たという,珍しい事案もありました。
明日から9月です。中旬から授業も始まります。武蔵野大学は今年度から4学期制になっているのですが,1回180分(3時間)の授業をどうするか,考えています。
<2015年8月の教員不祥事報道>
・酒酔い運転容疑で小学教諭を現行犯逮捕(8/2,読売,奈良,小,男,28)
・女児の裸見たかった」盗撮目的で侵入 容疑の教諭逮捕
(8/4,埼玉新聞,埼玉,小,男,25)
・鼓膜破る体罰で中学校教諭を懲戒処分(8/6,産経ニュース,青森,中,男,49)
・セクハラ行為の校長は停職、飲酒運転で追突の教諭は免職
(8/6,西日本新聞,福岡,セクハラ:小男55,飲酒運転:高男50)
・「酔っぱらって寝た」踏切に高校教諭、緊急停止(8/6,読売,静岡,高,男,44)
・レジで発火手品、店員けが 小学校事務職員減給
(8/8,河北新聞,宮城,公然わいせつ,中,男,50)
・バイクを酒気帯び運転 男性教諭を停職処分
(8/12,朝日,愛知,わいせつ:中男40,業務上過失致死:小女28)
・フェンシング国体選考会で不正?教員を追放処分(8/12,朝日,大分,高,男,40代)
・男子生徒つねる体罰 男性臨時教諭を懲戒処分(8/12,神戸新聞,兵庫,特,男,53)
・教員免許:講師、更新せず授業 2・3年生、93時間無効(8/13,毎日,福岡,高,男,46)
・盗撮の疑いで三島の教諭逮捕(8/13,静岡新聞,静岡,校種不明,男,34)
・27歳・中学教諭が「警察官」に下半身露出(8/17,産経ニュース,千葉,中,男,27)
・部費13万円をパチンコ代に流用 滋賀の中学校教諭 (8/19,京都新聞,滋賀,中,男,53)
・児童買春容疑で高校教諭逮捕=少女に現金(8/19,時事通信,神奈川,高,男,52)
・「地下アイドル」にわいせつ行為=容疑で小学校教諭逮捕
(8/19,時事通信,神奈川,小,男,45)
・駅で同僚女性にキス 体育教諭を停職(8/20,千葉日報,千葉,高,男,53)
・1800円分の商品万引き…小学校教諭を停職処分(8/22,サンスポ,岡山,小,30)
・部活の出張旅費、教諭が不正受給 県教委が減給処分(8/22,毎日,静岡,高,男,50)
・県立高教諭、盗撮容疑で逮捕=靴に小型カメラ(8/23,時事通信,岡山,高,男,40)
・盗撮容疑で27歳小学教諭逮捕(8/24,産経ニュース,静岡,小,男,27)
・男性教諭が体罰で懲戒処分 (8/24,NHK,岩手,高,男,31)
・同僚女性宅に侵入、洗濯カゴから下着盗む(8/25,産経ニュース,奈良,中,男,31)
・中学生を買春 中学教諭と家庭教師を容疑で逮捕(8/25,産経ニュース,茨城,中,男,32)
・女性盗撮、県立高教諭を懲戒免職(8/25,産経ニュース,佐賀,高,男,23)
・他人名義のカードでテレビやミシン購入…支援学校講師を詐欺容疑で逮捕
(8/26,産経,大阪,特,29)
・地獄のパワハラ職員室、校長が教頭に「管理職辞めれば」
(8/26,産経ニュース,長崎,小,男,59)
・盗撮の県立高教諭懲戒免職 10回以上、授業中に女子生徒も
(8/26,佐賀新聞,佐賀,高,男,23)
・児童買春などで教諭ら2人免職
(8/27,NHK,福岡,児童買春:小男26,酒気帯び運転:中32)
・男子生徒に下半身隠さず着替えさせる(8/29,朝日,山口,中,男,50代)
・児童の衣類盗撮で小学校教諭停職処分(8/29,日テレ,愛知,小,男)
2015年8月31日月曜日
2015年8月28日金曜日
県別・性別の大学進学率(2015年春)
大学進学率の都道府県差を明らかにした,2013年9月12日の閲覧頻度が今日になって急騰しています。「はて?」と思ったのですが,「女子に三角関数を教える必要があるのか」という鹿児島県知事の発言を受けてでしょうね。
上記の記事によると,鹿児島では大学進学率の性差が大きく,女子は全県の中で最低です。なるほど,知事の失言とつながっているように感じます。
この記事では,2013年春の県別・性別の大学進学率を出していますが,データを更新して,今年春の同じデータを作ってみました。男女差を分かりやすくするため,男子の進学率が女子の何倍かという倍率も添えました。
大学進学率は,各県の推定18歳人口に占める,当該県出身の4年制大学入学者の比率です。分子には過年度卒業生(浪人経由者)も含みますので,浪人込みの進学率ということになります。詳しい計算方法は,冒頭のリンク先の記事をご覧ください。文部科学省の「学校基本調査」でも採用されている,公的な算出方法です。
2015年春の県別・性別大学進学率は,下表のようになっています。黄色は47都道府県中の最高値,青色は最低値です。
今年春の全国の大学進学率は51.5%です。今日では同世代の2人に1人が大学に進学するといわれますが,その数値的な表現となっています。
しかし県別にみると値は著しく違っており,最高の72.8%(東京)から最低の35.1%(鹿児島)まで,倍以上の開きがあります。
知事の発言で注目されている鹿児島の大学進学率が最低なのですが,それは女子の進学率が低いためであるようです。当県の女子の大学進学率は29.2%で,全県の中で唯一3割に達していません。それだけ男子との差も大きく,右端のジェンダー倍率は1.4倍近くにもなっています。トップの北海道に次いで,大学進学率の性差が大きい県です。
「女子に高等数学は必要か」という知事の発言が,わが郷里における青年期のジェンダー的社会化の存在を示唆しているように感じます。ちなみに大学進学率が「男子>女子」という傾向は普遍則ではなく,徳島のように,その逆の県もあることに注意されてよいでしょう。
先日公表された「全国学力・学習状況調査」のデータが性別に集計されていれば,小6から中3にかけてのジェンダー分化を県ごとに分析できるのですが,それが叶わないのが残念です。
たとえば,小6(2012年)から中3(2015年)にかけて理科嗜好が大きく減じることが各紙で報じられていますが,それが顕著なのは男子と女子のどっちか。あるいは,どの県か。郷里の鹿児島では,その傾向がクリアーなのではないか,という疑いが持たれます。問題兆候を見つけたら,さらに層別の分析をして,病巣をえぐりだしていく。こういう手はずを踏んでいきたいものです。
2015年8月25日火曜日
小・中・高校生の読書実施率
2001年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が制定され,子どもの読書を促す取組がなされてきています。この法律の2条では,次のようにいわれています。教員採用試験でもたまに,空欄補充問題が出ます。
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/index.htm
「読書活動は,子どもが,言葉を学び,感性を磨き,表現力を高め,創造力を豊かなものにし,人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである」。(子どもの読書活動の推進に関する法律第2条)
いいこと書いてますねえ。「人生をより深く生きる力」ですか。子どもが接する親や教師はありきたりのことしか言いませんが,本にはいろんなことが書いてありますからね。
では,当の子どもはどれほど本を読んでいるか。今回は,小・中・高校生の読書実施率を取り上げようと思います。前回の料理・菓子作りと同じく,「趣味として」実施するものです。学校の朝の10分間読書で強制されるものは含みません。
2011年の総務省「社会生活基本調査」によると,調査日(2011年10月1日)から遡った過去1年間において,趣味として読書を実施した者の割合は,小学生で53.1%,中学生で51.3%,高校生で43.7%となっています。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/h23kekka.htm
青年期は「内」にこもる時期。青年は読書を好む。青年心理学のテキストにはこんなことが書いてありますが,発達段階を上がるにつれ読書実施率は上がるかと思いきや,実態は逆です。とくに中学生と高校生の落差が大きく,51.3%から43.7%へとダウンします。
おそらく受験のためでしょうが,多感な思春期・青年期に本に触れる機会が少ない,果ては減少するというのは,いかにも問題です。青年期の課題は,自我同一性を確立することですが,その達成を阻む要因にもなるでしょう。
今みたのは全国の値ですが,都道府県別に出すこともできます。趣味としての読書実施率の都道府県差をみてみましょう。下表はその一覧ですが,右端には変化の型を記号で示しています。発達段階を上がるにつれ率が上がるか,下がるか,山(谷)がどこにあるかに依拠して出した,変化のタイプです。
> = 小 > 中 > 高 (下降型)
▲ = 小 < 中 > 高 (中学生が山)
▽ = 小 > 中 < 高 (中学生が谷)
< = 小 < 中 < 高 (上昇型)
上の4タイプですが,県によって読書実施率の変化型は多様です。こちらもみていただければと思います。黄色は47都道府県中の最高値,青色は最低値です。
最高値は小学生は岩手,中学生は神奈川,高校生は香川です。中学生のマックスが,受験塾などが多い神奈川とは,ちと意外です。塾通いの電車の中で,本を読んだりするのでしょうか。香川は,中学生から高校生にかけて,36.0%から60.7%へと激増します。
青色の最低値はどの段階も九州で,宮崎は,中高生の読書実施率が最も低くなっています。
次に右端の変化型ですが,全国傾向は「>」なのですが,県別では中学生がピークの「▲」が最多です。ちょっと安堵しました。中学生は青年期の入口ですが,この時期における本へののめり込み(逃避)を咎めるのではなく,大人への必要な道程として,大らかに見守りたいものです。
ただ,東京や大阪といった大都市では,明らかな下降型(>)となっています。東京は小学生が66.4%,中学生が55.5%,高校生が43.9%というように,ガクン,ガクンと落ちていきます。
それぞれの段階にて,自県の位置はどこか,という関心もあるでしょう。段階ごとに,読書実施率が高い順に並べたランキング表も示しておきます。
青線は東京,赤線は郷里の鹿児島の位置変化です。東京は下降型,鹿児島はV字型となっています。この表から,読書実施率の絶対値の変化とともに,全県内でも相対位置の変化も見て取れます。ご自分の県を丸で囲み,線でつないでみてください。
大都市の神奈川は,がんばっていますね。子どもの読書先進県です。当県の取組については,以下のサイトが参考になるかと思います。
https://www.planet.pref.kanagawa.jp/dokusyo/dokusyo-top.htm
各県の子どもの読書実施率(趣味)は,都市か田舎か,あるいは住民の所得や階層構成がどうかというような,社会経済指標とは無相関です。各県の政策の影響が大きい,ということでしょう。これは,子どもの読書志向を人為的に変えられるという希望的事実です。
朝の10分間読書のような「上」からの押し付けだけでなく,学校図書館の利用時間を延ばすなどの条件整備も進めていただきたいと思います。
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/index.htm
「読書活動は,子どもが,言葉を学び,感性を磨き,表現力を高め,創造力を豊かなものにし,人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである」。(子どもの読書活動の推進に関する法律第2条)
いいこと書いてますねえ。「人生をより深く生きる力」ですか。子どもが接する親や教師はありきたりのことしか言いませんが,本にはいろんなことが書いてありますからね。
では,当の子どもはどれほど本を読んでいるか。今回は,小・中・高校生の読書実施率を取り上げようと思います。前回の料理・菓子作りと同じく,「趣味として」実施するものです。学校の朝の10分間読書で強制されるものは含みません。
2011年の総務省「社会生活基本調査」によると,調査日(2011年10月1日)から遡った過去1年間において,趣味として読書を実施した者の割合は,小学生で53.1%,中学生で51.3%,高校生で43.7%となっています。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/h23kekka.htm
青年期は「内」にこもる時期。青年は読書を好む。青年心理学のテキストにはこんなことが書いてありますが,発達段階を上がるにつれ読書実施率は上がるかと思いきや,実態は逆です。とくに中学生と高校生の落差が大きく,51.3%から43.7%へとダウンします。
おそらく受験のためでしょうが,多感な思春期・青年期に本に触れる機会が少ない,果ては減少するというのは,いかにも問題です。青年期の課題は,自我同一性を確立することですが,その達成を阻む要因にもなるでしょう。
今みたのは全国の値ですが,都道府県別に出すこともできます。趣味としての読書実施率の都道府県差をみてみましょう。下表はその一覧ですが,右端には変化の型を記号で示しています。発達段階を上がるにつれ率が上がるか,下がるか,山(谷)がどこにあるかに依拠して出した,変化のタイプです。
> = 小 > 中 > 高 (下降型)
▲ = 小 < 中 > 高 (中学生が山)
▽ = 小 > 中 < 高 (中学生が谷)
< = 小 < 中 < 高 (上昇型)
上の4タイプですが,県によって読書実施率の変化型は多様です。こちらもみていただければと思います。黄色は47都道府県中の最高値,青色は最低値です。
最高値は小学生は岩手,中学生は神奈川,高校生は香川です。中学生のマックスが,受験塾などが多い神奈川とは,ちと意外です。塾通いの電車の中で,本を読んだりするのでしょうか。香川は,中学生から高校生にかけて,36.0%から60.7%へと激増します。
青色の最低値はどの段階も九州で,宮崎は,中高生の読書実施率が最も低くなっています。
次に右端の変化型ですが,全国傾向は「>」なのですが,県別では中学生がピークの「▲」が最多です。ちょっと安堵しました。中学生は青年期の入口ですが,この時期における本へののめり込み(逃避)を咎めるのではなく,大人への必要な道程として,大らかに見守りたいものです。
ただ,東京や大阪といった大都市では,明らかな下降型(>)となっています。東京は小学生が66.4%,中学生が55.5%,高校生が43.9%というように,ガクン,ガクンと落ちていきます。
それぞれの段階にて,自県の位置はどこか,という関心もあるでしょう。段階ごとに,読書実施率が高い順に並べたランキング表も示しておきます。
青線は東京,赤線は郷里の鹿児島の位置変化です。東京は下降型,鹿児島はV字型となっています。この表から,読書実施率の絶対値の変化とともに,全県内でも相対位置の変化も見て取れます。ご自分の県を丸で囲み,線でつないでみてください。
大都市の神奈川は,がんばっていますね。子どもの読書先進県です。当県の取組については,以下のサイトが参考になるかと思います。
https://www.planet.pref.kanagawa.jp/dokusyo/dokusyo-top.htm
各県の子どもの読書実施率(趣味)は,都市か田舎か,あるいは住民の所得や階層構成がどうかというような,社会経済指標とは無相関です。各県の政策の影響が大きい,ということでしょう。これは,子どもの読書志向を人為的に変えられるという希望的事実です。
朝の10分間読書のような「上」からの押し付けだけでなく,学校図書館の利用時間を延ばすなどの条件整備も進めていただきたいと思います。
2015年8月24日月曜日
料理男子
男女共同参画社会の実現に向けた取り組みが進展し,女性の社会進出とともに,男性の家庭進出も促されるようになっています。男性の家事時間は,以前に比したら増えていることでしょう。*絶対水準ではまだまだですが。
しかし,妻に文句を言われ仕方なく,イヤイヤ・・・。こんな人も少なくないのでは。男性が,本心から家事にどれだけ目覚めているかを測る尺度はないか。こういう関心をもって,「社会生活基本調査」の統計表を眺めたところ,一つあることに気づきました。
それは,趣味としての料理・菓子作り実施率です。「趣味として」とありますから,妻との取り決めによるノルマのようなものは含まれていません。自らの意志で,鼻歌でも交えながら楽しくやるものと考えられます。
「社会生活基本調査」から,趣味としての料理・菓子作りの実施率を知ることができます。過去1年間における実施率です。私は,男性の年齢層別の実施率を拾ってみました。下図は,1986年と2011年の実施率の年齢曲線です。下記サイトの表6-3のデータをもとに作成しました。
1986(昭和61)年といえば,男女雇用機会均等法が施行された年で,それ以降,男女平等に向けた施策や取組が充実してきました。冒頭で述べたように,男性の家事時間はわずかではありますが,増えてきています。
しかし,内発的な家事への目覚めの指標である,趣味としての料理・菓子作りの実施率は,若年から壮年層では下がっています。私の年代の30代では,8.1%から5.5%へのダウンです。
この四半世紀にかけて,オトコの料理・菓子作り実施率は上がっているだろうと踏んでいましたが,現実は逆であることにちょっと驚いています。未婚化により,独身・単身の男性が増えているためでしょうか。
なお,値は地域によっても違っています。2011年のデータを使って,働き盛りの35~44歳男性の実施率を都道府県別に出してみました。以下に掲げるのは,そのランキング表です。
全国値は5.1%ですが,県別では10.1%~2.3%までの幅があります。トップは首都の東京ですか。大都市で,お料理教室とかが相対的に多いためでしょうか。しかし都市性とリンクしているわけではなく,東北や九州などの地方県も上位に位置しています。私の郷里の鹿児島は,ちょうど中ほどです。
男性の家庭進出度の尺度として家事時間ばかりに注目されがちですが,ここでみたような,趣味としての料理・菓子作り実施率のような指標にも目をむけるべきでしょう。それは,自発(内発)的な家事への目覚めの指標です。
子どもの勉強にしてもそう。1日の勉強時間だけでなく,知への内発的な希求度を測る指標として,趣味としての読書実施率,社会教育施設利用率などにも注意すべきでしょう。子どもの勉強時間は一昔前に比してうんと伸びていますが,悲しいかな,自発的な読書実施率(時間)は低下しています。
人間は生来「怠け者」で,外から鞭を打たれないと行動しない面を持っています。近年の家事時間や勉強時間の増加は,おそらくは外からの働きかけによる「外発的」なものでしょう。しかしそれだけではいかにも脆く,当人の内発的な志向も伴うべきです。今回みた,趣味としての料理・家事実施率は,こちらの面を可視化する指標です。
2015年8月22日土曜日
東京都学校保健経営研究会にて講演
昨日(8/21),東京都学校保健経営研究会の研修会にて,講演させていただきました。東京都教職員研修センターの研究団体の一つだそうです。
http://www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.jp/08ojt/fukyu/index.html
時間のとれる夏休みに外部の話を聞こうということで,私にお声がかかったのですが,「統計でみる東京の子どもたち(学力・体力)」という主題で講演してほしい,という依頼でした。前に日経デュアルに寄稿した「子どもの学力,体力,富裕度の相関関係」という文章をみて,とのことです。現場の先生も,見てくださっているのだな。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3033
私は,提案のあった学力・体力に,生きるための最も重要な要素である「健康」も加え,学力,体力,健康状態の3本柱で,東京の子どものすがたをとらえようと考えました。写真のプログラムのタイトル副題は「学力・体力・健康状態」となっていますが,お話した順序はこの反対です。生きるための条件として必須の健康状態(土台)から入り,徐々に上に上がって行きました。
パワポで最初にお見せした,全体の見取り図のスライドを掲げます。
本ブログや日経デュアルをご覧いただいている方なら,各項目の内容がどういうものかは想像がつくかと思います。格差社会化が進んでいる今日の状況にかんがみ,貧困と健康・体力・学力の相関関係の提示に力点を置きました。
現場の先生方にすれば痛快な情報だったようで,都内23区の肥満・虫歯・体力・学力地図などは,みなさん食い入るようにスライドを見ていらっしゃいました。「日ごろ何となく思っていたことが,まさに可視化されている」。終了後,こういう感想を多数いただきました。私としても,「ミッション・コンプリート!」という感じです。お役所の資料に,こんな赤裸々な地図はまず載らないでしょうし。
3-③の「学力を推計する」では,年収・高学歴率・教育扶助率の3指標から,都内23区の小学生の算数正答率を予測し,実測値と照合しました。結果,足立区は実測値が期待値よりも高い「がんばっている」区と判明したのですが,同区の中学校の先生が「こういう見方は面白い。日ごろの苦労が報われた気がします」とおっしゃってました。こちらもうれしい。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=5305
質疑応答の時間で,ある高校の先生より質問がありました。子どもの健康格差の是正に際しては,当人に対する指導だけでなく,保護者に対する保健指導(学校保健安全法9条)も必要である,という私の提言に関連してです。
「ウチの高校は家庭に問題がある生徒が多く,保護者会に親が出てこない,個別指導の呼び出しにもまず応じない。こういう場合は,どうずればいいのか?」
その時は,私は答えに窮したのですが,今考えると,「そういう場合は,こちらから出向くしかない。いわゆる訪問指導というのはどうか」という答えがあったかなと思います。むろん,教員だけが担うのではなく,現在導入が検討されている外部組織人材「チーム学校」のメンバーに委ねてもよいでしょう。その中には,相応の知識を持った人材も含まれるでしょうから。
終了後の総括で,教育庁の先生が言われていましたが,学校だけで丸抱えできる時代は終わっています。かといって,家庭に丸戻しするわけにもいかない。これら2つの主体の間で子どもを押しつけ合うのではなく,両者をとりまく外部社会によるサポートが要請されるところです。
謝辞:貴重な機会を与えていただき,ありがとうございました。お声かけいただいた,都教育庁の安岡先生,江戸川区立葛西第二中学校の松島先生をはじめ,2時間にもわたり,私の拙い話を聞いてくださった先生方に感謝の意を表します。
***********
講演が終わった後,何人かの先生と立ち話をしたり,お昼を一緒に食べたりしたのですが,そこで聞いた現場の「こぼれ話」です。①については,ちぎれるほど首を縦に振りました。
①:とにかく無駄な調査が多い。国や教育委員会からガンガン調査票が送られ,回答を求められる。中には,「これ,こないだ答えただろ」と思うものも多数。費用・労力の無駄・重複を省けないものか。
②:教員は,ストレスのあまりパチンコにハマる人が多い。職業別のパチンコ実施率のグラフを見せていただいたが,教員は平均値は低いだろうが,常軌を逸してのめり込んでいる者もいる。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3838.php
③:外国籍の子が増えて,対応に苦慮している。宗教の違いから,給食のメニューにも気を配らないといけない。
④:昼食をカップめんや菓子パンで済ます大学生が多いという話だが,教員でもそういう人が結構いる。
以上
http://www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.jp/08ojt/fukyu/index.html
時間のとれる夏休みに外部の話を聞こうということで,私にお声がかかったのですが,「統計でみる東京の子どもたち(学力・体力)」という主題で講演してほしい,という依頼でした。前に日経デュアルに寄稿した「子どもの学力,体力,富裕度の相関関係」という文章をみて,とのことです。現場の先生も,見てくださっているのだな。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3033
私は,提案のあった学力・体力に,生きるための最も重要な要素である「健康」も加え,学力,体力,健康状態の3本柱で,東京の子どものすがたをとらえようと考えました。写真のプログラムのタイトル副題は「学力・体力・健康状態」となっていますが,お話した順序はこの反対です。生きるための条件として必須の健康状態(土台)から入り,徐々に上に上がって行きました。
パワポで最初にお見せした,全体の見取り図のスライドを掲げます。
本ブログや日経デュアルをご覧いただいている方なら,各項目の内容がどういうものかは想像がつくかと思います。格差社会化が進んでいる今日の状況にかんがみ,貧困と健康・体力・学力の相関関係の提示に力点を置きました。
現場の先生方にすれば痛快な情報だったようで,都内23区の肥満・虫歯・体力・学力地図などは,みなさん食い入るようにスライドを見ていらっしゃいました。「日ごろ何となく思っていたことが,まさに可視化されている」。終了後,こういう感想を多数いただきました。私としても,「ミッション・コンプリート!」という感じです。お役所の資料に,こんな赤裸々な地図はまず載らないでしょうし。
3-③の「学力を推計する」では,年収・高学歴率・教育扶助率の3指標から,都内23区の小学生の算数正答率を予測し,実測値と照合しました。結果,足立区は実測値が期待値よりも高い「がんばっている」区と判明したのですが,同区の中学校の先生が「こういう見方は面白い。日ごろの苦労が報われた気がします」とおっしゃってました。こちらもうれしい。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=5305
質疑応答の時間で,ある高校の先生より質問がありました。子どもの健康格差の是正に際しては,当人に対する指導だけでなく,保護者に対する保健指導(学校保健安全法9条)も必要である,という私の提言に関連してです。
「ウチの高校は家庭に問題がある生徒が多く,保護者会に親が出てこない,個別指導の呼び出しにもまず応じない。こういう場合は,どうずればいいのか?」
その時は,私は答えに窮したのですが,今考えると,「そういう場合は,こちらから出向くしかない。いわゆる訪問指導というのはどうか」という答えがあったかなと思います。むろん,教員だけが担うのではなく,現在導入が検討されている外部組織人材「チーム学校」のメンバーに委ねてもよいでしょう。その中には,相応の知識を持った人材も含まれるでしょうから。
終了後の総括で,教育庁の先生が言われていましたが,学校だけで丸抱えできる時代は終わっています。かといって,家庭に丸戻しするわけにもいかない。これら2つの主体の間で子どもを押しつけ合うのではなく,両者をとりまく外部社会によるサポートが要請されるところです。
謝辞:貴重な機会を与えていただき,ありがとうございました。お声かけいただいた,都教育庁の安岡先生,江戸川区立葛西第二中学校の松島先生をはじめ,2時間にもわたり,私の拙い話を聞いてくださった先生方に感謝の意を表します。
***********
講演が終わった後,何人かの先生と立ち話をしたり,お昼を一緒に食べたりしたのですが,そこで聞いた現場の「こぼれ話」です。①については,ちぎれるほど首を縦に振りました。
①:とにかく無駄な調査が多い。国や教育委員会からガンガン調査票が送られ,回答を求められる。中には,「これ,こないだ答えただろ」と思うものも多数。費用・労力の無駄・重複を省けないものか。
②:教員は,ストレスのあまりパチンコにハマる人が多い。職業別のパチンコ実施率のグラフを見せていただいたが,教員は平均値は低いだろうが,常軌を逸してのめり込んでいる者もいる。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3838.php
③:外国籍の子が増えて,対応に苦慮している。宗教の違いから,給食のメニューにも気を配らないといけない。
④:昼食をカップめんや菓子パンで済ます大学生が多いという話だが,教員でもそういう人が結構いる。
以上
2015年8月19日水曜日
職業別の時間給
人間は社会の中で一定の地位を占め,それに応じた役割を遂行していますが,地域のメルクマールとして最も重要なのは職業でしょう。
これまで本ブログでは,職業別の年収や労働時間等を比較してきましたが,これらを切り離して観察すると,「給与が高くても労働時間長いし・・・」「労働時間は短くても給与がね・・・」といった声が出てきます。
そこで今回は,これらを同時に観察することとし,ある尺度を出してみます。タイトルにあるような時間給の算出です。年収と年間労働時間の推定値を出し,前者を後者で除した値です。1時間あたりの給与はどれほどか。労働時間を考慮した給与比較ですが,このような試みはあまりないのではないでしょうか。
2014年の厚労省「賃金構造基本統計調査」に当たって,129の職業について,以下の数値を収集しました。短時間労働者を除く一般労働者のデータです。出所は,下記サイトの表1です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001054146&cycleCode=0&requestSender=estat
a:決まって支給する給与月額 (2014年6月分)
b:年間賞与額 (2013年1~12月分)
c:月あたりの労働時間
aには残業代等,cには超過労働時間も含まれます。月収(a)を12倍した値に年間賞与(b)を足して年収,cの月あたり労働時間を12倍して年間労働時間を出し,前者を後者で除せば,1時間あたりの収入額が出てきます。ラフな試算値ですが,職業別に比べてみましょう。
手始めに,7つの職業のデータをみていただきましょう。
医師の時間給は,{(892.7千円×12)+827.9千円)}/(174×12)=5527円 と算出されます。時給5500円,1日8時間労働とすると日給は4.4万円。大学教授は5736円,弁護士は4850円なり。トップクラスの職業の時間給の試算結果です。
一方,下の4職業の時給は低くなっています。保育士と介護員は1500円,バス運転手と自動車整備工は1800円ほど。「時給1500円なんていいじゃん」と思われるかもしれませんが,これは短時間労働者を含まない一般労働者(≒正社員)のデータです。分子の収入には,ボーナス等も含まれています。
それでは,129の全職業の時給(円)をみていただきましょう。下表は,値が高い順に並べたランキング表です。
トップはダントツでパイロットです。時給1万円! その次が大学教授,その後に医師,弁護士と続きます。記者,高校教員,電車運転士なども上位に位置していますね。
目ぼしい職業には黄色マークをつけましたが,社会的需要が著しく高まっている保育士や介護職員は低い位置にあります。それと,バス運転手とタクシー運転手の位置が大きく異なることも驚きです。タクシー運転手は,長時間労働が多いため,時間給にすると低くなるのでしょう。
労働時間を考慮した,職業別の収入比較の試みです。資料として,ランキング表を掲載しておこうと思います。
これまで本ブログでは,職業別の年収や労働時間等を比較してきましたが,これらを切り離して観察すると,「給与が高くても労働時間長いし・・・」「労働時間は短くても給与がね・・・」といった声が出てきます。
そこで今回は,これらを同時に観察することとし,ある尺度を出してみます。タイトルにあるような時間給の算出です。年収と年間労働時間の推定値を出し,前者を後者で除した値です。1時間あたりの給与はどれほどか。労働時間を考慮した給与比較ですが,このような試みはあまりないのではないでしょうか。
2014年の厚労省「賃金構造基本統計調査」に当たって,129の職業について,以下の数値を収集しました。短時間労働者を除く一般労働者のデータです。出所は,下記サイトの表1です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001054146&cycleCode=0&requestSender=estat
a:決まって支給する給与月額 (2014年6月分)
b:年間賞与額 (2013年1~12月分)
c:月あたりの労働時間
aには残業代等,cには超過労働時間も含まれます。月収(a)を12倍した値に年間賞与(b)を足して年収,cの月あたり労働時間を12倍して年間労働時間を出し,前者を後者で除せば,1時間あたりの収入額が出てきます。ラフな試算値ですが,職業別に比べてみましょう。
手始めに,7つの職業のデータをみていただきましょう。
医師の時間給は,{(892.7千円×12)+827.9千円)}/(174×12)=5527円 と算出されます。時給5500円,1日8時間労働とすると日給は4.4万円。大学教授は5736円,弁護士は4850円なり。トップクラスの職業の時間給の試算結果です。
一方,下の4職業の時給は低くなっています。保育士と介護員は1500円,バス運転手と自動車整備工は1800円ほど。「時給1500円なんていいじゃん」と思われるかもしれませんが,これは短時間労働者を含まない一般労働者(≒正社員)のデータです。分子の収入には,ボーナス等も含まれています。
それでは,129の全職業の時給(円)をみていただきましょう。下表は,値が高い順に並べたランキング表です。
トップはダントツでパイロットです。時給1万円! その次が大学教授,その後に医師,弁護士と続きます。記者,高校教員,電車運転士なども上位に位置していますね。
目ぼしい職業には黄色マークをつけましたが,社会的需要が著しく高まっている保育士や介護職員は低い位置にあります。それと,バス運転手とタクシー運転手の位置が大きく異なることも驚きです。タクシー運転手は,長時間労働が多いため,時間給にすると低くなるのでしょう。
労働時間を考慮した,職業別の収入比較の試みです。資料として,ランキング表を掲載しておこうと思います。
2015年8月16日日曜日
定年による生活変化
定年によって,オトコの生活はどう変わるか。働き盛りの40代前半有業男性と,定年して間もない60代前半無業男性の1日を比べてみましょう。
資料は,総務省「社会生活基本調査」(2011年)です。15分刻みの行動内訳統計をもとに,平日の時間帯別の行動内訳図をつくってみました。元データは,下記サイトの表6「全国」です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040661&cycode=0
大雑把にみると,仕事漬けからテレビ漬けの生活に変わります。仕事一辺倒で生きたオトコの悲哀のようなものが感じられます・・・。
働く期間はおおむね20~60歳の40年間ですが,定年後の余生も20年,場合によっては30年と長いです。後者がどういうものになるかは,前者の過ごし方によって規定されると考えられます。現役時代において,仕事人とは別の顔も持っておきたいものです。
現役時代の過ごし方(仕事一本度)と,定年後の幸福度や生活充実度の相関関係が,大規模な追跡調査のデータで明らかにされたら面白いですね。
資料は,総務省「社会生活基本調査」(2011年)です。15分刻みの行動内訳統計をもとに,平日の時間帯別の行動内訳図をつくってみました。元データは,下記サイトの表6「全国」です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040661&cycode=0
大雑把にみると,仕事漬けからテレビ漬けの生活に変わります。仕事一辺倒で生きたオトコの悲哀のようなものが感じられます・・・。
働く期間はおおむね20~60歳の40年間ですが,定年後の余生も20年,場合によっては30年と長いです。後者がどういうものになるかは,前者の過ごし方によって規定されると考えられます。現役時代において,仕事人とは別の顔も持っておきたいものです。
現役時代の過ごし方(仕事一本度)と,定年後の幸福度や生活充実度の相関関係が,大規模な追跡調査のデータで明らかにされたら面白いですね。
2015年8月15日土曜日
無解答率
毎年,文科省の『全国学力・学習状況調査』が実施されていますが,子どもの学力を測る指標として最もよく使われるのは,各科目の平均正答率です。
しかし,もう一つ面白いメジャーがあります。それは,無解答率です。思考を放棄して,解答欄を空白で出す者の割合ですが,知識を問うA科目よりも,知識を活用させるB科目で,この比率は高くなっています。
考えるのが面倒くさい,ということでしょうね。B科目の問題は結構ひねられており,対象の児童・生徒に考えさせる問題となっています。2014年度の小学校6年生の国語Bでは,以下のような設問が盛られています。詳細は,下記サイトでご覧ください。
覚えた知識を即答させるようなものではなく,考えて選ばさせる,書かせる,という形式です。この手の問題に出くわすと思考が停止し,解答欄を空白で出す児童もいるわけです。東京の公立小学校6年生の場合,各設問の無解答率は,上から順に8.6%,3.7%,5.6%,9.1%,8.6%,5.2%,5.2%,6.5%,20.7%,27.7%となっています。最後の記述式問題の無解答率は,3割近くにもなります。
これらの率を平均すると,10.1%となります。この値は,子どもの思考停止尺度とみなすことができますが,秋田の値はわずか3.5%です。この県では,とにかく何かしらの考え・意見を書く児童が,大都市の東京より多いようです。
同じ値を全県について計算してみました。国語Bと並ぶ,もう一つの活用科目である算数Bの無解答率平均も出しました。下表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをし,上位5位の数値は赤色にしています。
無解答率が県によって違っており,国語Bでは3.5~11.4%,算数Bでは1.6~5.4%のレインヂがあります。双方とも,無解答率が最も低いのは秋田です。討議型の授業,家族の会話の頻度が高いなど,他人の意見を咀嚼し,自分の考えを表明する機会が多いためでしょうか。
一方,大都市やその近郊県では無解答率が高くなっています。国語Bのマックスは三重の11.4%,算数Bは神奈川の5.4%です。
都市部では,早期受験をする子どもが多く,点数がとれるようなテクニックを身につけさせる授業をしてくれ,という要望が多いと聞きます。塾通いが多いので,家族の会話の頻度も,先にみた秋田よりは少ないことでしょう。
表の右端には,各県の公立小6児童の通塾率を掲げています。塾や家庭教師について勉強していない者の比率を,全体(100.0)から差し引いた値です。通塾率と無解答率の相関をとると,面白い傾向が出てきます。
通塾率が高い県ほど,国語の活用科目での無解答率(思考停止率)が高い傾向にあります。相関係数は+0.680であり,1%水準で有意です。算数Bの無解答率と通塾率は,+0.588という相関です。
点数主義の弊害,通塾による家庭生活の浸食といった要因だけでによるのではないでしょうが,その可能性を全面否定することはできますまい。
自分の頭で考えないこと,権威者や識者に盲従すること・・・。これは非常に恐ろしいことです。安保法案問題が頭をもたげている昨今にあっては,それをとくに強く感じます。学力のメジャーである平均正答率だけでなく,思考停止の尺度である無解答率にも注目しなければならないと思いました。目下,県レベルの分析しかできませんが,個票データを使って無解答率の要因を析出するのは,重要な課題でしょう。
2020年頃には,『全国学力・学習状況調査』のローデータが,一部抽出分だけでも利用可能になっているか・・・。それが実現する日を,私は夢にまでみます。
2015年8月12日水曜日
再生産
昨日,ニューズウィーク日本版のサイトに,「ひそかに進む日本社会の階層化」という記事を載せていただきました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3838.php
ブルデューの名著『ディスタンクシオン』を引き合いにして,①わが国でも階層と趣味・嗜好のつながりはみられること,そうした文化資本の差を介して,②親から子への地位の再生産(文化的再生産)があるのではないか,ということを指摘しました。
①についてはデータを添えましたが,②については憶測を述べるにとどまりました。この点に関するデータを見たいという要望があるようですので,ここにてそれを掲げようと思います。
お見せするのは,私が作成した3つの統計グラフです。まずは,都内23区の高学歴人口率と小学生の算数学力の相関図です。学力は地位達成の重要なファクターになりますが,各区の正答率の水準は,住民(学校卒業人口)の大学卒比率と非常に強く相関しています。
大学・大学院卒人口比率が高い区ほど,正答率が高い傾向が明瞭です。相関係数は+0.9を超えます。これは,所得や教育扶助率など,他の関連要因を介した疑似相関かもしれませんが,これら3つを投入した重回帰分析結果では,上記の高学歴人口率のβ値が最も高くなっています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/07/23.html
やはり,経済資本よりも文化資本の影響が強い,ということでしょうか。冒頭のニューズウィーク記事でも書きましたが,子どもの学力格差の問題を議論するにあたっては,後者の面にも注意する必要がありそうです。通塾費の援助のような経済的支援だけで解決する話ではなさそうです。
次に,小・中学生の最終学歴展望が,親の学歴とどう関連しているかです。内閣府の「小・中学生の意識に関する調査」(2014年)では,小4~中2の児童・生徒に対し,「将来どの学校まで行きたいか」と尋ねています(Q7)。これに対する回答が,父親の学歴によってどう違うかとグラフ化してみました。( )内はサンプル数です。*ローデータを独自に分析して作成した図であることを申し添えます。最後の図も同じです。
父親が高学歴の子どもほど,大学進学アスピレーションが高くなっています。学歴の再生産ですが,学歴が地位達成と強く結び付いていることを考えると,親から子への地位再生産が存在することを示唆します。それに際して,昨日のNW記事でみたような「文化資本」の差異が影響していることは,想像に難くありません。
上記は,子どもの教育展望ですが,実際に到達した学歴がどうなのか,というデータも作れます。下の図は,20代の学校卒業者の最終学歴分布を,同じく父親の学歴別にみたものです。
こちらも,父親の学歴と強く相関しています。とくに,父親が大卒であるか否かで差が出ています。自分が大学を出ている親は,わが子にも大卒学歴を,ということでしょうか。そうした教育期待と同時に,経済資本(学費負担能力)や文化資本も影響しているとみられます。
以上の3つのグラフは,昨日のNW記事の補足ですが,私が専攻する教育社会学の基本テーゼに関わるものですので,ここにて提示する価値があると思いました。随所で申してますが,ブログ,自前のメディアを持てるって素晴らしいことですね。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3838.php
ブルデューの名著『ディスタンクシオン』を引き合いにして,①わが国でも階層と趣味・嗜好のつながりはみられること,そうした文化資本の差を介して,②親から子への地位の再生産(文化的再生産)があるのではないか,ということを指摘しました。
①についてはデータを添えましたが,②については憶測を述べるにとどまりました。この点に関するデータを見たいという要望があるようですので,ここにてそれを掲げようと思います。
お見せするのは,私が作成した3つの統計グラフです。まずは,都内23区の高学歴人口率と小学生の算数学力の相関図です。学力は地位達成の重要なファクターになりますが,各区の正答率の水準は,住民(学校卒業人口)の大学卒比率と非常に強く相関しています。
大学・大学院卒人口比率が高い区ほど,正答率が高い傾向が明瞭です。相関係数は+0.9を超えます。これは,所得や教育扶助率など,他の関連要因を介した疑似相関かもしれませんが,これら3つを投入した重回帰分析結果では,上記の高学歴人口率のβ値が最も高くなっています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/07/23.html
やはり,経済資本よりも文化資本の影響が強い,ということでしょうか。冒頭のニューズウィーク記事でも書きましたが,子どもの学力格差の問題を議論するにあたっては,後者の面にも注意する必要がありそうです。通塾費の援助のような経済的支援だけで解決する話ではなさそうです。
次に,小・中学生の最終学歴展望が,親の学歴とどう関連しているかです。内閣府の「小・中学生の意識に関する調査」(2014年)では,小4~中2の児童・生徒に対し,「将来どの学校まで行きたいか」と尋ねています(Q7)。これに対する回答が,父親の学歴によってどう違うかとグラフ化してみました。( )内はサンプル数です。*ローデータを独自に分析して作成した図であることを申し添えます。最後の図も同じです。
父親が高学歴の子どもほど,大学進学アスピレーションが高くなっています。学歴の再生産ですが,学歴が地位達成と強く結び付いていることを考えると,親から子への地位再生産が存在することを示唆します。それに際して,昨日のNW記事でみたような「文化資本」の差異が影響していることは,想像に難くありません。
上記は,子どもの教育展望ですが,実際に到達した学歴がどうなのか,というデータも作れます。下の図は,20代の学校卒業者の最終学歴分布を,同じく父親の学歴別にみたものです。
こちらも,父親の学歴と強く相関しています。とくに,父親が大卒であるか否かで差が出ています。自分が大学を出ている親は,わが子にも大卒学歴を,ということでしょうか。そうした教育期待と同時に,経済資本(学費負担能力)や文化資本も影響しているとみられます。
以上の3つのグラフは,昨日のNW記事の補足ですが,私が専攻する教育社会学の基本テーゼに関わるものですので,ここにて提示する価値があると思いました。随所で申してますが,ブログ,自前のメディアを持てるって素晴らしいことですね。
2015年8月10日月曜日
結婚しなくても子どもが持てる社会
8/4のニューズウィーク記事では「生涯学習」について書いたのですが,本記事を見てくださる方が多いようです。そこでは,日本の成人の通学率が著しく低いことに触れ,①日本は教育大国と呼ばれているが,それは人生の初期に限った話だること,②日本では,「児童期→教育期→仕事期→引退期」という直線的ライフコースが支配的であること,を指摘しました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/08/post-3823.php
ところで,直線的なのはライフコースだけではありません。進学,就職,結婚,出産というイベントも,直線的に順序だてられています。とくに「結婚→出産」という順序を経るべしという考えが根強く,これを逸した場合,好奇(偏見)の眼差しに晒されることになります。わが国では,未婚や事実婚の親が少ないことは,よく知られていること。
しかし,世界に目を転じれば,そうでない社会が結構あります。タイトルに書いたような,結婚せずとも子どもが持てる社会です。今回は,この点に関するデータをご覧に入れましょう。
まずは,子育て年代の配偶関係構成を観察することから始めましょう。日本は未婚もしくは既婚が大半ですが,海外では,同棲(事実婚)も結構います。
私は,2010~14年の「世界価値観調査」のローデータを分析し,30~40代の配偶関係構成を国別に明らかにしました。原資料の6カテゴリーを4カテゴリーにまとめています。3番目の同棲は,英語表記で「Living together as married」となってますので,婚姻の意志があって同居し,周囲からも夫婦と認知されている「事実婚」であるとみられます。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
下の図は,日韓,欧米,そして南米のコロンビアの帯グラフです。英仏は,本調査の対象になっていないことを申し添えます。
東洋の日韓は既婚が多くを占めますが,地球の裏側のコロンビアでは,同棲が38%と最も多くなっています。他の欧米3国は,この中間です。
わが国では,同棲という形態は非常に少なく,不道徳だという偏見を向けられることも少なくないのですが,そういう社会は国際的にみればマイノリティーであることが知られます。調査対象国全体を見渡すと,とくに北欧や南米の国々では,同棲(事実婚)の比重が相対的に高くなっています。
さてここでの関心は,結婚というイベントを経ないで子どもを持てる社会の存在を確かめることです。私は,30~40代の未婚者ないしは同棲(事実婚)者のうち,子どもがいる者の割合を計算してみました。
日本の場合,該当者174人のうち,子がいる者はわずか8人(4.6%)です。予想通りといいますか,少ないですねえ。しかし,値が高い社会もあります。下図は,高い順に配列したランキングです。%の母数が50人に満たない国は,分析から外しています。
トップは,コロンビアの78%です。上位には,南米やアフリカの諸国が並んでいます。
ある方がツイッターで指摘してくださったことによると,南米では家族以外にも愛人をつくることが多く,その関係上,未婚の出産も多いとのこと。アフリカではレイプ被害などによる,婚外出産も多いと思われます。
スウェーデンとドイツは約半分,アメリカは4割ほどです。スウェーデンでも,同棲(事実婚)はれっきとした家族制度とみなされ,法的な保護や権利が与えられているそうです(サムボ)。いってみれば婚姻に至るまでの「お試し期間」ですが,この段階においても安心して出産できる。そういう社会です。
対して日本は4.6%,韓国は0.9%で,イスラーム国はほぼ皆無です。これは宗教上の理由からでしょう。
社会状況を同じくする先進国の中でみると,日本は外れた位置にあることが分かります。少子化をめぐる議論で,「日本は結婚という形態にとらわれ過ぎではないか」「他国はそうではない」という声がよく聞かれますが,データでもそれは裏づけられています。
昨年の10月19日の記事でみたように,わが国の少子化進行の要因としては,結婚した夫婦が子を産まなくなったことよりも,結婚しない人が増えたこと(未婚化)が大きいようです。逆にとれば,結婚のようなタイトな形態をとらずとも,子どもを安心して産めるようになれば,事態は変わるのではないか,という展望も持たれます。上述のサムボは,その例です。
国際比較は,自分たちが馴染んでいる(囚われている)呪縛から,われわれを解放してくれます。私はこういう思いで,日々,各種の国際統計をいじっています。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/08/post-3823.php
ところで,直線的なのはライフコースだけではありません。進学,就職,結婚,出産というイベントも,直線的に順序だてられています。とくに「結婚→出産」という順序を経るべしという考えが根強く,これを逸した場合,好奇(偏見)の眼差しに晒されることになります。わが国では,未婚や事実婚の親が少ないことは,よく知られていること。
しかし,世界に目を転じれば,そうでない社会が結構あります。タイトルに書いたような,結婚せずとも子どもが持てる社会です。今回は,この点に関するデータをご覧に入れましょう。
まずは,子育て年代の配偶関係構成を観察することから始めましょう。日本は未婚もしくは既婚が大半ですが,海外では,同棲(事実婚)も結構います。
私は,2010~14年の「世界価値観調査」のローデータを分析し,30~40代の配偶関係構成を国別に明らかにしました。原資料の6カテゴリーを4カテゴリーにまとめています。3番目の同棲は,英語表記で「Living together as married」となってますので,婚姻の意志があって同居し,周囲からも夫婦と認知されている「事実婚」であるとみられます。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
下の図は,日韓,欧米,そして南米のコロンビアの帯グラフです。英仏は,本調査の対象になっていないことを申し添えます。
東洋の日韓は既婚が多くを占めますが,地球の裏側のコロンビアでは,同棲が38%と最も多くなっています。他の欧米3国は,この中間です。
わが国では,同棲という形態は非常に少なく,不道徳だという偏見を向けられることも少なくないのですが,そういう社会は国際的にみればマイノリティーであることが知られます。調査対象国全体を見渡すと,とくに北欧や南米の国々では,同棲(事実婚)の比重が相対的に高くなっています。
さてここでの関心は,結婚というイベントを経ないで子どもを持てる社会の存在を確かめることです。私は,30~40代の未婚者ないしは同棲(事実婚)者のうち,子どもがいる者の割合を計算してみました。
日本の場合,該当者174人のうち,子がいる者はわずか8人(4.6%)です。予想通りといいますか,少ないですねえ。しかし,値が高い社会もあります。下図は,高い順に配列したランキングです。%の母数が50人に満たない国は,分析から外しています。
トップは,コロンビアの78%です。上位には,南米やアフリカの諸国が並んでいます。
ある方がツイッターで指摘してくださったことによると,南米では家族以外にも愛人をつくることが多く,その関係上,未婚の出産も多いとのこと。アフリカではレイプ被害などによる,婚外出産も多いと思われます。
スウェーデンとドイツは約半分,アメリカは4割ほどです。スウェーデンでも,同棲(事実婚)はれっきとした家族制度とみなされ,法的な保護や権利が与えられているそうです(サムボ)。いってみれば婚姻に至るまでの「お試し期間」ですが,この段階においても安心して出産できる。そういう社会です。
対して日本は4.6%,韓国は0.9%で,イスラーム国はほぼ皆無です。これは宗教上の理由からでしょう。
社会状況を同じくする先進国の中でみると,日本は外れた位置にあることが分かります。少子化をめぐる議論で,「日本は結婚という形態にとらわれ過ぎではないか」「他国はそうではない」という声がよく聞かれますが,データでもそれは裏づけられています。
昨年の10月19日の記事でみたように,わが国の少子化進行の要因としては,結婚した夫婦が子を産まなくなったことよりも,結婚しない人が増えたこと(未婚化)が大きいようです。逆にとれば,結婚のようなタイトな形態をとらずとも,子どもを安心して産めるようになれば,事態は変わるのではないか,という展望も持たれます。上述のサムボは,その例です。
国際比較は,自分たちが馴染んでいる(囚われている)呪縛から,われわれを解放してくれます。私はこういう思いで,日々,各種の国際統計をいじっています。
2015年8月8日土曜日
男子大学生の性行動経験
図書館から,日本性教育協会『若者の性白書・第7回青少年の性行動全国調査報告』(小学館)を借りてきました。同協会が実施している「青少年の性行動全国調査」(2011年)のデータが載っています。
http://www.jase.faje.or.jp/pub/seikoudou7_hakusho.html
「若者の性行動を知るならコレ」という定評のある調査で,1974年以降,6年間隔で実施されてきています。男子大学生の主な性行動の経験率は,以下のように推移してきています。
2005年から2011年にかけて経験率が下がっていますが,これが「草食化」ってやつでしょうか。今度の調査は2017年ですが,その頃はもっと曲線が右に垂れているかもしれませんね。
この調査では,経験ありの者に対し,初めて経験した年齢を尋ねています。経験の有無と初経験年齢の分布を同時に見て取れるグラフをつくりましたので,ここに掲げます。最新の2011年調査のもので,男子大学生1443人の図解です。
正方形を用意し,ヨコを経験の有無で分かち,タテを初経験年齢分布(2歳刻み)で分割しました。NAとDKは除いています。デート,キス,性交の3つの図をみていただきましょう。
レベルが上がるにつれ「なし」の領分が広くなってきますが,今日では,男子大学生の8割がデート,7割がキス,半分ちょっとが性交の経験があります。初経験の年齢は,デートとキスが14~15歳,性交は18~19歳が最も多くなっています。
アンケートでは,設問を分化させていく「SQ」法がよく使われますが,バラバラに切り離して結果を報告されると,全体の中での位置を見失いがちになります。その点,上記のような図を使うと,サンプル全体の中での比重も把握できて便利です。
先日,ラーメン二郎の経験率も同じ図で表してみました。興味ある方はご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/07/blog-post_22.html
http://www.jase.faje.or.jp/pub/seikoudou7_hakusho.html
「若者の性行動を知るならコレ」という定評のある調査で,1974年以降,6年間隔で実施されてきています。男子大学生の主な性行動の経験率は,以下のように推移してきています。
2005年から2011年にかけて経験率が下がっていますが,これが「草食化」ってやつでしょうか。今度の調査は2017年ですが,その頃はもっと曲線が右に垂れているかもしれませんね。
この調査では,経験ありの者に対し,初めて経験した年齢を尋ねています。経験の有無と初経験年齢の分布を同時に見て取れるグラフをつくりましたので,ここに掲げます。最新の2011年調査のもので,男子大学生1443人の図解です。
正方形を用意し,ヨコを経験の有無で分かち,タテを初経験年齢分布(2歳刻み)で分割しました。NAとDKは除いています。デート,キス,性交の3つの図をみていただきましょう。
レベルが上がるにつれ「なし」の領分が広くなってきますが,今日では,男子大学生の8割がデート,7割がキス,半分ちょっとが性交の経験があります。初経験の年齢は,デートとキスが14~15歳,性交は18~19歳が最も多くなっています。
アンケートでは,設問を分化させていく「SQ」法がよく使われますが,バラバラに切り離して結果を報告されると,全体の中での位置を見失いがちになります。その点,上記のような図を使うと,サンプル全体の中での比重も把握できて便利です。
先日,ラーメン二郎の経験率も同じ図で表してみました。興味ある方はご覧ください。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/07/blog-post_22.html
2015年8月5日水曜日
発達の図式
酷暑の日が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。私はすっかり家にこもり,昼間は外に出ていません。夏太りが心配されますので,夕刻7時ころの40分ウォークを日課にしようと思っております。
では日中何をしているかというと,こうしてブログを書いたり,本を読んだりしているわけですが,今,牛島義友教授の『青年心理学』(光文社)を読んでいます。今から60年以上前の1954年に発刊された書物です。
この手の概論書は,多くの人が群れて書く形式のもの(共著)が多いのですが,私は,一人の頭で書かれた本(単著)を好みます。それと,昔のやつがいい。記述が重厚で落ち着きがあるからです。
古本屋から取り寄せ,線を引きながら精読しているのですが,84ページに載っている発達段階の図式が興味深いので,ご紹介しようと思います。以下に掲げるのは,当該の図を私なりにアレンジして作成したものです。
成人するまでの発達段階は,よく知られているように,乳児期,幼児期,児童期,青年期というように区分けされますが,牛島教授は,別のネーミングをあてがっています。表の中央の「**生活期」というものです。
生後間もない乳児は,生活の範囲が狭く,もっぱら身辺の事物と関わって生きています。接触するのは親兄弟や室内の玩具とかだけ。むろん,外の世界を想像するなんてできません。目に見える事物が全ての「客観」の時代です。
2~3歳ころになると,言語を覚え,知らない外の世界について家族から話が聞けるようになります。また,本も読めるようになります。現実から離れた,想像の世界に遊ぶことができるわけです。それだけに,現実界での親の命令や干渉がうざったく感じられるようになり,自我の芽生えもあって,それに反抗し出します。乳児期(身辺生活期)から幼児期(想像生活期)への移行期が,第1次反抗期といわれるのは,このためです。別名,「イヤイヤ期」ともいわれています。
5歳ころになると,想像の世界から現実に戻り,学校に入学し知識を享受する生活が始まります。知識生活期です。
しかし,中学生くらいから再び内面の生活に入るようになります。体が大きくなり,もはや子どもではないという自覚が生じ,人生とは何かについて思いをめぐらします。高い理想を掲げ,それから隔たった現実界を激しく軽蔑します。こうした強烈な自我(ego)は当然,親や教師などの客観的な権威と激しく衝突し,問題行動のような現象もしばしば起きます。知識生活期から精神生活期への移行期,つまり12~13歳ころに第2次反抗期が位置しているのは,よく知られています。
表では青年期を年齢的に広くとっていますが,これはより細かく,青年前期,青年中期,青年後期に分けるのが適当でしょう。前期は,権威(客観)への従属から内面(主観)の世界に移行する時期,中期は主観の世界に没入する時期,そして後期は,現実の世界に再び降りていく時期です。いつまでも主観の世界にこもるわけにはいかず,現実との妥協を見出し,社会生活期に移ることが求められる。大人になるとは,こういうことです。
牛島教授の図式で面白いのは,成人するまでの発達過程を,客観と主観の往復運動と捉えていることです。反抗期は,客観から主観への移行期に位置すると解されます。大人の側からすれば迂回のように見えますが,内面の生活に遊ぶ(こもる)のは,人間形成の上でも必要なこと。これを過度に咎めるのは,慎むべきでしょう。
今日では,主観から客観に舞い戻る過程にも障害が生じていることに要注意。小学校に上がったばかりの児童が集団生活に適応できない「小1プロブレム」が問題化していますが,これなどは,想像の世界で遊ぶ想像生活期(自己チュー期)からのカムバックが上手くいっていないことの表れでしょう。
また,いつまでも主観(内面)の世界にこもり,大人としての役割取得(就職)を忌避する青年も多々みられます。青年期から成人期への移行障害です。青年期は,高尚な理想を追求する精神生活期ですが,それが完全に現実から遊離してはなりますまい。少しは現実のテイストも混ぜ,社会生活期に近づくにつれ,徐々にそれを濃くしていく。このような働きかけも必要です。その具体的な策として,最近では学校におけるキャリア教育に力が入れられています。
このように,客観と主観の往復運動として発達段階を捉えると,反抗期や若者の就労不全といった現象も理解しやすくなるように思います。牛島教授の本から得た知見を,ここにて記録しておこうと思います。
では日中何をしているかというと,こうしてブログを書いたり,本を読んだりしているわけですが,今,牛島義友教授の『青年心理学』(光文社)を読んでいます。今から60年以上前の1954年に発刊された書物です。
この手の概論書は,多くの人が群れて書く形式のもの(共著)が多いのですが,私は,一人の頭で書かれた本(単著)を好みます。それと,昔のやつがいい。記述が重厚で落ち着きがあるからです。
古本屋から取り寄せ,線を引きながら精読しているのですが,84ページに載っている発達段階の図式が興味深いので,ご紹介しようと思います。以下に掲げるのは,当該の図を私なりにアレンジして作成したものです。
成人するまでの発達段階は,よく知られているように,乳児期,幼児期,児童期,青年期というように区分けされますが,牛島教授は,別のネーミングをあてがっています。表の中央の「**生活期」というものです。
生後間もない乳児は,生活の範囲が狭く,もっぱら身辺の事物と関わって生きています。接触するのは親兄弟や室内の玩具とかだけ。むろん,外の世界を想像するなんてできません。目に見える事物が全ての「客観」の時代です。
2~3歳ころになると,言語を覚え,知らない外の世界について家族から話が聞けるようになります。また,本も読めるようになります。現実から離れた,想像の世界に遊ぶことができるわけです。それだけに,現実界での親の命令や干渉がうざったく感じられるようになり,自我の芽生えもあって,それに反抗し出します。乳児期(身辺生活期)から幼児期(想像生活期)への移行期が,第1次反抗期といわれるのは,このためです。別名,「イヤイヤ期」ともいわれています。
5歳ころになると,想像の世界から現実に戻り,学校に入学し知識を享受する生活が始まります。知識生活期です。
しかし,中学生くらいから再び内面の生活に入るようになります。体が大きくなり,もはや子どもではないという自覚が生じ,人生とは何かについて思いをめぐらします。高い理想を掲げ,それから隔たった現実界を激しく軽蔑します。こうした強烈な自我(ego)は当然,親や教師などの客観的な権威と激しく衝突し,問題行動のような現象もしばしば起きます。知識生活期から精神生活期への移行期,つまり12~13歳ころに第2次反抗期が位置しているのは,よく知られています。
表では青年期を年齢的に広くとっていますが,これはより細かく,青年前期,青年中期,青年後期に分けるのが適当でしょう。前期は,権威(客観)への従属から内面(主観)の世界に移行する時期,中期は主観の世界に没入する時期,そして後期は,現実の世界に再び降りていく時期です。いつまでも主観の世界にこもるわけにはいかず,現実との妥協を見出し,社会生活期に移ることが求められる。大人になるとは,こういうことです。
牛島教授の図式で面白いのは,成人するまでの発達過程を,客観と主観の往復運動と捉えていることです。反抗期は,客観から主観への移行期に位置すると解されます。大人の側からすれば迂回のように見えますが,内面の生活に遊ぶ(こもる)のは,人間形成の上でも必要なこと。これを過度に咎めるのは,慎むべきでしょう。
今日では,主観から客観に舞い戻る過程にも障害が生じていることに要注意。小学校に上がったばかりの児童が集団生活に適応できない「小1プロブレム」が問題化していますが,これなどは,想像の世界で遊ぶ想像生活期(自己チュー期)からのカムバックが上手くいっていないことの表れでしょう。
また,いつまでも主観(内面)の世界にこもり,大人としての役割取得(就職)を忌避する青年も多々みられます。青年期から成人期への移行障害です。青年期は,高尚な理想を追求する精神生活期ですが,それが完全に現実から遊離してはなりますまい。少しは現実のテイストも混ぜ,社会生活期に近づくにつれ,徐々にそれを濃くしていく。このような働きかけも必要です。その具体的な策として,最近では学校におけるキャリア教育に力が入れられています。
このように,客観と主観の往復運動として発達段階を捉えると,反抗期や若者の就労不全といった現象も理解しやすくなるように思います。牛島教授の本から得た知見を,ここにて記録しておこうと思います。
2015年8月1日土曜日
青年期の人口移動の世代変化
本日,企業の採用選考が解禁されましたが,学生の大都市志向は強まるばかりだそうです。就職情報会社の調査によると,地元を離れて進学した学生(来春卒業予定)のうち,「地元で就職したくない」と答えた者は40.1%にも達したそうです。
2010年卒の学生では,この比率は22.9%だったとのこと。売り手市場が強まり,地域を自由に選べるようになったためか,大都市での就業を望む学生が増えていることが,数値でも表れています。
はて,国の人口統計によっても,このような現象は可視化されるでしょうか。私は,10代後半から20代後半にかけての人口変化が世代によってどう変わってきたかを,都道府県別に調べてみました。総務省「人口推計年報」に掲載されている,県別の年齢階級人口の時系列データを使った次第です。
私の世代を例に,計算の方法を説明します。私は1976年生まれですが,慣例の5歳刻みの世代にすると,70年代後半(75~79年)生まれ世代となります。この世代は,1994年に15~19歳になり,10年後の2004年に25~29歳となります。
この2つの数字を照らし合わせることで,進学・就職といったイベントを含む青年期にかけての人口変化を表現することができます。下の表は,東京と私の郷里の鹿児島のケースです。aとbの人口は,単位は千人であることを申し添えます。
大都市の東京は,10代後半では76万人でしたが,10年後の20代後半では102万人にまで膨れ上がっています。34.1%もの増です。対して,わが郷里の鹿児島は,13万人から10万人へと変じています。こちらは22.7%の減です。私も,流出組の一人なのですが・・・。
以上は私の世代のデータですが,こうした人口移動のボリュームは前の世代に比して増えているのか,より最近の世代ではどうか。ここでの関心は,このようなことです。私は10年間隔の4つの世代について,同じデータをつくってみました。
1950年代後半,60年代後半,70年代後半,80年代後半の4世代です。順に,Ⅰ~Ⅳの時計数字で表すことにしましょう。各世代の10代後半から20代後半の人口増加率を,都道府県別に出してみました。計算のやり方は,最初の表と同じです。
下の表は,算出された人口増加率(10代後半~20代後半)の一覧表です。
先ほど比べた東京と鹿児島に注目すると,東京は,最近の世代ほど,青年期の人口増加率が高まっています。とくに第Ⅱ世代と第Ⅲ世代の断絶が大きく,6.8%から34.1%へと激増しています。東京も,60年代後半生まれ世代までは,青年期の人口増加率は1ケタだったのですね。それが最近では,1.3倍以上に膨張すると。外国人人口の流入増によるのでしょうか。
一方の鹿児島をみると,こちらは世代を下るにつれ,減少率が大きくなっていきます。50年代後半生まれの世代ではまだ1ケタでしたが,80年代後半生まれ世代では,流出の割合が3割近くにもなっています。
これは私が馴染みのある2都県のケースですが,表を全体的にみると,都市部で流入が増え,地方で流出が強まっているようにみえます。人口増加率の地域差の規模を表す標準偏差(最下段)も,年々大きくなってきています。青年期における,地方から都市への人口移動(吸引)は,時代とともに強まっているようです。
表にて色をつけた,目ぼしい5都県の傾向(trend)をグラフしておきましょう。
右上がりの大都市3都県と,右下がりの地方2県のコントラストが明瞭です。おおむね都市県は前者,地方圏は後者のような型になるかと思います。
ここで観察したのは,10代後半から20代後半にかけての人口増加率の世代変化ですが,この時期は,個人のライフコースからみれば,進学や就職といった大きなイベントを含みます。冒頭の新聞記事で紹介されている調査データでは,シューカツに励んでいる学生の非Uターン志向が強まっていることが報告されていますが,それはマクロな人口統計にも表れています。
ネットの普及により,都市と地方の情報アクセス格差は小さくなっていますが,国際化の進展に伴い,その拠点としての「Tokyo」の魅力が増しているのかもしれません。2020年にはオリンピックも開かれます。
エンリコ・モレッティの『年収は住むところで決まる』(プレジデント社)では,発展していくイノベーション都市と,衰退していく地方製造都市とに分化していくことが予言されていますが,海を隔てたわが国でも,静かに進行しつつある地殻変動といえるでしょう。大切なのは,こうした変化をいち早く察知し,早急な対策を立てることです。
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