2013年8月31日土曜日

2013年8月の教員不祥事報道

 月末の教員不祥事報道の整理です。今月,私がキャッチした教員不祥事報道の数は37でした。夏休みのためか数は少なくなっていますが,懲戒免職を隠して別の自治体に再採用された女性教諭など,「こういうことがあるんだ」という事案も見受けられます。

 いつも通り,記事名のヨコに当該教員の属性を記録しておきます。件の詳細を知りたい方は,記事名でググられたし。

 暦の上では,明日から秋です。気温の変化も激しくなるかと思います。みなさま,体調を崩されませぬよう。

<2013年8月の教員不祥事報道>
・ナイフで脅した小6の頭叩いた校長処分(8/1,読売,大阪,小,男,62)
・児童に頭突き、けがさせた教諭に罰金20万円(8/2,読売,栃木,小,男,56)
・若松の教諭が体罰 男子高校生が被害届(8/6,福島民友,福島,高,男)
・女子生徒裸にし、テーピング=撮影の男性教諭免職(8/6,時事通信,岡山,中,男,50代)
・小学校教頭、公務員を十数回殴り女子大生を壁に(8/6,読売,兵庫,小,男,53)
・女子バレー部員の腰を蹴る、顧問の男性教諭謝罪(8/7,読売,山口,中,男,50代)
・児童にあほ、ランドセル投げ付け 神戸市立小の教諭(8/8,神戸新聞,兵庫,小,男,50代)
・コンパス針で児童突く、体罰で小学校教諭処分(8/9,アットエス,静岡,小,男,41)
・教委が異例の教諭告発 強制わいせつ容疑で県と市
 (8/9,神奈川新聞,神奈川,小,男,50代)
・女性教諭の車見かけ、後つけた校長(8/10,読売,広島,小,男,56)
・体操服欲しい…高校女子トイレに忍び込んだ教諭(8/13,読売,愛知,小,男,41)
・遊技機に他店メダル=窃盗容疑で小学校教諭逮捕(8/15,時事通信,大阪,小,男,46)
・小学教諭、宿題忘れた男児を平手打ち・突き倒し(8/16,読売,大阪,小,男,31)
・小学校講師、女子高生のスカート内盗撮…逮捕(8/17,読売,京都,小,男,23)
・お化け屋敷で女子高生触る 私立高校長、痴漢容疑で逮捕(8/19,朝日,徳島,高,男,59)
・「麻薬含む植物片はオマケ」輸入の小学教諭逮捕(8/19,読売,長野,小,男,42)
・合否や成績745人分、教諭紛失…大阪・生野高(8/20,読売,大阪,高,男)
・中学校長と小学校女性教諭、体罰で減給(8/20,読売,高知,小・女50代,中・男50代)
・わいせつ行為の教諭処分 福井県教委(8/21,産経,福井,特,男,37)
・女性のリップクリーム使用不能に…指導主事免職(8/21,読売,鳥取,教育セ,男,38)
・同上:酒気帯び運転(鳥取,高,男,53)
・7年以上前のわいせつ行為で教諭停職、「悩んでいた」女性が訴え
 (8/22,産経,千葉,中,男,50代)
・同上:体罰(千葉,中,男,42)
・飲酒運転の教頭を懲戒免職 生徒に不適切行為の教諭も
 (8/22,福島民友,福島,飲酒運転:中男52,信用失墜行為:高男20代)
・児童ポルノ法違反の教諭を停職、依願退職に(8/23,産経,埼玉,小,男,26)
・夏休み中の小学校教諭、書店で女性の下着盗撮(8/23,読売,大阪,小,男,30)
・校長室に忍び込み、3万円盗んだ小学校臨時教諭(8/23,読売,広島,小,男,25)
・教員免許失効を隠した容疑で元教師逮捕(8/26,朝日,神奈川,小,女,44)
・教室で女児にわいせつ 小学校教諭を懲戒免職(8/28,愛媛新聞,愛媛,小,男,50代)
・<民間人校長>児童の母親にセクハラか(8/28,毎日,大阪,小,男,59)
・「非常事態だ」、同じ市内の教諭3人が犯した罪
 (8/28,読売,愛媛,窃盗:中男50代,酒気帯び運転:小男52)
・市立小教諭逮捕、女子高校生に淫らな行為の疑い(8/29,読売,静岡,小,男,56)
・合宿で寝ていた男子児童の体触った男性教諭(8/30,読売,和歌山,小,男,34)
・女性盗撮のベテラン教諭「なぜ、あんなことを」(8/30,読売,静岡,中,男,42)
・私立若松一高の“モンスター校長”が女性教員にパワハラ
 (8/30,mynewsjapan,福島,高,男,60代前半)
・生徒同士に平手打ち命令した中学バレー部顧問(8/31,読売,山形,中,男,50代)

2013年8月29日木曜日

生徒の将来展望の都道府県比較

 一昨日,2013年度の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。前々回は,児童・生徒の国際的視野に注目しましたが,今年度より,将来展望に関する設問も盛られています。以下のようなものです。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

 ①:将来の夢や目標を持っていますか
 ②:将来の夢や目標を実現するために努力していますか
 ③:将来何かの職業や仕事に就いて働きたいと思いますか
 ④:将来なりたい職業はありますか
 ⑤:あなたには「あのような人になりたい」と思う人はいますか

 若者の就労不全兆候が問題化しているなか,こういう事項も数値化しておきたい,という思いからでしょう。結構なことです。

 今回は,この5つの設問への回答を合成して,中3生徒の将来展望がどれほど明瞭かを測る尺度をつくり,都道府県ごとの比較をしてみようと思います。義務教育の最終学年の中3ともなれば,将来展望の輪郭は描いていることが期待されますが,その達成度が(相対的に)高い県はどこでしょう。自県の位置は如何。私なりのやり方で,実態を浮かび上がらせてみました。

 私は,上記の設問に対する,公立中学校3年生の回答を県別に整理しました。①~④は「当てはまる」という強い肯定の回答比率,⑤については「ある」と答えた者の比率を拾いました。

 首都の東京でいうと,①は47.0%,②は28.3%,③は79.7%,④は68.1%,⑤は69.4%,となっています。これらを合成して将来展望の明瞭度を測る尺度をつくるのですが,値の水準が異なるので,そのまま平均するわけにはいきません。均すのは,各々を同列の基準で評価できる値に換算した後です。

 全県の分布幅(レインヂ)の中で,各県の値がどこに位置するかという,相対スコアを計算してみましょう。具体的にいうと,最高値を1.0,最小値を0.0とした場合,当該県の値はどうなるかです。

 下表は,それぞれの設問について,全国値および全県中の最高値・最低値を掲げたものです。煩雑さを避けるため,①は目標,②は努力,③は仕事志向,④は志望職業,⑤はモデル,というように簡略表記しています。


 将来の目標を持っている生徒の比率(①)は,54.0%~42.6%というレインヂですが,前者を1.0,後者を0.0とするとき,東京の値(47.0%)はどういう値になるでしょう。ここでは,OECDの幸福度指数(BLI)で採用されている,以下の計算式を用いることとします。

 (当該データの値-最小値)/(最高値-最小値)

 これに依拠すると,東京の47.0%という肯定率は,(47.0-42.6)/(54.0-42.6) ≒ 0.386,となります。全県の分布(0.0~1.0)の中における,東京の相対的な位置を表すスコアです。「中の下」というところでしょうか。

 私はこのやり方で,各県の5つの設問への肯定率を,0.0~1.0のスコアに換算しました。下表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしています。


 右端は,5つのスコアを均した値です。この数値でもって,各県の生徒の将来展望がどれほど明瞭かを測ることにします。将来展望スコアとでも呼んでおきましょう。

 これをみると,ほう,トップは秋田ですね。学力1位に加えて,生徒の将来展望の明瞭度も1位。見上げたものです。ほか,値が高い県をみると,青森(0.751),山梨(0.776),広島(0.749),そして宮崎(0.743),というように地理的に分散しています。

 地域構造を押さえるため,このスコア値の地図をつくってみました。


 学力のように,濃い色の県が東北や北陸に集中するという構造にはなっていないようです。気になるのは,近畿圏が兵庫を除いて白一色であることくらいでしょうか。

 あくまで相対比較ですが,中3生徒の将来展望の都道府県差を浮き立たせてみました。次なる関心は,こうした地域差の要因ですが,どういうことが考えられるでしょうか。各県のキャリア教育の有様などいろいろ想起されますが,家族と将来のことについて話す頻度と相関しているようです。

 今年度の『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査では,「家の人と将来のことについて話すことがあるか」と問うていますが,「ある」と答えた公立中学校3年生の比率と,上記スコアの相関図を描くと下図のようになります。


 撹乱が結構ありますが,大まかには,家族と将来のことについて話す生徒が多い県ほど,将来展望の明瞭度スコアが高い傾向がみられます。相関係数は+0.409であり,1%水準で有意です。生活の大半を過ごす家庭での対話の頻度というのも,侮れない要因ですね。

 ところで,単一尺度に合成する前の5つのスコアを使うことで,生徒の将来展望の多角プロフィール図を描くこともできます。たとえば,以下のようなものです。


 これによると,どの面が突出していて,どこが凹んでいるのかが分かります。上記のスコア一覧表から数値を拾って,関心のある県のチャート図をつくってみるのも面白いでしょう。

 ちなみに,拙著『47都道府県の子どもたち(青年たち)』(武蔵野大学出版会)は,この図法(カルテ)を用いて,各県の子ども・青年のすがたを多角的に表現したものです。興味ある方は,お手にとってください。割引販売もいたしております。

2013年8月28日水曜日

学力が高いのはどっちか

 秋田に学ぶべきこと。それはごく当たり前のこと。

児童・生徒の国際的視野

 昨日,2013年度の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。各紙が,学力テストの平均正答率の県別順位を報道している模様です。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

 ところで,この調査は教科の学力テストだけではなく,児童・生徒質問紙調査と学校質問紙調査も含んでいます。前者は,対象者の日頃の生活や意識について問うものであり,興味深い設問がたくさん盛られています。私としては,こちらのほうに関心を持ちますね。

 児童・生徒質問紙調査では,今年度から,将来展望や国際的な関心・志向について尋ねられています。ほほうと思い,私なりに結果を整理しみたところ,後者について「おや」という傾向を見つけましたので,ここにてご報告します。

 今年度より,以下のような設問が新たに設けられています。

 ①:英語の学習は好きですか。
 ②:外国の人と友達になったり,外国のことについてもっと知ったりしてみたいと思いますか。
 ③:将来,外国へ留学したり,国際的な仕事に就いたりしてみたいと思いますか。

 グルーバル化が進む現代にあって,未来を担う子どもたちが,これらの問いにどういう回答を寄せているのか。興味が持たれますね。本調査の対象である小学校6年生と中学校3年生の回答分布を図示すると,下図のようになります。

 煩雑さを避けるため,①は英語嗜好,②は外国への関心,③は国際志向,という表記で簡略化しています。


  青と赤の肯定の回答に注目すると,英語嗜好と外国への関心はまあまあですが,国際志向が低くなっています。外国へ留学したいか,国際的な仕事に就きたいか,という問いに対する回答ですが,広義の肯定率は,小6で4割,中3で3割ほどにとどまっています。

 最近,海外留学する若者が減っているといいますが,少し上の世代の「ウチ化」傾向が伝播しているのかしらん。
 
 なお,学年の違いにも注意しなければなりません。どの設問でみても,小6よりも中3で肯定率は低くなっています。英語嗜好は,77%から54%へと20ポイント以上も減です。

 小6の外国語活動は,音声やコミュニケーション重視の親しみやすい内容ですが,中学になると細かい文法とかが出てきて嫌気がさす,ということでしょうか。外国への関心や国際志向が低下するのは,受験で忙しくなったり,現実を思い知らされたりと,いろいろな事情を想起できます。

 このように,子どもの国際関心・志向が学年を上がるにつれて萎んでいく傾向があるのですが,その程度は属性によって異なるでしょう。ちょっと検討してみたところ,学校の設置主体間の差が大きいことを知りました。下図は,先ほどの学年比較を,国公私別に行ったものです。

 この図では,最も強い肯定の回答(そう思う)の比率の変異が図示されています。


 公立よりも国私立校で肯定率が高いこと,小6から中3にかけての減少幅が公立校で大きいことがみてとれると思います。この傾向が顕著に表れているのは,①の英語嗜好です。

 義務教育段階では国私立校はごくわずかですが,結構な差が見受けられます。国際理解教育を行うための条件が違いますので,当然といえばそうかもしれませんが,設置主体間の格差問題としての性格も見落とせないと思います。

 図をよくみると,国立学校では,②と③の項目において小6から中3にかけての減少がほとんどありませんが,これなどは,在籍している児童・生徒の階層構成の違いにもよるでしょう。

 最後にもう一つ。③の国際志向が,地域タイプ(都市-へき地)とリニアな相関関係にあることに気づきましたので,図を掲げておきます。こちらも,「そう思う」の回答比率です(公立校)。


 撹乱一つないきれいな傾向ですが,ネットをはじめとした情報通信機器がこれほどまでに普及した現代にあっても,異国を知る情報量には地域差があるのでしょうか。画面上の2次元情報ではなく,現実の3次元情報です。たとえば,外国人と対面で接する機会など・・・。

 国立教育政策研究所のホームページにて,調査結果の仔細な統計表が公開されていますので,単純集計からは知り得ない情報を,自分なりに引き出すことができます。みなさんも,興味をもった事項について,分析を深めてみてはいかがでしょう。

 私は,今度は,将来展望に関わる設問に注目してみようと思います。将来の夢はあるか,なりたい職業はあるか,といった問いです。近年重視されているキャリア教育の成果は如何。47の小社会(都道府県)の違いも興味深いところです。

2013年8月27日火曜日

非伝統的夫婦

 世には無数の夫婦が存在しますが,仕事と家事という役割の担い手が夫か妻かによって,大雑把なタイプを設定することができます。


 夫が仕事で,妻は家事ないしは家計の補助的な意味合いの仕事(パート等)という夫婦は,お馴染みの伝統的夫婦といえましょう。双方とも仕事をしている夫婦は,共働き夫婦です。

 あと一つは,伝統的夫婦と役割分担が反対で,妻が仕事,夫が家事という夫婦です。こちらは,ニュータイプの非伝統的夫婦と呼ぶことにしましょう。

 私は,総務省の『国勢調査』にあたって,上記の3タイプの夫婦が数でみてどれほど存在するかを明らかにしました。最近の『国勢調査』の公表データは詳細になっており,夫と妻の労働力状態をクロスさせた夫婦数の統計表が出ています。2010年調査でいうと,第2次集計の全国結果の表25です。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 これを使って,各タイプに属する夫婦数を明らかにした次第です。追試をしたいという方もおられると思いますので,原表のどの部分の数字を拾ったのかを示しておきます。


 説明は要りますまい。赤色のセルは伝統的夫婦,青色は共働き夫婦,黄色は非伝統的夫婦に相当します。

 下表は,夫が20~40代である夫婦のタイプ内訳を整理したものです。その他は,合計から3タイプを差し引いた分です。最近5年間の変化も分かるようにしました。


 夫が20~40代である夫婦数は,この5年間で1,197万から1,138万へと少し減っています。未婚化の影響でしょう。

 内訳をみると,夫は仕事,妻は仕事という夫婦が最も多くなっています。しかるに変化でいうと,このような伝統的夫婦の数は実数・比重ともに減じており,代わって共働き夫婦の数が増えてきています。2010年では,全体の3割が共働き夫婦なり。近年の男女共同参画政策も効いていると思われます。

 あと一つ,夫が家事,妻が仕事という非伝統的夫婦ですが,このタイプは量的にはマイノリティーです。しかし,この5年間で1.5万から2.2万へと増えており,比重も微増しています。2010年の出現率は0.196%,510夫婦に1夫婦というところです。量的にはわずかですが,このニュータイプの夫婦が増えていることは注目されてよいでしょう。

 二神さんの『ニートがひらく幸福社会ニッポン』明石書店(2012年)の中で,小学校教員の女性と結婚し,ヒモで生きる覚悟を決めたニート男性の事例が紹介されていました。また,先日のプレジデント・オンラインの「2050年の日本人の働き方」という記事には,「妻のほうが収入も出世の可能性も高いので,主に家事と育児を担当するのが私の役割」という夫の話が載っていました。
http://president.jp/articles/-/10320

 人口減少の局面をむかえている日本社会において,働くのに男も女もありますまい。加えて,偏狭なジェンダー観念も揺らいできています。これから先,ここで設定したような非伝統的夫婦はますます増えてくることと思います。2015年の国調では,もしかすると5万を越えていたりして。

 先ほど掲げた,「夫の労働力状態×妻の労働力状態」の夫婦数の統計表から,従来型とは違う,いろいろなタイプの夫婦を取り出すことが可能です。たとえば,言葉がよくないですが,夫がニートで妻がフルタイム就業の「ヒモ夫婦」とかはどうでしょう。夫(⑧)×妻(①)のセルの数字を拾えばいいわけです。

 巷でいわれていることを数値で可視化すること。私の趣味の一つです。ちょっと涼しくなりました。気温の変化に,体調を崩されぬよう。

2013年8月25日日曜日

教員採用試験の実施タイプ

 東京では,教員採用試験の一次試験合格者が19日に発表され,昨日から今日にかけて二次試験が実施されています。

 東京は人物重視の方針なのか,一次はたくさん通して二次でバンバン落とす,といわれます。他の自治体もそうなのでしょうが,全国を見渡すならば,それとは逆の県もあると思います。

 自分が受ける県が筆記重視か,それとも面接・重視か。品のないことかもしれませんが,こういうことを知っておくことは,採用試験への対策にあたって不可欠でしょう。この点に関するデータは,昨年の4月8日の記事でも提示しましたが,今回は,やや違った角度から各県のタイプ分けをしてみようと思います

 東京アカデミー社のホームページにて,昨年夏実施の2013年度試験の結果を自治体別に知ることができます。載っている情報は,受験者数,一次試験合格者数,および最終合格者数です。私はこれを使って,各県の小学校教員採用試験の一次試験合格率,二次試験合格率を計算しました。
http://www.tokyo-ac.jp/adoption/outline/

 下表は,対照的な性格を持つ2県のデータです。福島と神奈川。後者は,横浜市等の政令指定都市も含みます。


 福島は一次試験は難関ですが,それをクリアすれば後は楽勝?の感があり,二次で落とされる者は多くありません。神奈川のほうは,筆記は7割近くを通していますが,面接や実技でそのうちの6割を振り落としています。

 性格づけると,前者は筆記重視型,後者は面接・実技重視型であるといえましょう。福島を受ける人は筆記試験対策に力点をおき,神奈川を受ける人は面接や模擬授業等の対策に力を入れる,というような傾斜をつけることが必要かと思います。

 他の県はどうなのでしょうか。私は,試験の区分を設けていない石川を除いた46県について,上表にある一次試験合格率と二次試験合格率を明らかにしました。政令指定都市は,当該都市が立地する県の分に含めています。なお,栃木と群馬は,2013年度試験の一次合格者が非公表のようですので,2012年度試験のデータを使っていることを申し添えます。

 下の図は,横軸に一次合格率,縦軸に二次合格率をとった座標上に,46の都道府県をプロットしたものです。点線は,46県の平均値を意味します。


 右下にあるのは,一次試験の合格率は高いが二次のそれは低い,「面接・実技重視型」です。先ほどみた神奈川はここに位置しています。対極にあるのは,福島のように,筆記は難関だがその後は楽勝?の「筆記重視型」です。

 残りの2タイプとして,一次・二次の合格率とも全県平均より高い「簡単型」と,その反対の「難関型」を設定しました。

 大都市の東京は,面接・実技重視型に括られます。古都の京都は,福島と同じく筆記重視型に属します。

 東北の青森と岩手は難関型。青森の一次合格率は18.0%,二次合格率は34.0%ですから,全受験者ベースの合格率はたったの6.1%,16人に1人です。まさに「難関」県です。一方,広島は43.1%であり,志望者の5人に2人が教壇に立てるようです。これは,教員の年齢構成というマクロ的な要因の所産でしょう。

 さて,上記の散布図では一部の県名しか記せませんでしたが,自分の志望する県がどのタイプか分からない方がおられるといけませんので,タイプごとに塗り分けた地図を掲げておきます。石川は欠損値として斜線模様にしてあります。


 教員採用試験の方針は各県の教育委員会が決めるものですが,同タイプが結構固まっていることからして,地域性のようなものも見受けられますね。それもそのはず。筆記か面接かはともかく,簡単県になるか難関県になるかは,人口要因によって決まるものですから。

 今回のデータが,教員志望の方の参考になればと思います。また,学術的には,上図にみられるタイプの違いによって,各県の教員集団のパフォーマンスがどう異なるか,という問題が提起され得ることを指摘しておこうと思います。

 多くの自治体で教員採用試験の二次試験が実施中,ないしはこれから行われることと思います。受験生諸氏のご健闘をお祈りいたします。

2013年8月23日金曜日

資料:都道府県別の育児休業等利用率

 2012年の総務省『就業構造基本調査』にあたって,子育て期の正社員男女の育児休業等利用率を都道府県別に出してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 25~34歳の正規雇用者で育児をしている者のうち,育児休業等制度を利用している者がどれほどいるか,という比率です。

 分母の「育児をしている者」とは,「未就学児(小学校入学前の幼児)を対象とした育児」をしている者をいいます。分子の「育児休業等制度を利用している者」は,育児休業,短時間勤務,子の看護休暇,およびその他の制度のいずれかを利用している者のことです(用語解説)。

 下表は,都道府県別の一覧表です。47都道府県中の最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけました。赤色の数値は上位5位です。


 各県の位置を視覚的にみてとれる図も載せておきましょう。横軸に男性,縦軸に女性の利用率をとった座標上に,47都道府県をプロットしたものです。点線は全国値を意味します。


 無精して恐縮ですが,コメントは添えません。ネット上でざっとみたところ,県別の育児休業利用率のようなデータはあまり公開されていないようなので,ここにて資料として掲げておこう,と考えた次第であります。

2013年8月22日木曜日

純ニート

 無業かつ就業非希望。しかもその理由が,通学,家事・育児,進学準備,ボランティアというような,一般に想定されるものでもない。統計をみると,働き盛りの年齢層でも,こういう人間が結構います。

 前回は,20~40代人口のうち,「仕事をする自信がない」という理由での就業非希望者がどれほどいるかを明らかにしましたが,今回注目するのは別の部分です。それは,「特に理由はない」という就業非希望者です。

 この層の位置についてイメージしていただくため,当該年齢人口の内訳表を提示しておきましょう。2012年の『就業構造基本調査』をもとに作成したものです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 働き盛りの年齢層のうち,無業かつ就業非希望であり,そのことの理由が定かでない者は49万3千人なり。ベース人口で除した比率にすると10.2‰,およそ100人に1人です。

 就業せず,教育も職業訓練も受けていない。これがよくいわれるニート(NEET)ですが,上記の約50万人は,就業意欲すら有しておらず,かつ,その理由が明確でない者です。「なんとなく(だるいから)働きたくね~」。こんな感じでしょうか。

 ネーミングが適切か分かりませんが,ニートの純度がより高いという点にかんがみ,ひとまず純ニートと呼んでおくことにしましょう。

 2012年では,20~40代の純ニートはおよそ50万人であり,ベース人口あたりの出現率は10.2‰ですが,この統計量を5年前と比較すると,下表のようになります。ジェンダー差もみれるようにしました。


 この5年間にかけて,実数でみても出現率でみても,純ニートの量が増えています。男性でみても女性でみても同じです。しかるに,出現率の水準は女性で高いようです。

 専業主婦の場合,出産・育児や家事という理由カテゴリーに収まるでしょうから,ここでいう純ニートにはほとんど含まれないと思われます。家事すらお手伝いさんに任せている有閑マダムでしょうか。それとも,親同居の未婚パラサイト女性か。あるいはヒッキー?

 いろいろ想像をめぐらすことができますが,上表の出現率が属性条件によってどう変わるかを観察することで,事態を少しは正確に推定できるようになるでしょう。ちょっとばかり試行してみたところ,学歴による差がクリアーであることを知りました。下表をご覧ください。


  性を問わず,低学歴群ほど純ニートの出現率が高くなっています。撹乱一つない,きれいな傾向です。中卒女性の場合,母集団あたりの出現率は29.3‰,34人に1人です。

 若者の純ニート化は,学歴によ疎外(差別),もっと広くいえば労働市場からの疎外の問題を色濃く含んでいるような気がします。中学時代の不登校経験者や高校中退者がニート化する確率が一般群に比して格段に高いことは,昨年の9月1日の記事でみた通りです。

 「ニート=怠け,平和ボケ」という解釈からは,うざったい説教論や精神論しか出てきません。求められるのは,階層的な要因とも関連があることをも見越した,社会的な視座でしょう。政府の白書の類では「階層」という言葉は滅多にでてきませんが,これはおかしなことではないかしらん。

 二神能基さんの『ニートがひらく幸福社会ニッポン-進化系人類が働き方・生き方を変える-』明石書店(2012年)を読んで,ニートはこれからの日本を変える「進化系人類」だ,という考えを持ちました。上表のような明瞭な学歴差がないなら,それが補強されたのでしょうが,現実はさにあらず。まだまだ,「社会的排除」の要素を含んだ問題であることに気づかされます。

2013年8月21日水曜日

仕事をする自信がない

 人口は,就業という観点からすると,有業者と無業者に大別されます。後者の無業者は,就業意欲の有無において,就業希望者と就業非希望者に分かたれます。

 ここまでの内訳は,新聞や白書等でしばしば報じられるのですが,私は,就業非希望者の理由構成に関心を持ちます。まあ,通学や育児・家事が大半でしょうが,総務省『就業構造基本調査』をみると,他にも細かい理由カテゴリーが設けられているようです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 最新の2012年調査によると,同年10月時点の20~40代人口は4,812万人。この働き盛りの年齢層の内訳を解剖すると,下表のようになります。就業非希望者については,就業を希望しない理由ごとの数を示しています。


 当然ですが,この年齢層では働いている者がほとんどで,全体の8割を占めています。残りの2割が無業者ですが,無業者の中でも,就業を希望しない者よりは,それを希望する者のほうが多いようです。足繁くハロワ等に通っておられる方でしょう。

 ここまでで全体の91.4%が占められ,残りの8.6%が就業を希望しない無業者です。理由ごとの数をみると,通学や育児というものが多くなっています。学生や専業主婦でしょう。その次に多いのが「特に理由なし」ですが,これは純粋ニートに相当するのではないかしらん。

 この部分に焦点を合わせるのは別の機会にして,今回注目したいのは,「仕事をする自信がない」という理由による就業非希望者です。最近,自分のスキルや人づきあいへの不安から,就労に踏み出せない者が増えているといわれます。この理由カテゴリーによる就業非希望者数をもとに,実態をみてみましょう。

 上表によると,「仕事をする自信がない」という理由による,20~40代の就業非希望者は約11万人。ベース人口1万人あたりの数にすると,23.0人となります。

 5年前の2007年調査では,この数は8万9千人ほどであり,1万人あたりの出現率は17.9でした。ほう。絶対数,出現率とも増加をみています。働き盛りの層において,「仕事をする自信がない」という者が増えていることが知られます。私もそのうちの一人かも。

 以上は,20~40代と広く括った場合ですが,より細かい属性ごとの傾向も出してみましょう。性別・年齢層別に,「仕事をする自信がない」就業非希望者の出現率を計算してみました。同じく,ベース人口1万人あたりの数です。


 男性の40代後半を除く全ての層において,出現率が高まっています。増加倍率が最高なのは,男性は40代前半,女性は30代前半です。バリバリの働き盛りですね。

 ところで,年齢による変化は性によって違っており,男性は若年層ほど高く,女性はその逆になっています。女性は,育児の手間が少なくなり,そろそろ(再び)働こうかという段になって大きな不安が押し寄せる,ということでしょうか。就業未経験,ないしは就業中断に由来するものです。

 そういうイベントのない男性では,就業への不安は,20代の入職期に集中しています。この点は,学校から社会への移行期にまつわる問題の一面と捉えることができるでしょう。ブラック企業で酷い目に遭い,そうしたトラウマから「仕事をする自信がない」とふさぎ込んでしまう若者が増えている,という解釈も可能かと思います。

 入職・再就職の双方の過程において,働くことへの不安の量が増えていることが分かりました。これは,大学等の中等後教育機関における職業教育の問題,再就職への橋渡しに関わる条件整備の不足の問題,就業者にトラウマを与えるようなブラック企業,さらには若者の対人関怠避など,多様な問題要素を含んでいるでしょう。

 「仕事をする自信がない」 という不安の内実がもっと具体的に分かれば,と思います。上でちょっと書いたように,スキルへの不安なのか,組織で対人関係を持つことに対する不安なのか・・・。どの面が大きいかによって,問題への対処の在り方も変わってきます。私としては,後者の部分が結構大きいように思えるのですが。職業教育の未熟・不足という問題だけに集約されるべきではないでしょう。

  最初の表でみたように,就業非希望の理由は,他にもいろいろあります。興味を持ったものについて,より仔細なデータをつくってみるのも面白いかと存じます。次回は,「特に理由なし」という就業非希望者(≒純粋ニート)に着目してみようかと。こちらは数が多いので,都道府県別の数値も出せそうです。

2013年8月19日月曜日

貯蓄ジニ係数

 社会は,有する富の量を異にする人々から成り立っています。各人の富量の指標としては収入がよく用いられますが,貯蓄という側面にも注意する必要があるでしょう。収入が少なくても(なくても),貯蓄で暮らしている人だっているわけですから。

 各世帯の貯蓄額分布が分かる公的資料としては,厚労省の『国民生活基礎調査』がありますが,本調査において貯蓄が調査項目に加えられたのは,つい最近のようです。よって,長期的な時系列をたどれない,という難点があります。

 そこで私は,金融広報中央委員会が毎年実施している『家計の金融行動に関する世論調査』のデータを使うことにしました。この調査から,1991~2012年現在までの,2人以上世帯の貯蓄額分布の変化を明らかにすることができます。単身世帯が調査対象に含まれていませんが,この点はよしとしましょう。
http://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron2012fut/

 下図は,本調査の時系列データをもとに,2人以上世帯の貯蓄額(金融資産保有額)の分布がどう変わってきたかを図示したものです。無回答の世帯は除外しています。


 この20年間で,貯蓄がゼロという世帯が増えてきています。バブル末期の1991年では8.6%でしたが,2012年現在では28.0%にもなっています。最も高かったのは2011年の30.6%です。これは,11日のサンケイビズの記事でもいわれているように,東日本大震災の影響でしょう。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130811/ecc1308111830007-n1.htm

 現在では,全世帯のおよそ3割が貯蓄なしの世帯です。湯浅誠さん流にいうと「溜め」がない世帯。ここでいう「溜め」とは金銭だけに限られませんが,何かのきかっけで生活が即崩壊するリスクのある人々が増えていることは確かだろうと思います。

 一方,図の上のほうをみると,3,000万以上がっつり溜めこんでいる世帯の比重もわずかながら増えています(7.4%→10.9%)。ふうむ。収入格差ならぬ貯蓄格差の拡大を匂わせる図柄です。

 上記の分布データを使って,貯蓄額の不平等度を測るジニ係数を,それぞれの年について出してみましょう。名づけて,貯蓄ジニ係数。最新の2012年を例にして,計算の過程を提示します。


 2012年調査において,貯蓄の有無ないしは貯蓄額が把握されるのは3,648世帯。この世帯を12の階層に分け,各階層の世帯が有する貯蓄額の総量を出したのが,表中の貯蓄量です。

 階級値の考え方に依拠して,100万円台の世帯は一律に150万円,200万円台は一律250万円,というように仮定しましょう。すると,調査対象の3,648世帯が有する貯蓄額総量は,364億1,400万円となります。

 この莫大な貯蓄量が12の階層にどう配分されているかを相対度数の欄でみると,一番上の階層が全体の43.5%をもせしめているではありませんか。この階層は,量の上では全体のわずか10.9%しか占めていないにもかかわらずです。

 逆にいうと,累積相対度数のマークの箇所をみれば分かるように,全体の半分を占める貯蓄額500万未満の世帯には,貯蓄総量の5.2%しか行き届いていません。すさまじい偏りですね。

 こうした偏りを,ローレンツ曲線を描いて可視化してみましょう。横軸に世帯数,縦軸に貯蓄量の累積相対度数をとった座標上に12の階層をプロットし,線でつないだものです。実線は2012年,点線は1991年の曲線です。


 「失われた20年」にかけて,曲線の底が深くなってきています。すなわち,貯蓄の世帯間格差が拡大した,ということです。

 われわれが求めようとしているジニ係数とは,対角線と曲線で囲まれた部分の面積を2倍した値です。算出された係数値は,1991年が0.537,2012年が0.640なり。

 以前に比して値がアップしていることに加えて,0.6を超えるという絶対水準の高さにも驚かされます。昨年の11月30日の記事で計算した,収入のジニ係数は0.4ほどでしたが,ここではじき出された貯蓄のジニ係数は,それよりもうんと高くなっています。単身世帯も含めれば,値はもっと跳ね上がるでしょう。

 それはさておいて,1991~2012年の貯蓄ジニ係数の逐年推移をたどると,下図のようになります。今世紀以降に値が上昇し(小泉政権の影響?),震災が起きた2011年に0.643とピークになっています。


  わが国において人々の収入格差が開いていることはよく聞きますが,貯蓄の格差も拡大してきているようです。さらに,格差の規模でいうと,前者よりも後者においてはるかに大きいことも知りました。

 人々が有する富とは,インカムとプールという2つの要素からなりますが,これから先,高齢化が進行するなか,後者の面により注意を払う必要があるでしょう。推測ですが,貯蓄格差がとりわけ大きいのは高齢層であると思われます。

 祖父母から孫への教育援助を非課税にする動きがあります。貯め込んだお金を使っていただこうという意図には賛成ですが,高齢世代の貯蓄格差が,子の世代の教育格差となって現出しないかどうか。こういう点にも目を向けていかなければなりますまい。

 ところで,金銭的な「溜め」を持たない人が増えているなか,今後は,困った時に助け合う「人間関係」面での溜めが重要になってくるでしょう。ちょっと格好つけていうと,社会関係資本です。

 国立社会保障・人口問題研究所の『生活と支え合いに関する調査』にて,人づきあいの頻度とか調査されていたような気がします。これを使って,関係面での「溜め」のジニ係数とか出せないかしらん。「孤族」という言葉に象徴されるように,一人ぼっちの人間が増えていますので,こういう面での「溜め」の格差も広がってきていると思うけどなあ。今後の作業メモとして記録。

2013年8月17日土曜日

ハイサーグラフ

 ダブル高気圧の影響とやらで,猛暑の日が続いています。予報によると,今日も35度くらいまで上がるそうです。

 しかるに,世界を見渡せば,日本よりも暑い国は数多くあります。たとえば,バックパッカーの楽園として知られるタイの首都バンコクなどはどうでしょう。気象庁ホームページのデータベースにあたって,月ごとの平均気温と降水量を調べてみました。
http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/climatview_jp/index.html

 下の表は,東京とバンコクの比較表です。月別の平均気温や降水量は,年による変動が結構ありますので,1981~2010年までの数値を均した平年値であることを申し添えます。


 ほう。バンコクでは,年間通じて平均気温が25度を超えています。東京の真夏はバンコクの真冬って感じです。降水量は,バンコクでは月による変動が激しいようですが,雨季の量はハンパでなく,9~10月では300mmを超えます。湿度もさぞ高いことでしょう。

 1泊100バーツ(約250円)で泊まれる安宿とかは,もうゴキブリの巣窟だそうですが,そうだろうと思います。

 さて,私は視覚人間ですので,上表のデータをグラフ化したいのですが,どうしたものでしょう。両都市の折れ線ないしは棒グラフをつくって並べるというのが常ですが,情報を一つの平面上に集約するやり方もあります。

 横軸に平均気温,縦軸に降水量をとった座標上に,それぞれの月のデータを位置づけて線でつなぐのです。こうすることで,平均気温と降水量の月変化を,2都市について視覚的にみてとることができます。この図法はハイサーグラフといい,地理学の分野で広く用いられているそうです。


 バンコクは12月を除いて,どの月の平均気温も東京の真夏より高くなっています。描かれた線型のヨコ幅が狭いことから,年間を通して平均気温が高温であることも分かります。一方,タテの幅は大きく,月による雨量の変動が激しいことも知られます。

 東京はというと,月ごとの位置変化が,激しくはありませんがコンスタントにありますね。まさに「四季の国」です。

 いかがでしょう。教科書で何頁も割いてくだくだ言われていることが,上記のハイサーグラフでは,一目瞭然の形でビジュアル化されています。便利なものです。

 この図法は,中高の社会科教員の採用試験でもよく出題されます。線型を提示して,どの都市のものかを答えさせる問題が多いようです。正答するには,各都市がどの気候帯に属し,かつそれぞれの気候帯の特徴(高温多湿,雨季と乾季の差が激しい・・・etc)がどういうものかを知っておく必要があります。

 まさに,地理学の気候分野の知識を総合的かつ簡潔に試すのにもってこいの題材といえましょう。この夏実施(2014年度)の東京の採用試験でも出題された模様です。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/p_gakko/senko.htm

 ところで,年間通じて高温であるバンコクでは,熱中症になる人が多いのではないかと思われますが,そうでもないそうです。その秘密は,果物に塩をかけて食べることにあるのだそうな。現地では果物屋の屋台が至る所にあり,みんなフルーツにかぶりついていますが,そこでは,発汗によって失われた塩分が(自ずと)補給されているわけです。
http://www.news-postseven.com/archives/20130816_205975.html

 日本でも,スイカに塩をかけて食べる習慣がありますが,これはもしかすると,熱中症予防のために先人が編み出した知恵なのかもしれません。

 「クーラーも冷蔵庫も製氷機もない時代から続く,蒸し暑さから体を守るために培ってきたタイでの習慣」(上記リンク先のポストセブン記事)。機械化・電気化が進んだわが国においても,注視すべきことなり。

2013年8月15日木曜日

戦争経験世代の量の変化

 今日(8/15)は終戦記念日ですが,12日の朝日新聞Web版に「戦争の闇,伝えたい 91歳元兵士,証言集をネットに」と題する記事が載っています。
http://www.asahi.com/national/update/0811/OSK201308100196.html

 福島県の佐藤さんという方ですが,今年で91歳ということは,1922(大正11)年のお生まれかと拝察します。終戦の年(1945年)は23歳。まぎれもなく,戦場で銃を握ったことのある世代です。

 しかるに現在,こうした戦争経験世代はどんどん減ってきています。「体で知っている戦争のばかばかしさを,しっかりと伝え残しておきたい」。こういう思いから,戦争経験者の証言集をネット上で発信する活動をされているとのこと。大変意義ある仕事と,敬意を表します。

 統計でみて,戦争経験世代はどれくらいいるのでしょう。統計量を把握するには操作的な定義が必要ですが,まず広義の戦争経験世代をして,1940(昭和15)年以前に生まれた世代とみなしましょう。この場合,最も下の世代でも,終戦時には5歳になっているわけですから,物心はついていることになります。

 このうち,上記の佐藤さんのように,戦場に召集されたことのある世代はというと,太平洋戦争中は,17歳以上の男子に「赤紙」という召集令状が送られていました。終戦の年(1945年)の17歳は,1928年生まれです。よって,この年以前に生まれた世代といたしましょう。名づけて,軍隊経験世代。

 この2つの仮定をもとに,戦場に行ったことはないが,戦争の怖さは肌身で知っているという,幼少期戦争経験世代も割り出すことができます。前者から後者を引いて,1929~1940年生まれ世代です。

 この記事では,この2つの世代の量を明らかにしてみようと思います。もう一度整理しておきます。

 ●軍隊経験世代 ・・・ 1928年以前生まれ世代
 ●幼少期戦争経験世代 ・・・ 1929~1940年生まれ世代

 私は,1歳刻みの細かい年齢別人口統計を作成し,各年において,この意味での戦争経験世代がどれほど存在するかを調べました。観察期間は,1950~2050年の100年間です。ソースは,2012年までは総務省『人口推計年報』,2013年以降は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(中位推計)です。
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp

 どういうデータをいじったかについてイメージしていただくため,データベースの一部の写真を掲げておきます。


  手始めに,両端と中央(1950年,2000年,2050年)の3時点において,上記の意味での戦争経験世代がどれほどいるかをみてみましょう。全体から2世代を差し引いた分は,戦争非経験世代に相当します。


 1950(昭和25)年では,国民の半分が軍隊経験世代であり,幼少期経験世代までも含めると4人に3人。それもそのはず。当時の22歳以上の国民全員ですから。この頃は,ほとんどの家庭において,戦争の悲惨さ・愚かさについて,親から子へと繰り返し語り継がれていたことでしょう。

 そういえば,1958年の物語「三丁目の夕日」では,主人公の一平くんが「父ちゃん,戦争の話はもう飽きたよ」とかよく言っていますよね。

 しかし,半世紀を経た2000年では,戦争体験世代はすっかり高齢化し,量的にも少なくなります。今世紀の半ばの断面をみると,ほぼ皆無。よくいわれる,戦争経験世代の減少傾向がはっきりとみてとれます。

 以上は,3つの時点をかいつまんだラフスケッチですが,細かい逐年の傾向も表現してみましょう。下図は,3つの世代の構成変化を面グラフで表したものです。点線は,2013年現在の断面を意味します。


 時とともに,戦争の怖さを肌身で知っている2世代の量が減じていきます。2013年現在では,軍隊経験世代3.6%,幼少期戦争経験世代10.8%,非経験世代85.6%,という構成です。冒頭で紹介した佐藤氏は,28人に1人という,数少ない軍隊経験世代の一人ということになります。

 将来予測によると,2030年代の半ばには軍隊経験世代のほぼ全員が亡くなり,2040年代の中ごろには幼少期戦争経験世代もいなくなることが見込まれています。こういう状況のなか,佐藤氏のように,生の戦争体験・証言を記録し発信する活動は大変重要なことであると思います。

 加えて,人間は文字という偉大な伝達ツールを有していますので,戦争について書かれた本を子どもたちに読ませることも必要になってきます。「追体験」です。

 そのための書籍はいろいろあるでしょうが,私は,作家の西村滋さん(1925年~)の筆になる『お菓子放浪記』(理論社)がいいと思います。初(1976年),続(1994年),および完(2003年)の3部からなる,戦争孤児の物語です。


 戦争がいかに馬鹿げたことであるか,子どもの心にどれほど癒えることのない傷をもたらすか・・・。筆者の実体験にも依拠しつつ,生き生きと綴られています。今の子どもたちに戦争を「追体験」させるのに最適な書物であると私は思います。戦争孤児が焼け跡をたくましく生きるというような美談モノではありません。

 長くなりましたのでこの辺りで。 来週いっぱいまで酷暑が続くとのこと。熱中症にはくれぐれもご注意を。

2013年8月13日火曜日

甲子園出場校の公私ジニ係数

 夏も盛り,テレビをつければ高校野球中継をやっていますが,甲子園出場校には私立高校が多いな,という印象を持ちます。

 調べてみたところ,現在開催中の夏の甲子園大会出場校49校のうち,私立高校は35校であるようです。比率にすると約7割。母集団での構成比を勘案すると,甲子園の出場校は私立高校に相当偏っているといえます。

 夏の甲子園は,各県の予選を勝ち抜いた高校が出場しますが,出場校が私立であるか否かによって,47都道府県を塗り分けた地図をつくってみました。今年のものと,30年ほど前の1980年のものです。

 緑色は,出場校が私立である県です。1980年の東京は,東東京が私立,西東京が公立なので,薄い色にしています。1980年の出場校の調査にあたっては,下記の「年別全国甲子園出場校」というサイトを使わせていただきました。
http://www.geocities.co.jp/athlete/1492/data/shutujyou.html


 1980年では私立よりも公立のほうが多かったのですが,現在ではそれが逆転し,多くの県に色がついています。出場校(49校)の占める私立校の比重は,38.8%から71.4%へと大きく伸びました。

 上述のように,これは,全高校の設置者構成とはかなり隔たっています。文科省『学校基本調査』から分かる,母集団の国公私構成と出場校のそれを照合してみると,下図のようです。カッコ内は,高校の数です。


 昔はそうでもありませんでしたが,現在では,母集団と出場校の設置者構成のズレが顕著になってきています。今では,全高校では4分の1ほどしかない私立高校が,夏の甲子園出場校の7割をも占有しているわけです。単純に考えると,私立校の出場確率は,通常の2.7倍高いことになります(71.4/26.5 ≒ 2.7)。

 5月7日の記事でみたように,有力大学合格者が私立高出身者に偏る傾向が強まってきていますが,甲子園の土を踏むに際しても,そういう格差が出てきている,ということかしらん。

 それはさておき,統計学の教材づくりも兼ねて,甲子園出場校の公私の偏りを可視化するジニ係数を計算してみましょう。下表は,用いる基礎データです。


 母集団と出場校の設置者構成のズレは,一番下の累積相対度数によって表されています。この数値をグラフ化することで,その様を視覚的にみてとることができます。

 下の図は,横軸に全高校(母集団),縦軸に甲子園出場校の累積相対度数をとった座標上に,3つの群をプロットし線でつないだものです。これがローレンツ曲線なり。


 曲線の底が深いほど,全高校と出場校の設置者構成のズレが大きいこと,すなわち出場チャンスの国公私間格差が大きいことを示唆します。2013年の底は,1980年よりもだいぶ深くなっていますね。

 ここで求めようとしているジニ係数は,曲線と対角線で囲まれた部分の面積を2倍したもので,0.0~1.0までの値をとります。算出された係数値は,1980年は0.152ですが,2013年現在では0.450にもなります。

 学業のみならず,スポーツの領域でも,こういう学校格差はあるのですねえ。まあ,特待生制度とかで技能に秀でた生徒をかき集めている私立校は多いでしょうから,当然といえばそうですが,以前に比して,偏りの程度が増してきていることは,私にとっては発見でした。

 話をちょっと広げると,学力をはじめとした教育達成に社会階層差があるのは教育社会学では常識ですが,スポーツ達成の階層差というのはあるのでしょうか。競技技能の向上に際しては,稽古をつけたり優秀なコーチをつけたりといろいろ費用がかかりますから,階層要因との結びつきはあるように思いますが。

 論文検索サイトCiniiで,「スポーツ」と「社会階層」という語でサーチしたところ,多くはありませんが,いくつかの論文がヒットしました。体育学,スポーツ社会学の領域の研究主題として,一応の確立はみているようです。

 今回やったのは,甲子園出場校の分析ですが,野球だけでなく,他の種目にも目を向けて,インターハイ出場選手の高校分析などをしてみても面白いでしょう。ネット上に,出場選手の基礎情報を軒並みまとめたサイトとかがあるかもしれません。

 夏の甲子園大会も中盤。燃えよ,若き球児たち(熱中症にならない程度において)。みなさまも,よいお盆休みをお過ごしください。

2013年8月11日日曜日

東京の高校非進学の変化

 2010年度より高校無償化政策が施行されたことに伴い,公立高校の授業料は無償になり,私立高校の授業料には補助が得られるようになっています。義務教育は中学校までですが,高校が準義務化していることにかんがみ,この段階までの教育機会は公的に保障しよう,という意図からです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/

 2011年11月6日の記事でみたように,この政策により,経済的理由による高校中退者が大きく減じましたが,高校非進学者のほうはどうでしょう。大都市の東京について,政策施行前の2009年春から2012年春までにかけて,高校非進学率がどう変わったかを調べてみました。

 都教委の『公立学校統計調査(進路状況編)』から,都内の公立中学校卒業生の進路を知ることができます。私は,就職,その他(在家庭者等),および不詳という3カテゴリーの者が卒業生全体に占める比率を計算しました。高専や専修学校進学者は,別個のカテゴリーがありますので,この中には含まれません。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/toukei.html

 下表は,2009年以降の推移を示したものです。


 ほう。高校無償化政策が施行され,それが定着するにつれて,高校非進学率が低下しています。こうしたリニアな傾向は,この政策の効果とみなしてよいでしょう。

 あと一点,都内の地域別の動向も観察してみましょう。私は,上記の意味の高校非進学率を都内の49市区について出しました(町村は卒業生が少ないので除外)。下図は,政策施行前の2009年春と最新の2012年春の高校非進学率地図です。


 政策施行前では,2%(50人に1人)を越える地域が結構ありましたが,最近では,その数は少なくなっています。全体的にみても,地図の色が薄くなってきていることが分かります。ほとんどの地域で,高校非進学率は減少している模様です。

 ちなみに,各地域の住民の富裕度と高校非進学率の相関関係も消失しています。『東京都税務統計年報』に,49市区の1人あたり都民税・市区民税の平均課税額が掲載されています。2010年度の課税額と上図の高校非進学率の相関係数を出すと,2009年は-0.353,2012年は-0.010です。

 政策施行前は,課税額が少ない貧困地域ほど高校非進学率が高い傾向がありましたが,近年ではそれがみられなくなっています。このような地域統計も,高校無償化政策の効果を支持するエビデンスの一つとみてよいのではないでしょうか。

 なお,この事実は,貧困地域の非進学率が下がったことと同時に,富裕地域のそれが上がったことにも由来します。地図中で赤マルで囲んでいるのは港区ですが,この区では,2009年から2012年にかけて,高校非進学率が1.4%から3.7%へと増えています。

 港区といえば,六本木ヒルズを擁する,都内屈指の富裕地域。最近,高校段階から子どもを海外にやろうという動きが富裕層を中心に高まっていると聞きますが,そういうことの表れでしょうか。上記の地図の模様変化を読み解く観点は,一つではなさそうです。

 さて,2015年度より高校無償化政策の内容が一部変更され,所得制限が設けられるそうです。適用対象は,おおむね年収900万円未満。この措置で浮いた分を,貧困層の手厚い支援に回すとのこと。

 現行では所得制限がなく,富裕層にゆとりができるため,高校段階での教育投資の階層格差が広がる,という現象が見受けられます(昨年の2月12日の記事をご覧ください)。

 この問題が認識されたのかどうかは知りませんが,単純な一律適用ではなく,所得による傾斜配分を設け,貧困層への支援を手厚くしようという意図には賛成です。本制度の趣旨が「家庭の状況にかかわらず,高校生等のみなさんが,安心して勉学に打ち込める社会をつくる」(文科省),というものであることを思い出しておきましょう。

 間もなく,今年春の都内の地域別進路統計が公表されます。こういうマクロ統計を使って,政策の効果測定の作業を継続していくことも重要であると考えます。

2013年8月9日金曜日

属性別の新卒ニート出現率

 2013年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。各紙が結果のハイライトを報じていますが,大卒者の進路に関するトピックが多いようです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 近年,『学校基本調査』の進路統計のカテゴリーは詳細になってきています。原資料にあたって,この春の大卒者の進路内訳表をつくると,以下のようになります。


 大卒者の数はおよそ56万人。そのうち正規就職者が35万人であり,63.2%を占めています。しかるに,ここでみたいのは,そういう「おめでたい」部分ではありません。目を下のほうに移すと,進学でも就職でもない「左記以外」のうち,進学浪人でも就職浪人でもない「その他」というカテゴリーの者が3万人ほどいます。

 卒業時の進路が,進学でも就職でもない。かといって,そのための準備もしていない。昨日の日経記事では,「家事手伝いやボランティア従事者も含まれるが,大半がニートとみられる」といわれていますが,私もそうだろうと思います。最近よくいわれる「新卒ニート」です。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0706K_X00C13A8CC1000/

 新卒ニートの出現率は5.5%,卒業生18人に1人なり。結構いるものですね。ところで,これは大卒者全体の値ですが,男女,国公私,および専攻といった属性別にみるとどうでしょうか。また,短大や大学院といった他の高等教育機関の卒業生では,どういう値が観察されるでしょう。

 私は,上記の意味での新卒ニートが卒業生に占める割合を,5つの機関別・属性別に計算しました。下表は,結果をまとめたものです。率の水準によってセルの色分けもしています。**は,データがないことを意味します。


 まず,最下段の合計の行をみると,高専では新卒ニートはほとんどいません。しかし,他の機関では5%を超えており,おおむね,段階を上がるほど出現率が高くなっていきます。上表にあるように,大学学部卒業生では5.5%ですが,修士課程修了生では6.2%,博士課程修了生では13.1%,8人に1人にもなります。

 博士課程修了生の多くは大学教員志望者ですが,教員公募に応募中の者は「就職準備中」としてカウントされ,ここでいう新卒ニートには含まれないと思われます。はて,この率の高さは何故でしょう。

 それはさておき,表中の属性別数値に目をやると,すさまじい値がちらほらみられます。10%超は薄い灰色,15%超は濃い灰色,20%超はブラックにしていますが,大学院,とりわけ博士課程の箇所では,ほとんどのセルに色がついています。

 私が出た教育系の博士課程では18.2%,芸術系では20.3%,最も高い人文系では23.2%です。およそ4人に1人。教員公募への応募等のシューカツは修了してから,ということなのでしょうか。まあ,私もそうでしたけど。

 「大卒の新卒ニート3万人,全体の5%」。これはメディア等でよく報じられてるところですが,細かい属性別にみると,値が大きく変異することが分かりました。

 卒業時の行き先が明確でなく,何らかの役割を得るための準備もしていない。こういう人間が増えることは問題を含んでいる,という見方が多数でしょうが,この中に,新たな生き方の萌芽が潜んでいるとも考えられます。

 2013年春に輩出された,上記の5高等教育機関の新卒ニートは41,232人。この集団の素性のより詳細な解析と,数年後の状況がどうなっているかを追跡する研究が求められるでしょう。社会変革のきっかけ(ヒント)を,アウトサイダーから学べることも少なくないのです。

2013年8月4日日曜日

国立大学定年退職教員の再就職

 こんなデータをつくってみました。出所は,文科省『学校教員統計調査』の教員異動統計です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm


 この表から読み取れること,申したいことは以下の通り。

 1)aとbの対比から,国立大学を定年退職した後,私立大学に再就職する教員が絶対量・相対量ともに増えているのではないか,と思われる。*bには,私立大学や民間企業等の定年退職者も含まれることに留意。

 2)こうした再就職者によって,私立大学の新規採用ポストが占有される傾向が強まっている(b/c)。

 3)定年退職教授を1人雇うカネで,若手なら2~3人雇える。仮に,国立大学定年教授の再就職を禁止,ないしは非常勤職に限定という措置をしたならば,どれほど若手研究者の職がみつかることか。雇用創出量をシュミレートしてみるのも面白い。もしかしたら,無職博士問題がたちどころに解決されるレベルかもしれない。

2013年8月2日金曜日

中等後教育機関の教員構成

 高卒後の教育(中等後教育)を担う機関は,大学だけではありません。同じ高等教育機関として括られる短大や高専のほか,専修学校や各種学校といった,実践的な職業教育を施す学校も,その一翼を担っています。

 これらの機関の間では移動可能性も開かれており,短大や専修学校を出た後,大学に編入学する者もいます。また,7月27日の記事でみたように,大学を出た後,専門学校に入り直すという学生も増えてきています。大学の自由な時間の中でやりたいことを見定めた,というような者です。

 意外に知られていませんが,わが国の中等後教育(Post Secondary Education)は,多様で柔軟な構造を持っています。個々人の意向や適性の分化に対応しつつ,袋小路をつくらない。こういう条件が上手く活かされるならば,子どもから大人への移行期の青年期教育は,大変実りあるものになるでしょう。

 ところで,これらの中等後教育機関で教える教員は,どういう人間なのでしょう。「教育は人なり」といわれるように,教員集団の構成がどうかという人的条件も,教育の効果を規定する重要要因の一つです。

 18~22歳青年の多くが学ぶ大学では,教員の非正規化がすさまじい勢いで進行しており,専攻によっては,教員の半分以上が,不安定な生活にあえぐ専業非常勤教員です(昨年の9月25日の記事)。他の機関では如何。今回は,大学,短大,高専,専修学校,および各種学校の教員集団を解剖してみようと思います。専任(非常勤)がどれほどかという,雇用形態に注目します。

 資料は,2010年の文科省『学校教員統計』です。同年10月時点における,5つの中等後教育機関の教員構成は,以下のようになっています。上の表は原資料から採取したローデータであり,下の表は,それを3カテゴリーにまとめたものです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm


 中等後教育機関の教員は,当該学校に正規に属する本務教員と,数時間の授業をするためだけに雇われている非常勤教員からなります。後者の非常勤教員は,本職の傍らで教鞭をとっている「本務あり非常勤教員」と,それがなく,薄給の非常勤給をメインに生計を立てている「専業非常勤教員」に分かたれます。

 どの学校種でも,本務教員より非常勤教員のほうが多く,専業非常勤教員も少なくないようです。短大では,専業非常勤教員が最も多くなっています。へえ,これは知りませんでした。4年制大学を上回る,教員の非正規化(極貧化)ぶりですね。

 専修学校では,本務あり非常勤教員が多いですね。実践的な職業教育を施す学校ですので,兼任の実務家教員が多く招かれているのでしょう。

 3カテゴリーの実数表のデータを統計図にしてみましょう。ヨコ幅によって,各学校の教員の量も表現します。


 中等後教育機関の教員のトータルな構成図ですが,非常勤教員の領分が結構広いですね。5つの学校の教員数は51万4,249人ですが,このうちの非常勤比率は54.0%,専業非常勤比率は23.1%です。

 どういう感想を持たれたかは人それぞれでしょうが,多感な青年層の教育の多くが,細切れ労働の非常勤教員によって担われているのですね。長期的な接触による,信頼関係の醸成もできたものではありません。

 以前の図はつくっていませんが,おそらくは,グレーの領域が広がっていることと思われます。非常勤教員,とりわけ専業非常勤教員の増加にあたっては,教育機関側の人件費抑制志向の高まり(プル)と,大学院博士課程から輩出されるオーバードクターの増加(プッシュ)という,2要因のマッチングがあることに注意する必要があるでしょう。

 今から10年後,20年後には,どういう図柄になっているか。その頃には,これらの機関は,成人の学びのセンターとしての機能を果たすようになっているでしょうが,そういう状況変化に伴い,事態は改善されているか。それとも,その逆か。

 近未来の生涯学習社会,学習社会の有様を占うキーは,こういうところにも見出されます。