2021年5月31日月曜日

じょうごグラフ

 知られざること,ないしは誰もが肌で感じていることをデータで可視化して示すのが,私の商売です。同時に可視化の方法,データの表現技法にも気を配るようにしています。

 エクセルに「じょうごグラフ」というツールがあります。横方向の棒(バー)で量を表現するのですが,通常の棒グラフと違うのは,バーがセンタリングされていることです。グラフの様が,大きい口から小さい口へと液体を流し込む「漏斗」に似ていることから,じょうごグラフと言われます。

 今や広く知られているデータも,このグラフで表現してみると結構インパクトがあります。たとえば,人口の年齢構成です。


 左は『国勢調査』の初年の1920(大正9)年,右は将来推計がとれる最も遠い年次の2065年のデータです。140年の隔たりがありますが,人口の年齢構成の変化はあまりにも大きい。1920年では0~4歳が最多でしたが,2065年では一番上の85歳以上が最も多くなっています。双方とも13%ほどで,人口ピラミッドの型がひっくり返っていることが知られます。

 その人口ピラミッドを,じょうごグラフで表現してみます。2つの年次の年齢%をじょうごグラフにして,重ね合わせます


 下が厚く上が細いピラミッド型から,その反対の逆ピラミッド型に変わります。グラフをセパレートではなく,重ねてみるとインパクトありますねえ。

 2065年といったら,今から44年後,私は90歳近くになっています(そんなに生きてないでしょうが)。人口の4人に1人が,今でいう75歳以上の後期高齢者。ドローンが空を飛び,AIロボットが闊歩し,外国人も街に溢れ返っていることでしょう。

 あと一つ,労働者の年間所得分布を同じ図法で表してみると面白い。1000人以上の大企業に勤務している従業員のデータです。男性と女性に分けると,分布にものすごい差があります。男性にあっては23%が所得800万以上ですが,女性はたった1.7%です。その代わり女性では,所得200万未満が53%と半分以上を占めます。同じ大企業なのに,とてつもない差です。

 男女の所得分布(%値換算)を,上記と同じ「じょうごグラフ」で表現し,重ねてみると以下のようになります。


 何も言いますまい。「搾取」という語が真っ先に浮かびます。大企業の利潤は,女性の安い労働力に支えられていると。

 人口の年齢ピラミッド,労働者の所得ピラミッド…。普通は,ヨコの棒グラフでヒストグラム形式で表すのですが,じょうごグラフというニュータイプのグラフを使うと,インパクトあるものに仕上がりますね。

 今後もいろいろ試行錯誤を重ね,表現技法のバリエーションを増やしていこうと思います。

2021年5月23日日曜日

大卒者の出身県定着率

  大学進学率は時代と共に高まり,今では同世代を半分(50%)を超えます。地域格差は大きいものの,地方でも進学率は高まってきています。47都道府県の大学進学率は本ブログで毎年出しています。2020年版は,コチラの記事をご覧ください。

 さて,地方の親の関心事は,都会の大学に出したわが子が帰ってきてくれるかです。行政にしても,東京や大阪の有力大学に進学した生徒が,将来地元に帰ってきて,地域の発展に尽くしてくれるかは,大いに関心があるところでしょう。

 私は鹿児島県の出身で,高3のクラスの半分以上が県外の大学に進学したと記憶してますが,どれくらい戻ってきているのでしょう。私みたいに帰ってない者もいれば,今や県庁の管理職になって,郷土にバリバリ尽くしている人もいます。たとえば,バスケ部のキャプテンだったUくん・・・。

 2017年の総務省『就業構造基本調査』によると,同年10月時点において,鹿児島県に住んでいる大学・大学院卒の40代前半男性は1万5700人です(★コチラの統計表)。

 2017年の40~44歳というと,私の世代ですが,1992~96年に大学に進学にした世代です。鹿児島県の高校出身の大学入学者(男子)は,1992年春が4270人,93年春が4519人,94年春が4219人,95年春が4375人,96年春が4467人となっています。(文科省『学校基本調査』)。5年間の合算は2万1850人ですね。上の世代の入学者(浪人経由者)も含んでますが,当該世代からも同数の浪人経由者が出ると仮定しましょう。

 この世代の鹿児島出身男子からは,高卒時に2万1850人(a)の大学進学者が出ているのですが,40代前半になった2017年時点で,同県に住んでいる大卒男性は1万5700人(b)です。2つの数値に隔たりがあるのは,都会の大学に進学したが戻っていない,ないしは地元の大学(鹿児島大など)を出た後,他県に就職したという人がいるためです。

 大卒者のどれほどが地元に定着しているか? この度合いは,上記のbをaで割って出すことができます。%にすると71.9%ですね。当該世代の大卒者の自県定着率と呼んでおきましょう。鹿児島県の私の世代の男子だと,こんな感じです。

 東京だと,92~96年の都内高校出身の男子大学入学者は19万4655人,2017年の都内在住の40~44歳男性の大学・大学院卒者は29万9400人です。他県から都内の大学に進学してくること,他県からの大卒者が就職時にどっと流れ込んでくることから,大卒者の量はうんと膨れ上がります。

 私は同じやり方で,各県出身の大卒者の自県定着率を計算してみました。47都道府県について,私の世代の男子と女子の数値をはじき出しました。結果の一覧は以下です。


 2017年の40~44歳,すなわち私の世代の試算値です。高卒時(1992~96年)の各県出身の大学進学者数と対比して出した結果です。

 都市部では膨らんで,地方では萎むというのが道理です。しかしその程度は,県によってまちまちです。大卒者の自県定着率が60%未満の数値に,青色のマークをしました。定着率が最も低いのは,男性は長崎の50.8%,女性は秋田で49.9%ですね。

 都会の大学に行った人が戻ってこない,自県の大卒者が県外就職してしまう。このどっちが大きいのかは分かりませぬが,自県出身の大卒者の半分ほどしか県内にとどまっていないというのは,才能の流出が大きいのだなと思わされます。大卒者の受け皿がない,という事情があってもです。

 性差をみると,「男性<女性」の県が多くなっています。女性の場合,自県大学進学率,自県内就職率が高いためでしょう。しかしその反対の県もあり,私の郷里の鹿児島をみると,男性が71.9%,女性が55.2%と,「男性>女性」の度合いが最も大きくなっています。大卒者の自県定着率,男性と女性の差が大きいのですねえ。

 都会の大学を出た女子は帰ってきづらいのか,県内の大学を出た女子が出て行ってしまうのか。大卒の女性への眼差しについて,ニューズウィーク日本版に試論を載せましたので,リンクをはっておきましょう。

 各県出身の大卒者のどれほどが,40代になって自県に住んでいるか。試算値の提示です。

2021年5月16日日曜日

政令市格差

  前に何かの記事で,「ヨコハマ格差」という言葉を目にしたことがあります。横浜市内の区別の平均年収を提示してです。

 横浜市は国内最大の政令市で,面積も三浦半島全体より広し。この大都市を一括りにして論じるのは,いかにもおかしい。横浜市内には18の区がありますが,世帯の年収を区ごとに出してみるとかなりの差があります。

 県よりも下った細かい地域レベルの世帯年収は,総務省の『住宅土地統計』で知れます。★コチラの統計表では,9区分による世帯年収分布が明らかにできます(2018年)。私は横浜市内の普通世帯(主世帯)の年収分布中央値を区別に計算し,昨日,ツイッターで発信しました。

 大都市内部の格差は興味深いということで,多くの方が見てくださり,「他に見てみたい政令市はあるか?」と問うたところ,名古屋市,仙台市,大阪市など,多くのリクエストが寄せられました。この記事にて,まとめてお答えいたしましょう。

 私は国内の21の政令市について,普通世帯の年収分布の中央値を区別に計算しました。元の資料は,上記リンク先の統計表です。度数分布から中央値を出すやり方については,本ブログで何度も説明していますので,ここでは触れません。

 まずは,全体の構造を俯瞰できる図をご覧いただきましょう。各政令市の区別の世帯年収中央値を,縦軸の目盛りに沿って位置付けたグラフです。


 最も高いのは,横浜市の都筑区で622万円となっています。都内のマックスの千代田区をも上回るのですね。横浜市の区別の世帯年収中央値は,最高の622万円から最低の374万円までの開きがあります。これぞ「ヨコハマ格差」,この大都市の住民を一概に論じられそうにはありません。

 では,具体的な数値を見ていただきましょう。まずは札幌市から浜松市までです。各政令市の区別の中央値を,高い順に並べています


 札幌市は,中央区の年収が高いかと思いましたが,単身学生とかが多いため,全世帯でみると中ほどなのでしょうか。今回の分析では,世帯主の年齢まで統制できないのがネックです。

 東京23区はさもありなんですね。川崎市は,麻生区が2位ですか。私は多摩市に住んでいた頃,この区を通る小田急多摩線を使っていましたが,車窓をみると,小奇麗な家が碁盤の目のように並んでいました。

 次に,名古屋市から熊本市までです。


 どうでしょう。各区の経済力は,住民の健康指標や子どもの学力などと強く相関していると思われます。前にやったところ,大阪市内24区の経済力と寿命なんかは,とても強く相関していましたね。
https://tmaita77.blogspot.com/2018/04/2015.html

 今回のデータは,世帯の年齢層を統制できていない,ラフな全世帯の年収中央値ですが,経済力を媒介にした不平等の可視化に,いくぶんかは使えるかもしれません。あまり明らかにされていない政令市内部の格差として,データをみていただければと思います。

2021年5月14日金曜日

所得と貯蓄のクロス

 気温が上がってきました。今日の横須賀のマックスは25度,半袖を着て,久里浜の床屋に行ってきました。

 さて生活のゆとり(富裕度)の指標としての所得については,いろいろな角度から分布や中央値を明らかにしてきました。しかし入ってくるおカネ,収入面をみるだけというのでは不十分です。いざという時への備え,湯浅誠さんの言葉でいうと「溜め」がどれほどあるかも,合わせて見ないといけません。

 2019年の厚労省『国民生活基礎調査』にて,年間所得階級と貯蓄額階級のクロス表の形で,世帯数を呼び出すことができます。★こちらのページの表160です。


 私は原資料の表を,「所得階級13 × 貯蓄階級12」の形に整理し,各セルに該当する世帯数をグラフで可視化してみました。最近ツイッターでよく出している,ドットグラフです。ドットの大きさを使って,2変数のクロス表のデータを表現します。

 ツイッターでも出しましたが,ブツを見ていただきましょう。


 横軸は所得,縦軸は貯蓄額の階級で,この2つの組み合わせの各セルに該当する世帯数が,ドットの大きさで表されています。

 ぱっと見,所得が少なく貯蓄も少ない困窮世帯(左下)が多いことが分かります。所得300未満,貯蓄200万未満の世帯(緑の枠囲い)は全体の15.1%に該当します。7世帯に1世帯です。その一方で,右上の富裕世帯(所得たっぷり,貯蓄ガッツリ)も結構あります。社会の富の格差も見取れますね。

 所得が少なくが貯蓄はたくさんある世帯は,リタイアしている高齢世帯でしょう。

 赤マルは,所得・貯蓄とも100万未満の世帯で,生活困窮のレベルが甚だしく,生活保護の対象のレベルです。全体の3.2%に相当し,2019年1月時点の全世帯数(5853万世帯)にかけると,実数で187万世帯ほどと見積もられます。

 現実の生活保護受給世帯数はどうかというと,2019年の1か月平均でみて約164万世帯です(厚労省『被保護者調査』)。うーん,やっぱり日本の生活保護は困窮世帯を十分に掬えて(救えて)いないようです。日本の生活保護の捕捉率の低さは,よく指摘されること。

 あと一つ特記すべきこと。「日本で一番多い世帯は?」という問いへの答えです。上記のグラフのドットサイズから,答えは「所得100万円台,貯蓄ゼロの世帯」ということになります。単身非正規の若者,ないしはカツカツの暮らしをしている高齢者世帯でしょう。強烈な現実です。

 これでは経済も回らないというもの。これでいて企業の内部留保が過去最高というのですから,開いた口がふさがりません。モノが売れなくなり,必ずや自分たちにも跳ね返ってきます。

 所得と貯蓄のクロスで,日本の世帯数分布を可視化してみると,怖い現実が露わになりますね。できれば年齢層別に出して,若年層,中年層,高齢層でドットの色分けもしたいところです。