2020年10月31日土曜日

2020年10月の教員不祥事報道

 朝夕は冷え込んできました。10月は今日でおしまいです。昨日はソレイユの丘の温浴施設に行き,今日の昼は,長井水産の魚料理を久々に食べてきました。長いこと停止していたルーティンを復活です。長井水産は,自宅から徒歩15分ほど。畑の中の道を,海に向かって歩いていきます。

 今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は45件です。今月は,採用されて間もないとみられる新任教員の不祥事が多い印象でした。岐阜では,23歳の中学教諭が17歳の女子生徒を自宅に呼び,わいせつ行為をする事件が起きています。

 教員採用試験の競争率低下が始まって久しく,低い県では2倍を切っています。新規採用教員の質の担保が課題ですが,若年世代の絶対数減少に加え,教員のブラック労働が知れ渡っている状況では,優秀な人材は他の専門職に流れることは必至です。教員の働き方改革を断行すると同時に,社会人受験者への門戸をより広げるべし。何年か民間で経験を積んでから教員になる,というルートが主流になってもよし。ヨーロッパでは,新規採用教員の3~4割が30歳以上です。

 あと一つ感じたのは,「逮捕」という文言が多くみられたことです。つまり警察沙汰になったということですが,学校もだんだん治外法権が認められる聖域ではなくなってきました。学校の外で子どもを叩いたら即110番ですが,こういう一般社会のルールが容赦なく適用されるようになってきたと。小・中学校でも条件付きでスマホの持ち込みが認められるようになりましたが,スマホ動画で証拠をバッチリ撮られ,生徒自ら通報するなんていう時代になるかもしれません。

 秋も深くなりました。背景を11月らしく,紅葉模様に変えます。


<2020年10月の教員不祥事報道>

・県立高校の男性教諭停職6か月(10/1,RKB,福岡,高,男,60代9

・準強制わいせつ容疑で中学教諭逮捕(10/1,産経,千葉,中,男,43)

・県教委、2教諭を免職処分 児童買春や窃盗で起訴

 (10/1,毎日,奈良,買春:中男38,窃盗:高男56)

・小学校の教諭、ゴルフ指導する女子高校生宅に侵入

 (10/2,神戸新聞,小,男,57)

・10代の女性に性的暴行 香川県の高校教諭の男を逮捕

 (10/3,瀬戸内海放送,香川,高,男,35)

・大型バイクと衝突、中学校の教諭を減給(10/3,埼玉新聞,埼玉,中,男,63)

・10代女性車に監禁 誘拐容疑で教員逮捕(10/5,静岡新聞,静岡,男53)

・いわきで小学校教員メール「誤送信」 支援学級児童の情報流出

 (10/6,福島民友,福島,小,50代)

教諭に腕つかまれけが…児童が不登校に(10/7,CBC,三重,小)

23歳中学校教諭、17歳女子高生に自宅でわいせつ行為

 (10/9,読売,岐阜,中,男,23)

・組み体操中の児童の脇腹蹴り上げ不登校に(10/9,朝日,東京,小,女,40代)

・北九州市の中学校教諭が女子中学生にわいせつ行為(10/9,FBS,福岡,中,男)

・小学校の校長が女子児童に「あほか」(10/9,愛媛朝日,愛媛,小,男,58)

新任の女性教師にセクハラ 指導した男性教師を処分

 (10/12,名古屋テレビ,岐阜,高,男,52)

傷害容疑で中学教諭逮捕 差し入れ食べた柔道部員に寝技

 (10/13,朝日,兵庫,中,男,50)

教諭、児童の防災ずきんに「しね」と落書き(10/15,読売,東京,小,男,38)

・酒酔い運転の小学校教師を停職6カ月(10/15,愛媛朝日,愛媛,小,男)

幼稚園教諭が高齢者狙う詐欺に加担(10/15,産経,大阪,幼,女,22)

・女児に性的暴行疑い 石川、公立中教諭を逮捕

 (10/15,日経,石川,中,男,34)

・女性教員にセクハラ...40代男性教頭「停職」

 (10/17,福島民友,福島,特,男,40代)

・留萌の教諭 女性宅への侵入容疑で逮捕(10/17,HBC,北海道,高,男,45)

・仲裁中…教諭が児童骨折させる(10/19,KKT,熊本,小,男)

・公立中教諭わいせつで懲戒免職(10/19,NHK,岐阜,中,男,26)

・「君らは障害児か?」授業中に私語した生徒に不適切発言繰り返す

 (10/20,神戸新聞,兵庫,高,男,60)

・宿題ができてない児童や指導中ににらんだ児童に体罰

 (10/20,神戸新聞,兵庫,小,女,44)

・1時間にわたり冊子の作り方指導 女性教諭にパワハラの校長を処分

 (10/20,神戸新聞,兵庫,高,男,59)

・嫌がる同僚女性教諭をデートに繰り返し誘う

 (10/21,徳島新聞,徳島,小,男,30代)

・わいせつ教諭を懲戒免職 13歳未満の女子児童にわいせつな行為

 (10/21,山陰中央テレビ,鳥取,小,男,34)

・路上で女性に抱きつく 容疑の中学教諭逮捕(10/22,産経,埼玉,中,男,22)

・男性教諭が停職9カ月の懲戒処分…酒気帯び状態でバイクを運転し事故

 (10/22,岡山放送,香川,小,男,23)

・高校非常勤講師を逮捕 同居女性に暴力疑い

 (10/22,時事通信,京都,高,男,31)

・千葉の小学校講師逮捕 裸画像送らせた疑い

 (10/23,共同通信,千葉,小,男,29)

・飲酒運転や下着盗、マルチ商法の副業 教員3人懲戒処分(10/24,茨城新聞,茨城,飲酒運転:中男32,下着盗:中男32,違法副業:高男22)

・釧路の教員わいせつ、札幌の道職員「殺す」と脅迫

 (10/26,HBC,北海道,特,男)

・群馬県教委、不適切行為や速度違反で教諭2人処分

 (10/27,産経,群馬,不適切行為:高男40代,速度違反:中男28)

・浜松の小学校教諭 傷害の疑いで逮捕(10/28,静岡新聞,静岡,小,男,26)

・県教育委員会が懲戒処分 女子児童に強制わいせつの疑いで逮捕の40代男性教諭 停職3か月(10/28,NNN,青森,男,40代)

・男の裸盗撮で逮捕 室戸市・中学校教員(10/29,RKC,高知,中,男,25)

・わいせつ容疑で逮捕の教諭停職 県教委(10/29,毎日,新潟,小,男,40代)

・セクハラで男性教諭処分(10/29,北海道新聞,北海道,中,男,51)

・深酔いの女性に性的暴行で起訴、小学校教諭を懲戒免職

 (10/29,読売,東京,小,男,37)

・勤務先の教員室から現金盗む 岡山・総社市立中の講師逮捕

 (10/29,山陽新聞,岡山,中,男,27)

・県立高教頭が飲酒運転で停職処分(10/30,NHK,徳島,高,男,50代)

財布を盗んだ教諭を停職6か月(10/30,NHK,奈良,小,男,31)

教諭が生徒18人に繰り返し体罰(10/30,NHK,大分,高,男,40代)

2020年10月28日水曜日

転入超過数地図の変化

  コロナ禍で,国民の生活は甚大な影響を被ってますが,生活不安のようなマイナス方向と同時に,プラス方向の変化も見受けられます。対面での取引の見直し,テレワーク,そして地方移住の増加などです。

 最後の地方移住ですが,東京の人口の出入りの統計によると,7月以降,転入者よりも転出者が上回っているとのこと。東京のような大都市は,転入が転出よりも多い,つまり転入超過の状態であるのが常ですが,変化の兆しが統計にも表れてきました。

 昨日,総務省『住民基本台帳人口移動報告』の2020年9月のデータが公表されました。都道府県別に,当該月の転入者数と転出者数を知れます。東京都のデータは以下のごとし。カッコ内は,2019年9月の数値です。

 転入者数=27006人(30590人),転出者数=30644人(27228人)

 今年の9月は,転入者より転出者が多くなっています。昨年のデータ(カッコ内)ときれいにひっくり返っているのも興味深い。人口を吸い寄せるのが常の東京都も,転入超過数がマイナスに転じています(27706-30644=-3638人)。

 東京から転出した人は,どこかの県に居を移していることになります。これぞ地方移住なんですが,それが進んでいる様を地図上で可視化できます。以下は,9月の転入超過数がプラスの県に色をつけたマップです。左は2019年,右は2020年です。


 どうでしょう。今年になって,転入超過数がプラスになった県が地方にも増えていることが分かります。北海道,北東北に色がついてますね。岩手県の達増知事も,「転入超過数がプラスになった」とお喜びです。

 北関東にも色がつき,マイナスに転じた東京都を,周囲の近郊県が取り囲む形になっています。遠く離れた地方に行くのはためらわれるが,週に何回かなら都心に通える近郊への移住が増えた,ということでしょうか。神奈川県の三浦半島もおススメです。京急で品川まで1本。ぜひご検討を。2017年春に当地に移住した私から申し上げます。

 「密」を回避するためテレワークを導入する企業が増えてますが,それなら東京にいる必要はないですからね。各種のイベントや文化施設は東京に多いですが,活動自粛が続いており,文化・娯楽面のメリットもなし。あるのは高い家賃だけ。東京からの脱出が増えるのは,頷けるところです。

 以下のグラフによると,東京が首位からドンケツに一気に落ちているのが知られます。


 以上は9月のデータですが,こういう傾向が急に生じたのではなく,徐々に進んできたことも示しておきましょう。以下のグラフは,4~9月の月別の転入超過数を折れ線グラフで描いたものです。青色は2019年,オレンジは2020年です。


 大学進学や就職でドッと人が入ってくる4月の転入超過の山も,今年は昨年の3分の1ほどしかなく,7月以降は転入超過がマイナスの状態が続き,前年同時期との落差も大きくなっています。10月以降もこの傾向が続けばと思います。人口過密の東京から地方(近郊)へと,人が動くのはよいことです。「新しい生活様式」の必然の結果でもあります。

 では,どういう人が東京を出て行っているのでしょうか。今まで見てきたのは人口全体のデータですが,老若男女がいます。ジェンダーの差はあまりないですが,年齢差別にみると,明確な転出層を見いだせます。9月の年齢層別の転入超過数を折れ線でつないだグラフにすると,以下のようになります。転入超過数の年齢カーブの対前年比です。


 2020年では,20代の転入超過数の山はなくなり,30~40代ではマイナスに大きくふれています。東京を出て行っているのは,働き盛りの30~40代みたいです。テレワークが可能になったことに加え,「密」な環境を避けて子育てしたい,という親御さんなどでしょうか。

 地方ほど,1学級当たりの子どもの数は少なくなっています。2019年度の公立小学校の中央値をみると,東京は30.0人であるのに対し,最も少ない高知県は16.6人です。高知といえば,イケダハヤトさんがおられる所ですが,学級密度は東京の半分なんですね。移住して「密」を避け,少人数教育の恩恵にあずかりましょう。

 大変な時代ですが,長らく続いてきた慣行を覆す変化も出てきています。東京脱出は,その典型の一つです。社会は変わる,だから社会学は面白い。それをいちはやく「見える化」するのが私の商売です。

2020年10月24日土曜日

止まらない不登校の増加

  文科省の『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』(2019年度)の結果が公表されました。子どもの問題行動の公的統計といったらコレです。

 新聞では,いじめの件数が過去最多という点が強調されてますが,これは,いじめの把握に本腰が入れられているからです。いじめの件数は,当局の取り締まり姿勢に大きく左右されるのはよく知られています。都道府県比較をしている記事もありますが,あまり意味はありません。むしろ,数が多い地域を褒めたたえるほうがいいです。

 私が関心を持ったのは,不登校の児童生徒数です。これは,不登校(学校嫌い)という理由で年間30日以上休んだ子の数であり,当局の恣意には動かされにくい数字です。義務教育段階の,小・中学校の不登校児の数をグラフにすると,以下のようになります。原資料に出ている。1991年度以降の推移です。


 2001年度まで上がり続けた後,微減の傾向になりますが,2012年以降は再び上昇しています。2019年度の不登校児は18万1272人で過去最多です。いじめのような他人に危害を加える行為と同時に,子どもの逃避傾向も強まっているようです。

 少子化で児童生徒数は減っているにもかかわらず,不登校児はこの有様。全数に占める不登校児の率(出現率)は当然うんと上がっていて,1991年度では0.47%だったのが,2019年度では1.88%です。中学生に限ると3.94%,およそ25人に1人となります。

 最初の上昇の局面(2001年度まで)は,平成不況の深刻化により,親が失職するなどして家庭の状況が急変し,そのことで精神的に不安定になったことなども考えられます。

 では,第2の上昇局面はどうでしょう。学校不適応が増えているという事実は確かですが,自宅にてネット動画等で勉強できるので,学校に行くインセンティブが薄れている,ということではないでしょうか。ネットの普及はだいぶ前からですが,2012年以降の特徴は,スマホという小型機器が出回っていることです。良好な教育用動画(無料)もYouTubeで配信されるようになり,その質といったら,学校の授業顔負けです。

 また,ネットでのビジネス(有料note公開,ブログでの広告料収入…)で月収7ケタを稼ぐ,ものすごい中学生も出てきています。こういうビジネスへの参入に年齢の壁はなく,子どももどんどんトライするようになっています。それにのめり込み,学校には月に数回しか行かない。むろん,親や教師から公認です。

 情報化社会の中で,学校という四角い空間の立ち位置が揺らいでいるわけです。まあこれは,大きな社会状況の話であって,よりミクロに見れば,対人恐怖とか,いじめを苦に登校できないとかいう人間模様も見えてくるでしょう。

 しかしですね。不登校の要因分布をみると,期待と違うといいますか,抽象的なカテゴリーの比重が大きいのです。以下に掲げるのは,公立小・中学生の不登校児について,不登校の主な要因の分布を示した表です。


 小・中学生とも,いじめを苦にした不登校児はほとんどいません。いじめ以外の友人関係問題というのも,さほど多くはありません。小学生で10.1%,中学生で17.3%程度です。

 では何が多いかいうと,無気力・不安です。小学校の不登校の41.2%,中学校の39.7%は,この要因によるものであるのが知られます(他を捨象した,主要因という意味ですが)。カタカナでいうとアパシー,要するに「だるーい,行きたくねー」というもので,不安は集団が怖い,といったものでしょうか。ただ,上述のようなネットビジネスにのめり込む,動画に見入るといった理由も,このカテゴリーに放り込まれている可能性もあります。

 「だるーい,学校行きたくねー」というのは怠けのように思えますが,先ほど書いたように,学校が子どもをつなぎとめるボンドは確実に揺らいでいます。昔のように,知を与えてくれる唯一の殿堂ではないのです。こういう状況のなか,子どもが朝,無気力ともとれる反応を示すのは無理からぬこと。不登校は,以前は治療すべき病理とみなされていて,社会病理学のテキストでも1チャプターが割かれていたものですが,今は違って,むしろ生理現象(自然なこと)ともとれると。

 不登校への認識が変わっていることを示す事実もあります。文科省の問題行動調査は,以前は児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』でしたが,2016年度以降は,冒頭に記した通り『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』に変わっています。

 趣旨はお分かりですね。問題行動と不登校が切り離されています。要するに,不登校は問題行動ではないってことです。

 あと一つ,統計表をお出ししましょう。不登校の状態が長引いている長期不登校児の数と,学校外の機関や自宅での学習をもって,指導要録上出席扱いと認められた児童生徒の数です。不登校の急増第2期の始点である2012年度(最初のグラフ参照)と,最新の2019年度の対比です。


 前年度からの継続不登校児も増えていますね。不登校児全体に占める率は,2012年度は48.5%,2019年度は51.0%で半分を超えています。不登校の増加と同時に,長期化も進んでいるようです。

 学校外や自宅での学習を,指導要録上の出席として認めようという機運も高まっています。学校外のフリースクール等での学習が出席扱いとされた児童生徒は1万5374人から2万5535人,自宅でのIT学習が出席扱いと認められたのは156人から552人へと増加です。校長の判断で,こういう措置もとられるようになっています。不登校への見方が変わってきていることが表れています。全数に対する率はまだまだ小さいですが,今後,高まりこそすれ,その逆はないでしょう。

 情報化社会においては,学校だけが教育の場であり続けることはできない。学校の領分はどんどん縮小し,代わって,人々の自発的な学習ネットワークが台頭してくるであろう。1970年代にして,イヴァン・イリッチは著書『脱学校の社会』において,こう予言しました。それが現実のものとなろうしています。

 しかし,教育の専門機関としての学校が全くの用なしになるなんてことは予想しがたい。前近代社会と違い,高度化した社会における人間形成(社会化)は,学校という専門機関において,教員という専門職の手でなされないといけません。ただ,その聖域性(稀少性)が薄れつつある現在,学校でしかなし得ないことを明確に説明できなくてはならないのです。一方通行の授業だけなら,自宅で動画を見ればいいと,生徒は登校してきません。「アクティブ・ラーニング」は新学習指導要領のキーワードですが,生徒参加型の「濃い」授業の構築が求められるのです。

 今ほど,教員の専門職性が求められる時代はないといえましょう。教員につまらない雑務をたくさんやらせ,その専門職性を阻害している場合ではないのです。

2020年10月15日木曜日

非正規待遇格差の判決を受けて

  東京メトロの子会社で働く非正規雇用の女性が,正規・非正規の待遇格差は不当と訴えた裁判の判決が,13日に最高裁で下りました。結果は敗訴で,ボーナス・退職金の不支給は不合理とはいえないと。

 最高裁お墨付きの判例で,今後の労働争議にも大きな影響を与えるでしょう。原告女性は「全国2100万人の非正規雇用者を奈落の底に突き落とす判決だ」と批判し,最高裁ではなく「最低裁」だと口にされていますが,言い得て妙だと思います。私も,大学非常勤講師という非正規雇用を10年やりましたので,憤りをシェアします。

 現在,非正規雇用者は2100万人ですか。ざっくり人口(1億2000万人)の6分の1,働く人(6000万人)の3人に1人に相当します。決してネグリジブルスモールではありません。彼らの権利保障をしっかりしないと,日本社会は大きく揺らぐことになるでしょう。

 それは後で触れるとして,会社や役所で働く雇用労働者の推移を80年代から跡付けてみると,以下のようになります。『就業構造基本調査』の時系列データから数値を採取しました。非正規雇用とは,パート,バイト,派遣社員,契約社員,嘱託,その他を言います。


 一番上の男女計をみると,正規は横ばいですが,非正規はうんと増えています。1982年では202万人でしたが,35年を経た2017年では2133万人です。なるほど,今の非正規雇用者数,上記の原告女性が言われるように約2100万人ですね。

 雇われ労働者全体に占める率は,1982年では5.8%だったのが,2002年に28.4%,2017年では38.2%,およそ4割にもなっています。実数で見ても率で見ても,雇用の非正規化が見て取れます。これは言い尽くされていることです。

 ジェンダーでばらすと,女性で非正規雇用者が爆増しているのが分かります。71万人から1465万人と,20倍の増加です。正規雇用はあまり増えておらず,その結果,非正規比率は56.6%にもなっています(2017年)。女性の雇用労働者の6割が非正規雇用であると。マイノリティどころか,マジョリティです。

 1986年に男女雇用機会均等法が施行されましたが,その後の女性の社会進出がどういうものだったか,よく分かりますねえ。ツイッターで視覚的なグラフを流しましたが,非正規依存の社会進出です。

 働く女性は確かに増え,M字カーブの底もほぼなくなってますが,これでは手放しに喜べません。不当に「安い」働き方を強いられている女性の増加に他ならないからです。同じ時間,同じ仕事をしているのに,正社員との大きな給与差は何なのか。冒頭の原告女性は,このような不満が爆発して裁判に踏み切ったわけですが,正規と非正規の不当な格差は,データで容易に可視化できます。

 以下の表は,標準時間働く労働者の年間所得分布を,正規と非正規で比べたものです。ジェンダーの影響を除くため,男女で分けてます。


 同じ時間働く雇用労働者の稼ぎの分布ですが,正規と非正規の違いが明瞭です。200万未満のプアの率は,男性正規で3.5%,男性非正規で22.9%,女性正規で14.3%,女性非正規では48.3%,半分近くにもなります。

 同じフルタイム勤務でこれです。仕事内容の違いだけによるとは考えにくい。ボーナスなどの差が大きいでしょう。原告もこの点を訴えたのですが,ボーナスの不支給は不合理ではない,という無情な判決が言い渡されました。

 なお正規と非正規の待遇差が最も大きいのは官,すなわち公務員です。公務員だけを取り出して,正規と非正規の所得分布表を作ると,開いた口がふさがりません。年齢ごとの分布から中央値(median)を計算し,それらをつないだ折れ線グラフにすると「!」となります。


 どうでしょう。正規は加齢と共に所得が上がっていきますが,非正規は寝そべったままです。正規・非正規の差は,20代前半では100万円ちょいですが,50代では500万円以上開いています。

 労働時間を統制した比較ではありませんが,役所の嘱託・臨時職員が,正規職員とほぼ同じ仕事をしているというのはよく言われること。窓口の職員の名札を見てみると,「嘱託」「臨時」と書かれていることは,珍しくも何ともありません。

 安定の公務員の世界では,非正規なんてちょっとしかいないだろ,と思われるかもしれませんが,そんなことはありません。男性公務員では2%ほどですが,女性公務員では3人に1人が非正規なのです。少子高齢化に伴い,福祉をはじめとする「公」の仕事が増え,公務員の増員されてきてはいますが,増分の多くは非正規雇用です。安上がりの非正規を増やすことで凌いでいると。

 社会を変える取組を率先して行うべき官公庁で,非正規雇用問題は最も色濃くなっています。この点については,最近よくメディアでも取り上げられるようになりました。

 あと一つのグラフをお見せします。雇用労働者の所得ピラミッド図です。稼ぎの少ないプアが多く,リッチが少ない型になるのは予想できますが,正規と非正規で塗り分けると以下のごとし。


 下が暑く,上が細い「ピラミッド型」になっています。雇われ労働者の3人に1人が200万のプアですが,その多くは非正規です。この中には,いわゆるエッセンシャル・ワークも多く含まれるでしょう。

 われわれの社会は,安い非正規労働者によって支えられていることが知られます。こういう構造で大丈夫か。非正規の待遇の悪さを思うと,もうすぐ土台が崩れ,社会全体が傾く恐れもあります。

 話が逸れますが,青色の正規職員でも,所得の最頻階級(mode)が200万円台なのですね。今のニッポンは本当に「安い」のだなと感じます。海外から働き手が来なくなるどころか,逆に出稼ぎに行く人が増え,国内の人口はますます減りそうです。

 正規・非正規の待遇格差に関する司法判断が出たのを機に,①正規と非正規では給与差が不当に大きいこと,②社会の非正規依存度は高まる一方であること,の2点をデータで示しました。この2つを同時併存させていては,社会の根底が揺らぐ可能性が大です。

 前から言っていますが,私は非正規のような柔軟でユルイ働き方が増えるのは,悪いこととは思っていません(ネーミングは問題ありですが)。体力の弱った高齢者がどんどん増えてくるわけで,働き方がそういう方向に変わるのは必然です。

 問題は,そうした非正規的な働き方では,どれほど頑張っても普通の暮らしに足る収入が得られないこと。「週5日,1日8時間働けば,普通の暮らしができる社会を」とは,昨年の選挙で某候補者が訴えていたことですが,この実現が望まれます,AIで仕事の負荷を減らし,収入の不足をBIで補えば,できないことではありますまい。

 正規・非正規なんていう,異国の人からしたら「?」以外の何物でもない従業地位区分は廃止し,フルタイム・パートという,あくまで労働時間に依拠した区切りだけにすべし。正規・非正規という地位区分は,ボーナスや各種保険の支払いの有無を正当化する,言うなれば事業者の人件費軽減を助けるためのものでしかありません。こんなのがあるから,非正規という名の非人間的な働き方が蔓延るのです。

 今では,働く人の3人に1人,雇用労働者の4人に1人が非正規雇用です。まずは,この人達を「非正規」と呼ぶのを止め,労働時間や仕事の質の査定を精緻化し,相応の賃金を払うことから始めるべきです。正規・非正規という地位区分で,機械的に待遇を決める時代はもう終わりです。

 裁判官がこういう認識を持っているなら,今回の裁判の原告に「ボーナスを支給しないのは,まぐれもなく不合理」という判決が下るはずでした。

2020年10月10日土曜日

失業と自殺の関連の都道府県比較

  双極性障害で仕事を失い生活保護を受けていたが,ウーバーの配達の仕事を始めて,保護を脱却した32歳男性の記事があります(読売新聞オンライン)。

 ツイッターに「生活保護を脱出します!」という宣言を書き,その後の進展状況を報告。フォロワーから励ましの声を受け奮起し,本当に実現に至ったそうです。これも,予言の自己成就ってやつでしょうか。

 生活保護は生存権を保障する最後の砦で,どうにもならなくなったらこの制度にすがってもいいのですが,そう簡単にはいきません。年齢が若いと,「働けるはず」「親に頼りなさい」などと申請書をつっぱねられます。上記の男性は32歳とのことですが,保護受給に至るまでの過程は平たんではなかったと推測されます。

 コロナ禍で雇い止めが増え,困窮状態の人が増えているのですが,生活保護の統計をみてみると,あら不思議,受給者も受給世帯数も増えてないのですよね。以下のスクショは厚労省資料からのもので,左は保護受給者数,右は保護受給世帯数です。


 役所の水際作戦が強まっていること,困窮状態でも「保護を受けるのは恥」と申請を考えない人が多いこと,という2つの面が考えられます。いずれも「日本的」で,おそらく海外では生活保護利用が爆増しているのではないでしょうか。フランスでは,若者も遠慮なく生活保護をガンガン受けるといいますしね。

 私は前に,失業と自殺の関連の強さが国によって異なる,ということを明らかにしました。時系列データによる検討で,日本では両者は非常に強く相関しますが,南欧のスペインでは無相関です。失業率が激しくふれようが,自殺率はほぼ一定。対して日本では,失業率が上がると,それに呼応して自殺率も跳ね上がります。先進諸国では,こういう国は日本だけです。
https://tmaita77.blogspot.com/2020/03/blog-post_30.html

 この違いは,生活保護のようなセーフティネットがどれほど機能しているか,の差によるともいえないでしょうか。それが脆弱な日本では,失業率が5%とかになったら大変です。公的扶助に頼りにくい,ないしはそれをよしとしない国民は,自らを殺める方向に傾いてしまう。

 7~8月の自殺者は前年同月より増えましたが,生活保護受給者はその逆です(上記統計)。社会に救われなかった困窮者が,思いつめて最悪の行動に走ってしまったことはあり得ないか。これから寒くなってきますが,保護受給者が減る一方で自殺者が増える傾向が出たりしたら,「日本ではセーフティネットが機能していない」と,国際社会からバッシングされても仕方ありますまい。

 こんな事情から,日本では失業と自殺が非常に強く相関するのですが,国内でみると地域差があります。上記の記事では国際差をみましたが,ここでは,国内の地域差を明らかにしています。47都道府県による違いです。

 私は47都道府県ごとに,失業率と男性自殺率の時系列推移を明らかにしました。失業率は,『労働力調査』の時系列統計に計算済のデータが出ています。1997~2019年までの年平均です。男性の自殺率は,厚労省『人口動態統計』に出ている男性自殺者数を,各年の10月時点の日本人男性人口で割って出しました。自殺率を男性に限ったのは,両性の自殺率よりも,失業率との関連をより鮮明に見いだせると考えたからです。

 以下に示すのは,東京都と私の郷里の鹿児島県の推移データです。


 1997年からの22年間の推移です。97年から98年にかけて,失業率がボンと上がっています。「98年問題」といわれる,経済状況の悪化です。大手の山一證券が倒産したのは97年のことです。それに伴い,自殺率も跳ね上がっています。多くが,リストラされた中高年のお父さんでしょう。

 東京では,男性自殺率が23.9から32.9へと急増しています。たった1年間で11ポイントの増加です。鹿児島よりも,「98年問題」に伴う自殺の増加幅が大きいですね。東京は雇用労働が多いんで,「失業=即生活破綻」という構図の色合いが強いのでしょう。

 黄色マークは観察期間中の最高値,青色マークは最低値ですが,東京は,失業と自殺のマークの年がきれいに重なっています。失業と自殺の統計量が似た動きを示している,ということです。

 地方農村県の鹿児島より,大都会の東京のほうが,自殺と失業が強く関連していそうですね。関連をイメージするため,横軸に失業率,縦軸に男性自殺率をとった座標上に,1997~2019年のドットを配置した相関図にしてみます。東京のデータです。


 右上がりの強いプラスの相関が出ています。失業率が高い年ほど男性の自殺率は高い,という傾向です。右上は失業も自殺も多かった暗黒の頃ですが,私の世代が「学校から社会への移行」をした頃です。民間の就職は閉塞,公務員試験の倍率はメチャ高。ホント,大変でした。われわれがロスジェネと呼ばれる所以です。

 対して,最近の2017~19年のドットは左下にあります。景気回復で,失業率も自殺率も下がってきているからです。

 2つの指標の相関係数を出すと,+0.889となります。失業率と男性自殺率の相関強度の可視化です。東京では,+0.9近くにもなるのですね。この数値は鹿児島だと+0.734で,東京よりは低くなっています。自営業が比較的多い,貨幣に依存しない贈与経済が比較的残っているなどの条件があるためでしょう。とはいえ,強い相関であることには変わりませんが。

 1997~2019年の時系列推移による,失業と自殺の相関係数は,東京は+0.889,鹿児島は+0.734と出ました。では他県はどうでしょう。全県の同じデータをもとに,相関係数をはじき出しました。以下の表は,高い順に並べたものです。


 どうでしょう。上位には,都市的な地域が多くなっています。上位5位は,福岡,沖縄,東京,神奈川,大阪です。一方,下位には地方県が多いように思えます。

 上述のように,都市部では貨幣経済一辺倒で,人間関係も希薄なので,自身の収入源が断たれると,にっちもさっちも行かなくなる度合いが高いと。

 そういう時にすがるべきは,生活保護のような公的扶助なのですが,首位の福岡,中でも北九州市は運用が厳しいと評判がたったことがあります。2007年,生活保護を打ち切られた50代男性が「おにぎり食いたい」と書き残して餓死した事件が,本市で起きました。福岡県が首位というのも,ちょっとばかり示唆的です。

 上表の地域データは,賃金労働以外の経済(オルタナティブ)がどれほどあるか,またセーフティネットの機能の度合い,という2つの観点でみるべきかと思います。「失職=生活破綻・自殺」という構図がどれほど強いか。この点を数値化し,自地域の福祉行政の反省材料にすることは,できないことではありません。ここで示した,失業と自殺の相関の数値化は,その術の一つです。

 まあ,こんな込んだことをせずとも,生活保護受給者数と自殺者数という,2つの数値を追ってみるだけでもよし。前者がフラットないしは減少しているのに,後者が増えているとあらば,公的扶助の機能不全を疑う必要アリです。。コロナ禍の今,自地域のこういうデータを丹念に観察し,セーフティネットの機能度合いを点検していただきたいと思います。

2020年10月8日木曜日

為政者の構成を問う

  足立区の区議が「同性愛者が守られると区が滅ぶ」と発言し,物議をかもしています。謝罪も拒否しており,さあ大変。所属の自民党にも飛び火しているようです。

 どういう人かというと,78歳の高齢議員さんみたいですね。高齢者が時代の趨勢に追いつけないというのは常で(そうでない人もいます),意識や価値観には年齢差があります。どういう時代を生きてきたかの違いにもよるので,世代差とも言えるでしょうか。短期間で激しい社会変化を遂げた日本では,こういう差が殊に大きくなっています。若者と高齢者は,容姿だけでなく,抱いている考え方も違うのです。

 それは,「**についてどう思うか?」という意識調査のデータで容易に可視化できます。同性愛発言が問題になってますので,「**」に同性愛を入れてみましょうか。2010~17年に実施された『世界価値観調査(第7回)』では,同性愛者をどれほど受け入れられるかを問うています。10段階で評定してもらう形式です(Q182)。

 以下は,日本の20代と60歳以上の群の回答分布です。無回答・無効回答は除きます。


 20代の分布をみると,全体の6割がマックスの10点を選んでいます。「同性愛,全然自然じゃん」というスタンスです。

 対して60歳以上は真ん中の5点が最も多く,その次は最低の1点です。「同性愛,絶対許せん!」です。上記の区議さんも,おそらくこの1点に〇をつけることでしょう。ただ次に多いのはマックスの10点で,高齢層では意識が二極化しているのも面白い。考えが旧態依然の人もいれば,そうでない人もいる。この両群を分かつ要因分析は興味深いですが,それは置いておいて,同性愛への意識には,大きな年齢差があることを押さえましょう。

 8月6日の記事では国際比較をしましたが,日本の若者の同性愛への寛容度は欧米より高くなっています。しかし,高齢層になるとガクンと下がります。年齢差が大きいのは,日本の特徴なんです。

 しかるに,社会を動かす政治の世界では,若者より高齢者が圧倒的に多いのは誰だって知っています。議会の場では,冒頭の区議の暴言を支持する空気すら漂っているのではないでしょうか。政治の世界では,50歳なんて全然若手。このラインで若年とその他を分かち,性別も絡めた組成図を当てずっぽうで描くと,以下のような感じでしょう。


 そう,マジョリティは年配男性で,この群だけで全体の7~8割が占められているとみてよいでしょう。これでは,同性愛者に関する政策を議論する場でも,旧態依然の考えが通りやすくなります。換言すると,若手の先進的な意見は潰されやすい。

 女性が1割ほどしかいないというのも論外。「こんなんで,ジェンダー平等の政策立案なんてできるのか?」と,海外からの視察者は目を丸くして驚きます。

 望ましいのは,右側のように,国民全体の組成に近くなることです。代表者の集団は,全国民の縮図に近いことが望ましい。それは,社会のあらゆる層のニーズを的確に汲み取るためでもあります。意識や価値観には年齢差がありますが,政治へのニーズも同じです。期待される役割が年齢によって違うからです。

 内閣府の『国民生活に関する世論調査』(2019年)では,対象者に政府に対する要望を問うています。複数の項目を提示し,いくつでも選んでもらう形式です。今年の8月は,前年同月より自殺者がかなり増えましたが,「自殺対策」という項目を選んだ人の率は,20代で20.3%,70歳以上で7.8%,12.5ポイントもの差があります。「教育振興・青少年育成」の選択率は順に,29.4%,17.6%です(差は11.8ポイント)。

 32の項目の選択率を掲げると,以下のようです。


 「若者-高齢層」の差が大きい順に配列しています。上にあるのは「若者>高齢層」の度合いが高い項目ですが,上位5位は,雇用・労働問題,少子化,自殺対策,景気対策,教育振興,となっています。まさに当事者なんですから,こうなりますよね。

 若い政治家が増えれば,こういう問題に力が入れられるようになるでしょう。当事者意識に勝るものはないのです。日本の公的教育費の対GDP比の低さをみても,これらの事項に本腰を入れる余地は大有りです。

 議場に若手や女性を増やすには,どうしたらいいか。議員になるには,①選挙に立候補すること,②選ばれること,という2段階のセレクションを経ないといけません。選挙の統計をみると,若手や女性は,立候補者に占める割合でみても,当選確率でみても低くなっています。日本の選挙は長年の地盤がモノをいい,新参者は不利になりがちです。

 選挙への立候補を促すには,供託金を下げるなども有効でしょう。当選確率を上げるには,棄権票の利用も考えられます。私は選挙において,意中の候補者がいない場合は,何も考えず女性や若い人に入れることにしています。棄権するよりは,為政者の歪んだ構成を正すのに票を使ったほうがいいからです。

 棄権された票を,こういう用途に使うのはどうか。棄権された票はまぎれもなく民意であって,その民意を女性や若手の候補者に上乗せするのです。議員の若手率や女性比率を高めることには,社会的なコンセンサスが得られています。その目的に,行使されなかった民意を充てるのは許されてもいいでしょう。

 こういう戦法を駆使して,政策決定を行う代表者の集団を,国民全体の縮図に近くしていきたいものです。日本とフィンランドの閣僚写真の比較が話題になりましたが,オッサンだらけではいかんのです。

 コロナ禍で地方移住が促されていますが,地方では議員のなり手も不足しています。若い人は移住して,「我こそは」と地方議会の選挙に打って出るのもよし。社会を変えるには都会でないとダメ,なんてことはありません。変革が容易な小社会からウェーブを起こし,それを全国に波及させていくことだってできるのです。