2014年4月27日日曜日

人生のお悩み曲線

 厚労省は毎年『国民生活基礎調査』を実施していますが,3年に一度の大規模調査では,対象者の健康状態も調べています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 悩みやストレスの有無を問い,「ある」と答えた者に対し,具体的な原因を複数回答で尋ねる設問があります。私はこのデータを使って,人生のお悩み曲線を描いてみました。手始めに,「家族との人間関係」で悩んでいる者の出現率曲線をみていただきましょう。


 男女とも40代後半に山があるきれいな型です。その山は女性で高く,40代後半の女性では,13.4%(7人に1人)が家族との人間関係の悩みを抱えていることが知られます。育児と介護に挟まれる「サンドイッチ」年代ですものね。女性の場合,上下からの重圧が男性に比して大きいことでしょう。

 「家族との人間関係」の悩みの曲線は,中年期にピークがある「山」型ですが,他の悩みの曲線はどういう型なのか。17の原因について,上記と同じ出現率曲線を描き,全体を一望できる図をつくってみました。

 ここでの主眼は,曲線のをみていただくことなので,縦軸の目盛幅は揃えていませんし,目盛もカットしています。横軸の年齢層については,先ほどの図と同じ位置に色をつけていますので,これを手掛かりに読み取ってください。色つきは,左から10代,30代,50代,70代です。

 それでは,17のお悩み曲線の一望図をみていただきましょう。青は男性,赤は女性の曲線です。


 細かいコメントはしませんが,曲線の型は多様ですね。ピークの位置に着目すれば,人生各時期の悩みがどういうものかが分かると思います。

 それと,ジェンダー差にも注意してください。前回みたように,育児や家事の悩みは,女性に集中する度合いが高いですね。ほとんどの図において,男性よりも女性の曲線が上にあることも特記事項です。トータルでみて,悩みの量は女性のほうが多いようです。

 前回も申しましたが,名称を隠して,この曲線はどういう悩みの出現率曲線かを答えさせる問題とかどうでしょう。人間形成論やライフコース論などの試験問題として,面白いと思うのですが。

 それはさておき,私は現在37歳ですが,この時期について回る悩みは,①自由時間がない,②収入・家計,③育児,④家事,⑤自分の仕事,⑥住まい,というようなものです。私は独身で定職を持たないので,あまり実感はないのですが,家庭持ち・仕事持ちの方はこれらの悩み・ストレスに苛まれていることでしょう。

 次のステージである40代前半では,離婚や介護の悩みが出てくることが予想されます。自分の「これから」に備えることもできそうです。

 人生は「人それぞれ」ですが,それで片付けてしまっては,人間科学は成り立ちません。ある程度の普遍則を打ち出し,標準的な見取り図を描くことは不可能ではありません。今後も,さまざまな事象の年齢曲線を描き,発信していこうと思っております。

2014年4月24日木曜日

育児・教育の悩み

 厚労省の『国民生活基礎調査』をもとに,育児・教育で悩んでいる者の出現率を出し,年齢曲線を描いてみました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 子育て期に山があるのは当然ですが,その高さが男女で全然違うことに注意しましょう。育児・子育て負担が女性に偏していることの証左です。「世界でも,まれでは?」という疑問がツイッター上で出されましたが,ホントそうなのではないかという気がします。

 率の絶対水準は思ったより低いと感じられるかもしれませんが,これは,人口全体をベースにしているためです。子がいる男女に限定したら,比率はもっと高くなります。

 『国民生活基礎調査』のデータを使って,いろいろな悩みの年齢曲線を描くことが可能です。仕事,生きがい,家事,いじめ,etc…。私のツイッターにて,いくつかの図を掲げています。ご覧ください。

 これ,ライフコース論とかの試験問題にいいかも。曲線を提示して,どういう悩みの出現率の曲線かを答えさせる。いかがでしょうか。次回,問題の試作品をお見せしようと思います。(たぶん…)。

2014年4月22日火曜日

睡眠時間の国際比較

 OECDは先月,“Balancing paid work, unpaid work and leisure” という資料を公表しました。1日あたりの生活行動の平均時間が国ごとに掲載されています。15~64歳の成人男女のデータです。

 先日,日経デュアルに寄稿した記事では,家事と仕事時間の国際比較をしたのですが,睡眠時間を比べてみると,こちらも「日本的」な特徴が出ています。今回は,その図をご覧いただきましょう。

 ここでいう平均時間とは,平日・休日をひっくるめた1日あたりの平均時間です。統計の年次は国によって異なりますが,おおよそ2009年近辺となっています(日本は2011年)。横軸に男性,縦軸に女性の平均睡眠時間をとった座標上に,28の国をプロットしてみました。各国の位置に注意してください。


 予想通りといいますか,日本の睡眠時間は短くなっています。男性は下から3位,女性に至っては最下位です。対極には南アフリカがありますが,失業率がべらぼうに高いことの影響でしょうか。

 図中の斜線は均等線であり,この線よりも下に位置する場合,「男性>女性」ということを意味します。ほう。女性よりも男性の睡眠時間が長い社会は国際的にみて少数派であり,日本,メキシコ,エストニア,インドの4国だけです。

 なお,「男性>女性」の度合いが最も高いのは日本なのですが,これは,家事や育児・介護などの負担が女性に偏っていることの表れでしょうか。日経デュアルの記事でデータを出しましたが,わが国は,家事時間の性差が大きい社会です(4.8倍!)。睡眠時間というプライマリーな行動時間からも,日本的ジェンダーを見て取ることができます。

 今回のデータは,成人男女全体,それも平日・休日をひっくるめたラフ・データですが,働き盛りの層に限定したらどうか。平日に限ったらどうか。分析の精緻化は,『社会生活基本調査』のデータを使うことで可能です。手がけてみようと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

2014年4月20日日曜日

男と女のどちらに生まれ変わりたいか?

 表題の問いに対する,成人男女の回答の長期変化をたどってみました。ソースは,統計数理研究所の『国民性調査』です。ツイッターで発信したところ,見てくださる方が多いようなのでブログにも載せておきます。


 女性のほうは変化がドラスティックであり,男性に生まれ変わりたいという希望がみるみる減っています。1958年では64%でしたが,半世紀を経た2008年では23%です。

 このデータを取り上げて,昔に比べて男女の平等が進んだ,女性が生きやすくなったと主張する記事をどこかでみたことがあります。しかるに,左側の男性の図も添えたら,解釈は少しばかり(場合によっては大きく)違ってくる可能性があります。

 女性は来世も女性がいいと答える者が多いのですが,男性の側は9割が「女性には生まれ変わりたくない」と考えている。このような「ねじれ」がなぜ存在するのか。これは日本的特徴なのか…。問題提起のタネとして,図を提示しておこうと思います。

 ついでですが,本日の朝日新聞の子育て欄に,「思春期どう向き合う:反響編 親も子も悩んで成長」という記事が載っています。思春期の子を抱えた保護者の相談に識者が答えるものです。そこにて,私が作成した統計図が2点掲げられています。問題行動と痩身(やせ)率の年齢図です。思春期とはこういう時期だ,ということを示す素材として使っていただきました。どうぞ,ご覧ください。

2014年4月17日木曜日

『働くってなんですか?』(育て上げネット編)

 育て上げネットの工藤啓氏より,『働くってなんですか?』を献本いただきました。ありがとうございます。
http://www.sodateage.net/books/891/


 うざったい説教のような内容と思われるかもしれませんが,本書に盛られているのは6人の若者の実話です。

①:大学を中退してから働けなくなったが,ショップ店長として結婚もしている若者。
②:新卒入社した会社を一年で退職。「社会不安障害」と診断されたが,アルバイトで働いている若者。
③:専門学校中退からのひきこもりがちな生活を乗り越え,コンビニスーパーで働いている若者。
④:高校卒業から6年間の空白期間を経て,インターン先に就職した若者。
⑤:中学時から不登校。社会的ブランクは10年を超えていたが,現在ではフルタイムで働いている若者。
⑥:20歳から15年間のひきこもり生活を経て,清掃会社の現場責任者となった若者。
                                            (表紙のカバーより)

 標準レールを踏み外した人間がどうやって「カムバック」を遂げたかという,ケース報告として読むことができます。若者支援の実践を行っている方々の参考になることでしょう。

 しかるに本書の主眼は,表題にある「働くってなんですか?」という問題を考えてもらうことにあるのだと思います。そのための手引きを,6人の若者がしてくれるのでしょう。

 パラパラとめくったところ,最後のあとがきにある,以下のセンテンスが印象に残りました。

 「私たちは働くために生まれてきたわけでも,働くために生きているわけでもありません。そんな当たり前であることも,『働く』から長く離れることで,いつのまにかそれが生きる目的であったかのような錯覚を起こしてしまうのかもしれません。しかし,実際に働けるようになると,『働く』は手段でしかないことに気がついてきます。」(186~187ページ)

 私も「働くとは手段なんだ」と学生さんによく言いますが,「『働く』から長く離れること」を経験した6人の若者は,説得力をもって,それを伝えてくれることでしょう。これからじっくり読ませていただきたいと思います。

2014年4月15日火曜日

日本の奨学金は国際統計では「ローン」

 高等教育には公的な助成がなされていますが,それは2つの成分からなります。大学等の教育機関への助成と,個々の家計を対象とした助成です。

 後者の家計対象助成が総額全体の何%を占めるか。OECDの “Education at a Glance 2013” にこの指標の国際統計が載っていますので,それをグラフにしてみました。2010年の統計となっています。


 日本は29.2%であり,OECD平均の23.2%よりは高くなっています。しかし注目してほしいのは,その中身のほとんどが “Student loans” であることです。われわれがいう「奨学金」のことですが,国際統計ではしっかり「ローン」に直されています。青色のスカラシップとはみなされていません。

 申すまでもなく,わが国の奨学金は実質「ローン」なのですが,国際統計ではこの点がしっかり認識されているようで,安堵の感を覚えました。国際的にみると,青色のスカラシップ型の国が多いことにも注意しましょう。

 文部科学大臣も,今の奨学金は「ローンのようなものだと思う」と認めているようです。正直に「学生ローン」と名称変更されるか,それとも奨学金の名にふさわしいよう,給付型のものに変えられるのか。後者であってほしいと思いますが,どうなることやら。
http://www.mynewsjapan.com/reports/2010

 OECDの “Education at a Glance 2013” は,教育分野の基本的な国際統計資料です。下記のサイトにて,フルテキストをPDFでダウンロードできます。教育学徒にとっては必携の資料であるといえるでしょう。
http://www.oecd.org/edu/eag.htm

 昔は,こういう資料は大きな図書館に行かないと閲覧できませんでしたが,今はネット上で簡単に入手できます。便利になったものです。こういう条件はどんどん活用されねばなりません。学生さんにも度々,こういうことを言っています。

2014年4月13日日曜日

ケータイ・スマホと非行の関連

 新年度が始まりましたが,いかがお過ごしでしょうか。デパート内のドコモショップをのぞくと,ケータイ(スマホ)を選んでいる親子連れが目立ちます。真新しい制服を着た中高生が多いようですが,入学祝でしょうか。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象の公立中学校3年生に対し「ケータイやスマホで通話やメールをしているか」と尋ねています。最新の2013年度の結果によると,37.9%の生徒が「ほぼ毎日している」と答えています。およそ4割。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

 県別の集計も出ていますので,数値を採集して地図をつくってみました。公立中学校3年生の「毎日ケータイ・スマホ」マップです。


 マックスの神奈川では,中学校3年生の47.8%,ほぼ半数が毎日ケータイ・スマホをしているようです。最低の佐賀は20.7%。予想はしていましたが,地域によってずいぶん違うものです。

 色が濃いのは首都圏と近畿圏ですね。同じ中学校3年生でも,都市部ほどケータイ・スマホへの利用度(依存度)が高いようです。この点も肌感覚に合っていますね。

 さて,中学生の「毎日ケータイ・スマホ」率にクリアーな地域差が出たのですが,このことが,各県の生徒の育ちにどう影響しているか。こういう問題を追及したくなります。逸脱行動の代表格である非行の頻度との相関をとってみましょう。

 私は,中学生の非行者出現率を計算しました。2012年中に刑法犯で検挙された中学生の数を,同年5月時点の中学生数で除した値です。分子は警察庁『犯罪統計書』,分母は文科省『学校基本調査』から得ました。分子には,14歳未満の触法少年は含めていないことを申し添えます。

 横軸に公立中学校3年生の「毎日ケータイ・スマホ」率,縦軸に中学生の非行者出現率をとった座標上に,47の県をプロットすると下図のようになります。ケータイ・スマホと非行の相関図です。


 攪乱はありますが,ケータイ・スマホへの依存度が高い件ほど,非行率が高い傾向が見て取れます。相関係数は+0.530であり,1%水準で有意です。

 これは都市化度を介した疑似相関かもしれませんが,人口集中地区居住率と非行率の相関は+0.459であり,ケータイ・スマホ利用度のほうが非行と強く相関しています。他の共通の背後要因も考慮する必要がありますが,ケータイ・スマホと非行の間には因果関連的な部分もあるのではないでしょうか。

 まず想起されるのは,ケータイやスマホが有害情報との接触ツールになることですが,自我が未熟な中学生の場合,このことが非行へとつながる可能性も高いことでしょう。ちなみに,有害情報をブロックする「フィルタリング」の利用率は最近低下しているとのこと。この点も懸念材料です。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2601L_W4A320C1CC1000/

 この4月にケータイやスマホを子に買い与えたご家庭も多いと思いますが,利用のルールづくりなどを徹底したいものです。また,返信しないといけないという強迫感から,四六時中「LINE」の画面と睨めっこという生徒もいると聞きますが,こういう生活の歪み・乱れが起きないよう,注意を払う必要もあります。

 ケータイはいつでもどこででも情報を収集し,発信できる偉大な文明機器です。しかるに目を凝らしてみると,それをうまく活用して生活をよりよくしていく者と,それに振り回されて生活を堕落させていく者の2種類います。

 自我が固まっていない青少年の場合,後者に傾きがちですので,大人による意図的な方向付け(指導)が欠かせません。私も,上記の2タイプの後者に堕しつつあるので気をつけようと思っています。もっとも私の場合,自己指導するしかないのですが。

2014年4月10日木曜日

「学校は仕事に役立つことを教えてくれた」の国際比較

 OECDのPISA2009の生徒質問紙調査では,「学校は仕事に役立つことを教えてくれた」という項目を提示し,どれほど当てはまるかを自己評定させています。対象は15歳の生徒です。
http://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php

 選択肢は,①まったく当てはまらない,②どちらかといえば当てはまらない,③どちらかといえば当てはまる,④とてもよく当てはまる,の4つ。日本の場合,無回答を除いて集計すると,①が9.2%,②が26.0%,③が46.7%,④が18.1%となります。

 私は,強い否定(①)と強い肯定(④)の回答比率から2次元のマトリクスをつくり,この上に74か国を散りばめてみました。点線は74か国の平均値です。


 相対評価ですが,日本は否定が多く肯定が少ないので,右下の外れた場所に位置しています。15歳の生徒が回顧しているのは義務教育学校でしょうが,生徒目線による,そこでの職業教育の評価はこんな感じです。

 おそらく就労経験がないであろう15歳の生徒に,「仕事に役立つこと」が何たるかを判断することは難しいとは思いますが,他の先進国から大きく離れた位置にあることが気になります。また,受験競争が激しいなど,類似した社会状況の韓国が近くにあるのも象徴的です。

 義務教育段階の教育課程の問題なのか,日本は上級学校進学率が高いので,より上の段階で比較したら違った図柄になるのか…。いろいろ疑問はありますが,日頃のモヤモヤが可視化されたような印象を持ちましたので,ここに展示しておきます。

2014年4月8日火曜日

就業希望女性の非求職理由

 少子高齢化の進行により労働力不足の問題が深刻化していますが,目を凝らしてみると,潜在している労働力も少なくないことでしょう。

 2012年の『就業構造基本調査』のデータを使って,同年10月時点の15歳以上人口の就業構造を可視化してみると,下図のようになります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 就業状態が判明するのは1億1,048万人ですが,このうち働いているのは6,422万人であり,残りの4,606万人(42%)は無業者です。

 後者の多くは,就業を希望しない者(多くは高齢者)ですが,就業を希望している者もいます。しかるに,この中には職探しをしていない者も少なくありません(点線,内数)。その数,男性は203万人,女性は415万人,合わせて618万人なり。

 東京の人口の半分ほどですが,結構な数ですね。就業を希望しつつも,求職活動をしていない(できない)。さしあたり,この層への働きかけが課題になるかと思いますが,この潜在労働力の素性を解剖してみようと思います。ここでは,女性の415万人に注目することにしましょう。

 まずは年齢層別の棒グラフからですが,主な理由の色もつけてみました。出産・育児と介護・看護です。それ以外は「その他」として括りました。


 最も多いのは,30代の後半です。働き盛りの層ですが,彼女らの求職活動を妨げる条件としては,やはり出産・育児が大きいようです。職に就けないどころか,職探しすらできない状態をももたらしていることが知られます。

 なお高齢層も多いようですが,この層では介護・看護という理由が出てきます。これから先,この赤色の領分が増してくることでしょう。

 以上は絶対量のスケッチですが,上図の「その他」(緑色)の中身も気になるところです。今度は,求職活動を妨げる理由の内訳をみてみましょう。全体のどれほどかという,組成図の形でご覧いただきます。


 理由の組成は,年齢によって違いますね。この中には如何ともし難いものもありますが,政策上の課題として検出されるのは,出産・育児という理由による(若年)女性労働力の潜在化でしょう。先ほどの図でみたように,量としてはこの部分が最も多くなっています。

 それと,「希望の仕事がなさそう」という,選り好みの非求職が案外少ないことにも注意すべきかと存じます。

 次の課題は,地域別の傾向把握です。出産・育児という理由による(若年)女性労働力の潜在化。これが顕著なのは,どの県か。問題への対策は地域レベルでなされるべきことですが,それに先立っての状況診断のデータを出せればと思います。

2014年4月7日月曜日

図書館職員の女性非常勤率(県別)

 昨年の4月23日の記事では,図書館職員の女性非常勤比率を出したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。

 図書館職員の非正規化はよくいわれますが,それをジェンダーの視点でみると,非正規化の多くは女性によって担われていること。その結果,職員全体に占める女性非常勤比率がとみに上昇していること。これがファインディングスです。

 今回は,こうした傾向がどれほど顕著かを都道府県別にみてみましょう。先の記事でみたのは全国のものですが,県別に観察すると様相は多様でしょう。公共図書館の管理主体は,それぞれの自治体ですしね。

 文科省『社会教育調査』から,各県の図書館の職員数を知ることができます。最新の2011年度調査によると,東京都の図書館職員数(専任+兼任+非常勤)は4,642人です。この中には,指定管理業者の職員は含みません。このうち,女性の非常勤職員は2,323人。よって,東京の女性非常勤率は50.0%,ちょうど半分ということになります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm

 大都市の東京では,図書館職員の半分が女性の非常勤職員です。では,他の県はどうでしょう。同じ値を全県について出し,地図をつくってみました。2011年度のマップです。


 ほう。県によって値が大きく違っていますね。最高は群馬の59.7%,最低は青森の33.8%です。色が濃いのは50%(半分)を超える県ですが,関東と甲信越のゾーンが濃く染まっています。図書館職員の(女性)非正規化には,地域性もありそうです。

 なお,過去からの変化という点でいうと,率の上昇幅が最も大きいのは山梨県です。図書館職員の女性非常勤率は1999年度は18.6%でしたが,2011年度では57.6%にまで激増しています。3倍以上です。全国レベルでみた増加幅(24.1%→49.0%)を大きく上回っています。

 この県の図書館職員数がどう変わったかを実数で示すと,下表のようです。


 この12年間で職員総数は226人から356人へと増えましたが,増分はもっぱら女性の非常勤職員に担われています。表から分かるように,増えているのはこのカテゴリーだけであり,その増え方もハンパじゃありません(42人→205人)。

 この表のデータを視覚化してみましょう。6カテゴリーの量を四角形の面積で示した,面積図にしてみました。


 何も言いますまい。よく指摘される図書館職員の非正規化は,もっぱら女性によって担われています。別の言い方をすると,今世紀以降,図書館のような公共施設で働く女性は増えたが,増分のほとんどは非正規。わが国の女性の社会進出は「非正規依存型」といいますが,その様がまざまざと表れています。

 この中には,育児や介護等で忙しく,パートタイムの働き方を自ら望んだ女性もいることでしょう。しかるにそのこと自体,諸々の家事が女性に集中しており,彼女らにとって職域は二次的な場所という,ジェンダーの問題を象徴しているともいえます。

 この図を外国の人が見たらどういう反応を示すか興味深いところですが,われわれは,女性の社会進出と雇用の非正規化という社会変動を,別個に切り離すのではなく,相互にリンクさせて観察する必要があるようです。上記の図の縦軸・横軸のいずれか一方だけを観察するだけでは不十分でしょう。

 今回みたのは図書館職員ですが,他の職業についても,性×地位というフレームにおいて,最近の変動過程を明らかにしてみたらどうでしょうか。間もなく始まる調査法の課題の一つにしようかと。今年度の本授業が目指すのは,社会現象の「見える化」技法の体得です。

2014年4月3日木曜日

家庭環境と学力の関連

 2013年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では,子どもの学力や生活習慣に加えて,家庭環境も調査しています。「きめ細かい調査」というやつです。

 先月の末に,この特別調査の部分も交えた集計結果が公表されました。『平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究』と題する報告書であり,お茶の水女子大学の研究グループによる執筆となっています。
http://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/hogosya_chousa.html

 上記サイトにて報告書の全文をダウンロードし,中をみると,あるわあるわ,家庭環境の設問と学力(平均正答率)のクロス表がわんさと載ってます。以前は半ばタブー視されていた学力の社会的規定性の問題に,公的な関心が高まっているのですね。結構なことです。

 報告書の40ページに,家庭の年収別にみた平均正答率の表が掲載されています。分散が大きい算数B(小6)と数学B(中3)の結果をグラフにしてみました。


 ほう。年収が高い群ほど正答率が高い傾向がみられます。右上がりになるのは間違いないと思っていましたが,ここまでクリアーに出るとは驚きです。モヤモヤとしていた印象が,はっきりと「見える化」されました。

 参考書や通塾の費用負担能力,自室などの勉学環境の有無…。家庭の経済状況と子どもの学力の関連経路はいろいろ想起されます。

 また,文化的な要因も無視できません。抽象度の高い学校知に親しみやすいのは,どういう家庭の子どもか。書籍が多くある,美術鑑賞などに頻繁に連れて行ってもらえる…こんな家庭でしょう。ブルデューは,こうした文化資本を媒介して,親から子へと地位が「再生産」される過程を暴いてみせました(文化的再生産)。

 家庭の文化嗜好は,父母の学歴によって推し測ることができるでしょう。父母の学歴別に平均正答率を集計した表がありますので(40~41ページ),それを視覚化してみました。


 小6の算数B,中3の数学Bとも,父母の学歴が高い群ほど正答率が高くなっています。親が高学歴の子どもほど,諸々の文化的環境(働きかけ)により,学校で教授される(抽象的な)知識への親和性が高くなる。その結果,高いアチーブメントを収める…。このような経路もあることでしょう。

 父親と母親の曲線を比べると,後者のほうが少し傾斜が急になっています。子どもと接する時間が長い母親の影響力が大きいのでしょうか。とくに,母親が大卒以上であるかが分岐点のようです。

 報告書には他にも,興味深いクロス表が盛りだくさんです。複数の変数を同時に取り込んだ重回帰分析のような,精緻な分析もなされています。学力の規定因子としてどれが一番大きいのかを教えてくれます。

 さらに,家庭環境の条件が悪くとも高いアチーブメントを出している子どもの特性は如何。こういう問題も検討されています。これなどは,学力の社会的規定性の克服に向けた取組に際して,大きな示唆を与えてくれます。

 学力の社会的規定性を個人レベルで明らかにした,貴重な研究報告です。これから先,この分野の研究のバイブルとして広く引用されることとなるでしょう。お茶の水女子大学の研究チームの仕事に敬意を表したいと思います。

2014年4月1日火曜日

新年度のはじまり

 今日は4月1日。近場の都立桜ケ丘公園は桜が満開です。


 園内の聖蹟記念館ですが,今日は花見の家族連れでいっぱいでした。昨日,写真を撮っておいてよかった。

 新年度になりましたが,変わらず本ブログをよろしくお願いいたします。

 ついでですが,本日配信の「αシノドス」誌に,拙稿が掲載されております。テーマは「大学教員の非正規化」。新年度早々,不景気な話ですが,購読されている方はどうぞご覧ください。
http://synodos.jp/a-synodos