8月も末日,暦の上では夏も終わりです。
今月,私がネット上でキャッチした教員不祥事報道は49件です。夏休み中にもかかわらず,数が多くなっています。先月と同じく,暑さでネジが飛んでしまったのでしょうか。
赤字は注目事案。校外学習で水分を取らせなかった小学校教諭,灼熱下を長時間ラニングさせた中学校教諭。私の頃は,こういうことは結構ありましたが,夏の気温が上がっている今はアウトです。子どもの命に関わります。
スポーツ庁は,部活動の在り方に関する総合ガイドラインを出しています。この中で,熱中症対策について触れられています。NGな指導の事例が紹介されています。保体の教員採用試験で頻出ですので,志望者はよく見ておきましょう。
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/013_index/toushin/1402678.htm
また,虚偽ツイートの拡散させたという大阪の講師。ツイッター等をやっている先生も多いと思いますが,発信する内容にはくれぐれもご注意を。自分の教育実践の成果等を世に知らしめる便利なツールですが,身を亡ぼすきっかけにもなり得る,両刃の剣です。
大阪市は,採用予定の人に,SNSで変なことを発信しないよう,注意を呼び掛けています。こういう時代になったのですね。
明日から9月,初秋です。ありがたいことに,気温は平年並みに落ち着くとのこと。背景を,夕暮れの海辺に変えます。9月は,半ばにも背景変えする予定です。気分転換になっていいです。
<2018年8月の教員不祥事報道>
・酒飲み生徒に暴行 高校教諭を懲戒免職
(8/1,ABCテレビ,和歌山,高,男,35)
・家庭訪問で外出中にコンビニで万引 容疑の中学講師逮捕
(8/1,サンスポ,京都,中,女,25)
・女児にわいせつな行為、容疑の34歳小学校教諭逮捕
(8/1,産経,千葉,小,男,34)
・答案用紙を紛失 女性教諭を戒告(長崎県)(8/2,日テレ,長崎,高,女,27)
・川崎市教委、2教諭を減給処分 体罰・他人の自転車で帰宅
(8/3,神奈川新聞,神奈川,体罰:中男32,横領:小男43)
・わいせつ2教諭を懲戒免職 都教委
(8/3,産経,東京,わいせつ:小男26,盗撮:中男26)
・飲酒運転の中学校教諭が懲戒免職(8/4,NHK,広島,中,男,60代)
・高速バスでわいせつ容疑…中学教諭を逮捕
(8/5,サンスポ,北海道,中,男,45)
・酒気帯び運転の教諭を停職6か月(8/6,NHK,鹿児島,男,46)
・都立高の副校長を逮捕 酔った女性に準強制わいせつ容疑
(8/6,朝日,東京,高,男,59)
・生徒に暴行疑い、市立中学の男性教諭を書類送検
(8/7,神戸新聞,兵庫,中,男,30代)
・女児に強制わいせつで教諭再逮捕(8/7,NHK,静岡,小,男,56)
・盗撮・淫行と酒気帯び運転の教諭3人免職
(8/7,日刊スポーツ,熊本,盗撮:小男44,淫行:高男33,酒気帯び運転:中男31)
・部活費処理で中学教諭減給 不適正と栃木県教委処分
(8/8,下野新聞,栃木,中,男,38)
・置き忘れの財布盗む 26歳の中学講師を逮捕 (8/9,産経,奈良,中,男,26)
・バスケ部女子十数人に「ゴキブリ」などの暴言 57歳教諭を戒告
(8/9,産経,大阪,中,男,57)
・免許取り消し後もバイク通勤の女性教諭、停職6か月処分
(8/9,MBS,大阪,小,女,36)
・部下の教員の体罰を報告せず 児童の腹蹴る(8/10,産経,大阪,小,男,50)
・「エアコン使うな、教委通達」講師の虚偽ツイートが拡散
(8/10,朝日,大阪,中,男,23)
・酒気帯びで事故、支援学校の女性講師を懲戒免職
(8/10,朝日,愛知,特,女,30)
・靴にスマホ隠し小さな穴から盗撮 女子中生のスカート内
(8/10,産経,長崎,小,男,38)
・部活指導の名目で 三重の高校教諭、生徒にわいせつ行為
(8/16,朝日,三重,高,男,55)
・クレーム続出の小学教諭、児童に水取らせず
(8/17,TOKYO.MX,東京,小,男,20代)
・教諭「大学行けなくなる」 漢字テスト不合格の児童、2週間登校せず
(8/17,産経,青森,小,男)
・性的暴行:容疑で51歳中学講師を逮捕(8/19,毎日,福岡,中,男,51)
・女子高校生に淫行容疑で小学校教諭逮捕 札幌
(8/20,サンスポ,北海道,小,男,24)
・女性の下着を盗んだ疑いで神戸市立中学の教諭を逮捕
(8/20,日刊スポーツ,兵庫,中,男,53)
・裸の小学校教師を逮捕「別の女性用下着に着替えようと」と供述
(8/21,テレ朝,北海道,小,男,56)
・女子高生に淫行疑いで中学教諭を逮捕 熊本
(8/21,日刊スポーツ,熊本,中,男,31)
・高校教諭 覚醒剤使用疑い…逮捕・起訴(8/21,読売,岩手,高,男,32)
・体罰:丸亀の小学教師、処分検討 県教委
(8/21,毎日,香川,小,男,30代)
・山梨でまた教員による個人情報紛失 生徒45人分の成績など
(8/22,産経,山梨,高,女,40代)
・小学校教諭酒気帯び運転で逮捕(愛媛県)
(8/23,日テレ,愛媛,小,男,58)
・女性教諭、教え子だった少年に淫行疑い
(8/23,サンスポ,北海道,中,女,40代)
・コンビニでいなりずし盗み懲戒処分 京都の中学女性講師
(8/23,京都新聞,京都,中,女,25)
・職務放棄し神社の倉庫で発見…京都の教諭を停職6カ月処分
(8/24,産経,京都,小,男,56)
・痴漢:容疑で逮捕の講師を懲戒免職 静岡市教委
(8/24,毎日,静岡,中,男,28)
・女児の着替え盗撮疑い 小学校教諭を逮捕(8/24,産経,大阪,小,男,44)
・バルセロナで派遣校長がセクハラ 福島県が処分(8/24,産経,福島,男,54)
・長野 生徒3人乗せて速度超過 男性教諭を戒告処分
(8/24,産経,長野,高,男,57)
・中2熱中症、校舎80周走は「体罰」教諭処分へ
(8/25,読売,滋賀,中,男,31)
・勤務先で盗撮 県立高の男性教諭を懲戒免職
(8/27,tvkニュース,神奈川,高,男,30)
・女子生徒にわいせつ行為 剣道部顧問の中学教諭逮捕
(8/27,産経,滋賀,中,男,31)
・埼玉小学校教諭「欲求が勝った」少女わいせつで免職
(8/29,日刊スポーツ,埼玉,小,男,22)
・ 「誰か分からない」教諭が少女に裸画像送信させ逮捕
(8/29,日刊スポーツ,石川,小,男,39)
・男性教諭が女子児童にキス=指導担当、懲戒免職処分
(8/30,時事通信,山口,小,男,40代)
・盗撮の小学教諭ら2人免職、北海道教委
(8/30,産経,北海道,盗撮:小男37,わいせつ:高男32)
・覚醒剤巡る容疑 中学元教諭 逮捕(8/31,朝日,岩手,中,男,48)
・学習塾で女子高生の体触った疑い 高校非常勤講師を逮捕
(8/31,朝日,愛知,高,男,63)
2018年8月31日金曜日
2018年8月29日水曜日
東京への流入の増加
東京圏から地方への移住者に対し,最大300万円の補助をする制度を検討するのだそうです。どういう条件が付されるかは分かりませんが,人口の偏りを何とか是正しようと,政府も必死のようです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO34630700X20C18A8EA1000/
現在,人口の1割が東京,3割が首都圏(1都3県)に居住しています。地方では過疎,東京では過密の問題起きています。殺人的な満員電車の遠距離通勤などは,後者の典型です。
人は都市に集まる。どの社会にも当てはまる普遍則だと思いますが,東京への人口流入は,どう変化してきたのでしょう。人口移動の基本統計として,総務省の『住民基本台帳による人口移動報告』があります。年間の転入者数(a),転出者数(b),転入超過数(a-b)が,都道府県別に分かります。
転入の量の指標としては,最後の転入超過数が使われます。転入が多くても転出がそれを上回れば,結果としてマイナスになりますので。
首都圏の転入超過数は,どう推移してきたか。長期統計表をもとに,1都3県の推移をグラフにしてみました。1955~2017年の長期トレンドです。
埼玉・千葉・神奈川は,ほぼ全ての年でプラスですが,東京は浮動が大きくなっています。1950年代前半から60年代前半の高度経済成長期では,地方から若年労働者がガンガン入ってきたので(集団就職),転入超過数は大幅にプラスになっています。
しかし60年代後半になり,公害の発生など成長に陰りが見え始めると,住みにくい都心部から郊外に人口が流れるようになります。60年代後半から70年代前半は,東京から周囲の3県に人が移動した「郊外の時代」でした。当時の首都圏の人口増加率マップを描くと,都心が真っ白で郊外に行くにつれ色が濃くなる「ドーナツ化現象」が浮かび上がります。
90年代半ばまでこの状態が続きますが,それ以降,東京の転入超過数は再びプラスに転じます。2007年に9.5万人のピークになった後,リーマンショックの影響か減少し,2011年以降はまた増えています。昨年(2017年)は7.5万人で,周囲の3県を引き離しています。
昔ほどではありませんが,東京への人口流入(集中)が増しつつあります。はて,どの年齢層で増加が顕著なのでしょう。最近のボトムだった2010年と2017年の転入超過数を年齢別に出し,折れ線のグラフにしました。最近の公表資料は充実しており,細かい1歳刻みのデータが分かります。
2010年は,18歳と22歳に山がある二コブでした。大学進学と就職の流入です。しかし2017年では,22歳が突き出ています。転入超過数の増加が飛び抜けて多いのもこの年齢で,2010年の1.3万人から2017年の2.1万人に増えています。少子化で,国内の22歳人口が減っているにもかかわらずです。
22歳の若者(大卒者)が,就職の地として東京を選ぶ傾向が強まっているのでしょうか。その一方で,私の郷里・鹿児島のような地方県では,就職期の若者の流出が増しているのか。
全県の比較をやってみましょう。人口サイズが県ごとに異なるので,転入超過数の実数を比べることはできません。そこで,転入超過率という指標を出してみます。年間の転入超過数を,年始(1月1日)の人口で割った値です。
2017年の東京でいうと,20代前半の転入超過数は5万3312人で,1月1日時点の同年齢人口は67万8698人です。よって20代前半の転入超過率は,前者を後者で割って7.86%となります。人口の社会移動によって,20代前半人口が年間で7.86%増えた,ということです。わが郷里の鹿児島では,この値はマイナスになっています。
私はこのやり方で,2010年と2017年の転入超過率を都道府県別に計算しました。ベタな一覧表でなく,全県の分布を視覚的に示したグラフを見ていただきましょう。
最高から最低の幅(レインヂ)を見ると,2010年から2017年にかけて,若者の転入超過率の地域差が広がっています。東京は5.0%から7.9%にアップしていますが,秋田は-3.8%から-5.8%にダウンです。
若者を呼び寄せる都市と,若者が出ていく地方の格差が拡大しつつあります。また1位と2位の差が開いていることから,東京の「一人勝ち」が進んでいることにも注目です。
若者を吸い寄せる磁力は,働き口がどれほどあるかです。厚労省の『一般職業紹介状況』という資料によると,2010年の全国の有効求人倍率(年平均,パート含む)は0.52倍でした。リーマンショックの余波があった頃ですが,最近は人手不足もあり1.50倍まで伸びています。「求人<求職」の時代です。
しかし東京は,0.65倍から2.08倍と伸び幅が大きくなっています。2013年以降,47都道府県で首位の状態が続き,2位の福井との差もじりじり開いています。
オリンピック特需による一過性のものかもしれませんが,若者の働き口の地域格差(首都集中)が進行しているのかもしれません。「地方では仕事がない,よって都会(東京)に出る」という声もよく聞きますし。22歳の学卒人口の東京流入が増している(2番目のグラフ)は,その証左です。
エンリコ・モレッティの名著『年収は住むところで決まる-雇用とイノベーションの都市経済学』に,イノベーション都市と衰退する地方の分化が拡大するであろう,という予言がありますが,それが的中しそうで怖いです。
冒頭に戻りますが,「300万円出すよ」と言って,人々の地方移住を促すという,政府の意向(焦り)も分かります。しかし,移住先に仕事,食い扶持を稼ぐ術がないとなれば,どうしようもありません。
ネットの普及で,以前に比したら場所を選ばず働ける度合いは増していますが,全ての人がそうというわけにはいきません。人の移住を促すのもいいですが,並行して,企業の移転も後押しするべきでしょう。地方に本社を移転したら大幅減税とかね。政府のテコ入れが求められる時代です。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO34630700X20C18A8EA1000/
現在,人口の1割が東京,3割が首都圏(1都3県)に居住しています。地方では過疎,東京では過密の問題起きています。殺人的な満員電車の遠距離通勤などは,後者の典型です。
人は都市に集まる。どの社会にも当てはまる普遍則だと思いますが,東京への人口流入は,どう変化してきたのでしょう。人口移動の基本統計として,総務省の『住民基本台帳による人口移動報告』があります。年間の転入者数(a),転出者数(b),転入超過数(a-b)が,都道府県別に分かります。
転入の量の指標としては,最後の転入超過数が使われます。転入が多くても転出がそれを上回れば,結果としてマイナスになりますので。
首都圏の転入超過数は,どう推移してきたか。長期統計表をもとに,1都3県の推移をグラフにしてみました。1955~2017年の長期トレンドです。
埼玉・千葉・神奈川は,ほぼ全ての年でプラスですが,東京は浮動が大きくなっています。1950年代前半から60年代前半の高度経済成長期では,地方から若年労働者がガンガン入ってきたので(集団就職),転入超過数は大幅にプラスになっています。
しかし60年代後半になり,公害の発生など成長に陰りが見え始めると,住みにくい都心部から郊外に人口が流れるようになります。60年代後半から70年代前半は,東京から周囲の3県に人が移動した「郊外の時代」でした。当時の首都圏の人口増加率マップを描くと,都心が真っ白で郊外に行くにつれ色が濃くなる「ドーナツ化現象」が浮かび上がります。
90年代半ばまでこの状態が続きますが,それ以降,東京の転入超過数は再びプラスに転じます。2007年に9.5万人のピークになった後,リーマンショックの影響か減少し,2011年以降はまた増えています。昨年(2017年)は7.5万人で,周囲の3県を引き離しています。
昔ほどではありませんが,東京への人口流入(集中)が増しつつあります。はて,どの年齢層で増加が顕著なのでしょう。最近のボトムだった2010年と2017年の転入超過数を年齢別に出し,折れ線のグラフにしました。最近の公表資料は充実しており,細かい1歳刻みのデータが分かります。
2010年は,18歳と22歳に山がある二コブでした。大学進学と就職の流入です。しかし2017年では,22歳が突き出ています。転入超過数の増加が飛び抜けて多いのもこの年齢で,2010年の1.3万人から2017年の2.1万人に増えています。少子化で,国内の22歳人口が減っているにもかかわらずです。
22歳の若者(大卒者)が,就職の地として東京を選ぶ傾向が強まっているのでしょうか。その一方で,私の郷里・鹿児島のような地方県では,就職期の若者の流出が増しているのか。
全県の比較をやってみましょう。人口サイズが県ごとに異なるので,転入超過数の実数を比べることはできません。そこで,転入超過率という指標を出してみます。年間の転入超過数を,年始(1月1日)の人口で割った値です。
2017年の東京でいうと,20代前半の転入超過数は5万3312人で,1月1日時点の同年齢人口は67万8698人です。よって20代前半の転入超過率は,前者を後者で割って7.86%となります。人口の社会移動によって,20代前半人口が年間で7.86%増えた,ということです。わが郷里の鹿児島では,この値はマイナスになっています。
私はこのやり方で,2010年と2017年の転入超過率を都道府県別に計算しました。ベタな一覧表でなく,全県の分布を視覚的に示したグラフを見ていただきましょう。
最高から最低の幅(レインヂ)を見ると,2010年から2017年にかけて,若者の転入超過率の地域差が広がっています。東京は5.0%から7.9%にアップしていますが,秋田は-3.8%から-5.8%にダウンです。
若者を呼び寄せる都市と,若者が出ていく地方の格差が拡大しつつあります。また1位と2位の差が開いていることから,東京の「一人勝ち」が進んでいることにも注目です。
若者を吸い寄せる磁力は,働き口がどれほどあるかです。厚労省の『一般職業紹介状況』という資料によると,2010年の全国の有効求人倍率(年平均,パート含む)は0.52倍でした。リーマンショックの余波があった頃ですが,最近は人手不足もあり1.50倍まで伸びています。「求人<求職」の時代です。
しかし東京は,0.65倍から2.08倍と伸び幅が大きくなっています。2013年以降,47都道府県で首位の状態が続き,2位の福井との差もじりじり開いています。
オリンピック特需による一過性のものかもしれませんが,若者の働き口の地域格差(首都集中)が進行しているのかもしれません。「地方では仕事がない,よって都会(東京)に出る」という声もよく聞きますし。22歳の学卒人口の東京流入が増している(2番目のグラフ)は,その証左です。
エンリコ・モレッティの名著『年収は住むところで決まる-雇用とイノベーションの都市経済学』に,イノベーション都市と衰退する地方の分化が拡大するであろう,という予言がありますが,それが的中しそうで怖いです。
冒頭に戻りますが,「300万円出すよ」と言って,人々の地方移住を促すという,政府の意向(焦り)も分かります。しかし,移住先に仕事,食い扶持を稼ぐ術がないとなれば,どうしようもありません。
ネットの普及で,以前に比したら場所を選ばず働ける度合いは増していますが,全ての人がそうというわけにはいきません。人の移住を促すのもいいですが,並行して,企業の移転も後押しするべきでしょう。地方に本社を移転したら大幅減税とかね。政府のテコ入れが求められる時代です。
2018年8月28日火曜日
『教職教養らくらくマスター』2020年度版
ブログタイトル下の告知板にも記してますが,拙著『教職教養らくらくマスター』(2020年度版)が実務教育出版より刊行されました。書店にも並んでいることと思います。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b370749.html
教育政策は目まぐるしく動き,法律もコロコロ変わりますので,毎年内容を更新し,今くらいの時期に刊行しています。この夏に出た2020年度試験用より,カバーデザインも刷新しました。前より,落ち着きのある体裁になったかと思います。
教職教養は,校種・教科を問わず全受験生に課されます。内容は大きく,教育原理,教育史,教育法規,教育心理,の4領域に分かれます。
大学の教職課程のテキストをちゃんと復習すればいいのですが,大学の先生が書く概論書と,教員採用試験の教職教養の間には,いささか距離があります。たとえば教育社会学は試験では出題されませんし,逆に最新の教育時事などは大学の授業で習うことはありません。試験対策に特化した本を使う必要があります。
本書は,そういう要請に応えるための本です。文章をびっちり詰めた「読む本」ではなく,どちらかといえば「見る本」に近いです。教職教養の広範な内容を「らくらくマスター」していただくため,内容の盛り方に工夫を凝らしています。
上記は学習指導の方法のテーマですが,押さえるべきキーワードを赤字で強調し,概念を原則2行以内で簡潔に説明するスタイルをとっています。附属のフィルムで赤字を隠せますので,暗記学習も可能です。
また視覚人間である私のポリシーを前面に出し,図や表を多用しています。以下は,出題頻度が高い西洋教育思想(近代)のテーマです。
過去問を見れば分かりますが,教育史は,著名な思想家の文章の正誤判定問題や,人物名と著作・業績を結び付けさせる問題に尽きます。よって,各人物の主著や思想のキーワードを知っておけば十分です。ルソーであれば,主著は『エミール』,キーワードは「子どもの発見」「消極教育」というように。
こうした学習の便に資するよう,重要人物の情報を表組で整理しています。ある人物の名前が提示されたら,即座に主著やキーワードが浮かぶようになるまで,赤字を隠したドリル学習を反復してください。
お堅い教育法規にしても,ただ条文を機械的に載せるのではなく,現場でどういうことが問題になっているか,どういう点を汲み取ってほしいかを,私の言葉で書いています。読者さんから,「フレンドリーで,暗記学習の暗さを感じさせない」という声をいただいています。
他にもアピールしたい点はありますが,これくらいにしましょう。あとは,現物を手に取ってからのお楽しみ。
今の学生は,短文に入り浸ったSNS世代ですので,長い文章を読むのが億劫という子が多いと思います。そういうことを考え,本書は「読む本」ではなく「見る本」としての性格を出しています。
こうした読みが当たったのか,本書は2007年の刊行以来,「見やすい」「分かりやすい」と好評をいただき,教職教養の売れ筋本として通っています。紀伊国屋の教員採用試験のコーナーでは,いつも最前列に平積みされてます。ありがたや。
https://twitter.com/tmaita77/status/1003819191495942144
来年の夏,教員採用試験を受験予定の学生さん,本書をぜひ手にとってください。他の会社から,分厚い電話帳みたいな参考書も出てますが,学習のスタートには,重要ポイントを精選した薄手の要点整理集がいいと思います。まずは,教職教養全体(原理,歴史,法規,心理)を大雑把に押さえることからです。
『教職教養らくらくマスター』は毎年刊行されていますが,今年はカバーデザインが変わった節目の年ですので,アナウンスさせてただきました。
現在,教員採用試験の競争率は下がっていますが,オリンピック後はまた不況になるという予測もあります。そしたら競争率は跳ね上がるでしょう。今がチャンス。受験生の皆さんの健闘を祈ります。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b370749.html
教育政策は目まぐるしく動き,法律もコロコロ変わりますので,毎年内容を更新し,今くらいの時期に刊行しています。この夏に出た2020年度試験用より,カバーデザインも刷新しました。前より,落ち着きのある体裁になったかと思います。
教職教養は,校種・教科を問わず全受験生に課されます。内容は大きく,教育原理,教育史,教育法規,教育心理,の4領域に分かれます。
大学の教職課程のテキストをちゃんと復習すればいいのですが,大学の先生が書く概論書と,教員採用試験の教職教養の間には,いささか距離があります。たとえば教育社会学は試験では出題されませんし,逆に最新の教育時事などは大学の授業で習うことはありません。試験対策に特化した本を使う必要があります。
本書は,そういう要請に応えるための本です。文章をびっちり詰めた「読む本」ではなく,どちらかといえば「見る本」に近いです。教職教養の広範な内容を「らくらくマスター」していただくため,内容の盛り方に工夫を凝らしています。
上記は学習指導の方法のテーマですが,押さえるべきキーワードを赤字で強調し,概念を原則2行以内で簡潔に説明するスタイルをとっています。附属のフィルムで赤字を隠せますので,暗記学習も可能です。
また視覚人間である私のポリシーを前面に出し,図や表を多用しています。以下は,出題頻度が高い西洋教育思想(近代)のテーマです。
過去問を見れば分かりますが,教育史は,著名な思想家の文章の正誤判定問題や,人物名と著作・業績を結び付けさせる問題に尽きます。よって,各人物の主著や思想のキーワードを知っておけば十分です。ルソーであれば,主著は『エミール』,キーワードは「子どもの発見」「消極教育」というように。
こうした学習の便に資するよう,重要人物の情報を表組で整理しています。ある人物の名前が提示されたら,即座に主著やキーワードが浮かぶようになるまで,赤字を隠したドリル学習を反復してください。
お堅い教育法規にしても,ただ条文を機械的に載せるのではなく,現場でどういうことが問題になっているか,どういう点を汲み取ってほしいかを,私の言葉で書いています。読者さんから,「フレンドリーで,暗記学習の暗さを感じさせない」という声をいただいています。
他にもアピールしたい点はありますが,これくらいにしましょう。あとは,現物を手に取ってからのお楽しみ。
今の学生は,短文に入り浸ったSNS世代ですので,長い文章を読むのが億劫という子が多いと思います。そういうことを考え,本書は「読む本」ではなく「見る本」としての性格を出しています。
こうした読みが当たったのか,本書は2007年の刊行以来,「見やすい」「分かりやすい」と好評をいただき,教職教養の売れ筋本として通っています。紀伊国屋の教員採用試験のコーナーでは,いつも最前列に平積みされてます。ありがたや。
https://twitter.com/tmaita77/status/1003819191495942144
来年の夏,教員採用試験を受験予定の学生さん,本書をぜひ手にとってください。他の会社から,分厚い電話帳みたいな参考書も出てますが,学習のスタートには,重要ポイントを精選した薄手の要点整理集がいいと思います。まずは,教職教養全体(原理,歴史,法規,心理)を大雑把に押さえることからです。
『教職教養らくらくマスター』は毎年刊行されていますが,今年はカバーデザインが変わった節目の年ですので,アナウンスさせてただきました。
現在,教員採用試験の競争率は下がっていますが,オリンピック後はまた不況になるという予測もあります。そしたら競争率は跳ね上がるでしょう。今がチャンス。受験生の皆さんの健闘を祈ります。
2018年8月26日日曜日
母子家庭・父子家庭からの非行少年出現率
子育て年代の離婚率の増加もあって,最近では,18歳未満の子どもの7人に1人が,一人親世帯の子です。
日本は,一人親世帯に困難が凝縮する社会で,子どもの貧困率は,子ども全体では6人に1人ですが,一人親世帯に限ると半分を超えます。一人親世帯の子どもの貧困率は,世界でトップです。子どもの貧困率の増加は,一人親世帯が増えていることにもよります。
経済的に苦しい状況に置かれるわけですが,そういう生活条件が,子どもの育ちに影を落とすこともあります。問題行動の頻度とも関連しており,非行との相関については,データではっきりと可視化できます。
家庭環境と非行というのは,犯罪社会学の古典的テーマで,この分野の入門書を開くと必ず,「家庭環境」というチャプターが設けられているはずです。その関連の仕方というのは,親子関係の有様ののような,情緒的・内面的な部分に注視されがちですが,もっと基底的な家庭の形態面(構造面)に焦点を当てることも必要です。たとえば,親がいるかどうかです。
昔は,両親がそろってない家庭を欠損家庭といい,一般家庭と比して非行少年の出現率が高いことが,白書等でよく示されていました。現在では「欠損家庭」などという言い方はNGで,このような分析はあまり見かけなくなりましたが,警察庁の原統計では,非行少年の数が親の状態別に集計されています。「両親あり」「父あり母なし」「母あり父なし」「両親なし」,というカテゴリー区分です。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/year.html
2015年の『犯罪統計書』によると,同年中に刑法犯(交通業過除く)で検挙・補導された10代少年は4万7173人です。うち母子世帯の子は1万4851人,父子世帯の子は3030人となっています。非行少年の4割近くが,一人親世帯から出ていることになります。
同年の『国勢調査』によると,一般世帯の10代少年は1141万3988人で,うち母子世帯の子は140万301人,父子世帯の子は16万6566人です。
これで分子・分母がそろいましたので,少年全体,母子世帯,父子世帯という3グループについて,非行少年の出現率を計算できます。以下に掲げるのは,割り算の結果です。出現率の単位は‰(千人あたり)であることに注意してください。
10代少年全体では,非行少年の出現率は4.1‰ですが,母子世帯では10.6‰,父子世帯では18.2‰となっています。母子世帯は全体の2倍,父子世帯は4倍以上です。
分子の非行者数は,繰り返し捕まった少年を重複してカウントした延べ数であることに要注意ですが,父子家庭からは55人に1人の割合で非行者が出ていることになります。
これは10代全体のデータですが,上表の分母・分子(a,b)は,細かい1歳ごとに得ることもできます。10~19歳の年齢別に,3つの群の非行少年出現率(b/a)を出し,折れ線のグラフにすると以下のようになります。
最近の非行率の年齢カーブが,10代半ばに山がある型になっています。戦後初期の頃は18~19歳の年長少年で高かったのですが,時代とともに低年齢化してきています。
15歳といえば人生初の進路分化が起きる時期で,高校入試による重圧(選り分け)の影響があるのかもしれません。発達面でみても,心が大きく揺れ動く時期です。このダブルの要因の影響は大きい。
3群のカーブですが,どの年齢でも一定の開きをもって「総数<母子<父子」となっています。父子世帯の15歳少年から非行少年が出る率は29.2‰,34人に1人です。
一人親世帯の子の非行率が少年全体よりも高いのは想像していましたが,母子世帯と父子世帯の段差がここまで大きいのは驚きです。「総数-母子世帯」と「母子世帯-父子世帯」の落差が同じくらいとは…。
はて,これはどういう事情によるのか。母子世帯と父子世帯の非行の違いについてどう言われているのか,手元の犯罪学関連の文献に当たりましたが,詳細に言及しているものはありませんでした。
まあ常識的にいって,離婚で生活が荒れる度合いは,母親より父親のほうが大きいでしょう。壮年男性の自殺率を有配偶者と離別者で比べると,後者のほうが格段に高くなっています(女性は差が小さい)。そうした荒みが,子どもにも伝播するのかもしれません。
また父親の場合,仕事中心になりがちで,子どもとの接触時間もとれない。家事や育児も妻に任せきりで,妻に去られた一人になると,子どものケアもままならない。それは,年少の子どもにとって痛手になるでしょう。企業も「育児は母親がするもの」という思い込みが強いので,シングルファザーのワーク・ライフ・バランスも阻害されがちです。
一人親家庭というと脊髄反射的に母子世帯が想起され,シングルファザーの困難は陰に隠れがちです。それは低所得といった経済的事情とは異なる,生活や育児の実相に関係することです。
今回のデータは,父子世帯への支援の必要性を示唆するもので,「子どもが非行化しやすい」など偏見の文脈で読まないでいただきたいと思います。
日本は,一人親世帯に困難が凝縮する社会で,子どもの貧困率は,子ども全体では6人に1人ですが,一人親世帯に限ると半分を超えます。一人親世帯の子どもの貧困率は,世界でトップです。子どもの貧困率の増加は,一人親世帯が増えていることにもよります。
経済的に苦しい状況に置かれるわけですが,そういう生活条件が,子どもの育ちに影を落とすこともあります。問題行動の頻度とも関連しており,非行との相関については,データではっきりと可視化できます。
家庭環境と非行というのは,犯罪社会学の古典的テーマで,この分野の入門書を開くと必ず,「家庭環境」というチャプターが設けられているはずです。その関連の仕方というのは,親子関係の有様ののような,情緒的・内面的な部分に注視されがちですが,もっと基底的な家庭の形態面(構造面)に焦点を当てることも必要です。たとえば,親がいるかどうかです。
昔は,両親がそろってない家庭を欠損家庭といい,一般家庭と比して非行少年の出現率が高いことが,白書等でよく示されていました。現在では「欠損家庭」などという言い方はNGで,このような分析はあまり見かけなくなりましたが,警察庁の原統計では,非行少年の数が親の状態別に集計されています。「両親あり」「父あり母なし」「母あり父なし」「両親なし」,というカテゴリー区分です。
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/year.html
2015年の『犯罪統計書』によると,同年中に刑法犯(交通業過除く)で検挙・補導された10代少年は4万7173人です。うち母子世帯の子は1万4851人,父子世帯の子は3030人となっています。非行少年の4割近くが,一人親世帯から出ていることになります。
同年の『国勢調査』によると,一般世帯の10代少年は1141万3988人で,うち母子世帯の子は140万301人,父子世帯の子は16万6566人です。
これで分子・分母がそろいましたので,少年全体,母子世帯,父子世帯という3グループについて,非行少年の出現率を計算できます。以下に掲げるのは,割り算の結果です。出現率の単位は‰(千人あたり)であることに注意してください。
10代少年全体では,非行少年の出現率は4.1‰ですが,母子世帯では10.6‰,父子世帯では18.2‰となっています。母子世帯は全体の2倍,父子世帯は4倍以上です。
分子の非行者数は,繰り返し捕まった少年を重複してカウントした延べ数であることに要注意ですが,父子家庭からは55人に1人の割合で非行者が出ていることになります。
これは10代全体のデータですが,上表の分母・分子(a,b)は,細かい1歳ごとに得ることもできます。10~19歳の年齢別に,3つの群の非行少年出現率(b/a)を出し,折れ線のグラフにすると以下のようになります。
最近の非行率の年齢カーブが,10代半ばに山がある型になっています。戦後初期の頃は18~19歳の年長少年で高かったのですが,時代とともに低年齢化してきています。
15歳といえば人生初の進路分化が起きる時期で,高校入試による重圧(選り分け)の影響があるのかもしれません。発達面でみても,心が大きく揺れ動く時期です。このダブルの要因の影響は大きい。
3群のカーブですが,どの年齢でも一定の開きをもって「総数<母子<父子」となっています。父子世帯の15歳少年から非行少年が出る率は29.2‰,34人に1人です。
一人親世帯の子の非行率が少年全体よりも高いのは想像していましたが,母子世帯と父子世帯の段差がここまで大きいのは驚きです。「総数-母子世帯」と「母子世帯-父子世帯」の落差が同じくらいとは…。
はて,これはどういう事情によるのか。母子世帯と父子世帯の非行の違いについてどう言われているのか,手元の犯罪学関連の文献に当たりましたが,詳細に言及しているものはありませんでした。
まあ常識的にいって,離婚で生活が荒れる度合いは,母親より父親のほうが大きいでしょう。壮年男性の自殺率を有配偶者と離別者で比べると,後者のほうが格段に高くなっています(女性は差が小さい)。そうした荒みが,子どもにも伝播するのかもしれません。
また父親の場合,仕事中心になりがちで,子どもとの接触時間もとれない。家事や育児も妻に任せきりで,妻に去られた一人になると,子どものケアもままならない。それは,年少の子どもにとって痛手になるでしょう。企業も「育児は母親がするもの」という思い込みが強いので,シングルファザーのワーク・ライフ・バランスも阻害されがちです。
一人親家庭というと脊髄反射的に母子世帯が想起され,シングルファザーの困難は陰に隠れがちです。それは低所得といった経済的事情とは異なる,生活や育児の実相に関係することです。
今回のデータは,父子世帯への支援の必要性を示唆するもので,「子どもが非行化しやすい」など偏見の文脈で読まないでいただきたいと思います。
2018年8月23日木曜日
大学院博士課程入学者の変化
週が明けたとおもったら,もう明日は金曜です。早いですね。自宅仕事の私がこう感じるのですから,勤め人の人は,時の流れがもっと早く感じるのではないでしょうか。
昨日の毎日新聞に,主要国の中で,日本だけ修士・博士号学位取得者が減っている,という記事が出ています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180822-00000074-mai-life
人しか資源のない日本にとってこれはイタイ,研究力の低下だ。こういうトーンですが,背景要因として,学位取得後も不安定な非正規雇用(非常勤講師,研究員…)しかなく,大学院が敬遠されているからではないか,と結ばれています。
まさにその通りです。統計でみても,大学院博士課程入学者は,2003年をピークに減少の傾向です。2003年では1万8232人でしたが,2018年春は1万4904人です。修士課程入学者も,同じ期間にかけて7万5698人から7万4096人に減っています。
2007年に水月昭道さんの『高学歴ワーキングプア-フリーター生産工場としての大学院』(光文社新書)が出たこともあり,大学院修了者,とりわけ博士号取得者の悲惨な末路が知れ渡ってきたためでしょうか。
しかし,大学院入学者は20代前半の若き学徒だけではありません。年輩の社会人もいますし,最近は留学生も増えています。
文科省統計では,大学院入学者を,伝統的学生,社会人,留学生という3つの群に分けて拾えます。伝統的学生とは,学部から修士,修士から博士へとストレートに進学する人たちです。入学者の合計から,社会人と入学者を差し引いて出せます。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011528
この3つの群に分けて,入学者の変化を観察すると,下表のようになります。
この15年間で,修士入学者は2.1%,博士入学者は18.3%も減りました。しかるに,大きく減っているのはストレートの伝統的進学群です。博士課程では,修士からのストレート進学組は,ほぼ半減しました。
その一方で,修士では留学生,博士では社会人がうんと増えています。社会人の博士課程入学者は,3952人から6374人に増え,今年春では伝統的学生よりも多くなっています。今となっては,博士入学者のマジョリティは社会人です。
大学院博士課程も,社会人のリカレント教育の場になりつつあるようですね。結構なことです。ところで,大学院は設置主体で国立,公立,私立に分かれますが,上記と同じデータをこの3群に分けて出すと,興味深い事実が分かります。
社会人が大きく増えている博士課程に注目しましょう。今年の速報データでは,設置主体別のデータはまだとれませんので,昨年春の入学者数をみてみます。
伝統的学生が減り,社会人が増えているのは国公私立共通ですが,その傾向は公立で顕著です。修士からのストレートの伝統群は6割も減り,代わって社会人入学者が186人から589人と,3倍以上に増えています。
その結果,入学者の内訳も様変わりしています。下図は,3つのグループの構成変化を帯グラフで表したものです。
変化が最もドラスティックなのは公立大学の博士課程で,社会人の割合は2003年では16.3%でしたが,昨年春では6割も占めるに至っています。国私立でも,社会人の比重が増していることに注目です。
地域と密着している公立大学は,住民のニーズを反映する度合いが高い,ということだと思われます。リカレント教育の先端を行っているのは,公立大学なんですね。何となくそうだろうなと思ってましたが,データで浮き彫りにできました。
『学校基本調査』では今年から,大学学部入学者の年齢も集計しています。ツイッターで発信しましたが,77%は18歳で,25歳以上は0.58%,30歳以上となると0.18%しかいません。
https://twitter.com/tmaita77/status/1032530831783260161
ただ,公立大学に限ると違うかもしれませんね。速報集計では,国公私別のデータは見れませんが,12月に公表される確報集計結果を楽しみに待ちましょう。
現在は,生涯学習社会。ニューズウィークの記事で,大学入学者の将来予測を出しましたが,やせ細る18歳人口を奪い合うことに躍起になる大学は,淘汰されるしかありません。少子高齢化という人口変動と同時に,社会変化の加速化という要因も,リカレント教育の普及を強く求めています。子ども期に学校で習ったことなど,すぐに陳腐化しちゃうのですから。
文科省統計で,大学院だけでなく,大学学部入学者の年齢も集計されるようになったことは,「未来形」のすがたに変身することを大学に促す姿勢の表れととれ,うれしく思います。
今から10年後,社会人,高齢者,外国人など,多様な学生でキャンパスが溢れかえっているといいなと思います。
昨日の毎日新聞に,主要国の中で,日本だけ修士・博士号学位取得者が減っている,という記事が出ています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180822-00000074-mai-life
人しか資源のない日本にとってこれはイタイ,研究力の低下だ。こういうトーンですが,背景要因として,学位取得後も不安定な非正規雇用(非常勤講師,研究員…)しかなく,大学院が敬遠されているからではないか,と結ばれています。
まさにその通りです。統計でみても,大学院博士課程入学者は,2003年をピークに減少の傾向です。2003年では1万8232人でしたが,2018年春は1万4904人です。修士課程入学者も,同じ期間にかけて7万5698人から7万4096人に減っています。
2007年に水月昭道さんの『高学歴ワーキングプア-フリーター生産工場としての大学院』(光文社新書)が出たこともあり,大学院修了者,とりわけ博士号取得者の悲惨な末路が知れ渡ってきたためでしょうか。
しかし,大学院入学者は20代前半の若き学徒だけではありません。年輩の社会人もいますし,最近は留学生も増えています。
文科省統計では,大学院入学者を,伝統的学生,社会人,留学生という3つの群に分けて拾えます。伝統的学生とは,学部から修士,修士から博士へとストレートに進学する人たちです。入学者の合計から,社会人と入学者を差し引いて出せます。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011528
この3つの群に分けて,入学者の変化を観察すると,下表のようになります。
この15年間で,修士入学者は2.1%,博士入学者は18.3%も減りました。しかるに,大きく減っているのはストレートの伝統的進学群です。博士課程では,修士からのストレート進学組は,ほぼ半減しました。
その一方で,修士では留学生,博士では社会人がうんと増えています。社会人の博士課程入学者は,3952人から6374人に増え,今年春では伝統的学生よりも多くなっています。今となっては,博士入学者のマジョリティは社会人です。
大学院博士課程も,社会人のリカレント教育の場になりつつあるようですね。結構なことです。ところで,大学院は設置主体で国立,公立,私立に分かれますが,上記と同じデータをこの3群に分けて出すと,興味深い事実が分かります。
社会人が大きく増えている博士課程に注目しましょう。今年の速報データでは,設置主体別のデータはまだとれませんので,昨年春の入学者数をみてみます。
伝統的学生が減り,社会人が増えているのは国公私立共通ですが,その傾向は公立で顕著です。修士からのストレートの伝統群は6割も減り,代わって社会人入学者が186人から589人と,3倍以上に増えています。
その結果,入学者の内訳も様変わりしています。下図は,3つのグループの構成変化を帯グラフで表したものです。
変化が最もドラスティックなのは公立大学の博士課程で,社会人の割合は2003年では16.3%でしたが,昨年春では6割も占めるに至っています。国私立でも,社会人の比重が増していることに注目です。
地域と密着している公立大学は,住民のニーズを反映する度合いが高い,ということだと思われます。リカレント教育の先端を行っているのは,公立大学なんですね。何となくそうだろうなと思ってましたが,データで浮き彫りにできました。
『学校基本調査』では今年から,大学学部入学者の年齢も集計しています。ツイッターで発信しましたが,77%は18歳で,25歳以上は0.58%,30歳以上となると0.18%しかいません。
https://twitter.com/tmaita77/status/1032530831783260161
ただ,公立大学に限ると違うかもしれませんね。速報集計では,国公私別のデータは見れませんが,12月に公表される確報集計結果を楽しみに待ちましょう。
現在は,生涯学習社会。ニューズウィークの記事で,大学入学者の将来予測を出しましたが,やせ細る18歳人口を奪い合うことに躍起になる大学は,淘汰されるしかありません。少子高齢化という人口変動と同時に,社会変化の加速化という要因も,リカレント教育の普及を強く求めています。子ども期に学校で習ったことなど,すぐに陳腐化しちゃうのですから。
文科省統計で,大学院だけでなく,大学学部入学者の年齢も集計されるようになったことは,「未来形」のすがたに変身することを大学に促す姿勢の表れととれ,うれしく思います。
今から10年後,社会人,高齢者,外国人など,多様な学生でキャンパスが溢れかえっているといいなと思います。
2018年8月20日月曜日
女性の自殺率の国際比較
日本女性学習財団の機関紙『ウィラーン』で連載を持たせていただいています。「学びのスイッチ・データをジェンダーの視点で読み解く」というものです。
http://www.jawe2011.jp/welearn
一般販売のほか,省庁や男女共同参画の実践に取り組む団体等に配布される情報誌です。幅広い読者層ゆえか。私が書いた記事について,個別に問い合わせが来ることがあります。先月の上旬に次のようなメールがきました。
日本の女性は,大変な思いをしていると思う。女性の「生きづらさ」を可視化するデータはないか?
うーん,直球できましたね。生きづらさの指標というなら,世論調査等で分かる生活不満率や不幸率とかを思いつきますが,そういう口先の表明よりも,実際の行動の指標のほうがいいでしょう。ズバリ,自殺率です。「生きづらい」という思いを極限の行動に移した者の出現率です。
自殺率は何回も取り上げてきましたが,ジェンダーの分析は手薄だったように思います。日本の女性の生きづらさの可視化,というリクエストですので,国際比較という視点を据えましょう。
自殺率(suicide rate)とは,ある年の自殺者数が,国民10万人あたりでみて何人か,という指標です。便利になったもので,OECDの統計ポータルサイトにて,国別の計算済みの数値を呼び出すことができます。
https://stats.oecd.org/
言わずもがな,自殺率は国民の年齢構成の影響を受けます。自殺率は高齢者で高いので,粗自殺率だと,日本のように高齢化が進んだ国で自殺率は高く出ちゃいます。これはフェアではないということで,年齢調整済の自殺率(standardised rates)も得ることができます。こちらを使いましょう。以下,単に自殺率といいます。
41か国(OECD加盟36,非加盟5)のデータが出ていますが,最近の年ではデータ欠落の国が多いので,全ての国のデータが得られる2013年のデータを使います。男女の自殺率を高い順に並べたランキング表を見ていただきましょう。主要7国には色をつけました。
日本の自殺率は,男性が27.2,女性が10.6です。どの社会もそうですが,女性の自殺率は男性よりも低くなっています。
41国の中での順位はというと,男性は9位なのに対し女性は3位です。色付きの7国でみると,男女の相対順位のギャップは,スウェーデンに次いで大きくなっています。国民全体の自殺率が注目されがちですが,女性の自殺率に限ると日本は上位なんですね。先の質問者が言うように,他国に比して日本の女性は「生きづらい」のかもしれません。
それは,男性の自殺率との対比からも知られます。ある方がツイッターで,男性の自殺率を1.0としたとき女性の自殺率はいくらか,という数値を計算されてました。「女性/男性」の割り算です。それによると,日本は主要国では高いほうです。
https://twitter.com/nekoacademy0/status/1030826249910771712
上記の表から,この対男性比を計算すると,10.6/27.2=0.390となります。日本の女性の自殺率は,男性の約4割。海を隔てた大国アメリカは,5.7/21.1=0.270。日本のほうが高くなっています。
この2つをとった座標上に,上表の41か国を配置したグラフにしてみました。女性の自殺率の水準,および対男性比という,2つの基準からした評価です。
日本は右上にあり,横軸・縦軸とも,平均値(点線)を上回っています。この布置図で見る限り,日本は,女性が生きづらい社会の部類といえそうです。
右下には南米や中東の国々がありますが,これらの国の女性が安泰というのでは決してありません。客観的にみれば,女性は抑圧され,性犯罪の発生率もべらぼうに高いのですが,文化的・宗教的要因により,それを空気のように受け入れさせられている面があります。
自殺率のジェンダーの国際比較をやってみましたが,日本の「よろしくない」現状が露わになってしまいました。
日本は,女性が生きづらい社会。肌感覚でも頷けます。女性の睡眠時間,男性の家事・育児分担率はワーストで,女性に重い負担がかかっています。また,医科大学の入試で女子の点数操作がのうのうとやってのけられる国です。先ほど性犯罪の話が出ましたが,伊藤詩織さんの事件を引くまでもなく,性犯罪の隠蔽(暗数)も非常に多いと思われます。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/post-7673.php
女性の「生きづらさ」を傍証する材料は,数多くあります。フィーリングでそれらを列挙するのは容易いですが,自殺率の国際比較というデータを添えると,説得力が増しますね。
ここでは女性全体の自殺率を観察しましたが,期待される役割は年齢によって違います。育児・介護の負担がのしかかる壮年層でみたら,日本が首位だったりして。年齢別の自殺率はWHOのデータベースから出せます。面白い知見が出ましたら,報告します。
http://www.jawe2011.jp/welearn
一般販売のほか,省庁や男女共同参画の実践に取り組む団体等に配布される情報誌です。幅広い読者層ゆえか。私が書いた記事について,個別に問い合わせが来ることがあります。先月の上旬に次のようなメールがきました。
日本の女性は,大変な思いをしていると思う。女性の「生きづらさ」を可視化するデータはないか?
うーん,直球できましたね。生きづらさの指標というなら,世論調査等で分かる生活不満率や不幸率とかを思いつきますが,そういう口先の表明よりも,実際の行動の指標のほうがいいでしょう。ズバリ,自殺率です。「生きづらい」という思いを極限の行動に移した者の出現率です。
自殺率は何回も取り上げてきましたが,ジェンダーの分析は手薄だったように思います。日本の女性の生きづらさの可視化,というリクエストですので,国際比較という視点を据えましょう。
自殺率(suicide rate)とは,ある年の自殺者数が,国民10万人あたりでみて何人か,という指標です。便利になったもので,OECDの統計ポータルサイトにて,国別の計算済みの数値を呼び出すことができます。
https://stats.oecd.org/
言わずもがな,自殺率は国民の年齢構成の影響を受けます。自殺率は高齢者で高いので,粗自殺率だと,日本のように高齢化が進んだ国で自殺率は高く出ちゃいます。これはフェアではないということで,年齢調整済の自殺率(standardised rates)も得ることができます。こちらを使いましょう。以下,単に自殺率といいます。
41か国(OECD加盟36,非加盟5)のデータが出ていますが,最近の年ではデータ欠落の国が多いので,全ての国のデータが得られる2013年のデータを使います。男女の自殺率を高い順に並べたランキング表を見ていただきましょう。主要7国には色をつけました。
日本の自殺率は,男性が27.2,女性が10.6です。どの社会もそうですが,女性の自殺率は男性よりも低くなっています。
41国の中での順位はというと,男性は9位なのに対し女性は3位です。色付きの7国でみると,男女の相対順位のギャップは,スウェーデンに次いで大きくなっています。国民全体の自殺率が注目されがちですが,女性の自殺率に限ると日本は上位なんですね。先の質問者が言うように,他国に比して日本の女性は「生きづらい」のかもしれません。
それは,男性の自殺率との対比からも知られます。ある方がツイッターで,男性の自殺率を1.0としたとき女性の自殺率はいくらか,という数値を計算されてました。「女性/男性」の割り算です。それによると,日本は主要国では高いほうです。
https://twitter.com/nekoacademy0/status/1030826249910771712
上記の表から,この対男性比を計算すると,10.6/27.2=0.390となります。日本の女性の自殺率は,男性の約4割。海を隔てた大国アメリカは,5.7/21.1=0.270。日本のほうが高くなっています。
この2つをとった座標上に,上表の41か国を配置したグラフにしてみました。女性の自殺率の水準,および対男性比という,2つの基準からした評価です。
日本は右上にあり,横軸・縦軸とも,平均値(点線)を上回っています。この布置図で見る限り,日本は,女性が生きづらい社会の部類といえそうです。
右下には南米や中東の国々がありますが,これらの国の女性が安泰というのでは決してありません。客観的にみれば,女性は抑圧され,性犯罪の発生率もべらぼうに高いのですが,文化的・宗教的要因により,それを空気のように受け入れさせられている面があります。
自殺率のジェンダーの国際比較をやってみましたが,日本の「よろしくない」現状が露わになってしまいました。
日本は,女性が生きづらい社会。肌感覚でも頷けます。女性の睡眠時間,男性の家事・育児分担率はワーストで,女性に重い負担がかかっています。また,医科大学の入試で女子の点数操作がのうのうとやってのけられる国です。先ほど性犯罪の話が出ましたが,伊藤詩織さんの事件を引くまでもなく,性犯罪の隠蔽(暗数)も非常に多いと思われます。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/05/post-7673.php
女性の「生きづらさ」を傍証する材料は,数多くあります。フィーリングでそれらを列挙するのは容易いですが,自殺率の国際比較というデータを添えると,説得力が増しますね。
ここでは女性全体の自殺率を観察しましたが,期待される役割は年齢によって違います。育児・介護の負担がのしかかる壮年層でみたら,日本が首位だったりして。年齢別の自殺率はWHOのデータベースから出せます。面白い知見が出ましたら,報告します。
2018年8月17日金曜日
熱中症の死亡者数
先月末から酷暑が続きましたが,ちょっとだけ和らいできました。今日はカラッとして,幾分かは過ごしやすいです。
残念なことに,今年も熱中症による死者が続出しました。大阪では,幼い小1男児が命を落としました。灼熱下の校外学習で,乏しい語彙で体の異変を必死に訴えたそうですが,適切な対応がとられませんでした。
熱中症の死者数が連日ニュースで報じられますが,それは消防庁のものです。しかるに,死亡統計の本元は厚労省の『人口動態統計』なり。性別・年齢層別,さらには地域別といった属性別の数値も得られます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
はて,『人口動態統計』で熱中症の死亡者数を拾う場合,どの死因カテゴリーに注目すればいいのか。前から疑問に思っていたのですが,いろいろ探査した結果,「自然の過度の高温への曝露」という死因に該当するようです。細かい死因小分類のコードは「X30」です。
ネットでは,1999~2016年までのバックナンバーを閲覧できます。両端の年の「自然の過度の高温への曝露」による死亡者数を拾うと,1999年が206人,2016年が621人です。今世紀以降の日本では,熱中症による死者が3倍以上に増えています。
7月半ばから9月半ばの60日間で割ると,1日あたり10人が熱中症で命を落としている計算になります。
これは国民全体の死者数ですが,本家の厚労省統計のウリは,細かい属性別の数が分かることです。原資料では,性別・年齢層別(5歳刻み)の統計表が出ています。1999年と2016年の死者数の年齢カーブは,以下のようです。
高齢層の熱中症死亡者が増えています。ピークは両年とも80代後半ですが,1999年が34人だったのに対し,2016年は112人です。
0~4歳の乳幼児は,1999年の方が多いのですが,確かこの年,パチンコにのめり込んだ保護者が,クルマに放置した子どもを死なせる事件が続発したんじゃなかったでしたっけ。
それはさておき,熱中症の死者が大幅に増えているのは事実で,増分の多くは高齢者です。しかし人口の高齢化が進んでいるので,高齢の死者が増えているのは当然ではないか,という疑問もあるでしょう。
では,ベース人口で割った死亡率を出してみましょうか。65歳以上の熱中症死亡者は,1999年が123人,2016年が492人です。これを同年の65歳以上人口(10月時点,日本人)で割ると,以下のようになります。10万人あたりの死者数です。
1999年: 123人/2112万人=0.58人
2016年: 492人/3445万人=1.43人
人口変化を考慮した死亡率でも,高齢者の熱中症死亡率は上がっています。2.5倍の増です。リスクは高まっているとみてよいでしょう。
一昔前と今では,夏の暑さが違う。このことは,気象庁の温度データでも実証されています。先ほど1999年のデータに触れましたが,私はこの年,エアコンなしのアパートに住んでいました。扇風機をガンガン回してしのぎましたが,今なら絶対耐えられないでしょう。
「生活保護世帯にエアコン代を支給する謂れはない」などと言っている場合ではありません。この夏,電気代滞納で冷房を使えなかった,保護受給中の60代女性が熱中症で死亡する事故が起きています(札幌)。
お隣の韓国では,「冷房は基本的な福祉」という考え方のもと,電気代を値下げする決断を大統領がしたそうですが,それに追随したいものです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15126434/
今年の夏の暑さはピークを越えたようですが,これからどんどんレベルアップしていくのかと思うと,気が滅入ります。憲法が規定する「健康で文化的な最低限度の生活」の中身は,時代によって変わるのです。時代変化と制度変化の間に一定のラグが出るのは不可避ですが,猶予を許さない問題もあります。酷暑という気象条件は,人間の生命にも関わるのですから。
残念なことに,今年も熱中症による死者が続出しました。大阪では,幼い小1男児が命を落としました。灼熱下の校外学習で,乏しい語彙で体の異変を必死に訴えたそうですが,適切な対応がとられませんでした。
熱中症の死者数が連日ニュースで報じられますが,それは消防庁のものです。しかるに,死亡統計の本元は厚労省の『人口動態統計』なり。性別・年齢層別,さらには地域別といった属性別の数値も得られます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
はて,『人口動態統計』で熱中症の死亡者数を拾う場合,どの死因カテゴリーに注目すればいいのか。前から疑問に思っていたのですが,いろいろ探査した結果,「自然の過度の高温への曝露」という死因に該当するようです。細かい死因小分類のコードは「X30」です。
ネットでは,1999~2016年までのバックナンバーを閲覧できます。両端の年の「自然の過度の高温への曝露」による死亡者数を拾うと,1999年が206人,2016年が621人です。今世紀以降の日本では,熱中症による死者が3倍以上に増えています。
7月半ばから9月半ばの60日間で割ると,1日あたり10人が熱中症で命を落としている計算になります。
これは国民全体の死者数ですが,本家の厚労省統計のウリは,細かい属性別の数が分かることです。原資料では,性別・年齢層別(5歳刻み)の統計表が出ています。1999年と2016年の死者数の年齢カーブは,以下のようです。
高齢層の熱中症死亡者が増えています。ピークは両年とも80代後半ですが,1999年が34人だったのに対し,2016年は112人です。
0~4歳の乳幼児は,1999年の方が多いのですが,確かこの年,パチンコにのめり込んだ保護者が,クルマに放置した子どもを死なせる事件が続発したんじゃなかったでしたっけ。
それはさておき,熱中症の死者が大幅に増えているのは事実で,増分の多くは高齢者です。しかし人口の高齢化が進んでいるので,高齢の死者が増えているのは当然ではないか,という疑問もあるでしょう。
では,ベース人口で割った死亡率を出してみましょうか。65歳以上の熱中症死亡者は,1999年が123人,2016年が492人です。これを同年の65歳以上人口(10月時点,日本人)で割ると,以下のようになります。10万人あたりの死者数です。
1999年: 123人/2112万人=0.58人
2016年: 492人/3445万人=1.43人
人口変化を考慮した死亡率でも,高齢者の熱中症死亡率は上がっています。2.5倍の増です。リスクは高まっているとみてよいでしょう。
一昔前と今では,夏の暑さが違う。このことは,気象庁の温度データでも実証されています。先ほど1999年のデータに触れましたが,私はこの年,エアコンなしのアパートに住んでいました。扇風機をガンガン回してしのぎましたが,今なら絶対耐えられないでしょう。
「生活保護世帯にエアコン代を支給する謂れはない」などと言っている場合ではありません。この夏,電気代滞納で冷房を使えなかった,保護受給中の60代女性が熱中症で死亡する事故が起きています(札幌)。
お隣の韓国では,「冷房は基本的な福祉」という考え方のもと,電気代を値下げする決断を大統領がしたそうですが,それに追随したいものです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15126434/
今年の夏の暑さはピークを越えたようですが,これからどんどんレベルアップしていくのかと思うと,気が滅入ります。憲法が規定する「健康で文化的な最低限度の生活」の中身は,時代によって変わるのです。時代変化と制度変化の間に一定のラグが出るのは不可避ですが,猶予を許さない問題もあります。酷暑という気象条件は,人間の生命にも関わるのですから。
2018年8月15日水曜日
生まれ月による学力差
盆休みも今日でおしまいですが,休暇はいかがでしたでしょうか。私は普段と全く変わらず,午前中は食い扶持仕事(ライスワーク)をし,午後からは好きなこと(ライフワーク)をしています。ブログ書きは,その一つです。
昨日の東洋経済オンラインにて,「4月生まれ有利,3月生まれ不利は本当か-生まれ月格差に注意」という記事が出ています。筆者は,教育経済学者の中室牧子氏です。
https://toyokeizai.net/articles/-/233182
日本の学校は,生まれた年度で区切る学年制ですが,教室の中には,4月生まれから翌年の3月生まれの子が混在しています。両端では1年の差があるのですが,これは結構デカイ。小さい子の場合は,なおさらです。
同時期に同基準のテストをした場合,心身の発育量による差が出てもおかしくありません。実際そうであることは,多くの人が経験で知っています。
上記の記事で中室氏は,国際学力調査の「TIMSS」を引き合いに出しています。IEAが4年間隔で実施している数学・理科の学力調査で,対象の児童・生徒(小4,中2)に対し,生まれた月も訊いています。
このデータを使えば,生まれ月別の学力平均点を出すことができます。下記サイトのリモート集計を使って,小4の算数・理科,中2の数学・理科の平均点を,生まれ月別に呼出てみました。また,高得点層(625点以上)の比率も出してみました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
あいにく粗い整数値しか出せませんが,結果の一覧表を示すと以下のようになります。黄色は1~12月生まれの中の最高値,青色は最低値です。
小4をみると,平均点・高得点率とも,4月生まれがマックスです。最も低いのは,2~3月の早生まれの群となっています。中2でみても,青色は早生まれのゾーンにあります。
早生まれは不利というのは,データでも言えそうですね。発達段階が低い小4児童では,それがよりクリアーで,中室氏の記事タイトルにある「4月生まれ有利,3月生まれ不利」という傾向がみられます。
関連する他の要因を統制しないといけませんが,4月生まれに富裕層,3月生まれに貧困層が多い,というのは考えにくいですので,社会階層のファクターは除かれているとみていいでしょう。
同じ教室で机を並べていても,生まれ月の差(最大1年)の影響はあるようですね。上記は学力テストの結果ですが,体力では生まれ月効果がもっと出るのではないでしょうか。小さい子の場合,身体の発育量に1年もの差があるのは大きい。スポーツ選手に,4~5月生まれが多いというのも,よく耳にする話。
しかし小学生ならいざ知らず,中学生まで,早生まれの不利が引きずられるのですね。思うに,「自分はダメだ」という否定的な自我が作られるからではないでしょうか。自分ではがんばっているつもりでも,(生まれ月という如何ともし難い要因で)人並みの結果を出せない。こういうことが積み重なると,「できないもん」が口癖になるでしょう。
教師,とりわけ低学年の担当教師は,教室の中に,身体の条件が大きく異なる子どもが混在していることに思いを馳せるべきでしょう。親の側は,「生まれが遅いのだから仕方がない面もある」ということを,意図的に当人に伝えるのもいいかもしれません。それをいいことに,怠け癖が付かない程度にです。「なぜできないのだ」と,叱るばかりというのは論外です。
4年生くらいまで,毎年度の初めに誕生日を記録するという先生がおられますが,すばらしいことだと思います。
昨日の東洋経済オンラインにて,「4月生まれ有利,3月生まれ不利は本当か-生まれ月格差に注意」という記事が出ています。筆者は,教育経済学者の中室牧子氏です。
https://toyokeizai.net/articles/-/233182
日本の学校は,生まれた年度で区切る学年制ですが,教室の中には,4月生まれから翌年の3月生まれの子が混在しています。両端では1年の差があるのですが,これは結構デカイ。小さい子の場合は,なおさらです。
同時期に同基準のテストをした場合,心身の発育量による差が出てもおかしくありません。実際そうであることは,多くの人が経験で知っています。
上記の記事で中室氏は,国際学力調査の「TIMSS」を引き合いに出しています。IEAが4年間隔で実施している数学・理科の学力調査で,対象の児童・生徒(小4,中2)に対し,生まれた月も訊いています。
このデータを使えば,生まれ月別の学力平均点を出すことができます。下記サイトのリモート集計を使って,小4の算数・理科,中2の数学・理科の平均点を,生まれ月別に呼出てみました。また,高得点層(625点以上)の比率も出してみました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/
あいにく粗い整数値しか出せませんが,結果の一覧表を示すと以下のようになります。黄色は1~12月生まれの中の最高値,青色は最低値です。
小4をみると,平均点・高得点率とも,4月生まれがマックスです。最も低いのは,2~3月の早生まれの群となっています。中2でみても,青色は早生まれのゾーンにあります。
早生まれは不利というのは,データでも言えそうですね。発達段階が低い小4児童では,それがよりクリアーで,中室氏の記事タイトルにある「4月生まれ有利,3月生まれ不利」という傾向がみられます。
関連する他の要因を統制しないといけませんが,4月生まれに富裕層,3月生まれに貧困層が多い,というのは考えにくいですので,社会階層のファクターは除かれているとみていいでしょう。
同じ教室で机を並べていても,生まれ月の差(最大1年)の影響はあるようですね。上記は学力テストの結果ですが,体力では生まれ月効果がもっと出るのではないでしょうか。小さい子の場合,身体の発育量に1年もの差があるのは大きい。スポーツ選手に,4~5月生まれが多いというのも,よく耳にする話。
しかし小学生ならいざ知らず,中学生まで,早生まれの不利が引きずられるのですね。思うに,「自分はダメだ」という否定的な自我が作られるからではないでしょうか。自分ではがんばっているつもりでも,(生まれ月という如何ともし難い要因で)人並みの結果を出せない。こういうことが積み重なると,「できないもん」が口癖になるでしょう。
教師,とりわけ低学年の担当教師は,教室の中に,身体の条件が大きく異なる子どもが混在していることに思いを馳せるべきでしょう。親の側は,「生まれが遅いのだから仕方がない面もある」ということを,意図的に当人に伝えるのもいいかもしれません。それをいいことに,怠け癖が付かない程度にです。「なぜできないのだ」と,叱るばかりというのは論外です。
4年生くらいまで,毎年度の初めに誕生日を記録するという先生がおられますが,すばらしいことだと思います。
2018年8月13日月曜日
政令市の貧困と学力の相関
「学テの結果を教員給与に反映させることを検討する」。今年の『全国学力・学習状況調査』の結果が最下位だったことを憤った,大阪市長の発言です。
公立学校については,都道府県別・政令市別の結果も公表されています。はて,大阪市長がブチ切れたという政令市の結果とは,どういうものなのでしょう。
最近は,地域間の競争を煽るという懸念から,地域別の公表数値はラフな整数値となっています。これでは心もとないので,各政令市の度数分布表に当たって,平均正答問題数を計算しました。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/factsheet/18prefecture-City/
たとえば札幌市だと,公立小6児童(1万4380人)の国語Aの正答数分布は,以下のようになっています。全問(12問)正答のパーフェクトは1643人,12問中11問正答は2293人…です。
これをもとに,正答できた問題数の平均値(average)を計算できます。上記の例だと8.56問です。札幌市の小6児童の国語Aの平均正答問題数は,12問中8.56問であると。これをもって,結果の指標とすることにしましょう。
20政令市の5科目(国語A,国語B,算数A,算数B,理科)について,同じやり方にて,平均正答問題数を算出しました。Aは主に知識,Bは主に応用力を問う科目です。
黄色は最高値,青色は最低値です。地域差は微々たるものですが,大阪市は5科目全てで最低となっています。
これをもって,大阪市の教員は力量不足だ,自覚が足りない,と言いたいのかもしれませんが,子どもの学力と関連するのは「教師力」だけではありません。教育社会学ではだいぶ前から,貧困と学力の相関関係について繰り返し明らかにされており,近年,それにスポットが当てられるようになってきました。
上記の20政令市について,貧困の指標をいくつか揃えてみましょう。まずは,生活保護受給者率です。人口千人につき,保護を受けている人が何人か。厚労省の『被保護者調査』(2016年度)に,計算済みの数値が出ています(月平均)。ただ保護受給者の多くは高齢者や外国人と思われますので,子どもの生活保護受給者率も出してみます。2015年度の同資料に出ている,20歳未満の被保護者数を,同年の『国勢調査』の20歳未満人口で割りました。
親世代の所得や学歴との関連もあるでしょう。そこで,世帯主が30~40代の世帯の平均世帯所得と,30~40代人口の大卒・大学院卒比率も出してみました。2017年の『就業構造基本調査』のデータから計算しました。
これら4つの貧困指標は,以下のようになります。生活保護受給率の単位は,%ではなく「‰」であることに留意ください。
大阪市は,保護受給者率が20政令市で最も高く,所得は逆に一番低くなっています。大卒率も真ん中より下。よく言われることですが,困難な条件があります。
これがネックになっている可能性があることを,グラフで示してみましょう。5科目のうち,成績の地域分散が最も大きいのは理科です。最初の表に掲げた理科の平均正答問題数と,上表の生活保護受給者率(全人口)の相関をとってみます。下図は,2指標のマトリクス上に20政令市を配置した相関図です。
生活保護率が最も高く,理科の結果が最低の大阪市は,右下の極にあります。20政令市の傾向でみても,2つの指標の間にはマイナスの相関関係が見受けられます。相関係数は-0.5847で,1%水準で有意です。
これは人口全体の生活保護率と理科学力の相関ですが,上記で示した5科目の平均正答問題数と,4つの貧困指標の相関を軒並みとってみました。5×4=20の相関図を掲げるのは煩瑣ですので,算出された相関係数をお見せしましょう。
赤字は5%水準,ゴチ赤字は1%水準で有意であることを意味します。
黄色マークは,当該科目の成績と最も強く相関している貧困指標です。国語A,国語B,理科の結果と一番強く相関しているは,全人口の生活保護率です。
子どもに限った生活保護率よりも,人口全体のそれのほうが,学力と強く関連するようですね。子どもが過ごす地域全体に漂うクライメイトの効果でしょう。
算数の結果は,親世代の所得や高学歴率と強く相関しています。算数Bと高学歴率の相関係数は,+0.6を超えます。算数の場合,塾通いや参考書購入等の費用負担能力が,他の科目にも増して効くと思われます。さもありなんです。
これをもって言いたいのは,子どもの学力は社会的規定を被る,学テの結果の全てを「教師力」に還元するのは筋違いだ,ということです。8月6日の記事で述べたことを繰り返しますが,行政が為すべきは,不利な条件の地域・学校への支援を強化することです。首長がこういう立場をとっており,一定の成功を収めているのが,東京都の足立区です。
公立学校については,都道府県別・政令市別の結果も公表されています。はて,大阪市長がブチ切れたという政令市の結果とは,どういうものなのでしょう。
最近は,地域間の競争を煽るという懸念から,地域別の公表数値はラフな整数値となっています。これでは心もとないので,各政令市の度数分布表に当たって,平均正答問題数を計算しました。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/factsheet/18prefecture-City/
たとえば札幌市だと,公立小6児童(1万4380人)の国語Aの正答数分布は,以下のようになっています。全問(12問)正答のパーフェクトは1643人,12問中11問正答は2293人…です。
これをもとに,正答できた問題数の平均値(average)を計算できます。上記の例だと8.56問です。札幌市の小6児童の国語Aの平均正答問題数は,12問中8.56問であると。これをもって,結果の指標とすることにしましょう。
20政令市の5科目(国語A,国語B,算数A,算数B,理科)について,同じやり方にて,平均正答問題数を算出しました。Aは主に知識,Bは主に応用力を問う科目です。
黄色は最高値,青色は最低値です。地域差は微々たるものですが,大阪市は5科目全てで最低となっています。
これをもって,大阪市の教員は力量不足だ,自覚が足りない,と言いたいのかもしれませんが,子どもの学力と関連するのは「教師力」だけではありません。教育社会学ではだいぶ前から,貧困と学力の相関関係について繰り返し明らかにされており,近年,それにスポットが当てられるようになってきました。
上記の20政令市について,貧困の指標をいくつか揃えてみましょう。まずは,生活保護受給者率です。人口千人につき,保護を受けている人が何人か。厚労省の『被保護者調査』(2016年度)に,計算済みの数値が出ています(月平均)。ただ保護受給者の多くは高齢者や外国人と思われますので,子どもの生活保護受給者率も出してみます。2015年度の同資料に出ている,20歳未満の被保護者数を,同年の『国勢調査』の20歳未満人口で割りました。
親世代の所得や学歴との関連もあるでしょう。そこで,世帯主が30~40代の世帯の平均世帯所得と,30~40代人口の大卒・大学院卒比率も出してみました。2017年の『就業構造基本調査』のデータから計算しました。
これら4つの貧困指標は,以下のようになります。生活保護受給率の単位は,%ではなく「‰」であることに留意ください。
大阪市は,保護受給者率が20政令市で最も高く,所得は逆に一番低くなっています。大卒率も真ん中より下。よく言われることですが,困難な条件があります。
これがネックになっている可能性があることを,グラフで示してみましょう。5科目のうち,成績の地域分散が最も大きいのは理科です。最初の表に掲げた理科の平均正答問題数と,上表の生活保護受給者率(全人口)の相関をとってみます。下図は,2指標のマトリクス上に20政令市を配置した相関図です。
生活保護率が最も高く,理科の結果が最低の大阪市は,右下の極にあります。20政令市の傾向でみても,2つの指標の間にはマイナスの相関関係が見受けられます。相関係数は-0.5847で,1%水準で有意です。
これは人口全体の生活保護率と理科学力の相関ですが,上記で示した5科目の平均正答問題数と,4つの貧困指標の相関を軒並みとってみました。5×4=20の相関図を掲げるのは煩瑣ですので,算出された相関係数をお見せしましょう。
赤字は5%水準,ゴチ赤字は1%水準で有意であることを意味します。
黄色マークは,当該科目の成績と最も強く相関している貧困指標です。国語A,国語B,理科の結果と一番強く相関しているは,全人口の生活保護率です。
子どもに限った生活保護率よりも,人口全体のそれのほうが,学力と強く関連するようですね。子どもが過ごす地域全体に漂うクライメイトの効果でしょう。
算数の結果は,親世代の所得や高学歴率と強く相関しています。算数Bと高学歴率の相関係数は,+0.6を超えます。算数の場合,塾通いや参考書購入等の費用負担能力が,他の科目にも増して効くと思われます。さもありなんです。
これをもって言いたいのは,子どもの学力は社会的規定を被る,学テの結果の全てを「教師力」に還元するのは筋違いだ,ということです。8月6日の記事で述べたことを繰り返しますが,行政が為すべきは,不利な条件の地域・学校への支援を強化することです。首長がこういう立場をとっており,一定の成功を収めているのが,東京都の足立区です。
2018年8月10日金曜日
大学別の医学部医学科入学者の女子比
台風がきてちょっと涼しくなったかと思いきや,暑さがぶり返しています。いかがお過ごしでしょうか。今週もおしまい,来週は盆休みで,帰省される方も多いかと思います。くれぐれもお気をつけて。
さて,東京医大の入試不正を受け,文科省は,全国の81大学の医学部医学科の調査に乗り出すそうです。同じような不正をしている大学がないとも限らない,膿を出し切ろう,という意図なのでしょう。男子より女子の合格率(合格者/受験者)が低い場合,説明を求めるとのこと。
https://www.asahi.com/articles/ASL8B3DQWL8BUTIL00R.html
結構なことですが,既存の資料をもとに,「?」がつく大学を割り出すこともできます。医学部医学科入学者の女子比率を,大学別に出すことによってです。
私の手元に,旺文社の『大学の真の実力・2018年度用』という資料があります。2017年春の入学者の詳細データが,各大学の学部別に載っているスグレモノです。私はこれを使って,医学部医学科の入学者の女子比を,大学別に計算してみました。
https://www.obunsha.co.jp/product/detail/051009
郷里・鹿児島の鹿児島大学でいうと,昨年春の医学部医学科入学者は107人で,そのうち女子は36人となっています。比率にすると33.6%,ちょうど3人に1人です。
他の大学はどうでしょう。81大学の医学部医学科の女子入学性比率を出してみました。以下に,一覧表を掲げます。国立42,公立8,私立31大学のデータです。東大と慶大は,女子入学者数が非公表のようですので,女子比率の欄はペンディングにしています。
どうでしょう。79大学の医学医学科の女子入学者比率の平均値は,35.3%です。お医者さんの卵の3人に1人が女子,というのがアベレージです。
しかるに,個々の大学ごとにみると幅があります。最低は東北大学の16.4%で,50%(半分)を超えるのは弘前大学と東京女子医科大学です。後者は女子大だから当然ですが,弘前大学はスゴイですね。
上記の原表のデータを,5%階級の度数分布の形に整理すると,以下のようになります。
30%台前半に山があるノーマル分布ですが,上もあれば下もあり。気になるのは後者で,女子比率が25%に満たない大学が11校,20%に満たない大学が5校あります。20%未満の大学は,すべて国立大学です(北から東北大,金沢大,山梨大,京都大,九州大)。
はて,どういう理由によるのか。そもそも女子の受験者が少ないといった,自然の摂理によるのか。しからば,受験者と入学者の性別構成が近似しないといけない,言い換えれば合格率の性差がないはずですが,現実はどうでしょう。
上記の一覧表の赤字は,入学者の女子比率が25%未満の大学ですが,一番上の北海道大学は,入試の詳細データをHPで公開しています。男女の受験者が何人,合格者が何人かです。2014年度から2018年度入試の時系列データも出ています。
https://www.hokudai.ac.jp/admission/exam/post.html
私は受験者数と合格者数を採取し,後者を前者で割った合格率を男女別に出してみました。下表は,その結果です。
過去5年間の入試の記録ですが,どの年度でも女子の合格率は男子より低くなっています。今年春の入試では,男子35%,女子20%と,15ポイントも差が開いています。
女子は理系教科が得意でないといった,能力の差によるのか。この点について,文科省から説明を求められることになるでしょう。男女の点数一覧表を見せればいいだけのことですが,問題の東京医大では,女子の二次試験の点数に排除係数(0.8)をかけるという,操作が行われていました。
これは北大のデータですが,入学者の女子比が最も低い東北大学では,合格率は女子のほうが高くなっています。よって,女子の志願者そのものが少ない,というファクターが濃厚です(過去の年次では不明)。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/profile/about/06/about0602/
最初の表は,資料としてご覧いただければと存じます。「?」と思った大学については,HPに当たって,男女別の合格率を出してみてください(女子の数は非公表の大学も多いですが)。
81の大学を対象とした文科省の調査で,どういう結果が出るか見ものです。
さて,東京医大の入試不正を受け,文科省は,全国の81大学の医学部医学科の調査に乗り出すそうです。同じような不正をしている大学がないとも限らない,膿を出し切ろう,という意図なのでしょう。男子より女子の合格率(合格者/受験者)が低い場合,説明を求めるとのこと。
https://www.asahi.com/articles/ASL8B3DQWL8BUTIL00R.html
結構なことですが,既存の資料をもとに,「?」がつく大学を割り出すこともできます。医学部医学科入学者の女子比率を,大学別に出すことによってです。
私の手元に,旺文社の『大学の真の実力・2018年度用』という資料があります。2017年春の入学者の詳細データが,各大学の学部別に載っているスグレモノです。私はこれを使って,医学部医学科の入学者の女子比を,大学別に計算してみました。
https://www.obunsha.co.jp/product/detail/051009
郷里・鹿児島の鹿児島大学でいうと,昨年春の医学部医学科入学者は107人で,そのうち女子は36人となっています。比率にすると33.6%,ちょうど3人に1人です。
他の大学はどうでしょう。81大学の医学部医学科の女子入学性比率を出してみました。以下に,一覧表を掲げます。国立42,公立8,私立31大学のデータです。東大と慶大は,女子入学者数が非公表のようですので,女子比率の欄はペンディングにしています。
どうでしょう。79大学の医学医学科の女子入学者比率の平均値は,35.3%です。お医者さんの卵の3人に1人が女子,というのがアベレージです。
しかるに,個々の大学ごとにみると幅があります。最低は東北大学の16.4%で,50%(半分)を超えるのは弘前大学と東京女子医科大学です。後者は女子大だから当然ですが,弘前大学はスゴイですね。
上記の原表のデータを,5%階級の度数分布の形に整理すると,以下のようになります。
30%台前半に山があるノーマル分布ですが,上もあれば下もあり。気になるのは後者で,女子比率が25%に満たない大学が11校,20%に満たない大学が5校あります。20%未満の大学は,すべて国立大学です(北から東北大,金沢大,山梨大,京都大,九州大)。
はて,どういう理由によるのか。そもそも女子の受験者が少ないといった,自然の摂理によるのか。しからば,受験者と入学者の性別構成が近似しないといけない,言い換えれば合格率の性差がないはずですが,現実はどうでしょう。
上記の一覧表の赤字は,入学者の女子比率が25%未満の大学ですが,一番上の北海道大学は,入試の詳細データをHPで公開しています。男女の受験者が何人,合格者が何人かです。2014年度から2018年度入試の時系列データも出ています。
https://www.hokudai.ac.jp/admission/exam/post.html
私は受験者数と合格者数を採取し,後者を前者で割った合格率を男女別に出してみました。下表は,その結果です。
過去5年間の入試の記録ですが,どの年度でも女子の合格率は男子より低くなっています。今年春の入試では,男子35%,女子20%と,15ポイントも差が開いています。
女子は理系教科が得意でないといった,能力の差によるのか。この点について,文科省から説明を求められることになるでしょう。男女の点数一覧表を見せればいいだけのことですが,問題の東京医大では,女子の二次試験の点数に排除係数(0.8)をかけるという,操作が行われていました。
これは北大のデータですが,入学者の女子比が最も低い東北大学では,合格率は女子のほうが高くなっています。よって,女子の志願者そのものが少ない,というファクターが濃厚です(過去の年次では不明)。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/profile/about/06/about0602/
最初の表は,資料としてご覧いただければと存じます。「?」と思った大学については,HPに当たって,男女別の合格率を出してみてください(女子の数は非公表の大学も多いですが)。
81の大学を対象とした文科省の調査で,どういう結果が出るか見ものです。
2018年8月8日水曜日
専門職・指導者層の女性比
ブロゴスにて,「東京医科大の女性差別入試 主要国最悪の女性差別オンパレードの日本 VS 男女平等が成長の原動力の北欧」という記事が目にとまりました。筆者は,国家公務員一般労働組合の井上伸さんです。
http://blogos.com/article/315924/
「女性差別オンパレード」という強烈な文言が含まれていますが,そのデータを「これでもか」というくらい提示しています。専門職・指導者層の女性比率の国別ランキングで,その数10個なり。( )内は,最高と最低の国です。
・医師の女性比率(ラトビア74.2% ~ 日本21.0%)★
・研究者の女性比率(アイスランド45.6% ~ 日本15.3%)★
・高等教育の女性在学率(アメリカ99.6% ~ 日本60.9%)
・高等教育教員の女性比率(リトアニア56.1% ~ 日本26.8%)★
・国会議員の女性比率(アイスランド47.6% ~ 日本9.3%)★
・国家公務員の女性比率(ポーランド69.3% ~ 日本17.6%)★
・国家公務員・上級管理職の女性比率(ラトビア54.0% ~ 日本3.1%)
・国家公務員・中間管理職の女性比率(ラトビア65.8% ~ 日本3.0%)
・上場企業の取締役の女性比率(アイスランド44.0% ~ 韓国2.1%)★
・裁判官の女性比率(スロベニア78.0% ~ 日本20.0%)★
私は,この手のデータをいじりまくっているので驚きもしませんが,初めての人はぐうの音も出ないでしょう。
これをもって,男女の意志や能力の違いによると解釈する人は,頭がお花畑の人です。女子の入試点数を意図的に減点していた,東京医大の不正からも明らかなこと。
上記のグラフは,井上氏がOECDの原資料から取ってこられたもので,どれもインパクトがあります。これを10連発ですので,説得力抜群です。紙幅に制限のないブログは,こういうこともできていいですよね。
ただ紙幅に制限がある場合,それは難しい。依頼原稿の場合,「図表は*個まで」という制限が付されるのもしばしばです。また,結果を一つのグラフの中で一望したい,という欲求もあるでしょう。
私なら,タテの目盛り上に各国のドットを配置したグラフにします。上記で★をつけた7項目の国別データを,この方式でグラフ化すると,以下のようになります。
どうでしょう。複数の指標からみた,日本のお寒い状況が一望できます。一つ一つの細かい国名は分かりませんが,自分が注目したい国の位置を俯瞰するには,この図法がいいと思います。
図には50%のラインを引きましたが,医師の女性比率がこの線を超える国は結構あるじゃありませんか。32か国のうち10か国では,男性より女性の医師が多くなっています。
家庭の負担が大きい女性が,医師の職務を全うするのは困難。こういう諦めから,東京医大の点数操作を容認する声もあるようですが,現状を甘受していいものか。家庭の負担が大きいなら,それを取り除く(サポートする),ないしは男性も分担すればいいだけのこと。医師の女性比率の国際差は,その度合いの差に他なりません。
国際比較から,社会を変える余地は多分にあることが知られます。
http://blogos.com/article/315924/
「女性差別オンパレード」という強烈な文言が含まれていますが,そのデータを「これでもか」というくらい提示しています。専門職・指導者層の女性比率の国別ランキングで,その数10個なり。( )内は,最高と最低の国です。
・医師の女性比率(ラトビア74.2% ~ 日本21.0%)★
・研究者の女性比率(アイスランド45.6% ~ 日本15.3%)★
・高等教育の女性在学率(アメリカ99.6% ~ 日本60.9%)
・高等教育教員の女性比率(リトアニア56.1% ~ 日本26.8%)★
・国会議員の女性比率(アイスランド47.6% ~ 日本9.3%)★
・国家公務員の女性比率(ポーランド69.3% ~ 日本17.6%)★
・国家公務員・上級管理職の女性比率(ラトビア54.0% ~ 日本3.1%)
・国家公務員・中間管理職の女性比率(ラトビア65.8% ~ 日本3.0%)
・上場企業の取締役の女性比率(アイスランド44.0% ~ 韓国2.1%)★
・裁判官の女性比率(スロベニア78.0% ~ 日本20.0%)★
私は,この手のデータをいじりまくっているので驚きもしませんが,初めての人はぐうの音も出ないでしょう。
これをもって,男女の意志や能力の違いによると解釈する人は,頭がお花畑の人です。女子の入試点数を意図的に減点していた,東京医大の不正からも明らかなこと。
上記のグラフは,井上氏がOECDの原資料から取ってこられたもので,どれもインパクトがあります。これを10連発ですので,説得力抜群です。紙幅に制限のないブログは,こういうこともできていいですよね。
ただ紙幅に制限がある場合,それは難しい。依頼原稿の場合,「図表は*個まで」という制限が付されるのもしばしばです。また,結果を一つのグラフの中で一望したい,という欲求もあるでしょう。
私なら,タテの目盛り上に各国のドットを配置したグラフにします。上記で★をつけた7項目の国別データを,この方式でグラフ化すると,以下のようになります。
どうでしょう。複数の指標からみた,日本のお寒い状況が一望できます。一つ一つの細かい国名は分かりませんが,自分が注目したい国の位置を俯瞰するには,この図法がいいと思います。
図には50%のラインを引きましたが,医師の女性比率がこの線を超える国は結構あるじゃありませんか。32か国のうち10か国では,男性より女性の医師が多くなっています。
家庭の負担が大きい女性が,医師の職務を全うするのは困難。こういう諦めから,東京医大の点数操作を容認する声もあるようですが,現状を甘受していいものか。家庭の負担が大きいなら,それを取り除く(サポートする),ないしは男性も分担すればいいだけのこと。医師の女性比率の国際差は,その度合いの差に他なりません。
国際比較から,社会を変える余地は多分にあることが知られます。
2018年8月6日月曜日
学テの結果を教員給与に反映するなかれ
今年度の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。関係者は,自分の自治体の順位に一喜一憂していますが,過剰な反応をしている首長もいます。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html
大阪市の市長は,政令市の中で結果が最下位だったことを受け,学力テストの結果を教員給与に反映させることを検討する,と発表しました。
一言でいうと,一番やってはいけない使い方です。こういうことを言い出す人がいるから,当局も地域別の結果を出すのを渋り,教育社会学者の研究が阻害されるのだよなあと,ため息が出ます。
学テの結果は教員の力量を測る指標とみなされ,「学力=教師力」と発言した知事もいますが,現実はそう単純ではありません。教育社会学で繰り返し明らかにされているように,子どもの学力は,学校外の社会経済要因に強く規定されます。
昨年度の『全国学力・学習状況調査』では,2013年度に続き,保護者の調査も実施されましたが,家庭の社会経済背景(SES)と学力の間に相関関係が見出されています。SESが高い子どもほど学力が高い,という傾向です。
http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/kannren_chousa/hogosya_chousa.html
逆をとると,家庭背景に恵まれない層は結果が芳しくない,ということですが,大阪市にはこういう子どもが他地域に比して多くいます。それは,就学援助率の高さで知られます。2018年度の学テの学校調査をもとに,全国と大阪市の公立小の就学援助率の分布をグラフにすると,以下のようになります。全国は1万9378校,大阪市は289校のデータです。
大阪市では,就学援助を受けている児童の割合が高い学校が多くなっています。就学援助率が2割(5人に1人)を超える学校が半分以上です。市長は,政令市で結果が最下位だったことにキレているようですが,就学援助率は政令市の中でマックスではないでしょうか。
こういう条件があることからして,現場の教員だけを責めるというのは筋違いでしょう。
各地域の学テの結果が,地域の社会経済指標と非常に強く相関することを実証した,一葉のグラフをお見せしましょう。東京都は独自の学力調査を実施していますが,私は都教委に情報公開申請をし,都内の49区市の平均正答率を入手したことがあります。2013年度のデータです。これを,2010年の『国勢調査』から出した高学歴人口率と絡めてみました。高学歴人口率とは,15歳以上の学校卒業人口のうち,大学・大学院卒が何%かです。
横軸に高学歴率,縦軸に5年生の算数の平均正答率をとった座標上に,49区市を配置した相関図は以下です。日経DUALの記事で公表したものですが,ここに再掲します。
https://dual.nikkei.co.jp/article/092/99/
住民の大卒率が高い地域ほど,算数学力が高い傾向が明瞭です。相関係数は+0.9を超え,前者から後者をほぼ正確に予測できるレベルです。
私のこれまでの作品の中で,学力の社会的規定性を最もよく示すグラフだと思っています。これを見たら,「学テの結果を教員給与に反映する」などとやすやす言えまいと思うのですが,いかがでしょうか。
注目していただきたいのは,足立区の位置です。当区はSESが低い子どもが多いのですが,そういう条件から期待される水準よりは高い結果を出しています(回帰直線より上)。足立区では,結果が振るわない学校の人員や予算を増やすなど,全体の底上げが図られているためでしょう。行政の力で,社会的不平等が克服されていることの好例です。
https://twitter.com/mushioda/status/1025582796302036992
また学力調査の結果というのも,当該地域の社会経済特性を考慮した読み方をしたいものです。この基準からすれば,上記の足立区は「がんばっている」と評されるわけです。この点については,10年前に『教育社会学研究』という学会誌に載せた論文で主張しました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/130006906303
教員採用試験の教職教養では,教育社会学は出題されません。完全に「アウト・オブ・眼中」です。亡き恩師は,「現場の先生が『階層』なんていう言葉を使うようになったら困るからだろ」と言われていましたが,だとしたら悲しい。身も蓋もない言い方ですが,「階層」という変数を入れないと解けない問題もあります。
まあ,今回の大阪市長の表明に批判が噴出しているのは,近年の教育社会学の研究成果にスポットが当たっていることの証左でもあるとは思いますが。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html
大阪市の市長は,政令市の中で結果が最下位だったことを受け,学力テストの結果を教員給与に反映させることを検討する,と発表しました。
一言でいうと,一番やってはいけない使い方です。こういうことを言い出す人がいるから,当局も地域別の結果を出すのを渋り,教育社会学者の研究が阻害されるのだよなあと,ため息が出ます。
学テの結果は教員の力量を測る指標とみなされ,「学力=教師力」と発言した知事もいますが,現実はそう単純ではありません。教育社会学で繰り返し明らかにされているように,子どもの学力は,学校外の社会経済要因に強く規定されます。
昨年度の『全国学力・学習状況調査』では,2013年度に続き,保護者の調査も実施されましたが,家庭の社会経済背景(SES)と学力の間に相関関係が見出されています。SESが高い子どもほど学力が高い,という傾向です。
http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/kannren_chousa/hogosya_chousa.html
逆をとると,家庭背景に恵まれない層は結果が芳しくない,ということですが,大阪市にはこういう子どもが他地域に比して多くいます。それは,就学援助率の高さで知られます。2018年度の学テの学校調査をもとに,全国と大阪市の公立小の就学援助率の分布をグラフにすると,以下のようになります。全国は1万9378校,大阪市は289校のデータです。
大阪市では,就学援助を受けている児童の割合が高い学校が多くなっています。就学援助率が2割(5人に1人)を超える学校が半分以上です。市長は,政令市で結果が最下位だったことにキレているようですが,就学援助率は政令市の中でマックスではないでしょうか。
こういう条件があることからして,現場の教員だけを責めるというのは筋違いでしょう。
各地域の学テの結果が,地域の社会経済指標と非常に強く相関することを実証した,一葉のグラフをお見せしましょう。東京都は独自の学力調査を実施していますが,私は都教委に情報公開申請をし,都内の49区市の平均正答率を入手したことがあります。2013年度のデータです。これを,2010年の『国勢調査』から出した高学歴人口率と絡めてみました。高学歴人口率とは,15歳以上の学校卒業人口のうち,大学・大学院卒が何%かです。
横軸に高学歴率,縦軸に5年生の算数の平均正答率をとった座標上に,49区市を配置した相関図は以下です。日経DUALの記事で公表したものですが,ここに再掲します。
https://dual.nikkei.co.jp/article/092/99/
住民の大卒率が高い地域ほど,算数学力が高い傾向が明瞭です。相関係数は+0.9を超え,前者から後者をほぼ正確に予測できるレベルです。
私のこれまでの作品の中で,学力の社会的規定性を最もよく示すグラフだと思っています。これを見たら,「学テの結果を教員給与に反映する」などとやすやす言えまいと思うのですが,いかがでしょうか。
注目していただきたいのは,足立区の位置です。当区はSESが低い子どもが多いのですが,そういう条件から期待される水準よりは高い結果を出しています(回帰直線より上)。足立区では,結果が振るわない学校の人員や予算を増やすなど,全体の底上げが図られているためでしょう。行政の力で,社会的不平等が克服されていることの好例です。
https://twitter.com/mushioda/status/1025582796302036992
また学力調査の結果というのも,当該地域の社会経済特性を考慮した読み方をしたいものです。この基準からすれば,上記の足立区は「がんばっている」と評されるわけです。この点については,10年前に『教育社会学研究』という学会誌に載せた論文で主張しました。
https://ci.nii.ac.jp/naid/130006906303
教員採用試験の教職教養では,教育社会学は出題されません。完全に「アウト・オブ・眼中」です。亡き恩師は,「現場の先生が『階層』なんていう言葉を使うようになったら困るからだろ」と言われていましたが,だとしたら悲しい。身も蓋もない言い方ですが,「階層」という変数を入れないと解けない問題もあります。
まあ,今回の大阪市長の表明に批判が噴出しているのは,近年の教育社会学の研究成果にスポットが当たっていることの証左でもあるとは思いますが。
2018年8月4日土曜日
医師の女性比率の国際比較
東京医大の入試で不正が発覚し,問題になっています。女子受験生の点数を減点していたとのこと。結婚・出産で辞める確率が高いので,女子が多くなっては困る。こういう意図だそうです。
うーん。1960年代初頭に「女子学生亡国論」という議論がありましたが,それを彷彿させます。女性は家庭に入るので,多額の税金を費やして高等教育を受けさせるのは国の滅亡につながる。未だに,こういう時代錯誤の考えに囚われているのでしょうか。
この理由付けとて怪しいことは後述しますが,日本の医師の女性比率が低いのは,公正な自由競争の結果ではないことが分かりました。
OECDの「Health at a Glance 2017」という資料に,医師の女性比率の国際データが載っています。下記サイトにて,全文をPDFでダウンロード可能です。
153ページの図6-2にて,34か国の医師の女性比率がグラフ化されています。元データをエクセルで呼出し,2015年の数値をランキングにすると,以下のようになります。
ヨーロッパでは医師の女性比率が高く,西欧では4割,北欧・東欧では5割を超える国が多くなっています。対して東洋の日本は20.3%で,34か国の中で最下位です。
このデータは前から知っていましたが,男女の医師志望率の違いや,公正な自由競争の結果ではなく,人為的に「作られた」ものであることがうかがわれます。
「結婚・出産で辞めるから」という理由付けですが,他の職業も男性中心になっているかといえば,そうではありません。同じ医療・福祉産業の看護師や介護職員は,女性が圧倒的に多くなっています。以下の図は,2015年の『国勢調査』の職業小分類統計から作成したものです。
しらゆきさんという方がこの点を鋭く突いておられ,多くの人の賛同を集めています。「女をのさばらせてたまるか,という思惑があるのでは」というリプがついていますが,こういう勘ぐりもしたくなります。
医師のみならず,研究者,法曹,大学教員といった高度専門職の女性比率が低いことは,誰もが知っています。だいたい2割くらいです。
上表は2015年10月時点の断面ですが,これがフェアな競争の結果であるのか疑ってみる必要がありそうです。医師については,人為的な不正があることが露呈してしまいました。
女子受験者の点数を改竄する。この不正に対し,海外からも厳しい反応が寄せられています。「大学病院の運営のためには,男性がもっと必要だとの理屈だが,日本社会の時代錯誤的な女性観を表している」。まさにその通りです。
東京医大の入試データを見ると,受験者では女子が4割です。操作される前の受験者でみると,欧州の医師の女性比率とほぼ同じというのも象徴的です。「不正がないならば…」。こう思う人も少なくないでしょう。
https://twitter.com/robo7c7c_2/status/1025836493070188544
「結婚・出産で辞めるから」という理由付けですが,他の職業も男性中心になっているかといえば,そうではありません。同じ医療・福祉産業の看護師や介護職員は,女性が圧倒的に多くなっています。以下の図は,2015年の『国勢調査』の職業小分類統計から作成したものです。
しらゆきさんという方がこの点を鋭く突いておられ,多くの人の賛同を集めています。「女をのさばらせてたまるか,という思惑があるのでは」というリプがついていますが,こういう勘ぐりもしたくなります。
医師のみならず,研究者,法曹,大学教員といった高度専門職の女性比率が低いことは,誰もが知っています。だいたい2割くらいです。
上表は2015年10月時点の断面ですが,これがフェアな競争の結果であるのか疑ってみる必要がありそうです。医師については,人為的な不正があることが露呈してしまいました。
女子受験者の点数を改竄する。この不正に対し,海外からも厳しい反応が寄せられています。「大学病院の運営のためには,男性がもっと必要だとの理屈だが,日本社会の時代錯誤的な女性観を表している」。まさにその通りです。
東京医大の入試データを見ると,受験者では女子が4割です。操作される前の受験者でみると,欧州の医師の女性比率とほぼ同じというのも象徴的です。「不正がないならば…」。こう思う人も少なくないでしょう。
https://twitter.com/robo7c7c_2/status/1025836493070188544
2018年8月3日金曜日
都道府県別の大学進学率(2018年春)
昨日,2018年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400001&tstat=000001011528
学校数,生徒数,教員数といった基本データが載っている資料で,大学生の女子比率が過去最高になったなど,いろいろ報じられています。私はというと,この資料のデータが公表されたらまず,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。毎年のことですので,本ブログを長くご覧いただいている方は「またか」とお思いでしょう。
わが国の4年制大学進学率(以下,大学進学率)は,2009年に50%を超え,同世代の半分が大学に行く時代になって久しくなっています。昨日公表のデータによると,2018年春の大学進学率は53.3%だそうです。
大学進学率とは,その年の大学入学者数を,推定18歳人口で割った値です。後者は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数が宛てられます。今年春の大学入学者は62万8821人で,3年前の2015年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は117万9808人。よって大学進学率は,前者を後者で割って53.3%となる次第です。
分子には上の世代(浪人)も含まれますが,今年春の18歳世代からも浪人経由で大学に入る者が同数出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。毎度書きますが,これは私が独断で考えたやり方ではなく,公的に採用されている計算方法です。
18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率は53.3%。同世代の2人に1人が大学に行くことの,数値的な表現です。
しかるにこれは全国の数値で,地域別にみるとべらぼうに大きい格差があります。上記と同じやり方で47都道府県の大学進学率を計算しましたので,それをご覧いただきましょう。県別に出す場合,分子は,当該県の高校出身の大学入学者数となります。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。上位5位の数値は赤字にしました。
左端の男女計をみると,全国値は53.3%ですが,最高の72.7%から最低の37.6%までの開きがあります。東京の進学率は,沖縄の倍近くです。同じ国内とは思えぬほどの格差です。
性別にみると,女子の大学進学率が最も低いのは,わが郷里の鹿児島ですか…。鹿児島は男子が43.4%,女子が34.1%とジェンダー差が大きくなっています(9.3ポイント)。数年前,本県の知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したのが思い出されます。最も性差が大きいのは山梨で,男女で15.7ポイントも違っています。
逆に「男子<女子」の県もあり,四国の徳島は毎年そうです。自宅から通える女子大でもあるのか,大学以外の魅力的な中等後教育機関があり,男子の大学進学志向が相対的に小さいからなのか…。今年になって,首都の東京もこのタイプになっています(男子72.2%,女子73.2%)。自宅から通える大学がたくさんあるのが大きいでしょうね。
表をざっとみると,大学進学率は都市部で高く,地方で低い傾向がみられます。当然といえばそうですが,地図にするとクリアーです。下図は,男女計の大学進学率で塗り分けたマップです。
濃い色は50%を超える県ですが,その数は多くありません。同世代の半分が大学に行く,大学教育のユニバーサル化というのは,都市部に限った話です。
この事実(fact)をどう見るかですが,皆が皆,大学に行かねばならないというのではありません。奨学金という借金だけを負わされ,後々人生を狂わされるようなFラン大に行くくらいなら,別の進路に進んだほうがいい,という考えもあります。
県によって大学進学率が異なることは,各県の生徒の意向を反映した「差」であり,是正を要すべき「格差」ではないのかもしれません。「大学進学率の地域差なんてあって当たり前,何が悪いのか?」。こう言いたくなる人もおられるでしょう。
しかしながら,各県の大学進学率は,社会経済指標ととても強く相関しているのも事実です。たとえば,県民所得が高い県ほど大学進学率は高い傾向にあります。地域移動も含め,進学にはコストがかかるのですから当然ですよね。
これは経済的要因ですが,親世代の高学歴率とはもっと強く相関しています。親や地域の人が大学をどういうものと考えるか,子の大学進学に価値を置くかです。2017年の『就業構造基本調査』から,各県の45~54歳人口の大学・大学院卒比率を出し,上表の男女計の大学進学率との相関をとると,以下のようになります。
右上がりの傾向が明瞭です。親世代に大学を出た人が多い県ほど,子世代の大学進学率が高い傾向にあります。相関係数は+0.8237にもなります。スゴイですねえ。
他にも,地域に大学(定員)がどれほどあるかという大学収容力の要因も効いています。自宅から通えない場合,コストがかかる地域移動を強いられるのですから,進学率は低くなりますね。
ざっと考えて,所得,親の学歴,大学収容力というファクターがあるのですが,これらを同時に取り込んだ重回帰分析によると,各県の大学進学率への影響が最も強いのは,2番目の親学歴のようです。ブルデューを引くまでもなく,文化資本の影響が大きいようです。
なお,男子よりも女子の大学進学率のほうが,これらの社会経済指標の影響を強く被っています。さもありなんです。1人しか行かせられないならば男子優先,女子は自宅からでないとダメ,という家庭も多いでしょうし。郷里の鹿児島では,進学率のジェンダー差が大きいのですが,こういう風潮が強いのではないか。実体験に照らしても,分からないではありません。
上記の相関図をみると,子どもの学力首位の秋田の大学進学率は低くなっています。福井の進学率も,さほど高くはありません。グラフは示しませんが,各県の子どもの学力テストの成績と大学進学率の間には,相関関係はナシです。地方には,埋もれた才能も多そうですね。
各県の大学進学率は,子どもの能力よりも,社会経済指標と強く相関している。どうやら,大学進学率の地域差は,子どもの自発的な意志を反映した単なる「差」と片付けることは難しいようです。地方には,能力があり希望するにもかかわらず進学できない子が多い。こういう不平等の要素も含んでいると考えるべきでしょう。私は,今回のデータを,大学進学率の都道府県格差と呼ぶべきだと考えています。
わが国の大学進学率は年々上昇し,50%を超えてから久しいですが,著しい地域格差を内包していることを忘れてはなりますまい。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400001&tstat=000001011528
学校数,生徒数,教員数といった基本データが載っている資料で,大学生の女子比率が過去最高になったなど,いろいろ報じられています。私はというと,この資料のデータが公表されたらまず,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。毎年のことですので,本ブログを長くご覧いただいている方は「またか」とお思いでしょう。
わが国の4年制大学進学率(以下,大学進学率)は,2009年に50%を超え,同世代の半分が大学に行く時代になって久しくなっています。昨日公表のデータによると,2018年春の大学進学率は53.3%だそうです。
大学進学率とは,その年の大学入学者数を,推定18歳人口で割った値です。後者は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数が宛てられます。今年春の大学入学者は62万8821人で,3年前の2015年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は117万9808人。よって大学進学率は,前者を後者で割って53.3%となる次第です。
分子には上の世代(浪人)も含まれますが,今年春の18歳世代からも浪人経由で大学に入る者が同数出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。毎度書きますが,これは私が独断で考えたやり方ではなく,公的に採用されている計算方法です。
18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率は53.3%。同世代の2人に1人が大学に行くことの,数値的な表現です。
しかるにこれは全国の数値で,地域別にみるとべらぼうに大きい格差があります。上記と同じやり方で47都道府県の大学進学率を計算しましたので,それをご覧いただきましょう。県別に出す場合,分子は,当該県の高校出身の大学入学者数となります。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。上位5位の数値は赤字にしました。
左端の男女計をみると,全国値は53.3%ですが,最高の72.7%から最低の37.6%までの開きがあります。東京の進学率は,沖縄の倍近くです。同じ国内とは思えぬほどの格差です。
性別にみると,女子の大学進学率が最も低いのは,わが郷里の鹿児島ですか…。鹿児島は男子が43.4%,女子が34.1%とジェンダー差が大きくなっています(9.3ポイント)。数年前,本県の知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したのが思い出されます。最も性差が大きいのは山梨で,男女で15.7ポイントも違っています。
逆に「男子<女子」の県もあり,四国の徳島は毎年そうです。自宅から通える女子大でもあるのか,大学以外の魅力的な中等後教育機関があり,男子の大学進学志向が相対的に小さいからなのか…。今年になって,首都の東京もこのタイプになっています(男子72.2%,女子73.2%)。自宅から通える大学がたくさんあるのが大きいでしょうね。
表をざっとみると,大学進学率は都市部で高く,地方で低い傾向がみられます。当然といえばそうですが,地図にするとクリアーです。下図は,男女計の大学進学率で塗り分けたマップです。
濃い色は50%を超える県ですが,その数は多くありません。同世代の半分が大学に行く,大学教育のユニバーサル化というのは,都市部に限った話です。
この事実(fact)をどう見るかですが,皆が皆,大学に行かねばならないというのではありません。奨学金という借金だけを負わされ,後々人生を狂わされるようなFラン大に行くくらいなら,別の進路に進んだほうがいい,という考えもあります。
県によって大学進学率が異なることは,各県の生徒の意向を反映した「差」であり,是正を要すべき「格差」ではないのかもしれません。「大学進学率の地域差なんてあって当たり前,何が悪いのか?」。こう言いたくなる人もおられるでしょう。
しかしながら,各県の大学進学率は,社会経済指標ととても強く相関しているのも事実です。たとえば,県民所得が高い県ほど大学進学率は高い傾向にあります。地域移動も含め,進学にはコストがかかるのですから当然ですよね。
これは経済的要因ですが,親世代の高学歴率とはもっと強く相関しています。親や地域の人が大学をどういうものと考えるか,子の大学進学に価値を置くかです。2017年の『就業構造基本調査』から,各県の45~54歳人口の大学・大学院卒比率を出し,上表の男女計の大学進学率との相関をとると,以下のようになります。
右上がりの傾向が明瞭です。親世代に大学を出た人が多い県ほど,子世代の大学進学率が高い傾向にあります。相関係数は+0.8237にもなります。スゴイですねえ。
他にも,地域に大学(定員)がどれほどあるかという大学収容力の要因も効いています。自宅から通えない場合,コストがかかる地域移動を強いられるのですから,進学率は低くなりますね。
ざっと考えて,所得,親の学歴,大学収容力というファクターがあるのですが,これらを同時に取り込んだ重回帰分析によると,各県の大学進学率への影響が最も強いのは,2番目の親学歴のようです。ブルデューを引くまでもなく,文化資本の影響が大きいようです。
なお,男子よりも女子の大学進学率のほうが,これらの社会経済指標の影響を強く被っています。さもありなんです。1人しか行かせられないならば男子優先,女子は自宅からでないとダメ,という家庭も多いでしょうし。郷里の鹿児島では,進学率のジェンダー差が大きいのですが,こういう風潮が強いのではないか。実体験に照らしても,分からないではありません。
上記の相関図をみると,子どもの学力首位の秋田の大学進学率は低くなっています。福井の進学率も,さほど高くはありません。グラフは示しませんが,各県の子どもの学力テストの成績と大学進学率の間には,相関関係はナシです。地方には,埋もれた才能も多そうですね。
各県の大学進学率は,子どもの能力よりも,社会経済指標と強く相関している。どうやら,大学進学率の地域差は,子どもの自発的な意志を反映した単なる「差」と片付けることは難しいようです。地方には,能力があり希望するにもかかわらず進学できない子が多い。こういう不平等の要素も含んでいると考えるべきでしょう。私は,今回のデータを,大学進学率の都道府県格差と呼ぶべきだと考えています。
わが国の大学進学率は年々上昇し,50%を超えてから久しいですが,著しい地域格差を内包していることを忘れてはなりますまい。
2018年8月2日木曜日
新聞と学力
2018年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。例年より早い公表ですが,夏休み中に結果を分析してもらい,指導の改善に役立ててほしいとの意図だそうです。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html
目ぼしい結果が各紙で報じられていますが,新聞を読まない子が小6で6割,中3で7割という報道が目にとまりました。今年は,新聞をどれほど読んでいるかという設問が設けられたようですね(児童・生徒質問紙の問25)。
公立小学校6年生の回答分布をみると,ほぼ毎日が7.4%,週に1~3回が12.5%,月に1~3回が19.0%,ほとんど・全く読まないが60.9%,となっています。なるほど,小6児童では6割が新聞を読んでないようです。
「ネットニュースを見るか」という設問が別にありますので,上記でいう新聞とは,紙の新聞に限られると思われます。今となっては,紙の新聞をとってない家庭も少なくないので,こういう結果になるでしょうか。私の頃も,新聞に目通しする子どもはそんなにいなかったように思います(私は結構読んでいましたが)。
しかるに,上記の問いへの回答には地域差があります。注目されている,新聞を読まない小6児童の割合を都道府県別に採取し,高い順に並べてみました。全国値は上述のように60.9%ですが,47都道府県でみると幅があります。
最高は大阪の70.6%,最低は福井の44.8%です。同じ6年生ですが,新聞を読まない子のパーセンテージには大きな地域差があります。
上位と下位の顔ぶれをみると,新聞を読まない子の率は都市部で高く,地方で低い傾向がみられます。下位をみると日本海沿岸の県が多いですが,三世代同居率が高いので,新聞をとっている家庭が多い,ということかもしれません。
ただ,下位の2県が学力上位常連の福井・秋田であるのは示唆的ですね。新聞を読むに越したことはないですが,活字を読む,世間の動きに触れることで,好ましい影響がもたらされているのでしょうか。あるいは学校にて,新聞を使った授業(NIE=Newspaper in Education)が盛んなのか。
上表のデータを,各県の教科の正答率と関連づけてみると,有意なマイナスの相関関係が観察されます。個人単位でみても,新聞をよく読む群ほど学力が高い傾向にあります。読解力に限られません。
最も分散の大きい,算数の応用科目(算数B)の正答率と絡めてみると,以下のようになります。新聞を読む頻度で小6児童を4群に分け,算数Bの正答率の四分位階層とクロスさせたものです。横幅を使って,4群の相対量も表現しています。上述のとおり,新聞を読まない子が6割でマジョリティです。
ご覧の通り,きれいな右下がりです。新聞を読まない群ほど成績良好のA層が少なく,不良のD層が多くなっています。A層の率は,新聞を毎日読む群では52.9%ですが,ほとんど・全く読まない群では30.2%です。
目下,新聞を読まない子が多数を占め,毎日読むという子は全体の1割もいません。ちょっと触れさせるだけで他を抜きんでられるチャンスと読めるかもしれません。
しかるに,上図の相関が「新聞→学力アップ」という因果とは限りません。学力が高い児童は好奇心旺盛で新聞を読むという逆の経路もあり得ますし,新聞を読む子の家庭は裕福である可能性が高く,上記の相関は,出身階層と学力の関連が背後にある見かけのものかもしれません。
家庭環境を統制しても,上記のような模様になるのであれば,新聞パワーをある程度認めてもいいと思いますが,それはなかなか難しい。
ただ,OECDの国際学力調査「PISA 2009」のデータにて,それに近い分析をすることができます。私は日経DUALの記事にて,父親の学歴が大卒以上の生徒だけを取り出して,新聞を読む頻度と学力の相関を出したことがあります。
https://dual.nikkei.co.jp/article/094/45/
該当の表のデータを,ここに再掲いたしましょう。
父が大卒の生徒ですので,新聞を読む生徒が多くなっています(カッコ内の構成比)。また2009年のデータなので,当時はまだ,ネットよりも紙の新聞を読む子が多かったのかもしれません。
さて,グループごとの平均点をみると,どの側面の学力も,新聞を読む頻度が多い群ほど高い傾向がみられます。きれいな傾向です。家庭の所得ではなく,親の学歴を統制した比較による結果ですが,いかがでしょう。
2018年の今では,紙の新聞を読む子は少なく,代わりにネットニュースをスマホ等で見る子が多くなっています。「ネットニュースをどれほど見るか」という問いに対し,公立小6児童の57.3%が「よく見る」と答えています(2018年度,文科省『全国学力・学習状況調査』)。
世の中の動きをキャッチするという点ではいいのですが,ヤフーニュースとかに上がってくる記事は,当人の嗜好に合わせてセレクトされたものなんですよね。食事にたとえると,知の栄養バランスが偏します。記事の量や配置によって,当該ニュースの重要性を推し量ることもできません。
紙の新聞に触れることで,バランスよく知を摂取できる,活字力が鍛えられる,新聞独自の簡素・明瞭なグラフ表現等も学べる…。子どもの場合,こういう効用もあるでしょう。
NIEは,わが国では80年代半ばから始まった実践で,今でも学校現場で推奨されています。教育と新聞の結びつきというのは,時代が変わっても強いものなのです。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html
目ぼしい結果が各紙で報じられていますが,新聞を読まない子が小6で6割,中3で7割という報道が目にとまりました。今年は,新聞をどれほど読んでいるかという設問が設けられたようですね(児童・生徒質問紙の問25)。
公立小学校6年生の回答分布をみると,ほぼ毎日が7.4%,週に1~3回が12.5%,月に1~3回が19.0%,ほとんど・全く読まないが60.9%,となっています。なるほど,小6児童では6割が新聞を読んでないようです。
「ネットニュースを見るか」という設問が別にありますので,上記でいう新聞とは,紙の新聞に限られると思われます。今となっては,紙の新聞をとってない家庭も少なくないので,こういう結果になるでしょうか。私の頃も,新聞に目通しする子どもはそんなにいなかったように思います(私は結構読んでいましたが)。
しかるに,上記の問いへの回答には地域差があります。注目されている,新聞を読まない小6児童の割合を都道府県別に採取し,高い順に並べてみました。全国値は上述のように60.9%ですが,47都道府県でみると幅があります。
最高は大阪の70.6%,最低は福井の44.8%です。同じ6年生ですが,新聞を読まない子のパーセンテージには大きな地域差があります。
上位と下位の顔ぶれをみると,新聞を読まない子の率は都市部で高く,地方で低い傾向がみられます。下位をみると日本海沿岸の県が多いですが,三世代同居率が高いので,新聞をとっている家庭が多い,ということかもしれません。
ただ,下位の2県が学力上位常連の福井・秋田であるのは示唆的ですね。新聞を読むに越したことはないですが,活字を読む,世間の動きに触れることで,好ましい影響がもたらされているのでしょうか。あるいは学校にて,新聞を使った授業(NIE=Newspaper in Education)が盛んなのか。
上表のデータを,各県の教科の正答率と関連づけてみると,有意なマイナスの相関関係が観察されます。個人単位でみても,新聞をよく読む群ほど学力が高い傾向にあります。読解力に限られません。
最も分散の大きい,算数の応用科目(算数B)の正答率と絡めてみると,以下のようになります。新聞を読む頻度で小6児童を4群に分け,算数Bの正答率の四分位階層とクロスさせたものです。横幅を使って,4群の相対量も表現しています。上述のとおり,新聞を読まない子が6割でマジョリティです。
ご覧の通り,きれいな右下がりです。新聞を読まない群ほど成績良好のA層が少なく,不良のD層が多くなっています。A層の率は,新聞を毎日読む群では52.9%ですが,ほとんど・全く読まない群では30.2%です。
目下,新聞を読まない子が多数を占め,毎日読むという子は全体の1割もいません。ちょっと触れさせるだけで他を抜きんでられるチャンスと読めるかもしれません。
しかるに,上図の相関が「新聞→学力アップ」という因果とは限りません。学力が高い児童は好奇心旺盛で新聞を読むという逆の経路もあり得ますし,新聞を読む子の家庭は裕福である可能性が高く,上記の相関は,出身階層と学力の関連が背後にある見かけのものかもしれません。
家庭環境を統制しても,上記のような模様になるのであれば,新聞パワーをある程度認めてもいいと思いますが,それはなかなか難しい。
ただ,OECDの国際学力調査「PISA 2009」のデータにて,それに近い分析をすることができます。私は日経DUALの記事にて,父親の学歴が大卒以上の生徒だけを取り出して,新聞を読む頻度と学力の相関を出したことがあります。
https://dual.nikkei.co.jp/article/094/45/
該当の表のデータを,ここに再掲いたしましょう。
父が大卒の生徒ですので,新聞を読む生徒が多くなっています(カッコ内の構成比)。また2009年のデータなので,当時はまだ,ネットよりも紙の新聞を読む子が多かったのかもしれません。
さて,グループごとの平均点をみると,どの側面の学力も,新聞を読む頻度が多い群ほど高い傾向がみられます。きれいな傾向です。家庭の所得ではなく,親の学歴を統制した比較による結果ですが,いかがでしょう。
2018年の今では,紙の新聞を読む子は少なく,代わりにネットニュースをスマホ等で見る子が多くなっています。「ネットニュースをどれほど見るか」という問いに対し,公立小6児童の57.3%が「よく見る」と答えています(2018年度,文科省『全国学力・学習状況調査』)。
世の中の動きをキャッチするという点ではいいのですが,ヤフーニュースとかに上がってくる記事は,当人の嗜好に合わせてセレクトされたものなんですよね。食事にたとえると,知の栄養バランスが偏します。記事の量や配置によって,当該ニュースの重要性を推し量ることもできません。
紙の新聞に触れることで,バランスよく知を摂取できる,活字力が鍛えられる,新聞独自の簡素・明瞭なグラフ表現等も学べる…。子どもの場合,こういう効用もあるでしょう。
NIEは,わが国では80年代半ばから始まった実践で,今でも学校現場で推奨されています。教育と新聞の結びつきというのは,時代が変わっても強いものなのです。
2018年8月1日水曜日
猿島に行く
今日も暑かったですね。こんな日は外に出まいと決めているのですが,昼過ぎに横須賀市役所に出向き,市民税・県民税の口座引き落としの手続きをしてきました。こういうことは早くやってしまわないと,気が済まない性分でして。
手続きを終え,市役所地下の食堂「開国亭」でカツカレーを食した後,せっかく出てきたのだからどこかに寄りたいと思ったところ,行くべき場所が即座に浮かびました。猿島です。そう,東京湾に浮かぶ唯一の無人島で,横須賀のシンボルとも言われています。私の郷里の鹿児島でいう,桜島のような位置づけでしょうか。
下の写真は,高台にある横須賀中央公園から撮ったものです。海にちょこんと浮かんでいるのが猿島です。
猿島行きの船が出る桟橋まで,市役所から徒歩10分ほどです。横須賀中央駅からは15分くらいかな。軍艦で有名な三笠公園のすぐ隣です。桟橋で船の往復チケット(1300円)を買って乗船です。船は,1時間に1本出ています。
海風に吹かれながら船に乗ること約10分,猿島に到着します。無人島とはいえ,安全網を張った海水浴場や売店もあります。酷暑ということもあってか,海水浴をする人たちで賑わってました。平日だというのに子どもが多いなと思ったのですが,もう夏休みに入っているのですよね。
私は,売店で「猿島ビール」とフライドポテトを買い,対岸の横須賀市街を望みながら一杯やりました。ちと高かったですが,なかなか美味かった。
島内には戦中の遺跡や洞窟などもあり,散策をする人向けの「猿島仙人杖」も貸し出されていますが,酷暑の中歩きまわるのはキツイと思い,今回は見合わせました。
3時45分発の帰りの船に乗船。遠ざかる猿島を見ながら,「ようやく来れた」という感慨にひたりました。島での滞在時間は1時間ほどでしたが,よかった。
機会あれば猿島に行きたいと思ったのは,日経DUALにて猿島の体験レポートを見かけたからです。筆者は,安田美香さん。近くにこんな名所があったのか,地元民として行かねばと思った次第です。
https://dual.nikkei.co.jp/atcl/column/17/1111118/071200014/
私は一人で行きましたが,家族連れで行くと楽しさはもっと膨らむでしょう。上記の安田氏も,お子さん2人を連れていかれたみたいです。
東京から日帰りOKです。品川から横須賀中央まで,京急の快特で50分ほどですので。この夏ぜひ,ヨコスカに来られたし。
手続きを終え,市役所地下の食堂「開国亭」でカツカレーを食した後,せっかく出てきたのだからどこかに寄りたいと思ったところ,行くべき場所が即座に浮かびました。猿島です。そう,東京湾に浮かぶ唯一の無人島で,横須賀のシンボルとも言われています。私の郷里の鹿児島でいう,桜島のような位置づけでしょうか。
下の写真は,高台にある横須賀中央公園から撮ったものです。海にちょこんと浮かんでいるのが猿島です。
猿島行きの船が出る桟橋まで,市役所から徒歩10分ほどです。横須賀中央駅からは15分くらいかな。軍艦で有名な三笠公園のすぐ隣です。桟橋で船の往復チケット(1300円)を買って乗船です。船は,1時間に1本出ています。
海風に吹かれながら船に乗ること約10分,猿島に到着します。無人島とはいえ,安全網を張った海水浴場や売店もあります。酷暑ということもあってか,海水浴をする人たちで賑わってました。平日だというのに子どもが多いなと思ったのですが,もう夏休みに入っているのですよね。
私は,売店で「猿島ビール」とフライドポテトを買い,対岸の横須賀市街を望みながら一杯やりました。ちと高かったですが,なかなか美味かった。
島内には戦中の遺跡や洞窟などもあり,散策をする人向けの「猿島仙人杖」も貸し出されていますが,酷暑の中歩きまわるのはキツイと思い,今回は見合わせました。
3時45分発の帰りの船に乗船。遠ざかる猿島を見ながら,「ようやく来れた」という感慨にひたりました。島での滞在時間は1時間ほどでしたが,よかった。
機会あれば猿島に行きたいと思ったのは,日経DUALにて猿島の体験レポートを見かけたからです。筆者は,安田美香さん。近くにこんな名所があったのか,地元民として行かねばと思った次第です。
https://dual.nikkei.co.jp/atcl/column/17/1111118/071200014/
私は一人で行きましたが,家族連れで行くと楽しさはもっと膨らむでしょう。上記の安田氏も,お子さん2人を連れていかれたみたいです。
東京から日帰りOKです。品川から横須賀中央まで,京急の快特で50分ほどですので。この夏ぜひ,ヨコスカに来られたし。
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