本日,『国勢調査』(2010年)の産業等基本集計の小地域別結果が,全県分公表されました。いやー,すごい。各市町村内の町丁別に,住民の学歴構成のデータが公表されています。
以前は,こうした小地域別集計結果は,総務省統計局の図書館でしか閲覧できなかったのですが,今はネット上でも見ることができます。統計を国民の共有財産として位置づけ,いつでもどこでも利用できるようにしようという,当局の方針がうかがわれます。まことに結構なことです。自宅にいながらにして学術研究ができるようになる時代も,そう遠くはないでしょう。
さて,上記の公表データから,**市**町*丁目の住民のうち,大卒者が何%というような情報を計算することができます。私は,自分が住んでいる東京都多摩市のデータを使って,同市内の小地域別の高学歴人口率を出してみました。
高学歴人口率とは,大学・大学院卒業者が,学校卒業人口に占める比率です。分母には,在学者や不就学者を除いた学校卒業人口を充てることとします。私の住所である連光寺3丁目でいうと,学卒人口は1,395人で,そのうち最終学歴が大学・大学院卒の者は368人です。よって,この地域の高学歴人口率は26.4%と算出されます。
多摩市内の全小地域の計算結果を,下に掲げます。出所は,分子・分母とも,下記サイトの表14です。「**」は,原資料において数字が掲載されていなかったことを意味します。ゆえに,当該の地域は率が計算されていません。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001036648&cycode=0
多摩市全体の高学歴率は28.5%ですが,市内の町丁別にみると,かなりの変異がみられます。最も高いのは,鶴巻4丁目の45.8%なり。京王多摩センターの駅より少し南に行ったところです。
住民の学歴構成が高い丁が固まっているケースもみられます。たとえば,桜ヶ丘地域。この地域は,全丁(1~4丁目)の高学歴率が4割を超えています。ほとんどの地域では,率が高い丁と低い丁が入り組んでいるのですが,桜ヶ丘地域はさにあらず。
桜ヶ丘地域は,京王線の聖蹟桜ケ丘駅を出て南にちょっと下って,いろは坂を上った高台の上にあります。スタジオジブリの映画「耳をすませば」をロケ地となったところです。ロケ地を実際に見てみようということで,この地域を歩いたことがある方もおられると思いますが,高級住宅地という印象を受けたことでしょう。多摩市の中のブルジョワ地域です。
桜ヶ丘地域の中で人口が最も多い1丁目は,多摩市立多摩第一小学校の学区であるようです。この学校の児童の出身階層構成は,他校に比べてさぞ高いのではないかと思われます。学力テストの平均正答率も上位にあるのではないかなあ。
http://www.city.tama.lg.jp/kosodate/36/002110.html
『国勢調査』の小地域集計のデータを使えば,各学校の学区の住民の社会階層構成を明らかにすることも不可能ではありません。これを,各学校の学力テストの成績と関連づければ,おそらく正の強い相関関係がみられることと思います。市町村よりもさらに下った,学区単位の統計を使ってこういう分析をするのも,また一興です。
私は,東京の足立区を事例として,各学校の学区の社会階層構成と学力テスト成績の関連を明らかにしたことがあります。足立区の他に,学力テストの類の結果を学校別に公表している自治体はないかなあ。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455
ところで,上表の計算結果を使って,多摩市内の高学歴人口率地図を描きたいのですが,何かよいソフトはないかなあ。*市町村単位までの地図の作図は,群馬大学の青木先生のソフトを使わせていただいています。
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/map/map.html
聞けば,MANDARAというフリーソフトがあるそうですが,ちょっと操作が難しくて・・・。多摩市役所から市内の町丁の白地図をもらって,色鉛筆で塗りますか。時には,こういうプリミティヴな作業に立ち返るのも大事だと思います。
デュルケムの『自殺論』に載っている,ヨーロッパの自殺率地図は,まぎれもなく手作業で作図されたものでしょう。そういえば,松本良夫先生が東京学芸大学を定年退職されるとき,研究室の整理を手伝ったのですが,昭和30年代の東京都内の犯罪マップが出てきました。もちろん手書きのものです。エクセルの図では醸し出すことのできない魅力を感じたのも事実です。