2012年11月1日木曜日

高齢者犯罪

 田中真紀子文部科学大臣が,国政に出ようとしている石原元都知事を「暴走老人のようだ」と皮肉っています。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20121026-OYT1T00835.htm

 「暴走老人」とはよく言ったものですが,この熟語は,藤原智美さんの『暴走老人』(文藝春秋,2007年)という本によって広められたものです。キレやすく暴力的な高齢者の様がリアルに描かれたノンフィクションです。

 私も以前,床屋でこの手の「暴走老人」を見かけたことがあります。順番待ちにしびれを切らしたおじいさんが,「急いでるんだよ,時間がないんだよ」と店員に怒鳴り散らしていました。その声が,また店内によく響くこと。ビンビンです。

 2012年現在で65歳の高齢者は,おおよそ1948年生まれということになります。20歳になるのは,1968年。学園紛争などで,若い頃大暴れした世代です。犯罪統計をみても,当時は,若者の暴力犯罪の発生率がピークであった頃です。今の高齢者は,暴走性を内に秘めた世代といえなくもありません。

 店員を怒鳴りつけるくらいならまだいいですが,それを通り越して,犯罪行為を働いてしまう高齢者はどれほどいるのでしょう。2011年の警察庁『犯罪統計書』によると,同年中に刑法犯(交通業過除く)で警察に検挙された60歳以上の高齢者は70,054人となっています。この数を,同年の60歳以上人口で除して,犯罪者出現率にしてみました。分母の人口の出所は,総務省『人口推計年報』です。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

 下表は,60歳以上の犯罪者出現率を,14歳以上のものと比較したものです。以下では,前者を高齢者,後者を全体といいます。犯罪者出現率は,犯罪率と略すことにします。


 高齢者の犯罪率は,全体よりも低くなっています。まあ,若者のほうが犯罪率が高いのは常ですから,当然の結果です。しかしながら,犯罪率の時代推移をたどってみると,近年の高齢者のヤバい状況が浮かび上がってきます。


  上表は,先ほど計算した犯罪率を,1970年から5年間隔で跡づけたものです。全体の犯罪率は減少の傾向ですが,高齢者はその反対です。とくに最近の伸びが顕著で,この11年間で9.8から17.3へと1.8倍にもなっています。

 その結果,高齢者の犯罪率は全体に接近してきています。右端のα値は,高齢者の犯罪率が全体と比してどうかを数値で表したものです。40年前の1970年では,高齢者の犯罪率は全体のおよそ7分の1でしたが,2011年現在では3分の2にまでなっています。

 高齢者の犯罪率は,絶対水準のみならず,全体と比した相対水準でみても高まっていることが知られます。最後に,この様相を統計図で可視化しておきましょう。下図は,横軸にα値,縦軸に犯罪率をとった座標上に,高齢者の各年の値をプロットし,線でつないだものです。絶対水準と相対水準の双方から,高齢者の犯罪率の変化を読み取れる仕掛けになっています。


 どうでしょう。1990年代以降,右上がりの傾向が明瞭です。とくに,2000年と2011年のドット間の距離が大きくなっています。このことは,今世紀以降,高齢者犯罪の増加が著しいことを示唆しています。

 ところで,高齢者犯罪の多くは,万引きのような非侵入盗です。生活に困って,スーパで缶詰を失敬という類の罪がほとんどであると思われます。衣食住が保証される刑務所に入れてもらおうと,わざと無銭飲食を働く輩もいるとか。

 現在,刑務所は福祉施設のようになっているといいます。刑務所人口の高齢化が進んでいることは,2月24日の記事でみた通りです。この点は,年金制度のような生活保障制度の有様と深く関わっています。

 しかるに,冒頭で述べたような「暴走老人」の増加をほのめかす統計もあります。暴行犯の激増です。暴行罪で検挙された60歳以上の高齢者の数は,2000年では524人でしたが,2011年では4,599人にまで増えています。この期間中で,8.8倍になったわけです。全罪種の増加倍率(2.7倍)をはるかに上回っています。

 若い頃大暴れした経験を持つ世代が,職をリタイヤして暇を持て余すようになったら,どういうことになるか・・・。大学は,血の気たぎる若者を収容することで,社会維持機能に貢献しているといいます。10月27日の記事でみたように,大学等で学ぶことを希望している高齢者は結構います。彼らのこうした生涯学習欲求を叶えるような制度設計が求められるでしょう。

 ほか,絵でも軽目の運動でも,何かやることを見つけてもらうことが有益です。ブログを勧めるなんてどうでしょう。人間は「表現する生き物」といいますが,高齢者の秘めたる表現欲求を侮ることはできますまい。

 最近,自分の伝記を出してくれと,原稿を出版社に持ち込んでくる高齢者が多いと聞きます。当然,大半が自費出版となるのですが,ブログでの公表だったらタダですよ。こういうインターネットの恩恵を知らない高齢者が多いとしたら,勿体ない話です。

 これから先,社会のIT化と高齢化が同時進行していきます。こういう状況のなか,高齢者に対する情報教育の重要性が増してくることになるかもしれません。