2013年4月9日火曜日

教員の生活時間の変化

 総務省の『社会生活基本調査』は,さまざまな属性の人間の生活を知ることができるスグレモノです。『国勢調査』や『労働力調査』といったメインの統計に隠れてあまり目立たないのですが,もっと活用されて然るべきかと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm

 今回は,本調査のデータを使って,教員の1日をのぞいていみようと思います。ここでいう教員とは,学校教育法第1条で定める学校の教員のほか,専修学校や各種学校等の教員も含みますが,母集団の組成からして,大半が小・中・高の教員とみてよいでしょう。

 調査報告書には,10月中旬の調査日における,20の行動カテゴリーの平均時間が掲載されています。私はこれをもとに,教員の1日を再構成してみました。2001年と2011年の調査結果を比較することで,この10年間の変化も押さえましょう。

 下表は,平日と日曜に分けて,1日あたりの各行動の平均時間を示したものです。全行動カテゴリーの平均時間の総和は1,440分(24時間)となります。


 2011年の平日をみると,睡眠時間は403分(6時間43分),仕事時間は546分(9時間6分)ですか。後者は,10年前に比して37分増えています。一方,睡眠時間は減っています。日曜でも,同じような傾向がみられます。

 上表から読み取れる最も目立つ変化は仕事時間の増加ですが,近年,教員への管理や締め付けが強まっていることを思うと,さもありなんです。

 ところで,あと一つ,気になる変化がみられます。学習・研究時間の減少です。これは,自由時間の中で自発的な意志に基づいて行うものであり,職務の一貫としてなされる研修は含まれません。こうした自発的な学習・研究時間の平均時間が減じています。

 上表の数値は,調査日に当該の行動をしていない者も含めた「総平均時間」ですが,行動を行った行動者に限定した平均時間でみるとどうでしょう。調査用語でいう「行動者平均時間」です。


 平日は微増ですが,日曜では181分から150分へと30分も減っています。調査日に自発的な学習・研究を行った者の比率が低下しているのは,平日も日曜も同じです。

 総じて,この10年間で教員の自発的な学習の頻度は下がっているようです。教員は知識・技術の伝達者である以上,絶えず学習や修養に励まねばなりません。このことは,法律でも規定されています(教育基本法第9条1項)。

 しかるに,法がいう「研究や修養」は,強制されて行う研修だけからなるのではなく,自らの意志で自発的に行う学習・研究も大きな位置を占めています。

 昨年の8月下旬に公表された中教審答申では,教員を「高度専門職」と位置づける方針が明示されていますが,専門職を性格づける重要な要素は自律性です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325092.htm

 大学教員のごとく,教える内容の自由を初等・中等教育機関の教員に保証するわけにはいきませんが,できること(なすべきこと)はあります。彼らにヒマを与えることです。ここでの文脈に則していうと,教員が自発的に学習や研究に取り組めるような時間を担保することです。

 しかしながら,目下,逆の方向に動いています。2009年度から教員免許更新制が施行され,教員は多忙な時間を割いて大学等で免許状更新講習を受けることを強いられていますし,最近の報道によると,学校週6日制への回帰が志向されていたり,夏休みに合宿形式の高度研修を行う方針を打ち出した自治体があったりと,不安材料は数多し。

 私にいわせれば,夏休みは全面オフにすべきであると思います。長期休業の間くらい,教員らを「黒板とチョークの世界」から解放し,違った世界に触れさせてみてはどうでしょう。そのことが,彼らの人間の幅を広げ,上記の答申が教員の重要な資質として指摘している「総合的な人間力」を涵養することにもなるかと存じます。

 野放しにしたら遊び呆けるだけだろう,といわれるかもしれませんが,そうとは限りますまい。この点については,昨年の8月14日の記事もご覧いただければと思いますが,やってみなければ分かりません。

 自発的な学習・研究の頻度は,専門職のメルクマールと読むこともできます。2016年の『社会生活基本調査』から分かる,教員の自発的な学習・研究時間(実施率)はどうなっていることか。それによって,教員を「高度専門職」とみなす当局の方針がどれほど具現されたかが教えられることになるでしょう。