現代の雇用の歪みとして,ワーキングプア化とか非正規化とかいうことがいわれますが,それが確実に進行していることは,日常感覚からも首肯できるところです。今回は,その程度が分かる,具体的なデータを提示しようと思います。
就業者の年収や雇用形態が分かる基礎資料は,総務省の『就業構造基本調査』です。5年間隔で実施されているものであり,現時点では,2007年までの調査結果が公表されています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
私は,有業者のうち,年収が200万円に満たないワーキングプアの比率,ならびに非正規雇用者の比率を明らかにしました。非正規雇用者とは,パート,アルバイト,派遣社員,契約社員,および嘱託等を合算したものです。
バブル崩壊直後の1992年と最新の2007年の率を比べてみましょう。計算過程についてイメージを持っていただくため,分子・分母の数値も示します。
15歳以上の有業者の数は,6,600万人ほどで変化ありません。しかし,ワープアや非正規の量は増えています。その結果,全体に占める比率も伸びており,ワープア率は28.8%から33.7%,非正規率は14.5%から27.1%へと増えました,後者はほぼ倍増です。
今では,働く人間の3人に1人がワープア,非正規ということになります。巷でいわれる,雇用の「ワープア化・非正規化」,さもありなんです。間もなく公表される2012年調査の結果では,どういう事態になっていることか。08年のリーマンショックとかもあったし・・・。
それはさておき,一口に有業者といっても,その存在は一枚岩ではありません。細かい属性別の傾向も観察してみましょう。ワープア化・非正規化の程度が著しいのはどの層か。下表は,性別・年齢層ごとに比率を計算したものです。10代の子どもと60歳以上の高齢者は,分析対象から外しています。
資料的な意味合いで出す表ですので細かいコメントは控えますが,どの層でもワープア化・非正規化が進行しています。率の水準に注目すると,男性よりも女性で格段に高くなっています。
女性の場合,家計の補助的なパートやバイトが多いからだろう,といわれるかもしれませんが,女性の社会進出の必要がいわれ,男女共同参画の気運が高まっている今日,こうしたジェンダー差は看過できることはでありますまい。
次に年齢層別でみると,ワープア率,非正規率が最も高いのは20代です。1992年からの変化も,この若年層で顕著です。
1990年代以降の変化の様相を可視化してみましょう。私は,横軸にワープア率,縦軸に非正規率をとった座標上に,両年の各年齢層(男女)の数値をプロットし,線でつないだ図をつくりました。矢印のしっぽは1992年,先端は2007年の位置を表します。
どの年齢層も,右上の暗雲が立ち込めるゾーンの方向に動いていますが,変化の幅は20代で最も大きくなっています。ワープア率,非正規率とも,他の年齢層に比して大幅に伸びた,ということです。
就職難の状況をいいことに,低賃金や非正規形態で若者を雇い入れる企業が増えていることの表れでしょう。そうした戦略を極限にまで行使しているのが,いわゆるブラック企業です。このような状況の中,心身を病む若者が増えていることもよく知られています。
しかるに怖いのは,当の若者の側も,そのような悪条件を当然のこととして受け入れている面があることです。2月22日の記事では,20代の前半にかけて,薄給や長時間労働を厭わないように仕向けられていく過程があることを明らかにしました。私の造語でいうと「シューカツ洗脳」です。
さて,2012年実施の『就業構造基本調査』の結果が来月公表されますが,どの年齢層も,上図のマトリクスにおいて右上にシフトしていることでしょう。20代の場合,これまでのトレンドを伸ばしてみると,ワープア率,非正規率とも4割近くになることが見込まれます。5人に2人です。
08年のリーマンショックをはじめとして,この5年間でいろいろなことがありました。もしかすると,上図に描いたような機械的な予測よりも事態はもっと悪化しているかもしれません。結果を期して待ちたいと思います。
次回は都道府県別に,有業者のワープア率,非正規率を出してみようと思います。今回お見せしたのは全国値ですが,地域によってはもっとスゴイ値が観察されることでしょう。ではでは。