http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/
各紙が本調査の結果のハイライトを報じていますが,教員の勤務時間についての報道が多いようです。曰く,日本の教員の勤務時間は世界一,しかしその大半は事務などの雑務…。
私はこういう記事に接すると,原資料に当たって詳しい数値を確認し,それをビジュアル化したくなります。上記サイトから,日本版報告書の要約(15.9MB)をダウンロードし,当該のデータを採取しました。
下の表は,中学校教員の勤務時間(週当たり)をまとめたものです。各紙の報道は,このデータに依拠しています。
なるほど。日本の教員の総勤務時間は53.9時間であり,34か国の中で最も多いですね。そのうち授業時間は17.7時間であり,わずか3分の1です。残りの3分の2は,事務作業などの雑務に喰われているとみられます。
わが国と対照的なのが,地球の裏側のチリであり,総勤務時間は29.2時間で最も短く,そのうちの9割以上が授業です。仕事時間が短くて,そのうえ,教員の仕事は授業という割り切りが強い社会のようです。
他の社会はこの両国の中間に位置していますが,その布置構造を視覚化してみましょう。週当たりの総勤務時間を横軸,そのうちの授業時間を縦軸にとった座標上に,34の社会を位置づけてみました。
総勤務時間が短く,そのうちの多くが授業という「中南米型」と,その逆の「アジア型」というクラスターを析出できますが,どっちがいいのやら。教員を専門職とみなす立場からすれば,前者に軍配が上がるのではないでしょうか。
教育とは,子どもの全人格の発達に与する営みであり,教員の仕事を授業に限定しろという主張は行き過ぎでしょうが,教員をあたかも「何でも屋」のごとく考えるのは誤りです。そのことは彼らの地位を曖昧にし,教員をして専門職とみなすことの妨げとなります。ひいては,教員の諸々の苦悩をも準備することでしょう。
今回のデータは,「日本の教員は働き過ぎだ,しかも仕事の大半は(誰でもできる)事務作業に喰われている」というふうに読めますが,その根底には,教員の社会的地位の曖昧さという,古くて新しい問題が横たわっているようにも思うのです。
2012年8月の中教審答申では,教員を「高度専門職」と位置づける方針が明示されましたが,それがどれほど具現されたかは,上図のマトリクス上の位置によって推し量ることができるでしょう。今後の日本の位置変化が注目されるところです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/miryoku/1326877.htm