2017年8月29日火曜日

47都道府県・20政令市の部活時間

 今年度の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。
http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/index.html

 今年度は対象の生徒(中3)に部活時間を尋ねており,教科の平均正答率との相関が分析されています。それによると,平日1日1時間台の「ほどほど」の群で,学力が最も高いとのこと。
http://www.asahi.com/articles/ASK8W5R69K8WUTIL017.html

 長時間部活に明け暮れると,疲労から勉強も手につかなくなるでしょう。過度の部活は,勉学の支障になるというのは頷けます。逆に,部活時間が30~59分,30分未満,ゼロとなるにつれて教科の平均点が下がる傾向もあるようですが,これは,家庭環境のような他のファクターがありそうです。

 部活時間は,中学生の質問紙調査の問21で尋ねられています。6つの選択肢から1つを選んでもらう形式です。全国の公立中学校3年生の回答分布は,以下のようになっています。無回答・無効回答と「しない」の帰宅部生を除く,86万6678人の回答分布です。


 平日1日2時間台の生徒が半分を占めています。放課後の3時半から6時くらいまでというケースでしょう。私の頃も,これがマジョリティであったと記憶しています。3時間以上というのは,朝練もやっている生徒さんでしょう。

 学力が最も高い「適度」な1時間台の生徒は,全体の32.2%となっています。およそ3人に1人ですが,この層がもっと増えてほしい。

 フツーの生徒さんの部活時間を知るため,上表の分布を一つの代表値に集約してみましょう。よく用いられるのは平均値ですが,ここでは中央値(Median)を出すことにします。全体を高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる生徒の値です。

 右端の累積相対度数から,中央値は2時間台の階級に含まれることが分かります。累積比50%の値は,120~180分の間のどこに位置するか,按分比例の考えを使って推し量ってみます。以下の2ステップです。

 ① (50.0-36.9)/(86.8-36.9)=0.262
 ② 120分+(60分×0.262)=135.7分

 公立中学校3年生の,平日1日あたりの部活時間の中央値は135.7分,2時間16分と出ました。こんなものでしょうか。

 しかるに,地域別にみると値にはバリエーションがあります。同じやり方で,47都道府県・20政令市の中央値を計算してみました。ついでに,過重な部活をしている生徒(1日3時間以上)も出してみました。全国値は上表にある通り13.2%ですが,こちらも大きな地域差があります。


 平日の部活時間の中央値は,都道府県別にみると,75.6分から151.2分までのレインヂが見受けられます。岐阜は極端に部活時間が短いのですが,何か事情でもあるのでしょうか。*情報提供は下記ツイート。
https://twitter.com/JUKUHOSHINO/status/902416421094752260

 最高は神奈川で,岐阜の2倍です。中央値が151分(2時間半)とはキツイ。3時間以上の過重な活動をしている生徒の率も24.7%と高くなっています。4人に1人です。

 150分以上の中央値と,20%以上の過重活動(3時間以上)比率は赤字にしています。ブラック部活の危険信号と読んでもいいでしょう。都道府県では秋田と神奈川,政令市では横浜市,川崎市,名古屋市,北九州市がヤバそう。

 過度な部活が社会問題化していることを受けて,『全国学力・学習状況調査』でも,生徒の部活時間が調査されることになりました。ここでお見せしたデータは,初回の「初期値」です。この値の変化によって,部活改革や教員の多忙化政策の効果が可視化されることになります。

 しかるに,国内の地域比較なんて「どんぐりの背比べ」で,異国の人の目からすれば,どの地域の状況も異常に映ることでしょう。随所でいわれていますが,北欧では「学校の部活」という概念がありません。この手の活動は,地域のスポーツクラブ等に委ねられています。

 国際比較をしてみると,スウェーデンやフィンランドでは,教員の課外活動指導時間はほぼゼロです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3842.php

 これから先,退職高齢者などの「地域密着人口」が増えていきます。その中には,高度なスキルを持った人材もいるでしょう。こうした地域資源を活用し,放課後の部活は,地域社会に委ねていくことも考えられてよいでしょう。こういうことも,「社会全体で子どもを育てる」という理念の具体的な表れの一つといえます。