昨日の東洋経済オンラインに「手抜き授業をする『部活大好き教師』は辞めよ」という記事が出ています。手厳しいタイトルですが,元文科省事務次官・前川喜平氏が書かれたものです。
https://toyokeizai.net/articles/-/236918
部活指導が教員の過重労働の大きな原因になっている。こう指摘されて久しいですが,それに情熱を注いでいる教員がいるのも確かです。部活指導をしたいがために教員を志す学生もいるでしょう。
私の中学にも,こういう教員はいました。バスケ部の顧問をしている体育教師でしたが,「俺は今度の大会に賭けている」が口癖で,いつも夕方遅くまで,また土日も猛練習させていました。
しからば本業の授業はといったら,これが酷かった。この人は臨時免許状を付与されて社会科の授業も持っており,私は地理の授業を受けましたが,教科書の太字を黒板に書き出して写させるだけ。説明も,ほとんど教科書の棒読み。「おれ免許ないんだけど許してくれや」と言ってましたが,到底許せるレベルではありません。おそらくは,授業準備に1分たりともかけていないと思わます。
上記の記事でいわれている,手抜き授業をする「部活大好き教師」の典型です。
困りものですが,こういう教員ってどれくらいいるのでしょう。OECDの国際教員調査「TALIS 2013」では,中学校教員に週間の課外活動指導時間(≒部活指導時間)と,授業準備時間(自宅での作業含む)を訊いています。この2つを対比することで,部活大好き教員を取り出せないか。こう考えました。
http://www.oecd.org/education/school/talis-2013-results.htm
教員の本務は授業ですので,普通の教員なら,部活指導時間より授業準備時間のほうが長いでしょう。しかし日本では,そうではない教員が数多くいます。個票データを使って,6つの国のフルタイム教員を取り出し,「課外活動指導時間/授業準備時間」比の分布をとってみました。「瑞」はスウェーデンをさします。
日本以外の国では「1.0未満」,つまり課外活動(部活)指導時間が授業準備時間より短い教員が大半です。フランスとスウェーデンでは,こういう教員が9割以上です。
しかるに日本では,部活指導時間のほうが長い教員が半分います。部活指導時間が授業準備時間の倍以上の教員も,25.3%います。4人に1人です。部活指導にかまけて,本業の授業をなおざりにしている「部活大好き教員」とみなせるでしょうか。
しかし,嫌々やらされている教員もいるでしょう。そこで,職業満足度とのクロスをして,もうちょっと絞り込みます。上図の緑色の教員のうち,仕事に満足している者を取り出します。「全体的にいって,自分の仕事に満足している」という項目に,「とてもそうだ」ないしは「そうだ」と答えた教員です。
部活大好き教員
=課外活動指導時間が授業準備時間の2倍以上で,仕事に満足している教員
こういう定義を据えて「部活大好き教員」を取り出し,各国のフルタイム教員のサンプルに占める比率を出してみました。下図は36か国のランキングです。
日本は20.0%で最も高くなっています。部活指導時間が授業準備時間の2倍以上で,かつ今の仕事に満足感を覚えている。こういう「部活大好き教員」が5人に1人と見積もられます。
北欧では,こういう教員はおぼ皆無ですね。そもそも学校での部活という概念がなく,この手の活動は地域のスポーツクラブ等に委ねられていますので。
日本の中学・高校であまりに幅を利かせ,教員の本業たる授業をも疎かにさせている部活。これを外部化させ,学校での部活時間・日数を制限しようという動きも出ています。部活動指導員が正規の学校職員に位置づけられたのは,その最たるものです。
冒頭の前川氏の記事では,手抜き授業をする部活大好き教員は,教員という仕事を辞め部活指導員になったらどうか,と提言しています。授業をなおざりにされるのは,生徒の学習権の侵害にもなりますので,あながち的外れな言でもありません。私も,中1の時の社会科教師には,同じことを言いたい気持ちです。
ただ,ここで抽出した「部活大好き教員」の中には,部活指導も授業準備もがんばっている教員もいるでしょう。バーンアウト寸前の人です。前者の重荷を下ろさないといけません。
あと10年後には,日本の中高でも,学校での部活の位置づけが大きく変わっていると思います。部活指導を頑張りたいがために教員を志す若者は,部活動指導員のようなポストも視野に入れたほうが得策です。