2018年12月29日土曜日

パートで働くということ

 働き方にはいろいろあって,フルタイム労働もあれば,パートタイム労働もあります。少子高齢化が進む中,高齢者の就業も増えきますが,それに伴いパートタイムの働き方も多くなってくるでしょう。

 それは教員の世界も同じです。人手不足の波が学校にも及んでいますが,定年退職した教員を再任用したり,特定の分野に秀でた地域人材を教壇に立たせたりする自治体も増えています。こうした人たちの多くは,勤務時間が少な目のパートタイムです。

 教員の「フルタイム/パートタイム」の構成比が分かる最新の調査データは,OECDの「TALIS 2013」です。今から5年前の調査ですが,これによると,日本の中学校教員のパートタイム勤務者率は3.8%となっています。26人に1人です。

 これは国際調査なんで,他国との比較もできます。調査対象の35か国のパートタイム率を出すと,値は幅広く分布しており,50%(半分)を超える国もあります。高い順に並べたグラフにすると,以下のようになります。データは,下記サイトのリモート集計にて作成しました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/


 ブラジル,メキシコ,オランダ,ジョージアでは,中学校教員の半分以上がパートタイム勤務です。前回みたように,中南米の諸国では「教員の仕事は授業!」という割り切りが強いのですが,そのこととリンクしているように思えます。

 オランダは,パート天国という異名をとるだけあって,さもありなんという感じです。賃金や各種の社会保障も,フルタイム勤務者と遜色ないのでしょう。

 日本の3.8%は,下から5番目です。しかし,冒頭で述べたような事情から,今後は変わってくるでしょう。

 ところで,パートタイムといっても,契約の形態はさまざまです。雇用期間の定めのないパーマネントの人もいれば,細切れの有期雇用で働いている人もいます。この点の国際比較をすると,日本の特異性が見えてきます。

 下図は,パートタイム教員の人に,雇用期限の有無を尋ねた結果です。無期雇用,有期雇用(1年より長期),有期雇用(1年以下),という3カテゴリーの内訳をとっています。無期雇用(パーマネント)の割合が高い順に,データがとれる32か国を並べました。


 全体的にみて,青色の無期雇用が幅を利かせています。23か国で,パートタイムの無期雇用率が半分を超えます。しかし日本は特異で,パートタイム教員のうち,パーマネントの契約を結んでいる人は1.2%しかいません。多いのは,1年以下の有期雇用です(86.0%!)。

 このグラフから,パートで働くことの意味合いが,国によって違うことがうかがわれます。日本では,パート労働はあくまで雇用の調整弁です。汚い言葉でいえば,雇う側の都合でいつでも首を切れる使い捨て要員です。フルタイムの正社員と,賃金でも差をつけられています。

 諸外国ではそうではなく,パート天国のオランダでは,同一労働・同一賃金の原則が徹底されています。賃金はあくまで労働時間の関数です。各種の社会保障から疎外されることもなく,パートも立派な働き方と認められています。ゆえに,仕事を分け合うワーク・シェアリングも進行すると。

 少子高齢化が極限まで進む日本は,ゆるい働き方を認めないと立ち行かなくなります。幸いなことに,AIの台頭によりそれが可能になる見通しも立っています。「働かざる者食うべからず,1日8時間のフルタイム勤務をして一人前」という価値観は払拭されるべきです。パートターム労働者を社会保障から外したり,給与で差をつけたりするのは,それが根強いことの表れでもあります。生活保護受給者に就労指導が入る際,いきなり1日8時間以上のフルタイムで働くことを促されるといいますが,考えてみればおかしなことですよね。

 20世紀は「フルタイム」の時代でしたが,21世紀は「パート」の時代になるでしょう。いや,そうでないと社会が回りそうにありません。国民の多数が,体力の弱った高齢者になるのですから。基底的な仕事はAIに任せ,人間はゆるい働き方をするにとどめ,機械が生産してくれた物品やサービスを消費する側に移ればいいのです。

 元号が変わる来年が,そういう動きが胎動する元年になればいいなと思います。