生存権の最後の砦の生活保護ですが,時代と共に受給世帯は増えてきています。
厚労省『被保護者調査』によると,1995年度の受給世帯数(月平均)は約60万世帯でしたが,10年後の2005年度に100万世帯を超え,2014年度には160万世帯に達しました。平成の「失われた20年」にかけて,生活に困窮する世帯が増えたためです。
しかしそれ以降は横ばいです。コロナ禍の昨年は増えただろうと思われるかもしれませんが,2019年度は162万7724世帯,20年度は162万9522世帯で,ほんの微増にとどまっています。困り果てている人は間違いなく増えているはずですが,生活保護の受給世帯数はほとんど変わっていない。2019年7月から2021年7月までの受給世帯数のグラフ(月単位)を描くと,ほぼ真っ平です。最近の生活保護の機能不全については,先週のニューズウィーク記事で書きました。
ここで書くのは,その続きです。生活保護を受給している世帯は,類型別にみると,①高齢者世帯,②母子世帯,③障害者・疾病者世帯,④その他の世帯,に分かれます。この4つのタイプごとに保護受給世帯の推移をみると,近年において明らかに減少傾向の世帯があります。母子世帯です。
1995年度の受給世帯数(月平均)を100とした指数のグラフを描くと,以下のようになります。生活保護受給世帯総数,そのうちの母子世帯のカーブです。母子世帯とは,母親と18歳未満の子からなる世帯をいいます。
コロナでダメージを被ったのは女性です。販売やサービス産業で非正規雇用女性の雇止めが激増し,困窮しているシングルマザーは増えているはず。常識的に考えれば,母子世帯の生活保護受給世帯は増えるはずですが,現実はそうでなく横ばいどころか減少です。減少ペースも,コロナ前と変わっていません。
そもそも,この10年ほどで全体の傾向と乖離して,母子世帯の保護受給世帯だけが明らかに減少傾向であるのも不可解です。母子世帯をターゲットにして,生活保護の削減が図られているのではないか。京都府の亀岡市では,こういう疑いをもって,市民団体が調査に乗り出すとのことです(京都新聞,10月26日)。ぜひ,真相を明らかにしてほしいと思います。
母子世帯の生活保護受給世帯が減っている(減らされている?)ことと関連し,提示しておきたいデータがあります。子どもの貧困率が,2人親世帯と1人親世帯でどう違うかです。貧困率とは,年収が全世帯の中央値の半分に満たない世帯が何%かです。
OECDの「Family Database」から,18歳未満の子がいる世帯の貧困率を,2人親世帯と1人親世帯に分けて知ることができます。以下の表は,日本を含む43の国を高い順に並べたものです。
日本のシングルの親はフルタイム就業がしにくい,賃金が激安(とくに女性),養育費不払い…。1人親世帯の貧困率の高さは,こういう要因によると考えられていますが,知られざる別の可能性も見えてきました。これが,母子世帯への公的扶助を意図的に削減することでもたされているなら,それこそ大問題です。子どもの貧困がつくられていることになります。
困り果てている人が増えているのに,我が国の生活保護の受給世帯総数は横ばいで(定員制?),母子世帯の限ると明らかな減少傾向がある(狙い撃ち?)。近年の生活保護の運用実態について,外部による厳格な検証が入るべきです。その先陣を切った,京都府亀岡市の市民団体には敬意を表します。