今年の『学校基本調査』の確報が出ました。ではでは,都道府県別の大学進学率の計算と参りましょう。
大学進学率は,18歳人口ベースで出します。今年春の大学入学者数を,推定18歳人口で割って計算するわけです。18歳人口としては,3年前の「中学校卒業者+義務教育学校卒業者+中等教育学校前期課程卒業者+特別支援学校中学部卒業者」を使います。
計算に使う数字は以下のごとし。
今年春の大学入学者は64万5513人。この中には,過年度の高卒者(浪人経由者)も含まれますが,今年春の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る者が同数出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。
分母の18歳人口は,表のb~eの合算です。大学進学率は,a/(b+c+d+e)=58.6%となります。『学校基本調査』の結果概要の数値と合致しますね。同世代の6割近くが,4年制大学に進学する時代です。
これは全国値ですが,地域による大きな違いがあります。その地域差を明らかにするのが,ここでの主眼です。『学校基本調査』には,出身高校の所在地別の大学入学者数が分かる表が出ています(コチラの表16)。それを各県の推定18歳人口(定義は上述)で割れば,都道府県別の大学進学率が出てきます。
このやり方で,今年春の47都道府県の大学進学率を計算しました。性差も見たいので,各県の男女別の進学率も出しました。以下の表は,結果をまとめたものです。縦長の表で,一つの画像に収まらなかったので,分割していることをお許しください。
首位は毎年東京だったのですが,今年は山梨がトップに躍り出ています。この大学進学率は,出身高校の所在地に基づくものなので,他県から優秀な生徒を呼び寄せる進学校があれば,数値は高くなります。東京周辺の3県の進学率が全国平均程度なのは,優秀な生徒が東京の高校に流れている,というのもあるでしょう。
この伝で言うと,山梨には超進学校でもあるのか。東京と接している,という利点があるとはいえ,東京を抜いてしまうとは驚きです。
本県の事情はさておき,大学進学率で可視化される大学進学チャンスには,地域によって著しく異なる,ということを押さえましょう。最も低いのは秋田なのですが,本県は,全国学力テストの上位常連。石川や福井も全国値未満。
どうも,子どもの学力とは関連がなさそうです。関連しているのは,住民の所得水準や親年代の高学歴率といった,社会経済指標です。各県に大学入学枠がどれほどあるかといった,大学収容力も効いています。
大学進学率の地域差は,高校生の進路志向の違いを反映しただけの「差」ではなく,不当な不平等の意味合いが強い,是正を要する「格差」であるとみるのが妥当でしょう。大学進学率の地域格差を生み出す社会経済条件については,これまで随所で書きました。本ブログの過去記事をご覧いただいてもいいですし,私の考えを手短に知りたい,という方は,ニューズウィークの記事をお読みいただくとよいかと存じます。
男女の差も大きいですね。ほとんどの県で「男子>女子」で,山梨では17ポイント近くも違っています。東京は,自宅から通える大学が多いためか,性差が逆になっていますが。
近年,子どもの自殺が増えているのですが,増えているのは女子です(コチラの記事参照)。動機として「進路の悩み」が上位に挙がっています。物価高で生活苦が広がっていますが,「家計が厳しいので,進学は諦めてくれ」と真っ先に言われるのは,男子より女子でしょう。こういうことを言われると,多感な10代は過度に思い詰めるもの。
現在では,高等教育修学支援制度や給付奨学金制度が充実してきています。こういう制度の情報をしっかりと伝え,簡単に進学を諦めることがないようにしたいものです。
全ての子が大学に行く必要などありません。ただし,能力と意思があるにもかかわらず,外的な要因で進学が阻まれることがあってはなりません。法が定める,教育の機会均等の理念にも反します。残念ながら,現状がそれと隔たっていることは,大学進学率の地域格差のデータからはっきりと分かることです。


