前回の続きです。今回は,ヨーロッパとアフリカ・オセアニア諸国の労働力人口率年齢曲線をご覧に入れようと思います。
労働力人口とは,働く意欲のある者のことです。就業者と,就業意欲がありながらも職に就けない完全失業者から構成されますが,ほとんどが前者であるとお考えください。労働力人口率年齢曲線とは,この労働力人口がベースの人口に占める比率を年齢層別に出し,各々のドットを結んでできる曲線のことです。資料源は,総務省統計局『世界の統計2011』です。下記サイトの表12-1から,各国の数字をハントし,グラフをつくりました。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/12.htm
まずは,ヨーロッパの6か国の曲線をみてみましょう。グラフの右端の年齢層は,「~歳以上」と読んでください。ロシアの場合,最も高い年齢層は,「60歳以上」というように括られています。横の目盛線は,20%刻みで引いたものです。
ヨーロッパは,女性の社会進出が進んでいるといいますが,多くの国において,労働力人口率の性差が小さくなっています。福祉国家といわれるスウェーデンでは,両性の曲線がかなり近接しています。女性において,わが国でみられるような子育て期の谷はありません。就業と育児を両立できるような制度条件が整っているものと思われます。
なお,イギリスでは,10代の後半にして,労働力人口率が4割を超えています。同じ数字が2割にも満たないわが国とは,大きく違っています。複線型の中等教育の伝統が色濃いイギリスでは,高等教育まで進む若者がそれほど多くはない,ということでしょう。イギリスの18歳人口ベースの高等教育進学率は,2007年で25.5%と報告されています(文科省『平成23年版・教育指標の国際比較』,11頁)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/kokusai/__icsFiles/afieldfile/2011/03/10/1302640_1_1.pdf
次に,アフリカとオセアニアの4か国の図に目を転じましょう。アフリカでは,5歳刻みの緻密な曲線を描けるのは,エチオピアと南アフリカしかありませんでした。
発展途上国型とでもいいましょうか,エチオピアの曲線は,これまでみてきた先進諸国の型とは大きく異なっています。わが国を含む先進諸国では,子ども期と高齢期の労働人口率が低い,台形型になっているケースが多いのですが,エチオピアはそうではなく,どの層でも一貫して率が高い,高原型になっています。
男性でいうと,同国では,10代の子どもや65歳を超える高齢者でも,8割以上が労働力人口です。子どもや高齢者も,貴重な労働力ということでしょう。一方,同じアフリカでも,経済発展が進んでいる南アフリカでは,曲線の型は先進諸国に近くなっています。
最後に,オセアニアの2国をみると,10代後半にして,およそ6割が労働力人口です。オーストラリアでは,わが国や韓国と同様,女性の子育て期の谷がうっすらと見受けられます。
以上,世界の22か国について,労働力人口率年齢曲線を観察しました。やろうと思えば,自殺率や失業率のような,社会病理指標についても同じ作業ができます。WHOやILOのデータベースには,容易にアクセス可能です。
この種の仕事を蓄積していけば,『統計による世界一周旅行』といった本ができるかも。私としては,各国の名所やおいしい料理の写真を載せた本よりも,各国の実情をビジュアルに伝えてくれる統計グラフを集めた本に魅力を感じてしまいます。やはり異常なのかしらん…