2011年10月21日金曜日

ニート率

 心理学者エリクソンによると,青年期の発達課題は,自我同一性(アイデンティティ)を確立することだそうです。自分は何者か,自分は社会の中で何ができるかをはっきりさせることです。簡単にいえば,進路選択,職業選択ということになるでしょう。

 しかし,最近,この課題を達成することができずに,自我の拡散状態に陥ってしまう若者が多いと聞きます。自分は何がしたいのか,何ができるのかを思い定めることができず,いつまでたっても,明確な役割(role)を取得できない人間が増えているように感じます。

 いわゆるニート(NEET=Not in Education,Employment or Training)などは,その典型でしょう。教育も受けておらず,働いてもおらず,職業訓練も受けていない,要するに,何をしているか分からない輩のことです。

 私は,このような生き方を100%否定するつもりはありません。現在の(病んだ)企業社会に過剰適応し,心身ともに荒んでいくというのは,ご免こうむりたいものです。また,9月2日の記事でも申しましたが,「ぶっとんだ」生き方をしている人間の中から,社会を変革するカリスマが生まれてくる可能性も否定できないところです。

 しかるに,社会全体が「ぶっとんだ」人間だらけになるというのは,考えものです。程度の問題ではありますが,若者のニート率があまりに高くなるというのは,よろしくないことでしょう。今回は,15~34歳の若者のうち,ニートがどれほどいるかを数で明らかにしてみようと思います。

 2010年の総務省『国勢調査』の抽出速報集計によると,15~34歳人口のうち,働く意志がない非労働力人口は約860万人です。このうち,専業主婦(夫)でも学生でもない者はおよそ30万人です。この30万人が,上記の意味でのニートに近いものと思われます。この統計は,下記サイトの表3-1に掲載されています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001032402&cycode=0

 この30万人は,この年の15~34歳人口(約2,829万人)の10.5‰に相当します。%にすると1.05%,ほぼ100人に1人という水準です。このニート率は,過去からどう推移してきたのでしょうか。1970年からの変化を跡づけてみました。『国勢調査』は5年ごとに実施されるので,5年刻みの統計になっています。


 ニート率は,1970年から1990年まで下降しますが,90年代以降,増加に転じています。2000年にはニートの数は75万人に膨れ上がり,人口中の比率も21.8‰まで上がります。当時の不況の反映でしょうか。この年の3年前の1997年に山一證券が倒産し,翌年の98年に自殺者が3万人台に突入したことはよく知られています。

 私は99年に大学を出たのですが,当時の就職戦線の厳しさといったら,もうハンパじゃありませんでした。教員採用試験の競争率も,現在よりもはるかに高かったと記憶しています(5月27日の記事を参照)。新卒枠での就職に失敗,以後,既卒枠で就職活動を継続するがうまくいかず,そのうち,就労意欲を失い,ニートに・・・。こういうパターンも多かったのではないでしょうか。われわれの世代が「ロスト・ジェネレーション」といわれる所以です。

 その後,不況がいくぶんか緩和したためか,ニート率は下がり,2010年の10.5‰に至っています。今後は,どうなっていくことやら。

 次に,15~34歳人口を男性と女性に分解し,各々のニート率を出してみます。また,1歳刻みのニート率も計算してみます。下表をご覧ください。2010年の抽出速報結果には,こうした細かい数字は載っていませんので,2005年の統計から計算しています。


 男性と女性で比べると,ニート率は男性で高くなっています。男性は女性の1.6倍です。1歳刻みの年齢別にみると,ピークは19歳となっていますが,これは,大学受験浪人が多いためでしょう。20歳以降は,12‰前後の水準が一貫して保たれています。

 高齢になるほど,率は減じていくものと思っていましたが,そうではなさそうです。ニートは,尾を長く引く現象であることがうかがわれます。

 次回は,東京都内の地域別にニート率を出し,それをもとにつくった「ニート・マップ」をご覧に入れようと存じます。