警察庁の統計によると,2009年中の自殺者数は32,829人です。月別にみると,3月,4月,および5月という,春の季節に,自殺者が相対的に多いことが分かります。月別の度数分布を数で示すと,以下のようです。
3月に自殺が最も多いのはなぜでしょうか。年度末に職場を去ることを強いられた非正規雇用者が,絶望して自殺に走る,ということでしょうか。4~5月の自殺は,新たな環境に適応することができず,うつになり,自殺へ・・・ということでしょうか。いろいろと想像をめぐらすことができます。
これは全体の傾向ですが,学生の自殺に限定すると,どういう分布の型が出てくるでしょうか。3月8日の記事でみたように,最近,就職失敗を苦に自殺する大学生が増えています。となると,大学生の自殺は,就職未決定が確定する年度末の3月に多いように思われます。実態はどうなのでしょう。
内閣府は,警察庁が保管している自殺の原統計を仔細に分析し,独自の統計表をつくっています。その中の一つに,「自殺者の職業×月」のクロス表があります。私は,この表のデータを使って,中学生,高校生,大学生,および専修学校生等について,自殺者の月別分布を明らかにしました。下記サイトの表1-1-3から数字をハントし,エクセルでグラフをつくりました。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/kyouka_basic_data/h21/chiiki.html
中学生の場合,2009年中の自殺者は79人ですが,その月別分布をとると,8月にピークがあります。全体の19.0%がこの月に起きています。高校生のピークは10月,大学生のピークは3月,専修学校生等のピークは9月に見出されます。
大学生については,先の予想通りです。就職失敗や進路未定が確定的になる3月に,自殺が最も多いようです。中学生では,8月に自殺が異常に集中していることが注目されます。灼熱地獄のなか,野球部の練習のキツさに耐えかねて自殺したという中学生の話を聞いたことがありますが,コレでしょうか。私は,中学生の頃は陸上部でしたが,確かに夏休みの練習はこたえたなあ。
高校生のピークは10月です。この時期,大学受験関連の模擬試験が頻繁に行われる時期ですが,自分の将来展望が数字で冷徹に限定されることに絶望してしまうのでしょうか。
現在,9月10日からの一週間が「自殺予防週間」とされています。しかるに,一律に決めるのではなく,中学生は8月,高校生は10月,大学生は3月にそれを設けるというように,柔軟性を持たせたほうがよいように思います。
とくに,大学生については,3月を自殺予防重点月間とし,進路未定(未申告)の学生を割り出し,声かけや相談の機会を設けるなどの取組が効果的ではないでしょうか。数字から傾向を割り出し,それをふまえて政策を立案する。今日,Evidence-based policy(データに基づいた政策立案)が,どの分野でも強く求められているところです。