2011年10月30日日曜日

在学状況別の非行率

 わが国は,学歴社会であるといわれます。学歴社会とは,社会的地位や配分される富の決定に際して,学歴が影響する度合いが高い社会のことです。

 わが国では,義務教育は形式的には中学校までですが,高校進学率が95%を超えた今日,中学校を卒業して直ちに社会に出ることには,相当の勇気が要ります。就くことのできる職種がきわめて限定されたり,劣悪な条件で働かされたり,さらには,社会的落伍者の烙印を押されたりすることまでをも覚悟しなければなりません。

 なお,高校に進学するにしても,どのようなタイプの高校に行くかが大きな分岐点となります。わが国の高校が,(有名)大学への進学可能性に依拠して精緻に階層化されていることは,誰もが知っています(上位校,中位校,下位校・・・)。学科別にみても,普通科が上で職業科が下というような,暗黙の序列意識があることも,否定できないところです。1970~80年代には,「普商工農」というようなフレーズが関係者の間で流布していました。

 そうである以上,階層化された構造の中でどのような位置にある高校に在学しているかによって,生徒の生活意識や行動が大きく異なるであろうことは,自ずと演繹されるところです。横浜国立大学の渡部真教授は,1982年の論稿において,有名大学進学率に基づく階層構造の中で下位の位置にある高校ほど,非行に親和的な下位文化が蔓延していることを明らかにしています(「高校間格差と生徒の非行的文化」『犯罪社会学研究』第7号)。

 非行下位文化とは,簡単にいえば,悪さを美徳とするような文化です。上位校では,勉学に懸命に励んだり,教師の言うことに従順に従ったりすることをよしとする,向学校的文化が支配的であると推測されます。

 現代学校の病理的な構造によって,青少年がこのように分化してしまうのは,何とも悲しいことです。10月19日の記事にて,教育によって子どもは悪くなってしまうのではないか,という問題提起をしましたが,教育の功罪の「罪」の部分が,ここにおいても看取されます。

 ところで,21世紀となった現在においても,このような構造は保たれているのでしょうか。この点を考えるために,高校に行っているかどうか,どういうタイプの高校に行っているかによって,非行少年の出る確率がどれほど異なるのかを明らかにしてみようと思います。

 警察庁『平成22年中における少年の補導および保護の概況』には,刑法犯で検挙された少年の数が,犯行時の在学状況別に記載されています(巻末の統計資料の表20)。
http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hodouhogo_gaiyou_H22.pdf

 当該の表に設けられているグループカテゴリーを加工して,①高校普通科在学者,②高校職業科在学者,③高校定時制在学者,④中卒・高校中退者,という4グループを構成してみます。各グループについて,非行少年の数を出すと,①が23,117人,②が6,436人,③が4,347人,そして④が16,059人です。

 ①が最も多いですが,このグループは母数でも多くを占めるので,当然といえば当然です。それぞれのグループから非行少年が出る確率を知るには,非行人員の数を母数で除した出現率を算出する必要があります。

 ①~③の母数は,2010年版の文科省『学校基本調査』から知ることができます。高校職業科の生徒数は,高校生の数から,普通科,総合学科,および「その他」の学科の生徒数を差し引いた値とします。統計上「その他」のカテゴリーに含まれる学科には,理数科など,普通科に近い性格のものが多く含まれていると思われるので,職業科とはみなさないこととします。

 ④については,15~19歳人口のうち,最終学歴が中学校卒業の者を充てれば問題ないでしょう。2010年の『国勢調査』の抽出速報結果から,具体的な数が分かります。

 4グループについて,非行者の数を母数で除した出現率を出すと,下表のようです。出現率の単位は,1万人あたりです。


 普通科と職業科では率は大差ないですが,定時制在学者と高校非在学者になると,出現率が急騰します。高校非在学者の非行者出現率は,%にすると5.0%です。20人に1人に割合で非行者が出ている計算になります。もっとも,bの非行者の数は延べ数であることに注意が要りますが。

 上記は刑法犯全体の出現率ですが,罪種別の出現率についても,グループ間で比べてみましょう。殺人や強盗のような凶悪犯の出現率などは,グループ間の差が大きいのではないかしらん。


 罪種別にみても,昼間の高校在学者と,定時制ないしは高校非在学者との間に,明確な溝が見受けられます。どの罪種でグループ間の差が大きいかは,普通科在学者の出現率を1.0とした指数を出してみると,よく分かります。

 凶悪犯の出現率は,中卒・高校中退グループでは11.5です。この値は,普通科在学者の率(0.5)の21.3倍に相当します。各グループの出現率をこのような倍率に換算し,折れ線でつなぐと,下図のようになります。


 図をみると,凶悪犯や粗暴犯といった,シリアス度が高い罪種ほど,折れ線の傾斜がきつくなっています。つまり,在学状況による差が大きい,ということです。

 私にとって発見であったのは,普通科と職業科において,非行少年の出る確率がほとんど違わないことです。大学全入といわれる今日,職業科からの大学進学も,以前と比べれば容易になっていることでしょう。それゆえ,生徒の意識や行動を著しく分化させる高校階層構造に揺らぎが出ている,ということでしょうか。

 その分,今日では,定時制の在学者や高校非在学者に,困難の度合いが濃縮されているように思います。過去のデータと比較ができれば,今日の特徴についてもっと深く吟味できるのですが,残念です。推測でだらだらとモノをいうのはいただけないので,この辺りで止めにします。