3月27日に,2010年の文科省『学校教員統計調査』の詳細結果が公表されました。この調査は教員個人調査と教員異動調査から構成されますが,後者では,調査年の前年度間に離職した教員の数が明らかにされています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
よって,2010年調査の結果から,2009年度間の離職教員の数値を知ることが可能です。私は,この数を同年の本務教員数で除して,教員の離職率を計算しました。
ここでの目的は,各種の危機や困難によって教壇を去った教員の量を測ることです。そこで,分子の離職者数には,「病気」という理由で離職した者と,メジャーな理由のいずれにも該当しない「その他」の理由で離職した者を充てることとします。
最初に,公立小学校教員の離職率の時系列推移をみてみましょう。下表は,『学校教員統計調査』が実施された年の前年度間の離職率をつなぎ合わせたものです。計算の過程についてイメージを持っていただくため,分母と分子のローデータを掲げています。分母の本務教員の出所は,文科省『学校基本調査』です。
なお,2009年度の「その他」の理由による離職者数(c)は,原資料でいう「家庭の事情」,「職務上の問題」,「その他」の3カテゴリーの数値の合算値です。2006年度までは,これら3つは「その他」のカテゴリーにまとめられていましたが,2009年度の集計表ではカテゴリーが細分されているため,このような措置をとっています。
公立小学校教員の離職率は,1982年に13.4‰とピークに達した後,90年代後半まではおおむね低下の傾向にありましたが,今世紀以降,増加に転じています。とくに最近3年間の伸び幅が目立っています。7.9‰から11.0‰と,離職率はグンと伸びています。
分子をみると,病気による離職者数の伸びが顕著です。370人から609人へと1.6倍も増えています。ちなみに,この609人のうちの57.3%(379人)は精神疾患による離職者数です。
都教委がモンスター・ペアレントに関する実態調査の結果を公表したのは2008年9月ですが,ちょうど時期的に一致しています。学校に理不尽な要求を突き付けるMPの増加というようなことも,教員を追い詰めているものと思われます。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr080918j.htm#bessi
次に,公立中学校と公立高校の離職率も併せて観察してみましょう。下図は,1979年度以降の30年間の変化をグラフ化したものです。
小・中学校の曲線はほぼ重なっています。高校教員の離職率は比較的低いようです。昨年の5月12日の記事のグラフと模様が違うではないかといわれるかもしれませんが,今回は,国私立校を除いた公立校のみのデータを使っています。
私立校では,リストラや任期満了という理由での離職者が分子に多く含まれてしまうためです。先の記事において,高校教員の離職率が高めに出たのは,私立校も計算に含めたためと考えられます。高校では,私立校のシェアが大きいですし。
さて上記のグラフをみると,中高の離職率のピークも1982年にあります。この頃は,全国的に校内暴力の嵐が吹き荒れた頃です。少年非行の戦後第3のピークも,ちょうどこの時期に位置しています。こういう生徒の問題行動が,辞める(病める)教員を増やしたことは,疑い得ないところです。
高校では問題児はバンバン退学させることができるため,当時にあっても,高校教員の離職率は相対的に低かったのではないでしょうか。
その後離職率は低下しますが,今世紀以降,どの学校の離職率も増加に転じます。小・中学校では最近3年間の伸びが著しいのですが,高校では逆に微減しています。近年の教員の危機は,義務教育学校に集中しているようです。
近年の離職率増について考察を深めるには,細かい属性別の離職率を計算してみる必要があります。離職率が上昇しているのは男性か女性か,若年者か年輩者か,都市か地方か・・・。次回以降,回を細切れにして,計算結果を少しずつ開陳していこうと思います。