2012年3月2日金曜日

年齢別の在学・就業状況

総務省『国勢調査報告』(2010年)の産業等基本集計の結果が,ぼちぼち公表されているようです。現在,集計が完了した22の県の結果が公表されています。

 産業等基本集計(以前の用語では第二次基本集計)では,対象者の在学学校や最終学歴について明らかにされています。教育社会学者にすれば,ヨダレの出そうな内容が盛りだくさんです(失敬!)。

 今回は,このデータを使って,子ども・若者の年齢別の在学状況ないしは就業状況を細かくみてみようと思います。学校化が進んでいる今日,20歳を過ぎても学校に通っている者が少なくないでしょう。低年齢層では,幼稚園や保育所に在籍している幼児が多くなっていることと思われます。「0歳保育」という言葉があるように,生後すぐに保育所に入れられる乳児もいます。

 なお,子どもの世界の「学校化」の様相に加えて,若者の就労状況がどのようなものかにも関心が持たれます。かつては,20歳,少なくとも25歳を過ぎれば,大半の者が就業していたのでしょうが,今日ではどうなのかしらん。このご時世です。働きたくても職にありつけない失業者や,求職活動から下りてしまったニートのような人種もいることと思います。

 子ども・若者の1歳刻みの人口ピラミッドを,在学している学校種や就業状態で塗り分けてみると,どういう模様になるでしょうか。

 先に言いましたように,産業等基本集計の結果が公表されているのは,22の県です。いずれも地方県ですが,この中で比較的都市性が高いと考えられる栃木県のデータを使うこととしました。下記サイトの表13-1から,同県の0~29歳人口の在学学校種を,1歳刻みで知ることができます。15歳以上の就業状況の統計は,表1-1の労働力状態の集計表から得ました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001037602&cycode=0

 これらのデータを使って,20代までの在学・就業状況の人口ピラミッドを描いてみると,下図のようになります。「その他・不詳」は,全人口から残りのカテゴリーの総和を差し引いた値です。


 少子化が進んでいるので,低年齢層ほど人口が少なくなっています。その低年齢層ですが,学齢前の段階をみると,幼稚園や保育所に在籍している幼児が多いようです,生後間もない0歳でも,保育所在所児が5.4%います。幼稚園・保育所在籍率は,1歳が23.8%,3歳が65.9%,5歳が93.8%です。乳幼児期の「施設化」が進行していることが知られます。

 6歳から15歳までの学齢期は,義務教育学校(小・中学校)の在学者で埋め尽くされています。しかし,小・中学校の在学者と全人口が完全に一致するわけではありません。10歳でいうと,両者の差分として59人が検出されます。10歳人口の0.3%に相当します。調査の回答漏れかもしれませんが,不就学児ということも考えられます。

 その上の16歳,17歳では,高校生が多くを占めます。19歳になると,大学や短大の在学者が半分ほどを占めています。高校進学率95%超,大学進学率50%超となった社会の状況を反映しています。東京のような都市部では,高等教育機関の学生のウェイトはもっと大きいことでしょう。

 大学を卒業する22歳では,就業者(主に仕事)の比率が最も高くなります。就業者率は,22歳は56.7%,25歳は71.9%,29歳は68.3%です。29歳になって就業者率が下がるのは,女性の結婚退職というような要因が考えられます。事実,家事従事者の比率が20代後半にかけて増しているのが明らかです。

 なお,一番右端の「その他・不詳」というカテゴリーですが,学齢前の幼児の場合は,自宅で保育を受けている者のことです。しかし,15歳や20歳を超えた若者となると,教育も受けていない,仕事もしていない,いわゆるニートに近い輩であると思われます。

 その比率をとると,22歳では8.4%,25歳では10.5%,29歳では12.7%です。約1割。同一の世代を追跡したデータではありませんが,年齢を上がるほど,この層の比重が高まっていくというのはやや気がかりです。もっとも,調査への回答を拒んだ者もこの中に含まれますが。

 最後に,子ども・若者の世界における,在学者の比重を可視化しておきます。幼稚園から大学・大学院までの在学(在園)者を「在学者」,それ以外を「非在学者」とし,両者の組成図をつくってみました。


 在学者(青色)と非在学者(赤色)の領分が,ちょうど半々というところでしょうか。しかし,下は2歳,上は21歳において,在学者率が3割を超えるというのは,今日的な特徴といえましょう。

 「三丁目の夕日」(1958年)や「コクリコ坂から」(1963年)の時代では,10代後半になると,在学者の比率が6割ほどまで減少すると思われます。学齢前でいうと,幼稚園や保育所に通う子どもはごくわずかでした(昨年の2月26日の記事を参照)。いずれにせよ,昔の統計を使って同じ図を描いたら,模様は全く違ったものになるでしょう。

 幼児期の「施設化」,児童期・青年期の「学校化」の進行は,多くの子ども・青年に教育の機会が開かれたことと表裏です。その意味で,上図のような模様は,他の社会に誇れるものといえるかもしれません。

 ですが,好むと好まざるとに関係なく,上級学校への進学を社会的に強制される問題や,子ども・青年の実生活からの乖離という問題も看過し得ないところです。また,最高レベルの教育を受けた人材が社会の中に活躍の場を見出せない状況も顕在化してきています。上図をみると,25歳以上でも青色の領分が少しありますが,多くが大学院博士課程の在学者でしょう。彼らの行く末については,懸念が持たれるところです。

 今後,在学者の領分がますます広がっていくのか,あるいは,上記のような諸問題が深刻化し,それに歯止めがかかるのか。この点についての判断には,もう少し時間が要るようです。

 今回は栃木県のデータを分析しましたが,公表され次第,東京や全県についても,同様の統計図をつくってみようと思います。