2013年1月26日土曜日

都道府県別の教員の病気離職率

 文科省『学校教員統計』の教員異動調査では,調査実施年の前年度間に離職した教員の数が計上されています。最新の2010年調査では,前年の2009年度間の離職教員数が明らかにされているわけです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm

 教員が教壇を去る理由はさまざまでしょうが,統計上は,以下の9つの理由カテゴリーが用意されています。数字は,2009年度間に当該の理由で離職した幼・小・中・高の教員数です。

 ①:定年 ・・・ 21,023人
 ②:病気(精神疾患) ・・・ 909人
 ③:病気(精神疾患以外) ・・・ 869人
 ④:死亡 ・・・ 601人
 ⑤:転職 ・・・ 5,916人
 ⑥:大学等入学 ・・・ 198人
 ⑦:家庭の事情 ・・・ 6,799人
 ⑧:職務上の問題 ・・・ 472人
 ⑨:その他 ・・・ 10,085人

 当然ですが,定年が最も多くなっています。次に多いのは,8つの理由のいずれにも該当しない「その他」です。一身上の理由というような曖昧なものは,この中に含まれることでしょう。現在,退職金の目減りを恐れて「駆け込み退職」する教員がいるようですが,この理由は,統計上は「その他」に括られることと思います。

 「家庭の事情」という理由も結構多いですね。老親の介護というものがメインでしょう。結婚退職などもこれに含まれるのかな。

 あと一つ,4ケタ台なのが「転職」ですが,この中には,現場の教諭から指導主事になったというようなケースも入れられているようです。教職に嫌気がさして他の職に転じたという者だけではないとのこと。

 さて,教職危機の量を測る指標(measure)として離職率がよく用いられるのですが,上記の①~⑨のうち,どの理由の離職者数を分子に据えたものでしょう。2011年5月7日の記事では,⑨の「その他」の数を分子にして離職率を出したのですが,後から分かったところでは,任期満了による離職もこの中に含まれるとのことです。これはいけません。現在,有期雇用の教員が増えていますしね。

 そこで,②と③を足し合わせた広義の病気離職者数を分子にして,離職率を計算することとしました。精神疾患とその他の病がほぼ半々ですが,病気を患って職を辞す教員の量は,教職の危機や困難の程度を可視化するのに使える指標であると思います。

 昨年の7月23日の記事では,公立小学校教員について,この意味での離職率(病気離職率)の時系列推移をたどってみました。そこで分かったのは,直近の3年間(2006年~2009年)にかけて率がかなり上がっていること,その傾向はとりわけ若年層で顕著なことです。

 今回は,教員の病気離職率を都道府県別に出してみようと思います。各県における教職危機の程度を数量化してみようという試みです。

 私は,2010年度の『学校教員統計』から分かる,2009年度間の病気離職者数を,同年5月1日時点の本務教員数で除して,教員の病気離職率を計算しました。分母の出所は,文科省の『学校基本調査』です。

 全国統計でいうと,2009年度間の幼・小・中・高の病気離職教員数は1,778人です。同年5月1日時点の幼・小・中・高(全・定)の本務教員数は1,020,323人。したがって,2009年度の教員の病気離職率は,1万人あたり17.4人と算出されます。約575人に1人。決して多い数ではありませんが,この値の相対水準でもって,各県の状況を診断してみようと思うのです。

 下表は,このやり方で明らかにした,47都道府県の病気離職率の一覧です。rank関数で出した,各県の相対順位も添えています。


 最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。ほう。最高の広島と最低の岩手では,教員の病気離職率が5倍近くも違いますね。

 上位5位は,広島,東京,奈良,鳥取,そして石川なり。地理的に分散しているようですが,47都道府県全体を見渡してみて,教職危機の地域性のようなものがみられるでしょうか。この手のことを確認するには,地図化(mapping)が一番です。上表の病気離職率をMANDARAで地図化してみました。


 高率県は地理的に分散していますが,首都圏や近畿圏が濃い色になっています。地方中枢県の広島と福岡も濃い青色で塗られていますね。

 ざっとみた限り,教職危機の量は,都市性と関連があるように思われます。2010年の『国勢調査』から各県の人口集中地区居住率を出し,教員の病気離職率との相関をとったところ,+0.448という正の係数値が出てきました。47というサンプル数を考慮すると,1%水準で有意な相関と判定されます。

 都市性の度合いが高い県ほど,教員の病気離職率が高い傾向です。まあ,都市部ほど,教員に無理難題をふかっけてくるモンスター・ペアレントも多くいるでしょうしね。それに住民の学歴構成も高いので,いろいろと口うるさい保護者も多いことでしょう。このことは,久冨善之教授がどこかでいわれていたような気がします。

 ところで,上図の地図で濃い青色になっている広島と福岡ですが,この2県は少年非行の発生率が高い県です。2009年の警察庁統計を使って,各県の非行少年出現率(小・中・高の刑法犯検挙・補導人員数/小・中・高の全児童・生徒数)を出し,教員の病気離職率との相関係数を出すと+0.334となります。こちらは5%水準で有意です。

 児童・生徒の問題行動の頻度というのも関連している模様です。教員から生徒への暴力(体罰)が大問題になっていますが,その逆(対教師暴力)もあり。手ひどい暴力を受けて,労災認定される教員もいます。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20130117-OYT8T00477.htm?from=tw

 教職危機の指標としての病気離職率と関連する要因は,他にもいろいろあるでしょう。教員の給与水準やTP比等,勤務条件指標との相関も興味深いところです。上の地図で白色になっている東北の県は,教員の給与の相対水準(対民間)が高いのだよな。

 あと,教員集団の構成というのも侮れない要因です。病気離職率は若年教員で圧倒的に高いのですが,教員集団の年齢ピラミッドの型がいびつで,少数の若年教員に圧力がかかるような構造ができている県では,病気離職率の水準は高い,という仮説を立てることもできます。

 教職危機の地域差の要因分析というのは,大変重要な課題ですが,まだ手つかずのようです。面白い結果が出たら学会で報告しようと考えているのですが,そこまでは至らず。もっと枠組みを洗練させて取り組んでいきたい課題です。