2013年1月11日金曜日

性犯罪の認知度の国際比較

 インドにおいて,性犯罪への厳罰化を求める抗議運動が活発化しています。報道によると,2010年の同国のレイプ犯罪は2万2千件とのこと。しかるに,この国の膨大な人口(10億2千万人,世界2位)を思うと,本当にこれだけなのか,という気もします。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121223/asi12122323080001-n1.htm

 性犯罪とは,事の性質上,発覚しにくい罪種です。被害に遭っても羞恥心などから,警察に届け出ないケースも多々あると聞きます。おそらくは,公にならずに闇へと葬られた,いわゆる「暗数」が最も多い罪種なのではないでしょうか。いみじくも上記の記事では,「報告分だけ」という断り書きが添えられています。

 まあ,このことは万国共通なのでしょうが,その程度は国によって異なると思われます。当局が認知した事件の件数が,実際の被害者の数にどれほど近いか。こういう指標を考えた場合,わが国は,どのような位置になるでしょう。この点について,ごく大雑把な計算結果を報告しようと思います。

 2004~2005年に実施された「国際犯罪被害実態調査」では,調査対象者に対し,過去5年間に性暴力の被害に遭ったことがあるかを尋ねています。日本の場合,調査対象の女性1,099人のうち,「あり」と答えたのは27人です。よって,性暴力被害率は2.5%となります。40人に1人。
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_houkoku39.html

 2005年のわが国の女性人口は6,469万人。上記の比率(2.5%)を適用すると,2005年から遡ること5年間の間に性暴力の被害に遭った女性の数は,161万7,250人と見積もられます。男性の被害者はほとんどいないでしょうから,この数をもって,推定被害者数と見立ててもよいでしょう。

 時期がずれますが,国連薬物犯罪事務所のサイトの資料によると,2003~2007年の5年間に日本で認知された性暴力事件(強姦,強制わいせつ)の数は5万4,392件です。
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/statistics/crime.html

 この数は,先ほど出した推定被害者数の3.36%でしかありません。単純に考えると,30人に1人しか被害を届け出ていないことになります。むーん。

 ひとまず,この値をもって各国の性犯罪の認知度を測る尺度としましょう。私は,2003~2007年の性暴力事件の認知件数を知ることができる7か国について,同じ値を計算しました。下表をご覧ください。計算に使った,2005年の各国の人口(a)は,国連の人口推計サイトから得たことを申し添えます。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm


 どうでしょう。推し量られる実際の被害者数と,警察が認知した事件の件数は違うものですね。しかるに,両者の乖離の程度は社会によって異なっているのですが,悲しいかな,それが最も大きいのは日本であるようです。なにせ3.36%ですから・・・。

 性犯罪の認知度が7か国で最も高いのは,北欧のスウェーデンで11.07%なり。この国では,1割以上が拾われています。絶対水準は低いことに変わりありませんが,この国の頑張り度が評されて然るべきでしょう。

 被害者が届け出やすい条件整備がなされているのでしょうか。たとえば,女性警官の配備の充実など。ちなみに,わが国の警察官の女性比率は7%ほどだそうです。これでは低いということで,この比率をもっと高める方針がいわれています。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2400Y_U2A720C1CR0000/

 7か国だけの比較ですが,日本は,性犯罪の認知度が低い社会であることを知りました。「警察に届けられるのは,全体の5%~10%程度」という見解もあるようですが,ここでの試算結果は3%なり。
http://www.police.pref.shizuoka.jp/bouhan/seihanzai/seihanzai-q&a.htm

 今回出したような認知度指標の国際比較をもっと多くの国を交えて行い,その多寡の要因を解析する作業も求められるでしょう。性犯罪の認知度を高めるにあたって,どういう面での条件整備が効果的なのか。

 むろん,国際比較の場合,各国の文化の違いも考慮しなければなりませんから,用いるデータとしては,国内の地域統計がよいかもしれません。「国際犯罪被害実態調査」の国内版をやってみるとよいと思います。