2013年5月12日日曜日

大学生の自殺

 ここ数年,年間500人ほどの大学生が自ら命を断っていますが,彼らが自殺へと赴きやすい「魔の季節」というのはあるのでしょうか。

 内閣府は,警察庁保管の自殺原票を独自に分析して,詳細な自殺統計を作成しています。その中に,各年の月ごとに職業別の自殺者数を集計した表があります。私はこのデータを使って,2009年1月から2013年3月までにかけて,大学生の月ごとの自殺者数がどう推移してきたかを明らかにしてみました。

 ここでいう自殺者数とは,原資料でいう「自殺日ベース」の数値であることを申し添えます。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/


 月ごとの細かい自殺者数なので凹凸が激しくなっています。ピンクの丸は各年のピークですが,2011年を除いて,大学生の自殺が最も多いのは3月です。今年でも,2月から3月にかけて数が急増しています。

 年度末になって就職失敗が確定し,絶望の果てに自らを殺める,というような悲劇も多いことでしょう。最近では,3月を自殺防止対策強化月間としている自治体が多いと聞きます。各大学も,進路届けが未提出の学生に連絡をとるなど,細かなケアを実施している模様です。

 大学生の場合,就職失敗をはじめとした将来展望不良に関わることが,自殺原因の中で幅を利かせています。2012年中の大学生の自殺者は485人ですが,遺書等の分析によって析出された自殺原因の延べ数は480です。

 下図は,主な成分を面積図で表現したものです。各カテゴリーの量が正方形の面積で表されています。警察庁の『平成24年中における自殺の状況』に載っている原因小分類統計をもとに作成しました。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm


 トップは学業不振であり,原因総数(480)の17.9%を占めています。2位は進路の悩み,3位は就職失敗と鬱病です。

 進路の悩みと就職失敗を「将来展望不良」と括ると,大学生の自殺原因の4分の1(25.2%)に相当します。こうした原因構造は,大学生に固有のものです。

 青年期の一大事業である「学校から社会への移行」が,現在では一筋縄ではいかなくなっています。新卒偏重の採用慣行については,文科省が経団連に是正を要求したと聞きますが,どうなっているのかしらん。

 なお,上記の内閣府の詳細統計では,大学生の自殺者数が同居者の有無別に集計されています。一人暮らしの学生のほうが自殺確率は高いと思うのですが,どうなのかなあ。母集団の中での自宅生と下宿生の構成を明らかにし,それと突き合わせてみれば分かるでしょう。

 大学生の自殺の社会的条件を究明する余地はまだまだあります。今後の課題です。