2013年5月14日火曜日

私立校の家庭の年収ジニ係数

 5月7日の記事では,東大・京大合格者が国・私立高校出身者に寡占される傾向が強まっていることをみました。幼少期からの受験準備も含め,入学の多額の費用を要する学校の出身者による寡占現象。これは,社会的不平等の問題に通じます。

 子を私立校に通わせている家庭,とりわけ早い段階からそうしている家庭の年収は,一般家庭と比べてさぞ高いことでしょう。今回は,私立校の児童・生徒の家庭の年収分布を,子がいる世帯全体のそれと比較し,ジニ係数を出してみようと思います。

 2010年度の文科省『子どもの学習費調査』から,私立小・中・高の児童・生徒の家庭の年収分布を知ることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/1268091.htm

 私立小学校の児童の家庭についてみると,400万円未満が3.4%,400~500万円台が6.8%,600~700万円台が14.8%,800~900万円台が16.7%,1000~1100万円台が16.2%,1200万円以上が42.1%,となっています。

 むむむ。富裕層に偏っていますねえ。この分布は,同年代の子がいる世帯全体のそれとは,著しく隔たっていることでしょう。

 私は,2010年の厚労省『国民生活基礎調査』にあたって,児童がいる世帯の年収分布を調べました。明らかにしたのは,世帯主が30~40代の世帯の年収分布です。小・中・高校生の親の年齢は,だいたいこの辺りとみてよいでしょう。集計されている世帯数は,1,726世帯です。以下では,「全世帯」ということにします。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 下表は,私立小・中・高の児童・生徒の家庭,および全世帯の年収分布を整理したものです。全数を1.00とした相対度数で表しています。


 年収1200万円以上の富裕層は,私立小学校では42.1%を占めますが,子がいる全世帯では7.4%しかいません。推定母集団と比較すると,子を私立にやる家庭というのがいかに特定の層に偏っているのかが分かります。下の段階の学校ほど,それが顕著であることにも注意しましょう。

 ジニ係数を計算して,こうした偏りの程度を測ってみましょう。3段階の私立学校について,家庭の年収ローレンツ曲線を描くと下図のようになります。横軸に全世帯,縦軸に私立校の家庭の年収の累積相対度数をとった座標上に,6つの収入階層をプロットし線でつないだものです。


 下の段階の学校ほど,曲線の底が深くなっています。私立小学校の家庭の年収分布は,子がいる世帯全体とかなりズレていることが,上図において可視化されています。

 われわれが求めようとしているジニ係数は,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。算出された値は,私立小学校が0.6079,中学校が0.5268,そして高校が0.2608なり。

 高校のジニ係数が低いのは,2010年度より施行されている高校無償化政策の影響もあるでしょう。本制度により,私立高校の授業料には補助が得られることとなっています。

 しかるに,有力大学への合格者を多く出しているのは,中学校,さらには小学校というように,早い段階からのエスカレーターをしいている学校です。私立小学校や中学校の家庭の年収ジニ係数は,上記のとおり,高い水準にあります。

 こういう学校の出身者による,有力大学合格者の寡占傾向が強まっているわけです。教育という,世間から咎められない経路(戦略)を介した,親から子への地位の再生産。この現象に目を向けることの必要性は,今日とみに高まっているといえましょう。