2015年5月14日木曜日

パソコン利用度とコンピュータスキルの関連

 2月25日の記事では,日本の若者のパソコン所有率(利用率)が国際的にみて低いことを明らかにしました。これと関連して出てくる問題は,彼らのコンピュータスキルがどうなのかです。高度情報社会を生き抜く上で,パソコンスキルは不可欠ですが,そのレベルはどうなのでしょう。

 OECDの国際学力調査PISA2009では,対象の15歳生徒に対し,自身のパソコンスキルの自己評定を求めています。以下の5つの項目を提示し,該当するものを選ばせる形式です。
https://pisa2009.acer.edu.au/downloads.php


 これらへの回答を合成して,対象生徒のコンピュータスキルのレベルを測る尺度をつくってみましょう。「1」という回答には4点,「2」には3点,「3」には2点,「4」には1点のスコアを与えます。この場合,各人のコンピュータスキルは,5点~20点のスコアで計測されることになります。全部4の無能者は5点,全部1と答えた猛者は20点となります(4点×5=20点)。

 日本でいうと,上記の5項目すべてに有効回答を寄せた生徒は5646人ですが,これらの生徒のスコア分布をみると,15点の者が760人と最も多くなっています。その次が10点で563人です。平均を出すと,13.8点となります。

 これが日本の15歳生徒のコンピュータスキル・スコアですが,他の社会はどうなのでしょう。他国についても同じスコア平均を出し,値が高い順に並べてみました。


 日本は最下位です。画像編集,グラフ作成,プレゼン資料作成という限られた面から構成したスキル尺度ですが,わが国のこのような位置に衝撃を受ける方も少なくないでしょう。

 しかるにこれは,あくまで自己評定の結果であり,謙遜を美とする日本では,謙虚な回答をした生徒が多いからではないか,という疑問もあります。ですが,上記のスコア平均は,各国の生徒のパソコン所有・利用状況と相関しています。

 上記のPISA調査では,パソコンの所有・利用状況も尋ねています。自宅にデスクトップパソコンがあり,それを使っていると答えた生徒の比率を出し,先ほどのスコア平均との相関図を描くと,下図のようになります。


 パソコンの利用度が高い国ほど,生徒のコンピュータスキルが高い傾向にあります。相関係数は+0.5739であり,1%水準で有意です。

 こうみると,先ほどのスコアランキングの結果は,回答のバイアスだけから解釈することはできますまい。パソコンへの親和度や修業の差によるとも考えられます。

 なお個人単位でみても,パソコン利用度とスキルレベルは相関しています。日本の生徒を取り出して,上図の2変数の関連図をつくってみました。デスクトップパソコンの所有・利用状況と,コンピュータスキル・スコア(3群)のクロス結果をモザイク図にしたものです。


 デスクトップパソコンが自宅にあり,それを使っている群ほど,コンピュータスキルが高い傾向にあります。一番左側の群では,半分以上がスキルスコア15点以上です。

 何事も経験といいますが,コンピュータスキルもその例に漏れず,修業の量と関連しているようです。わが国の生徒のパソコン所有率(利用率)は低いことから,意図的に彼らをそれに仕向ける余地はあるように思えます。

 といっても,単にパソコンをばら撒けばよいという話ではなく,青少年が高度情報社会という現実から隔絶され,コンピュータを使った情報処理技術の必要性を感じにくい状況が是正されねばなりません。ITを使った仕事の最前線を見せる,学校教育の情報化・IT化を推し進め,否が応にもパソコンに触れざるを得ない状況に置くなど。この点は,これから先,徐々に進行していくことでしょう。

 あと一つ注意すべきは,学力と同様,コンピュータスキルも社会的な規定を被っているのではないか,ということです。パソコンといっても結構高価で,すべての家庭が自宅にやすやすと所有できる財ではありません。前回出した品目ジニ係数でみても,パソコンは,所有の階層差が高い部類に入っています。家庭の経済力とパソコン所有率・利用度は関連しており,そのことが,家庭環境とコンピュータスキルの関連を結果していないか。だとしたら,学力格差ならぬ,ITスキル格差という現象が存在することになります。

 この点に関連して気になるのは,今回出したコンピュータスキル・スコアの分布です。日本と45か国全体のスコア分布曲線を描くと,下図のようになります。


 45か国全体は右上がりですが,日本は2コブ型になっています。スキルが高い生徒と低い生徒に割れている型です。スコアの格差の程度を表すジニ係数を出すと,45か国の中でわが国がトップになっています。これが,生徒の家庭環境とリンクしたものであるならば,ITスキル格差という減少が厳としてあることになります。

 考えてみれば,コンピュータを使いこなすスキルは,学力と同等,ないしはそれ以上の社会的規定を被るといえるかもしれません。わが国のコンピュータスキルが最下位という現実は,内部の分散の大きさ,すなわち格差という視点も据えて考えねばならないでしょう。