2016年8月11日木曜日

一般入試を経由した学生の率

 私立学校振興・共済事業団の調査によると,私立大学の44.5%が定員割れになっているそうです。前年度より1.3ポイントの増。少子化により,大変な状況になっていることがうかがえます。
http://this.kiji.is/133843338573678070

 一口に私立大学といっても,ピンからキリまで。いわゆる入試偏差値が低い大学は,もうなりふり構わず学生獲得に走っていることと思われます。面接で志望者が入学に合意すれば合格という,「アグリーメント入試」をやっている大学もあるといいます。
http://www.j-cast.com/tv/2015/02/20228365.html

 正規の学力試験を課すと受験生が来ない,学生を何とか集めるためとはいえ,これはさすがにどうかと思います。文科省もそういう考えのようで,是正指導の対象となっているようです。

 私は,一般入試を経由した学生の比率が,いわゆる大学ランクによってどう違うかを知りたくなりました。まあ結果は想像できますが,これをデータで可視化することは,昨今の大学入試の機能不全を訴える上で,意義あることといえましょう。

 読売新聞社の『大学の実力2016』(中央公論新社)には,2015年5月時点の学生数と,同年春の入学者数が,大学・学部別に掲載されています。試みに埼玉県内の私立大学のデータを使って,上記の課題に接近してみました。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2015/09/004767.html

 分析対象は,同県内の18私立大学・46学部の学生のデータです。たとえば,教員採用試験の合格率が高い文教大学教育学部のデータをみると,2015年5月時点の学生数は1495人(①),同年春の入学者総数は384人(②),うち一般入試経由者は266人(③),となっています。

 よって一般入試を経た学生数は,①×(③/②)=1036人と見積もられます。一般入試以外(AO等)の経由者は,1495-1036=459人です。

 私はこのやり方で,埼玉県内の18私立大学・46学部について,一般入試経由学生とその他の学生の数を計算しました。そして,各学部の偏差値に基づいて,偏差値グループ別の集計表を作成しました。下表がそれです。


 合計5万8022人の学生のデータですが,予想通り,下位ランクの学部ほど,一般入試を経由した学生の率は低くなっています。偏差値40未満の学部では,一般入試経由率はわずか11.1%,1割です。先に述べたように,まともな学力試験を課すと,学生が来ないためでしょう。

 一般入試経由率はランクを上がるほど高くなり,偏差値60以上の学部では,73.8%となります。

 上表のデータをグラフにしましょう。横幅を使って,各グループの量を比重も表現した,モザイク図にしてみました。


 全体的にみて,一般入試(青色)より,その他(白色)の領分が大きいですね。入試の多様化(個性化)といえば聞こえはいいですが,図の左側のほうを見ると,ランクの低い大学がヤケになっている様がよく分かります。

 偏差値45未満の学部は,学生数の上では全体のおよそ半分ですが,学力試験による入試はあまり機能しておらず,40未満の学部では,それは完全に機能不全に陥っています。

 これは2015年時点の断面ですが,2018年問題といわれるように,これからますます18歳人口の減少が進むことで,図の白色の領分はもっと大きくなることでしょう。

 基礎学力が十分でない学生が多く入ってくることから,いわゆるリメディアル教育(補償教育)が必要とされる所以です。この実施率は,入試偏差値ときれいに相関しています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/02/blog-post_03.html

 上記のグラフを,一昨日ツイッターで発信したところ,結構ウケました。「そもそも,底辺大学は必要ないだろ」という声も多数。偏見を承知でいいますが,私も,これに近い考えを持っています。この手の大学で6年間教えた経験からです。

 何と言いますか,学生の教育機関というよりも,希望剥奪機関として機能しているように感じました。在学中にかけて,学生の覇気がなくなってくる。ある学生は「諦めムードに染まる」と言いましたが,言い得て妙だと思いました。

 80年代の高校格差研究の言葉でいうと,「低位同質的社会化」です。私の仮説ですが,「未来に希望がある」という学生の割合は,1年時には分散していたのが,4年時には低い水準に収束する。こういう傾向がみられると思われます。学生の意識変化を,パネル形式で明らかにする調査をやったら面白いでしょう(ランク別に)。武内清教授とかが,されているのかしら。

 むろん,いわゆる下位大学の中にだって,そのラベルを跳ね返し,学生のレベルを入学時からうんと引き上げている大学もあるでしょう。そういう実践には敬意を表しますが,その具体例を私は寡聞にして知りませぬ。知っているのは,上記のようなネガティヴな例だけです。

 給付型奨学金の導入が検討されていますが,大学生のどの層を対象とするか。議論の焦点はココです。私が経験したような,希望剥奪機関として機能している大学に貴重な資源を注入することには,批判も多いでしょう。

 大学も,公的資源の恩恵にあずかるからには,教育の効果を可視化する努力が求められます。いくらでもいじれる就職率などとは別の形でです。第三者機関による,学生の意識のパネル調査などは,そのデータを得るいい方法だと思うのですが,いかがなものでしょうか。