前回は,15歳生徒に父母の就業状態を尋ねた結果をもとに,夫婦の馬力の国際比較をしました。双方ともフルタイム就業をしている夫婦の割合は,日本は33.7%で,64か国中42位です。
「夫フル+妻パート」ないしは「夫フル+妻主婦」というように,夫のほうが働いている夫婦がマジョリティですが,少数ながらその反対のタイプもいます。妻のほうが働いているタイプです。今回は,こういう「非伝統的」な夫婦がどれほど存在するかを,国ごとに比べてみようと思います。
前回と同じく,OECD「PISA 2012」のデータを用います。この調査では,対象の15歳生徒に対し,父母の就業状態を問うています。選択肢は,①フルタイム就業,②パートタイム就業,③失業,④主婦(夫)の4つです。③と④は「無業」と括りましょう。
この場合,各生徒の父母の就業タイプは,3 × 3 = 9タイプに分けられます。日本の15歳生徒のうち,父母両方の就業状態をきちんと答えたのは5,701人。この5,701人の父母の就業タイプの内訳を%で示すと,下表のようになります。
海を隔てた大国・アメリカとの比較もしましょう。アメリカの%の母数は4,533人です。このデータは,上記調査のローデータを独自に加工して作成したものであることを申し添えます。
日本では「夫フル+妻パート」の夫婦が38.0%で最も多くなっていますが,アメリカでは双方ともフルタイムの夫婦が最多です(47.7%)。全体の半分近くが,二馬力夫婦であると。
ここでの関心事は,妻のほうが働いている「非伝統的」夫婦の割合ですが,黄色マークのセルの夫婦が該当します。日本は全体の3.1%,アメリカは13.2%なり。
違うものですねえ。日本では31組に1組ですが,アメリカでは8組に1組の出現率です。15歳生徒の父母といったら,私と同じ40代前半くらいでしょうか。働き盛りの夫婦の稼ぎは,夫がメインで妻はサブ。それはどの国も同じですけど,そのレベルにはグラデーションがあることが伺われます。
他の国についても,上表の黄色マークの夫婦,妻のほうが働いている「非伝統的」夫婦の割合を計算してみましょう。64か国の数値を高い順に並べたランキングにすると,下表のようになります。
上位には,旧共産圏の社会が並んでいます。トップはブルガリアで16.0%,6組に1組の出現率。先ほどサシで比較したアメリカは8位となっています。
日本はというと,下から2番目です。周りは,宗教的な理由で女性があまり外に出ないイスラーム社会ばっか。日本の女性の社会進出度は,イスラーム諸国と同レベル(それ以下)であることの可視化にもなっています。
日本は,伝統的夫婦の呪縛が強い社会と性格づけられるのだなあ。しかるに,それに拘っていると,あまりいいことはなさそうです。リンダ・グラットン教授が『ライフ・シフト-100年時代の人生戦略-』で指摘されているように,人生の各段階において,主な稼ぎ手が柔軟にチェンジできるようになることが望ましい。
働き始めて10年ほど経ったら,主な稼ぎ手を妻にチェンジして,夫はその間にスキルアップを図る。変動の激しい時代では,絶えず「学び直し」が求められますが,その機会を得ることにもつながるでしょう。要は,役割を硬直的に固定してしまわないことです。
これから先は,こういう柔軟な夫婦の役割設計(戦略)が求められるのですが,日本がそれから最も隔たっていることが,データで分かってしまいました。
何度も言いますが,自国の常識が世界で普遍的などと思うなかれ。国際比較によって,目を外に開くことが,社会の変革を支持するエビデンスを得ることになるのです。