2017年6月20日火曜日

婚外子の国際比較

 人生にはいくつかのステージがあり,それぞれを区切るイベントがあります。俗にいう「ライフ・イベント」ですが,学校卒業,就職,結婚,そして出産といったものが想起できるでしょう。

 これらは順不同でも構わないのですが,日本では寸分狂わず「①学校卒業→②就職→③結婚→④出産」というルートをたどることが期待されます。②と③が入れ替われば「定職もないのに…」と嫌味を言われ,③と④が逆さになれば「結婚してないのに…」と偏見を向けられる。

 しかしこれは日本に長く根付いた慣習によるもので,絶対ではありません。最近ではこれに囚われない人も増えているでしょうし,世界に目を転じれば,上記の①~④の順序があべこべな社会は数多くあります。

 「自国の今」を相対化する使命を負う社会学にとって,その様をデータで可視化するのは重要な仕事といえるでしょう。それをちょっとばかりやってみましょう。

 そうですねえ。では①よりも③を早く経験している人,つまり学生結婚している人の比率なんてどうでしょう。内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)では,就学状況と配偶関係を問うています。これらをクロスすることで,目的のデータを作れます。下表は,20代前半の学生のサンプルを取り出し,結婚している者(事実婚含む)の割合を出したものです。


 日本は167人の学生サンプルのうち,結婚している人はゼロです。さもありなんですね。私も,こういう人は見たことがありません。お隣の韓国もごくわずかです。

 しかるに,ヨーロッパの諸国はさにあらず。独仏瑞では,結婚している学生の割合が2割を超えています。スウェーデンでは3人に1人です。

 多くは,法律婚とは異なる事実婚ですね。だからといって,何ら不利を被ることはありません。スウェーデンではサムボ法によって,事実婚(同棲)はれっきとした家族制度とみなされ,権利や保護が付与されます。言わずもがな,偏見が向けられることもありません。

 法律婚と違って簡単に解消できるので,言うなれば相性を見極める「お試し期間」といえましょうか。青年期は様々な試行錯誤をして,自己アイデンティティを確立する時期ですが,こういう制度もいいですね。

 このようなお国柄ですので,当然,婚外子も多くなっています。上記のイベントでいう③と④の順序がひっくり返る人なんてたくさんいます。というか,こちらのほうがマジョリティです。

 OECDの統計より,生まれてくる子どもの何%が婚外子かを国ごとに知ることができます。最新の2014年のデータをもとに,国際ランキングにすると以下のようになります。


 違うものですねえ。日本や韓国ではほんのわずかですが,中南米やヨーロッパでは半分以上という国が結構あります。

 中南米では男性が愛人を多く作ること(≒一夫多妻)や,レイプ被害といった事情もあるかと思いますが,北欧や西欧では事実婚が幅を利かせているためと思われます。フランスは56.7%,スウェーデンは54.6%が婚外子です。婚外子は何ら差別を被ることはなく,婚内子と同等の権利が保障される。

 日本でも,2013年の民法改正により,婚外子の相続分は婚内子の半分という規定は削除されましたけど,社会的な偏見はまだまだ強いのが現実でしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/877075583804424192

 さて,婚外子比率のグラフをツイッターで発信したところ,「婚外子が多い国は出生率が高そう。旦那はいらんが子どもは欲しいっていう女性多いんで」というコメントが寄せられました。

 なるほど。確かに,婚外子が半分以上のフランスやスウェーデンは,日本より合計特殊出生率が高くなっています。もっと多くの国を交えて,婚外子比率と出生率の相関をとったらどうなるでしょうか。


 攪乱はありますが,35か国のデータでみると,2つの指標の間にはプラスの相関関係が認められます。婚外出産という選択が開けている国ほど,出生率が高いと。

 結婚するといろいろな縛りが生じますが,それをよしとしない女性も増えているでしょう。しかし,子どもは欲しい。「旦那はいらんが子どもは欲しい」。出産期の女性のうち,こういう人が何%いるかは分かりませんが,決して少なくないように思います。

 ちきりんさんが,「結婚は時代遅れのもの」と言われています。確かにそういう面はあるでしょう。シングルマザーへの経済的支援を手厚くするなど,結婚せずとも子どもを産める環境を整えれば,出生率は向上に向かうのではないか。そんな展望を示されていますが,私も賛成です。

 これら先,結婚という制度の重荷感はますます強まってくるでしょう。高齢化により,相手の親の介護ものしかかってくる。日本では,こういう家族ケアが外部化されていませんので。子どもは欲しいが,結婚は御免という女性が増えてきても不思議ではありません。

 少子化の元凶は未婚化である。よって若者を結婚させないといけない。こういう考えのもと,各地で婚活イベントが開かれているのですが,結婚と出産をセットで考える枠組みを見直す時期にきています。

 上記のちきりんさんの記事では,1980年代以降,ヨーロッパ諸国で婚外子率が急激に高まったことが示されています。婚前交渉ご法度のカトリック国(スペイン,イタリア…)もです。これは,希望的事実に他なりません。為せばなる,社会は変わるのです。