エレン・ケイは「20世紀は児童の世紀」と言いましたが,21世紀は女性の世紀,もっと限定すると「働くママ」の世紀。日経デュアルの連載の最終回で,私はこう書きました。
こういう意識は共有されているようで,政府は毎年,『男女共同参画白書』を公刊し,女性の就業率等のデータを公表しています。定番のグラフは,女性の労働力人口率の年齢カーブです。各年齢層の女性のうち,就労意欲のある労働力人口は何%か。ドットをつないだ折れ線グラフです。
このグラフの形は,過去と比して変わっています。ILOのデータベースから数値を採取したグラフで,その様をご覧に入れましょう。日本だけでは面白くないので,アメリカとスウェーデンのカーブも添えます。
赤色は日本ですが,1990年では結婚・出産期に谷がある明瞭な「M字」型になっていました。よく知られているM字カーブです。しかし30年を経た2020年(推計値)をみると,谷はほとんどなくなっています。これをもとに,政府文書では「女性の社会進出が進んだ」と書かれることが多し。
未婚で働き続ける女性が増えたからだろ,という疑問が出てきますが,それは置いておいて,ここで問うべきは働き方の中身です。大きくはフルタイムとパートに分かれ,日本では正規と非正規という従業地位の区分もあります。同じ時間,同じ仕事をしても,この2つのグループの間では,身分格差と形容できるような賃金格差があるのは誰もが知っています。
ILOの統計では,こうした区分別の就業者数を知ることはできませんが,『世界価値観調査』で就業状態を尋ねた設問のデータが使えます。だいぶ前まで遡った時系列比較も可能です。上記の3か国の成人女性に対し,労働力状態を問うた設問の回答結果は以下のごとし。左欄は第1回の1981~84年調査,右欄は最新の第7回(2017~20年)の回答分布です。WVSサイトのオンライン集計で,サクッと出すことができます。
賢明な皆さんは,上記の表をみて「は?」「マジかよ…」と思っていることでしょう。それを視覚的なグラフにして,インパクトを出しましょう。
働く女性は増えているのに,フルタイム就業率は下がっている。すなわち,他の働き方が増えているってことです。フルタイムとパートで働く女性の率(上表)をグラフにすると,それがハッキリわかります。
女性の就業率(自営除く)ですが,日本でも働く女性は増えています。しかし,フルタイムとパートで色分けしてみると,増えているのはパートでフルタイムは減っています。働く女性が増えたといっても,増分の多くはパートであるようです。
アメリカとスウェーデンでは,パートは減り,フルタイムが増えています。スウェーデンは32.8%から51.7%へと大幅増加です。この国の就業率が下がっているのは,成人学生が増えているためでしょう。元の表(前掲)によると,現在の成人女性の12.3%が学生ですので。さすがは生涯学習の先進国ですね。
一口に女性の社会進出と言っても,様相は国によって違っていて,欧米はフルタイム増によるものですが,日本はパート(非正規)依存型であるのが知られます。今世紀の初頭に新自由主義のナタが振るわれましたが,女性は,それを下支えする安い労働力として取り込まれているだけだと。シカゴ大学の山口一男教授が言われていますが,「量ではなく,質の向上が重要」であるといえます。
女性のトータルの就業率をみて「よし」とするのではなく,その中身を透視しないといけません。女性の労働力が安いことは,グラフ化してツイッターで流しましたが,こうでは女性は結婚相手の男性に高収入を求めざるを得ません。しかし今では,若年男性の給料も下がってますので,そんな望みは叶わない。しからばと,実家にパラサイトして理想の相手と会えるのを待ち続け,それが集積して,社会全体の未婚化・少子化が進行する…。
二馬力でいけば,稼ぎ手を柔軟にチェンジすれば何とかなる。大事なのは,こういう展望を若者に持たせることです。2番目のグラフをみると,80年代では欧米も日本と近い状況でした。変わったのは,その後です。為せば成るを実証しているといえます。