2018年10月5日金曜日

高齢男性の家事の国際比較

 本ブログを長くご覧いただいている方は,「またか」と思うテーマでしょう。ですが,高齢男性に焦点を合わせているのがポイントです。

 昨日の『日経スタイル』に,「人生100年,定年シニアは家事力を高めよう」という記事が出ています。そうですよね。60歳で退職し,その後ずっと家事もしないで家にいるだけの夫など,妻にしたら「お荷物」以外の何物でもありません。

 子育て期の夫の家事時間や,妻との分担率については,これまで何度もデータを出してきました。しかるに,高齢夫婦に注目したことはまだありませんでした。超高齢社会が到来する中,このステージをどう生きるかは非常に重要となります。

 定年の延長(撤廃)により,仕事をする期間は長くなるでしょうが,高齢期では仕事の時間は減り,家庭で過ごす時間が長くなります。言わずもがな,そこでは家事という名の労働があります。日本の高齢男性は,どれくらい家事をしているのか。

 用いるのは,ISSPが2012年の実施した『家族と性役割の変化に関する調査』の個票データです。各国の対象者に,週に家事(household work)を何時間するかを訊いています。私は,60歳以上の有配偶男女を取り出し,平均値を計算してみました。事実婚のパートナーがいる人も含みます。

 日本の有効サンプル数は,男性が156人,女性が154人です。週の平均家事時間は男性が5.1時間,女性が22.8時間となっています。予想通り,男性は少ないですね。均すと,1日に1時間もやっていません。60歳以上の夫婦の家事分担比は,「夫:妻=1:4」と見積もられます。

 これは日本のデータですが,他国はどうでしょう。以下に掲げるのは,データが得られた41か国の一覧表です。


 パートナーのいる高齢男性の家事時間は,日本は台湾と並んで最も低くなっています。最も高いのはスロバキアの17.9時間,その次はラトビアの17.8時間ですか。東欧では,男性の家事時間が比較的長いですね。

 主要国をみると,お隣の韓国が8.5時間,アメリカが9.3時間,イギリスが9.7時間,ドイツが9.0時間,フランスが7.2時間,スウェーデンが10.7時間,となっています。

 右端は,女性(妻)との間の分担率ですが,日本の男性(夫)の18.4%は,41か国の中で最低のようです。妻がいる日本の高齢男性の家事時間,分担率とも国際的にみて最も低い,という結果が出てしまいました。

 戒めの意味を込め,2012年の調査データで出たこの惨状を,グラフで視覚化しておきましょう。横軸に家事時間,縦軸に分担率をとった座標上に,41か国を配置します。


 アメリカやスウェーデンでは,高齢夫婦の家事分担比は「夫:妻=2:3」くらいですね。

 これからAIの普及により,家事も省力化されるでしょう。また,ジェンダー意識の希薄化により,夫の分担率もアップするでしょう。ゆえに,多くの国が左上にシフトしていくと思われます。

 しかし日本の現況をみると,夫が家事をやらないので,高齢夫婦の家庭生活の負荷は妻にかかっています。「定年後,家事もしない夫がずっと家にいると思うと,気が遠くなる。離婚したい」。こんな投書を新聞で見たことがありますが,高齢の妻の心的葛藤をうかがわせるデータがあります。気分障害(鬱を含む)の外来患者数です。


 2014年の『患者調査』から作ったグラフですが,男女ともピークは40代前半になります。働き盛りで,負荷が大きいためでしょう。女性の場合,育児,早い人では介護ものしかかってきますし。

 ところが女性では,65~74歳にもう一つの山があるのです。これは何なのでしょう。

 前に明らかにしましたが,47都道府県別に高齢夫婦の夫の家事分担率を出し,熟年離婚の発生率との相関をとると,マイナスの相関が認められます。これなども示唆的ですよね。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/09/post-5864.php

 生涯現役社会といっても,高齢になれば仕事の時間は減り,家庭で過ごす時間が長くなります。寿命の延長により,その期間は延びる一方です。このステージの家庭生活を平穏に過ごすためにも,冒頭の『日経スタイル記事』でいわれている通り,家事力を身に付ける必要があるでしょう。

 定年後に即席で訓練しても,一朝一夕に身に付くものではありますまい。現役時から,心がけておきたいものです。

 家庭に籠るだけでなく,外に出ることも大切です。「キョウヨウ・キョウイク」が大事といいます。「今日,用事」「今日,行くところ」がある,という意味です。生活構造に幅を持たせることです。

 現役時,仕事一辺倒だった人は,定年後に生活の場が「会社一色」から「家庭一色」になるだけ。ずっと家にいるとなると,どうしても夫婦間の葛藤が起きやすくなる。現役時から趣味を持つ,副業をするなど,「複数の顔」を持っている人は,この災を免れることができます。

 年金がどうとか,老後の心配をする人が多いですが,もうどうにもならないことです。今の生活に幅を持たせることが,老後を充実させるための条件といえましょう。