2019年5月29日水曜日

フルタイム就業女性の変化

 結婚・出産期にかけて,フルタイム就業女性はどれだけ減るか? とある方が,この問題にトライしていました。2015年の『国勢調査』のデータを使って,20代後半と30代後半の数を比較しています。

 うーん,これはよろしくないです。こういう問題に接近する場合,同一コーホート(世代)の変化を辿らないといけません。世代によって人口量が違いますので。

 試みに,人数的に多い団塊ジュニアの世代(1971~75年生まれ)の軌跡をたどってみましょうか。この世代は2000年に25~29歳,2005年に30~34歳,2010年に35~39歳,2015年に40~44歳となります。

 各年の当該年齢層のフルタイム就業女性数を拾えばいいわけです。e-statの『国勢調査』のページで簡単に採取できます。フルタイム就業とは,労働力状態が「主に仕事」である人です。

 2000年(25~29歳) 271万568人 <100.0>
 2005年(30~34歳) 204万8588人 <75.6>
 2010年(35~39歳) 205万8353人 <75.9>
 2015年(40~44歳) 218万8822人 <80.8>

 20代後半から30代前半の結婚・出産期にガクンと減り,子育てが一段落したら盛り返す,という具合ですね。<  >内は20代後半時点を100とした指数ですが,これだと変化が見やすい。結婚・出産により,フルタイム就業女性が25%(4分の1)も減るのですね。

 これは全国の統計ですが,様相は地域によって異なるでしょう。20代後半と30代前半の落差は,都市部では殊に大きいのではないかと思われます。私は,47都道府県のデータを集めて,同じ処理を施してみました。下表は,20代後半の人数を100とした指数の一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値,赤色は上位5位の数値です。

 都道府県別だと,人口の地域移動の影響が出る恐れがありますが,ひとまずそれは置いておきます。


 どうでしょう。女性の就業に対する結婚・出産のインパクトは,地域によって違うようです。20代後半から30代前半の減少率は,奈良県では3割以上(100.0→66.8)ですが,高知県では1割未満にとどまっています(100.0→90.3)。

 首都圏(1都3県)は,軒並み減少が大きくなっています(25%超)。三世代同居が少ない,保育所の不足といった条件によるでしょう。対して,東北,北陸,山陰では減少率が低くなっています。都市部とは逆の条件があるからです。夫婦フルタイムの共稼ぎでないとやっていけない,という事情もあるでしょうが。

 30代後半以降の盛り返しの度合いも,県によって異なります。30代後半になると増える県が多いですが,都市部ではこのステージでも減少が続きます。私が住んでいる神奈川県は,30代前半から後半にかけて74.6から66.3にダウンです。40代になってようやく盛り返しが始まる,という具合です。学童保育が足りないのもあるでしょうか。

 鳥取県や島根県は,40代前半になると20代後半の頃より多くなります。人口流入の影響とは考えにくいのですが,これはどういうことか。いや,島根県の浜田市は,介護職に就くことを条件に,住居・クルマ付きで母子世帯の移住を募る事業をやってますので,その効果ゆえかもしれません。
https://twitter.com/tmaita77/status/1133594915437404160

 結婚・出産・子育て期にかけてのフルタイム就業女性の減少。誰もが知っている事実ですが,データにするとこんな感じです。地域差もあり,大きくは都市か地方かという基底的条件によります。三世代世帯の量,小さい子がいる母親が働くことへの意識など,幾多の派生要因がこの上に乗っかるのですが,政策で変え難い要因を取り上げても,あまり意味はありません。

 ここでフォーカスを当てたいのは,保育所の供給量です。私は47都道府県について,5歳までの乳幼児の何%が保育所等に在籍しているかを計算しました。2015年10月時点の在所者数を,同時点のベース人口で割った値です。保育所等とは,認可保育所,認定こども園(幼保連携型,保育所型)をいいます。

 上記の表の右端の数値との相関をとってみましょうか。20代後半のフルタイム就業女性数を100とした時,40代前半の数はいくつになるかです。言い回しが適当か分かりませんが,フルタイム就業女性の残存率と呼びます。


 ほう,強く相関しているではないですか。相関係数は+0.8近くにもなります。保育所在所率が高い県ほど,フルタイム就業女性の残存率が高い傾向にあります。

 当然といえばそうですが,明瞭な傾向ですね。女性のフルタイム就業の維持(促進)に際して,保育所整備の効果はやはり大きい。三世代世帯率の影響もあるだろうと言われるかもしれませんが,重回帰分析でこの2変数の効果を比較した所,保育所のほうに軍配が上がりました(拙著『データで読む教育の論点』晶文社)。

 今年10月から,保育所無償化が始まりますが,受け皿を大幅に増やす政策ではないので,待機児童問題解消には結びつかないでしょう。入れた人と落ちた人の格差が開き,後者の不公平感が高まるという,よからぬ効果が出る公算が高し。何度も言いますが,消費税アップの財源を,保育士の待遇改善にあて,受け皿を増やすことが先決だったのではないでしょうか。

 団塊ジュニアの世代を例に,20代後半から40代前半のステージにかけて,フルタイム就業の女性がどれほど減るかを明らかにしました。こういう問題を扱う際は,面倒であっても,同一世代の追跡をする必要があります。非正規雇用やニートの変化を跡付けても面白い。興味ある方は,トライされたし。『国勢調査』のページを開き,データを集めましょう。