2019年7月29日月曜日

教科担当のジェンダーの国際比較

 参院選が終わりました。投票率は過去最低レベルで50%(半数)を割ったそうですが,それに寄与しているのは若年層でしょう。

 デジタルにどっぷり浸かった若者は,投票所に出向き,紙を投票箱に入れるというアナログ選挙に馴染みにくいのもあるでしょうが,一番の要因はやはり,政治的関心が低いことだと思われます。

 国立青少年教育振興機構が2016年に実施した調査では,小4~高2の青少年に対し,政治的関心を尋ねています。「政治や選挙に関心がある」という項目にどれほど当てはまるかを,4段階で答えてもらう設問です。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/130/

 「とても当てはまる」「少し当てあはまる」の肯定の回答比率を,性別・学年別に出してみると,気になる傾向が見受けられます。下図は,始点の小学校4年生と,終点の高校2年生の率を比較したものです。


 男子は,小4では34.8%であったのが,選挙権を得る直前の高2になると40.0%にアップします。しかし女子は逆の動きで,37.8%から30.1%に低下します。同一世代を追跡したわけではないので,加齢による変化とは言い切れませんが,子どもの政治的社会化にジェンダー差があるのを匂わせるデータです。

 在学中にかけて,「女子は政治には向ていない」というメッセージを受け取るのでしょうか。目を凝らしてみると,学校内部には,それを発する装置があるように思えます。特別活動の学級活動や生徒会活動は,民主主義の実践を体験させる場ですが,クラス委員や生徒会長といったリーダー的役割が,男子に偏していることはないか。私の中学では,会長は男子,副会長は女子と決まっていましたね。

 あと,社会科教員に女性が少ないのもイタイ。学校外で,マイクを握って演説する政治家の大半は男性。せめて学校内では,政治について語る女性のモデルを見せたいのですが,悲しいかな,中高の社会科教員のほとんどが男性。これでは,若き女子生徒が政治と女性のリンクをイメージできず,政治的関心が萎んでいくのも無理からぬことでしょう。

 OECDの国際教員調査「TALIS 2013」によると,日本の中学校の社会科担当教員の女性比率は23.3%となっています。数学教員の女性比(29.0%)よりも低いのですよね。

 アメリカの中学校の社会科教員の女性比は49.9%となっています。半分が女性じゃないですか。主要国について,中学校の全教員,数学教員,理科教員,社会科教員の女性比率を出してみると,以下のようになります。


 予想通り,日本は低いですね。3つの教科とも,女性比率は3割に届きません。対してお隣の韓国では,どの教科も7割近くが女性となっています。

 ただこの国では,全教員の女性比が高くなっています(69.8%!)。他の欧米諸国も然り。よって3教科の女性比を評価するに際しては,ベースの女性比を考慮する必要がありそうです。そこで,輩出率という指標を計算してみます。

 輩出率=当該教科担当教員の女性比/全教員の女性比

 ジェンダーの偏りがないなら,分母の全教員の女性比と等しくなるので,この値は1.0になるはずです。男性に偏るほど1.0から下方に遠のき,女性に偏する場合はその逆です。日本の数学教員だと,29.0%/38.9%=0.746となります。全教員では女性は38.9%なのに,数学教員では29.0%しかいないので,1.0をかなり割ります。

 表の下段には,この輩出率を掲げています。うーん,ベースの女性比の影響を除いても,日本の中学校では,女性が3教科の担当になるチャンスは低いようです。理科に至っては0.586,女性が担当になるチャンスは,偏りが一切ない場合の4割以下です。他の国も1.0を下回りますが,その落差は日本よりは小さく,ジェンダーの偏りが少ないことが知られます。

 以上は6か国の比較ですが,世界に目を広げると,この輩出率が1.0を上回るケースも見受けられます。以下に掲げるのは,36か国の輩出率の一覧です。3教科の担当に女性がなるチャンス,教科担当のジェンダーの国際比較です。


 赤字は1.0を超える数値,すなわち男性より女性が担当につくチャンスが高いケースですが,結構あるじゃないですか。イタリア,マレーシア,ニュージーランド,ポルトガルでは,3教科とも,男性より女性が担当になりやすいようです。

 対して,東洋の島国の日本では,3教科の女性輩出率とも,ダントツで最下位となっています(青色マーク)。1.0よりも,下方の振れ幅が大きいことが明らかです。理系教育の2教科,政治的社会化を促す社会科の担当に,女性がなるチャンスが低いと。女性比率の水準が高いのなら問題はないのですが,2番目の表にあるように,数学が29.0%,理科が22.8%,社会科が23.3%という有様ですので,看過し得ることではないです。

 社会科教員のジェンダーから話を始めましたので,この教科の担当教員のジェンダーをグラフで視覚化いたしましょう。横軸に社会科教員の女性比率,縦軸にベースの女性比の影響を除去した輩出率をとった座標上に,36の国を配置しました。


 十字より右上にあるのは,社会科教員の半数以上が女性で,かつ当該教科の担当に,男性より女性がなりやすい国です。イタリアをはじめ,結構ありますね。欧米の主要国は,輩出率は1.0を下回りますが,女性の率(横軸)が高いので,大きな問題はありません。

 日本はというと,左下に置いて行かれてしまっています。女性比率そのものが低く,男性に比して女性がなるチャンスも小さい。事態の改善の余地は大ありです。

 数学,理科,社会…。わが国では「男性」向きと思われている教科で,「男性>女性」のジェンダーの偏りが激しいのですが,それは普遍的にあらず。事態は徐々に変わっていくでしょうが,悠長に構えているわけにもいきません。

 これらの教科の教員採用試験では,人為的に女性を多く採る政策を施行してもいいでしょう。能力が同等と認められるならば,女性を優先的に採用する。昨今の大学教員公募では定着していることですが,中高でもこれをやっていい。合法の範疇にある,アファーマティブアクションですので。

 それは,リケジョを増やすことや,女性の政治参画を促すことにもつながります。教育の効果というのは,個々の教員の心がけや授業の方法というような,精神論や技術論とつなげて論じられがちですが,子どもが日々目にする,客観的な生活環境というのも劣らず重要なんですよね。

 残念ながら,学校の外の社会は未だに「オトコ社会」で,男女共同参画社会基本法が掲げるような理想型とは隔たっています。しからば,学校という小社会だけでも,これに近づけたいもの。全体社会を変えるよりも,はるかに少ない労力・費用で済みます。そこで学んだ人間が,社会を変えていくのです。