2019年11月25日月曜日

中堅教員の不在

 神戸の小学校で起きた,教員間いじめが世間を震撼させています。子どものいじめを戒める立場にある教員がいじめとは何たることか。関係者は,ショックを隠せないでいます。

 当の教員の資質を問う声が多数ですが,当人の個人的要因に帰してだけでは,解決策は「研修の充実を!」でおしまいです。それも大事なんですが,社会学的な立場からすれば,職場環境の要因というのも抽出してみたい。これは,政策によって変えることができるからです。

 こんな不満を持っていたのですが,昨日の神戸新聞に面白い記事が出ています。「40代,20年で半分以下 公立小教諭のいびつな年齢構成 教員間暴力の背景か」と題するものです。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201911/0012902819.shtml

 今の40代といったら,私の世代ですね。新卒時の教員採用試験が厳しかったからでしょう。教員の年齢構成は,文科省『学校教員統計』で知れます。最新は2016年ですので,およそ20年前の1998年と比べてみましょうか。下図は,公立小学校教員の年齢カーブを描いたグラフです。全数に占めるパーセンテージによります。


 1998年では,中堅の40代に山がありました。しかし2016年では,この層に谷ができています。40代の教員,減ってるんですね。実数でいうと,15万5796人から8万4867人へと減少です。全体に占める割合は39.7%から22.7%に低下。上記記事タイトルにあるように,20年間でおよそ半減です。

 なるほど,今の教員の年齢構成は歪(いびつ)な型になっています。ちなみに都市部に限ると,40代の凹みはもっと大きくなります。千葉県では,公立小の40代比率が15.1%です。ピラミッドを描くと,若年層と年輩層に分化した型ができています。

 私がまず思ったのは,今の若手教員は,年齢が近い先輩教員の指導やサポートを受ける機会がないのだろうなあ,ということです。少子化で学年単学級の学校も多くなってますので,同学年の担任同士の助け合いもできなくなりつつあります。早いうちから,学年主任等の責任あるポジションを任されるプレッシャーも大きい。

 こういうことが要因かは分かりませんが,最近,若年教員の病気離職率が上がっているのです。教員の病気離職率は90年代以降増えているのですが,とりわけ若年層で増加幅は大きくなっています。仔細は,下記ニューズウィーク記事のグラフを見てください。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-10042.php

 まあ,30代そこそこにして校内の要のポジションにつくことも多くなっているでしょうね。しかし中には,それを逆手にとって,横暴な振る舞いをする輩もいます。神戸の小学校でいじめを主導した教員2名(30代)は,校内で中核的な位置にあり,一定の力を持っていたそうです(上記の神戸新聞記事)。

 なるほど,教員の歪(いびつ)な年齢構成が教員間暴力に影響するとは,こういうことですか。未熟な教員が校内を牛耳るようになると,よからぬことが起きやすい。近年,教員採用試験の競争率が低下しており,新規採用教員の質が落ちているともいわれます。こういう世代が,早いうちから校内でリーダー的な位置につくことになる。うーん,今回の教員いじめのような事件が,これから増えてきそうな予感がしないでもありません。

 教員の歪な年齢構成が,教員間暴力の背景要因になり得る。ユニークな見解ですが,歪な年齢構成の度合いは,地域によって違っています。注意を喚起する意味合いで,47都道府県別の「歪度」を出しておきましょう。

 全教員に占める,40代の中堅教員の割合です。これが高いほど,若手へのサポート条件が整っているといえます。低いのはその逆で,よからぬ若手が学校を牛耳るなんてことも起きやすいことになります。


 ほう,首位は私の郷里の鹿児島じゃないですか。40代の教員が全体の4割です。私の世代が新卒のとき,この県は競争率が相対的に低かったのかなあ。赤字は40代が3割以上で,年齢カーブを描くと,大よそ中堅層が膨らんだノーマルな型になります。

 右下はその逆で,40代の中堅層が凹んでいる県です。都市的な県が多く,東京は19.1%,大阪は16.4%,最低の千葉は15.1%です。この記事で述べた,中堅教員の不在に伴う諸問題のリスクが大きいといえるでしょう。OB教員等の活用も含め,若手へのサポート資源を充実させる必要があります。早い段階から校内の要職につく若手への研修も不可欠となるでしょう。