1991年以降の大学院重点化政策により,大学院博士課程を出ても定職のない,いわゆる無職博士が増えているといわれます。東京学芸大学大学院博士課程の修了者の無職率をもとに推計すると,その数は7万2千人ほどと見積もられます(詳細は,4月4日の記事を参照ください)。
彼らの多くは,大学や短大などの非常勤講師をすることで,目下の糊口をしのいでいます。しかし,非常勤講師の給与はとても低いので,生活はさぞ苦しいことでしょう。今回は,こういう「職なし非常勤講師」がどれほどいるかを数で把握したいと思います。
この問題については,2月10日の「ザ・非常勤講師」という記事でも扱いました。しかるに,そこで明らかにしたのは,「教員以外の者からの兼務教員」の数です。この中には,作家や実業家など,教員以外の定職を持つ人間が含まれてしまっています。厳密にいえば,これらの人間は除外することが求められます。
教員の属性について事細かに調べている,文科省の『学校教員統計調査』をパラパラと見ていたら,大学や短大の兼務教員の数が,本務先の有無別に記載されていることに気づきました。私は,本務先のない兼務教員の数に注目することとしました。以後,「職なし非常勤講師」ということにします。
職なし非常勤講師の数を跡づけてみると,上図のようになります(『学校教員統計』は3年おきの調査なので,3年刻みになっています)。一貫して増加の傾向です。グラフをよく見ると,1992年と1995年の間に段差があることが分かります。92年では2万8千人であったのが,95年では4万9千人と,2万人以上も増えています。1991年に大学院重点化政策が開始されたのですが,この政策の(悪しき)効果が表れ始めた,ということでしょう。
職なし非常勤講師の数はその後も増え続け,最新の2007年の統計では,7万7千人ほどになっています。奇しくも,冒頭で紹介した推定無職博士数(7万2千人)とさして違わない数になっています。
この7万7千人の方々は,大学や短大の非常勤講師一本でやっているわけですから,さぞかし辛い生活を送っていることでしょう。そもそも,大学の非常勤講師制度は,自校の教員で賄うことのできない(特殊な)科目の担当を,他校の教員に委ねる,というような形で発達してきたものです。本業のある人間に任せるのですから,給与は「おこずかい」的な額でよろしい,とされてきました。
ところが,現在では,非常勤講師の性格は大きく様変わりしています。上表によると,1989年では,大学や短大の非常勤講師の多くを占めるのは,大学の専任教員でした。ですが,2007年では,定職なしの者が45%と半数近くを占めています。その理由については明白でしょう。お気楽な非常勤講師を本業に選ぶ道楽者が増えたからではないことは,言うまでもありません。
今後,職なし非常勤講師は,数の上でも,大学教員に占める比重の上でもますます増加していくことでしょう。当局も,非常勤講師の性格の変化を認識した上で,待遇改善などの措置をとるべき段階にきているものと思います。