いじめは,現代の子どもの問題行動の最たるものですが,その量的規模を把握するのは非常に困難です。文科省『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』にて,2009年度間に公立学校で認知されたいじめの件数(児童生徒1,000人あたり)を県別にみると,最も多いのは熊本県の30.1件です。
しかし,この数字は,当県がいじめの摘発に本腰を入れたという名誉の数字と読むべきでしょう。いじめの発生頻度を計測するにあたっては,文科省の認知件数の統計は使えません。いじめとは外部から見えにくいものである以上,当事者の意識をフィルターにするのが妥当であると思います。
文科省が毎年実施している『全国学力・学習状況調査』では,いじめに対する意識を問うています。「いじめは,どんな理由があっても絶対にいけないことだと思いますか」という設問に対し,「あてはまる」,「どちらかといえば当てはまる」,「どちらかといえば当てはまらない」,「当てはまらない」,のいずれかで答えてもらうものです。ここでは,後2者の回答をした者の比率を,いじめ容認率とみなしましょう。
2010年度調査の公立中学校3年生の結果でいうと,この意味での「いじめ容認率」は8.7%です。47都道府県別にみると,最高は京都の11.8%,最低は鹿児島の4.9%となっています。この両県では,いじめを容認する生徒の比率に倍以上の差があります。
47都道府県の値を地図化すると,上記のようになります。10%を超える県は黒く塗っていますが,首都圏や近畿圏の都市的な地域がほとんどです。赤色の準高率地域も,宮城,愛知,兵庫など,都市的な県が多くなっています。予想されることではありますが,いじめは,都市的な環境と結びついているようです。
願わくは,このような大雑把な知見だけではなく,いじめの発生基盤に関するより具体的な知見を得たいところです。学校規模との関連,新任教師の比率との関連,塾通いをしている生徒の比率との関連…やってみたい作業はいろいろあります。
ですが,こうした分析は,都道府県という大きな地域単位のデータでやってもあまり意味はありません。市町村別,学校別といった,細かい集団単位でのデータでなされる必要があるでしょう。
いじめ問題の解決のためには,心の教育というような道徳教育も大切ですが,いじめを誘発する環境要因についても解明されねばなりません。政策によって動かしやすいのは,後者のほうなのですから。文科省の『全国学力・学習状況調査』のデータを仔細に分析すれば,相当のことが分かると思います。私のような人間でも,申請すれば,より細かなデータを使わせてもらえるのかしらん…