2013年7月25日木曜日

都道府県別・年齢層別のジニ係数

 社会における富の格差を測る代表的な指標として,ジニ係数があります。日本のジニ係数がどれほどかはちょっとググれば分かりますが,都道府県別にみたらどうでしょう。また,若年層の収入格差が大きいのはどの県か,という関心もおありかと存じます。

 今回は,そうした興味・関心に沿うデータをお見せしようと思います。私は,2012年の総務省『就業構造基本調査』の世帯統計を使って,都道府県別・年齢層別のジニ係数を軒並み明らかにしました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,東京都に住む30代の世帯主です。2012年10月時点でみると,世帯主が30代である都内の世帯のうち,世帯年収が分かるのは110万世帯ほどです。この中には,非就業者世帯や単身世帯等も漏れなく含まれます。

 この110万世帯の世帯年収分布は,下表のようです。左端の世帯数の実数をご覧ください。


 年収400万円台の世帯が16万世帯で最も多く,全体の14.5%を占めています。しかし分布の幅は広く,年収200万円に満たない貧困世帯が1割いれば,年収1,000万以上の富裕世帯も1割ほど存在します。まあ,世帯主が30代の全世帯でみれば,こんなものでしょう。

 さて,この世帯年収分布からジニ係数を計算するのですが,各階層の量の分布と,それぞれの階層が手にした富量の分布がどれほどズレているかに注目するものです。

 階級値の考え方に依拠して,年収100万円台の世帯の年収は一律に150万円であるとみなし,この階級に行き渡った富量は,150万×57,300世帯≒860万円といたしましょう。こうした便法によると,世帯主が30代の全世帯にもたらされた富の総量は,6億1,728万円ほどと見積もられます。

 この6億円余りの巨額の富が各階級にどう分配されているかですが,当然,少なからぬ偏りがあるようです。右欄の累積相対度数をみると,年収が500万円に満たない世帯は全体のちょうど半分を占めていますが,これらの世帯に届いた富は,全体の3割弱ほどです。上層部をみると,世帯数の上では1割しか占めない年収1,000万以上の世帯が,全富の23%をもせしめています。

 こうした偏りは,ローレンツ曲線を描くことで可視化されます。横軸に世帯数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,14の年収階層をプロットし,線でつないだものです。この曲線の底が深いほど,両者のズレが大きいこと,すなわち年収の格差が大きいことを示唆します。

 上表の累積相対度数をもとに,世帯主が30代の世帯の年収ローレンツ曲線を描くと下図のようです。比較対象として,高齢世帯の曲線も添えてみました。


 高齢世帯の曲線のほうが,底が深くなっていますね。高齢層の場合,就業しているかどうかや,年金等の社会保障の有無が影響しますから,収入格差の程度が大きいのは頷けます。

 われわれが求めようしているジニ係数とは,この曲線と対角線で囲まれた部分の面積を2倍した値です(計算方法の詳細は,2011年7月11日の記事をご覧ください)。算出された係数値は,30代世帯が0.327,高齢世帯が0.444です。

 一般にジニ係数が0.4を越えたらヤバいといわれますが,高齢世帯の係数値はこれを越えています。振り込め詐欺の電話1本で,何千万円もホイと出す高齢者もいれば,日常の食費にも事欠き,スーパーで惣菜を万引きするような高齢者も多いことを思うと,さもありなんです。

 計算に使った元データと計算の過程について,イメージを持っていただけたかと思います。それでは,全県・全年齢層のジニ係数一覧表を以下に掲げます。上位5位は赤字,全県中の最高値はゴチの赤字にしました。


 危険水域(0.4)を越えている場合,黄色のマークをしましたが,結構ありますね。世帯主が70以上の高齢世帯では,北海道と広島を除いて,全県でジニ係数が0.4を超えています。マックスは,徳島の0.477なり。

 世帯主が30歳未満の若者世帯でも,黄色が多くついています。若年層でワープア化や非正規化が進行していることも影響しているでしょう。マックスは山梨で,0.479にもなります。この値は,上表全体でみても最高です。

 7月13日の記事でみたように,山梨では,この5年間で20代有業者のワープア率と非正規率が最も伸びているのですが,このことの反映か,若年世帯の収入格差も大きくなっています。当県の関係者は,こういう問題について認識しているのかしらん。

 なお,働き盛りの中高年層の世帯収入格差は,南端の沖縄で最も大きいようです。沖縄と徳島は,赤字が多いですな。

 上表は資料としてみていただければと思いますが,最後に,全年齢層(左端)のジニ係数値を地図化しておきましょう。世帯年収の格差が相対的に大きい県の分布図です。


 色がついているのは,一般的な危険水準(0.4)を越えている県です。西日本はほとんどが色つきであり,わが郷里の九州をみると,福岡,熊本,鹿児島という,九州新幹線沿線の県が見事に濃い色で染まっています。東京が首都圏で唯一濃い色になっているのも気がかりです。

 メディア等で報道されるジニ係数は全国・全年齢一緒くたのものですが,細かく計算してみると,バラエティがあることに気づかされます。今回のデータが,各地域レベルでの格差解消の取組にいささかでも寄与するところがあれば幸いです。