2015年9月12日土曜日

理系リテラシーのジェンダー差(改)

 3月25日の記事では,「PISA 2012」のデータを使って,15歳生徒の理系リテラシーの性差を国別に明らかにしました。同調査では,15歳生徒の読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーを調査していますが,後2者の平均点です。

 そこで示したのは,平均点の男女差ですが,差分にする前の男女の平均点はどうか,という関心もあるでしょう。またOECD加盟国のデータしか扱いませんでしたが,ここでは非加盟国も加えて,分析対象の社会を増やしたいと思います。

 私は下記サイトの集計ツールを使って,64か国の数学的リテラシーと科学的リテラシーの平均点を男女別に出しました。全部の国を選んで,2段目の変数の「gender」を選択し,「Create Tables」のボタンを押すだけです。
http://pisa2012.acer.edu.au/interactive.php

 これにより,国別・性別の平均点がたちどころに出てきます。エクセルファイルでのダウンロードできますので,それをコピペして引き算(男子-女子)をすれば,ジェンダー差もすぐ出せます。いやあ,便利ですねえ。願わくは,国内の『全国学力・学習状況調査』でも,こういうオンライン集計ツールを設けてほしい・・・。

 以下に,64か国の男女の平均点と性差の一覧表を掲げます。性差は,男子から女子を差し引いた値です。アメリカの下のアルバニア以下は,OECD非加盟国です。


 性差をみるとほとんどがプラスの値です。つまり「男子>女子」ということですが,目を凝らすとマイナス値もみられます。たとえば中東のヨルダンはそれが実に顕著で,数学・科学とも,女子が男子を大幅に上回っています。北欧のスウェーデンやフィンランドもそう。

 われわれの感覚からすれば,数学や理科といったら「女子より男子ができるっしょ」でしょうが,その逆の社会もあります。自分たちの固定観念を揺さぶってくれるのが,国際比較の面白いところです。

 はて,「女子>男子」の社会はどれほどあるのか。上記の数表を凝視するのはしんどいので,ビジュアル化しましょう。横軸に数学的リテラシー,縦軸に科学的リテラシーの性差ポイント(男子-女子)をとった座標上に,64の社会を散りばめてみました。


 右上にあるのは双方とも値がプラス,つまり数学・科学とも「男子>女子」の社会です。わが国はこれに当てはまります。

 対極の左下は,数学・科学とも女子が男子を凌駕している国です。先ほど挙げたヨルダンのほか,カタールやアラブ首長国連邦などが位置しています。いずれもイスラーム国家で女性はあまり外に出ない社会ですが,こういう女性の理系タレントが活かされていないのだとしたら,もったいないですね。

 南国の楽園タイも,理系リテラシーが「女子>男子」の社会です。昨年の5月11日の記事でみたように,この国は「主たる家計支持者」の女性が世界で最も多くなっています。女性管理職も多いとのこと。女性の能力開花に成功している社会といえるでしょう。もっとも男性が怠け者で,そうならざるを得ないのかもしれませんが。

 図をみてわかるように,日本は先進国の中では,理系リテラシーの(旧来型の)ジェンダー差が最も大きい社会です。これを生物学的要因に帰して放置するのではなく,図の左下にシフトするような取り組みが求められます。この点については,前に「日経デュアル」に書きました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3428

 改めていいますが,今回のデータをみて,女性の社会進出が制限されているイスラーム圏において,理系リテラシーが「女子>男子」の社会が多いことに驚きました。