未婚化の指標として注目される生涯未婚率ですが,官庁統計をフル活用することで,さまざまな属性別の数値も出すことができます。2月9日の記事では,職業別の率を計算したのですが,この記事は多くの方に読まれました。
今回は,基幹統計である『国勢調査』に依拠して,同じ資料をつくってみようと思います。全国民を対象とした悉皆調査である『国勢調査』をもとに,職業と結婚に関する,より精度の高いデータをつくってみましょう。前回と類似の結果が得られるかを確認する,「追試」の意味合いも含めます。
2010年の抽出詳細集計の中に,「職業(中分類)×性別×年齢×従業上の地位×配偶関係」の多重クロス表があります。下記サイトの表7です。私はこの表のデータを用いて,正規職員の職業別の生涯未婚率を計算しました。前回と同様,正規・非正規の量の影響を除くため,正規職員に限定します。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001050829&cycode=0
生涯未婚率の概念ですが,字のごとく,生涯未婚のままでとどまる者の出現率のことです。統計上は,50歳時点の未婚率とされます。この年齢以降は,結婚する者はそうはいないだろう,という仮定を置くわけです。
5歳刻みの年齢統計からこの指標を算出する場合,40代後半と50代前半の率を平均するという便法がとられます。全職業をひっくるめた男性正規職員でいうと,40代後半の未婚率は15.8%,50代前半のそれは11.6%ですから,この2つを均して生涯未婚率は13.7%となります。へえ,正社員の男性でも,およそ7人に1人が生涯未婚なのですね。女性はもうちょっと高く,16.9%です。
これらは正社員全体の生涯未婚率ですが,職業によって値は大きく変異します。私は56の職業について,正規職員男女の生涯未婚率を明らかにしました。下の表は,ベタの一覧表です。上位10位は赤色,上位5位には黄色マークをつけています。
どうでしょう。同じ正社員でも,生涯未婚率は職業によってかなり違います。男性は,サービス職や労務職で率が高くなっています。しかるに女性のほうは,専門・技術職の生涯未婚率が高し。女性の美術系アーティストの生涯未婚率は,実に43.6%にもなります。
女性の記者・編集者の率も高いな(39.6%)。未婚の女性編集者さん,私も幾人か存じ上げております。技術者や法曹も高いですね。
大まかにいうと,女性は稼ぎのある職業ほど未婚率が高く,男性はその逆のようです。先日の日経デュアル記事にて,年収と未婚の関連をみたのですが,そこでの知見と符合しているように思います。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2945
この点についての解釈は,上記の日経記事をみていただくこととし,上表のデータをグラフにしましょう。私は「視覚人間」ですので,これをつけないと気が済みませぬ。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,男女双方の率が分かる52の職業を散りばめてみました。点線は,全職業の値です(男性13.7%,女性16.9%)。
右下には「男性>女性」の傾向が強い職業であり,左上にあるのはその反対ですが,先ほど指摘したように,前者はサービス職や労務職が多く,後者は専門・技術職や芸術家が多くなっています。ピンク枠内の3職に注目。
男女とも生涯未婚率が高い職業としては,事務用機器操作員が検出されます。パソコン操作員とかですが,不定期のメンテナンスなど,仕事時間が不規則なので,家庭を持つのが難しいのかしらん。
左下をみると,さすがといいますか,公務員の未婚率は低いですねえ。教員も然り。保健医療職もこのゾーンにありますが,女性の医師に限定すると,生涯未婚率はべらぼうに高くなります。*2月9日の記事をご覧ください。
先の記事では,『就業構造基本調査』(2012年)の結果を使いましたが,今回は,最も信頼度の高い『国勢調査』をもとに,同じデータを作成(再現)してみました。似た作業を反復するのはあまり面白くありませんが,こういう「追試」もたまには必要かなと思っております。